第14回チャイコフスキー国際コンクール 第2位入賞記念
ソン・ヨルム ピアノ・リサイタル2011
2011年11月6日(日)17:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 2列 18番 5,000円
ピアノ: ソン・ヨルム
【曲目】
J.S.バッハ/E.ペトリ編: カンタータ BWV.208 「羊は安らかに草を食み」
ドビュッシー: ベルガマスク組曲
1.前奏曲 2.メヌエット 3.月の光 4.パスピエ
シチェドリン: チャイコフスキーエチュード 《コンクール特別賞受賞》
ショパン: アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ短調 作品22
カプースチン: 変奏曲 作品41
リスト: ピアノソナタ ロ短調 S.178
《アンコール》
リスト: 「スペイン狂詩曲」より
カプースチン: ソナチネ
チャイコフスキー: ノクターン 作品10-1
今年2011年の6月に開催された第14回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第2位になったソン・ヨルムさんの記念リサイタル。優勝したダニール・トリフォノフさんは、9月8日に開催された「第14回チャイコフスキー国際コンクール・優勝者ガラ・コンサート」でチャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴いたし、日本勢はまったく振るわなかった今年の同コンクールなのに、どういうわけか記念コンサートは開催される。とはいえ、世界で最も勢いのある、若手のイキの良い演奏を聴くことができるのは喜ばしいことだ。それでなくても、お隣の韓国出身のソン・ヨルムさんは、一度は聴いてみたかった人なので、早々に実現することになった次第である。
ステージに登場したソン・ヨルムさんは、写真で見ていたちょっとコワイ感じとはだいぶ印象が違っていて、つるんとしたおでこが可愛らしい、とても素敵なお嬢さんである。同時に演奏中の集中した表情は頭の中に湧き上がってくる楽想そのもので、それが指先だけでなく全身に伝わって行き、瑞々しくも非常に豊かな音楽を創り出していた。
J.S.バッハ/ペトリ編の「羊は安らかに草を食み」を弾き始めると、最初の印象は「なんて音のキレイなピアノなのだろう」ということだった。長閑で優しい印象の曲を、濁りの全くない正確なタッチで紡ぎ出していく。
2曲目はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」。印象主義的な和音、不協和音を含む和音の響きがとても美しい。直前まで入念に調律させていただけのことはあって、無色透明、水というよりは水晶の輝きのようである。あくまで澄みきっていて、その上で冷たさを感じさせない抒情性がある。音楽性豊かな感性が音になって湧き出してくるといった印象だ。
3曲目のシチェドリンの「チャイコフスキーエチュード」は、コンクール特別賞を受賞したというが、いわゆる現代曲でリズム系が激しく難しそうな曲だ。この手の曲に対して、真正面から素直にぶつかっていく感じが好感度抜群。一所懸命さと曲を捕まえようとしている感じがとても素敵だった。
前半の最後は、ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。やはり若い女性ピアニスト(しかも飛びきり上手い)が弾くショパンは素敵だ。豊かな詩情性と憧れに満ちた抒情性のアンダンテ・スピアナートに対し、ポロネーズの躍動感、リズム感、そして正確無比の華麗なテクニック…。何もいうことはない、素晴らしい演奏だ。彼女のピアノは、打鍵のキレが良く、音の立ち上がりがキリッとしてクリヤーだ(しかも鋭い感じがし過ぎないところが良い)。ペダルの使い方と指使いのタイミングがピッタリ合っているので、音に無駄な残響がなく、従ってまったく濁りのない清冽な音を生み出している。ドイツ系やロシア系のピアニストにありがちな「らしさ」がない分だけ、無色透明さが際立つ。ここまでいくと、これは個性といってもいいだろう。素晴らしい音色である。
後半の最初はカプースチンの「変奏曲 作品41」。これは4ビートのジャズの即興演奏のような曲だ。譜面に書かれた即興演奏風の曲は、かえって表現が難しそうなものだが、ソン・ヨルムさんは、実にノリノリの様子で、抜群のリズム感を披露してくれた。素晴らしいテクニックは言うに及ばず、曲全体の流れが、けれん味のない自然さで、痛快な演奏であった。
最後は、リストのピアノソナタ ロ短調」。私はこの手の曲はちょっと苦手だ。超絶技巧が次々と繰り出され、どこからどこまでが主題なのかも不明瞭。美しい旋律が垣間見えると思えばすぐに重い和音に打ち消されて行く…。だが、繰り返しになるが、彼女はとにかく音に濁りがない。それが不協和音をすっきりと響かせ、なるほどリストはこういう音形を描いていたのかと、新しい発見にも思えた演奏だった。ここでもけれん味のない演奏は、素直に、音楽の構造を描き出していたように思う。
アンコールは、3曲も。リストの「スペイン狂詩曲」は超絶技巧をこれでもかと見せつけ、カプースチンの「ソナチネ」はまたまたジャズ風の即興的なノリの良い演奏を聴かせ、チャイコフスキーの「ノクターン」では繊細なロマンティシズムを。技巧、リズム、表現をうまく配置したアンコールの構成もお見事。演奏はもちろんBrava!!であった。
終演後は恒例のサイン会。彼女は2枚のCDをリリースしているらしく、会場でそのうちの1枚、「ショパン:夜想曲集」を購入して、ジャケット中ページのポートレートにサインをいただいた(ついてに握手も)。このCDはちょっと変わっていて、ショパンのノクターン(ピアノ)に弦楽合奏の伴奏が付いているといもの。実は買ってから気がついたのだが、まあ、たまにはこういう異色の音楽も面白いかな、と。まるで映画音楽にような美しさだ……。
