Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/2(土)フレッシュ名曲/日本フィル+ラザレフ+安部まりあで壮大なチャイコフスキーP協奏曲と第5番

2013年02月03日 23時41分25秒 | クラシックコンサート
第23回きゅりあんスプリングコンサート
《フレッシュ名曲コンサート》


2013年2月2日(土)14:00~ きゅりあん・大ホール S席 1階 SE列 19番 5,000円
指 揮: アレクサンドル・ラザレフ
ピアノ: 安部まりあ
管弦楽: 日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
チャイコフスキー: 交響曲 第5番 ホ短調 作品64
《アンコール》
 チャイコフスキー: バレエ音楽『白鳥の湖』より「4羽の白鳥の踊り」

 公益財団法人東京都歴史文化財団(東京文化会館)が都内の各自治体と共催で展開している「フレッシュ名曲コンサート」シリーズのひとつ、品川区の公益財団法人品川文化振興事業団の主催による「きゅりあんスプリングコンサート」である。
 今回聴いてみたくなったのは、絶好調のアレクサンドル・ラザレフさんの指揮する日本フィルハーモニー交響楽団が出演し、定期演奏会を離れてお得意のチャイコフスキー・プログラムを演奏するということに加えて、新進の安部まりあさん(なんてインパクトのある素敵な名前だろう!)が共演するからだ。しかもチャイコフスキーのピアノ協奏曲。まさに「フレッシュ名曲コンサート」ではないか。

 ラザレフさんと日本フィルの絶好調ぶりは再三書いてきたが、先週の定期演奏会(1月25日・26日、サントリーホール)は事情があって行くことができず、非常に残念であった。1週間後の今日のコンサートは、いわゆる自治体主催の名曲ものではあるが、ラザレフさんが手抜きをするはずもなく、クラシック音楽ファンの王道からちょっとはずれたところにある(失礼)ものの隠れた名演になりそう。そんな期待をして出かけたのである。

 「フレッシュ」の主役、安部まりあさんは、1988年生まれというから25歳。上野学園大学の出身で、横山幸雄教授たちの教え子さんであり、現在はウィーン国立音楽大学に留学中ということだ。安部さんの名を知ったのは、第78回日本音楽コンクール(2009年)に入選した頃のことで、その後第8回東京音楽コンクール(2010年)で優勝して注目を集めた。実際に演奏を聴くの初めてである。

 さて前半はいきなりチャイコフスキーのピアノ協奏曲から。登場した安部さん、かなり緊張気味。オーケストラとの共演の経験もそこそこお持ちだが、今日は何といっても世界の巨匠、ラザレフさんと共演だから、固くなるなという方が無理というものだ。
 ラザレフさんが合図をするとおもむろにホルンが吠え、オーケストラが呼応するが、ラザレフさんは止まったまま動かない。ピアノが3拍子の和音を力強く刻み始めても、ラザレフさんは半身の体勢でじっと安部さんを見つめている。席が5列目の鍵盤側だったので、ラザレフさんの表情がよく見えた。その視線は鋭く、熱く、慈愛に満ちていた。指揮者として音楽を作っていこうとする信念、若い音楽家を育てようとする愛情、そして同じ音楽家としての尊敬と信頼。それらの要素がひとつになった巨匠芸術家の目であったように見えた。
 その冒頭のシーンを見ただけで、今日の演奏の成功が確信できた。安部さんは常に背筋をピンと伸ばし、憶することなく堂々たるタッチで演奏した。低音部の力強さ、煌びやかな装飾的パッセージ、抒情的な旋律の歌わせ方や感傷的な表現など、若い女性の感性に充ち満ちている。音は明るく明瞭で、闊達。弾み、転がるようなリズム感も素敵だ。音楽の持つプラスのエネルギーでいっぱいの演奏であった。
 もっとも意地悪な見方をすれば、多少荒っぽい(雑な)ところもあったかもしれないし、精神性の深みが不足…などと言うこともできるかもしれない。しかし今の安部さんはこれで良いと思う。若さという武器を精一杯活用して、明るく煌めくような音楽を奏でて欲しい。評論家が褒めるような音楽ではなくて、聴く人が幸せな気持ちになれる音楽。それで良いのではないだろうか。
 ラザレフさんは遠慮なくオーケストラをブンブン鳴らし、若い安部さんのピアノを煽り立てて行く。そしてギリギリのところでオーケストラを抑制し、ピアノを輝かせてくれる。一見して非力な女性奏者に対しても、チャイコフスキーは甘くないぞ!と自らの指揮で教えているようであった。安部さんのピアノも良かったが、ラザレフさんの音楽性(というよりは人間性)が途方もなく素晴らしい。お二人にBravi!を送ろう。

 後半はチャイコフスキーの交響曲第5番。こちらの方もまたスゴイ演奏であった。強奏部分の金管群などはエンジン全開の爆音を轟かせるかと思えば、弦楽の弱音の消え入るような繊細さ。荒々しいところは地響きのように、抒情的な部分は甘く切なく…。ロシア音楽の神髄を聴かせるようであった。
 ところで、ここ「きゅりあん・大ホール」の音響にはかなり問題がある。ステージが大きくないのは仕方がないとしても、左右・後方・上部に設けられた反響板がステージ空間をかなり狭くしてしまっている。フルサイズのオーケストラを入れるには空間が狭いのである。つまり音を鳴らす空間が小さい。結果として、音が拡がらないために響かず、全部の音が前(客席側)に飛び出してくる。そこへ金管楽器の全開音が轟けば、これは迫力がある音ではなく、ただウルサイだけだ。
 また、残響音のほとんどないような音響空間では、楽器の音が生々しすぎてしまう。特に木管楽器はかなり乾いた音色に聞こえていた。もちろん、いつもの日本フィルの音色とは全然違う。
 ラザレフさんの音楽作りはハッキリしている。ダイナミックレンジがかなり広い。思いっきり吹く時の金管の音色は輝かしく艶やかで美しい。木管の音色も抒情的な優しい響きを描き出している。そんなラザレフさんの音作りと、最近の日本フィルの音色を知っているだけに、このホールの音響は彼らの価値を十分に聴衆に伝えていたとは言い難い。とても残念に感じた。
 一方、演奏の方は素晴らしいものだったといえる。第1楽章は、やや遅めのテンポで動機を提示していくが、各パートの演奏にも細やかな表情がある。ppで始まる提示部がだんだんクレッシェンドしていき、全合奏になった時の爆音にはなかなかシビレるものがある。第2主題で急にテンポを落とし、抒情的な旋律を滔々と歌わせるのが特徴的。次のフレーズに移行していくところでテンポアップしていくのが劇的だ。
 間を置かずに演奏された第2楽章は、ヴィオラとチェロの荘厳な和音にのせてホルンが聴かせてくれた。抑え気味でも艶やかな音色が美しく、豊かな印象を与えた。この抑え気味、というのが難しいらしいが、さすがに完璧主義者のラザレフさんらしく、ホルンに素晴らしい仕事をさせたといえる。
 第3楽章のワルツは繊細優美な印象の弦楽と、柔らかな木管が、無骨なイメージのロシア音楽の中にあって、一服の清涼感をもたらした。
 動機が長調に転じる第4楽章は、あまり気負った感じではなく、静かに燃えるように始まった。そして徐々にパワーアップしていき、テンポも上がってくる。強奏に入った時のダイナミックな立ち上がり、圧倒的な音量による押し出しの強さ、怒濤のごとく流れていく推進力など、ラザレフ流の真骨頂である。クライマックスを迎えてからの残り2分半のコーダは、雄壮なロマンティシズムの表出そのもので、豪快無比ではあるが一定の品位がしっかりと保たれているのが、巨匠芸術ということであろうか。素晴らしい演奏であった。

 ラザレフさんは、演奏が終わってしまえば、ご自身は常にオーケストラのメンバーを称える。考えてみれば、指揮者は何ひとつ音を発しない。音楽を奏でているのはあくまでオーケストラなのである。ラザレフさんの指導者として、指揮者としての仕事は世界の一級品だが、それに応える日本フィルの演奏も見事である。今日はチャイコフスキーの名曲を2曲と、アンコールは「4羽の白鳥の踊り」をラザレフさんがおどけて聴衆を笑わせながらの楽しい演奏。とても素敵なコンサートであった。

 ただし最後に一言、主催者側に文句をつけたいことがある。そればチケットの売り方。「チケットぴあ」での扱い分は通常通りに買えるが、主催者側の「きゅりあんチケットセンター」他、品川区内の数カ所のみでの窓口販売しかしない。電話予約も座席指定もチケット配送もしてくれないのだ。要するに希望の席のチケットを手に入れるためには、発売日に窓口に行かなければならない。区民だけのための文化事業だからというのならあまりに了見が狭いと言わざるを得ないし、いくら大井町駅前とはいっても、品川区だって広かろうから電車に乗って買いに来い、というのはあまりにお役所的。住民票だってコンビニで取れる時代に、高度情報化社会の代名詞、インターネットが使えないというのも問題だと思うが、せめて電話と郵便という明治時代からある「文明の利器」くらいは使えるようにしてほしい。他の自治体は、他地区の住民にももっと親切ですよ。

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