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ソン・ヨルム ピアノ・リサイタル2011
2011年11月6日(日)17:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 2列 18番 5,000円
ピアノ: ソン・ヨルム
【曲目】
J.S.バッハ/E.ペトリ編: カンタータ BWV.208 「羊は安らかに草を食み」
ドビュッシー: ベルガマスク組曲
1.前奏曲 2.メヌエット 3.月の光 4.パスピエ
シチェドリン: チャイコフスキーエチュード 《コンクール特別賞受賞》
ショパン: アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ短調 作品22
カプースチン: 変奏曲 作品41
リスト: ピアノソナタ ロ短調 S.178
《アンコール》
リスト: 「スペイン狂詩曲」より
カプースチン: ソナチネ
チャイコフスキー: ノクターン 作品10-1
今年2011年の6月に開催された第14回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第2位になったソン・ヨルムさんの記念リサイタル。優勝したダニール・トリフォノフさんは、9月8日に開催された「第14回チャイコフスキー国際コンクール・優勝者ガラ・コンサート」でチャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴いたし、日本勢はまったく振るわなかった今年の同コンクールなのに、どういうわけか記念コンサートは開催される。とはいえ、世界で最も勢いのある、若手のイキの良い演奏を聴くことができるのは喜ばしいことだ。それでなくても、お隣の韓国出身のソン・ヨルムさんは、一度は聴いてみたかった人なので、早々に実現することになった次第である。
ステージに登場したソン・ヨルムさんは、写真で見ていたちょっとコワイ感じとはだいぶ印象が違っていて、つるんとしたおでこが可愛らしい、とても素敵なお嬢さんである。同時に演奏中の集中した表情は頭の中に湧き上がってくる楽想そのもので、それが指先だけでなく全身に伝わって行き、瑞々しくも非常に豊かな音楽を創り出していた。
J.S.バッハ/ペトリ編の「羊は安らかに草を食み」を弾き始めると、最初の印象は「なんて音のキレイなピアノなのだろう」ということだった。長閑で優しい印象の曲を、濁りの全くない正確なタッチで紡ぎ出していく。
2曲目はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」。印象主義的な和音、不協和音を含む和音の響きがとても美しい。直前まで入念に調律させていただけのことはあって、無色透明、水というよりは水晶の輝きのようである。あくまで澄みきっていて、その上で冷たさを感じさせない抒情性がある。音楽性豊かな感性が音になって湧き出してくるといった印象だ。
3曲目のシチェドリンの「チャイコフスキーエチュード」は、コンクール特別賞を受賞したというが、いわゆる現代曲でリズム系が激しく難しそうな曲だ。この手の曲に対して、真正面から素直にぶつかっていく感じが好感度抜群。一所懸命さと曲を捕まえようとしている感じがとても素敵だった。
前半の最後は、ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。やはり若い女性ピアニスト(しかも飛びきり上手い)が弾くショパンは素敵だ。豊かな詩情性と憧れに満ちた抒情性のアンダンテ・スピアナートに対し、ポロネーズの躍動感、リズム感、そして正確無比の華麗なテクニック…。何もいうことはない、素晴らしい演奏だ。彼女のピアノは、打鍵のキレが良く、音の立ち上がりがキリッとしてクリヤーだ(しかも鋭い感じがし過ぎないところが良い)。ペダルの使い方と指使いのタイミングがピッタリ合っているので、音に無駄な残響がなく、従ってまったく濁りのない清冽な音を生み出している。ドイツ系やロシア系のピアニストにありがちな「らしさ」がない分だけ、無色透明さが際立つ。ここまでいくと、これは個性といってもいいだろう。素晴らしい音色である。
後半の最初はカプースチンの「変奏曲 作品41」。これは4ビートのジャズの即興演奏のような曲だ。譜面に書かれた即興演奏風の曲は、かえって表現が難しそうなものだが、ソン・ヨルムさんは、実にノリノリの様子で、抜群のリズム感を披露してくれた。素晴らしいテクニックは言うに及ばず、曲全体の流れが、けれん味のない自然さで、痛快な演奏であった。
最後は、リストのピアノソナタ ロ短調」。私はこの手の曲はちょっと苦手だ。超絶技巧が次々と繰り出され、どこからどこまでが主題なのかも不明瞭。美しい旋律が垣間見えると思えばすぐに重い和音に打ち消されて行く…。だが、繰り返しになるが、彼女はとにかく音に濁りがない。それが不協和音をすっきりと響かせ、なるほどリストはこういう音形を描いていたのかと、新しい発見にも思えた演奏だった。ここでもけれん味のない演奏は、素直に、音楽の構造を描き出していたように思う。
アンコールは、3曲も。リストの「スペイン狂詩曲」は超絶技巧をこれでもかと見せつけ、カプースチンの「ソナチネ」はまたまたジャズ風の即興的なノリの良い演奏を聴かせ、チャイコフスキーの「ノクターン」では繊細なロマンティシズムを。技巧、リズム、表現をうまく配置したアンコールの構成もお見事。演奏はもちろんBrava!!であった。
終演後は恒例のサイン会。彼女は2枚のCDをリリースしているらしく、会場でそのうちの1枚、「ショパン:夜想曲集」を購入して、ジャケット中ページのポートレートにサインをいただいた(ついてに握手も)。このCDはちょっと変わっていて、ショパンのノクターン(ピアノ)に弦楽合奏の伴奏が付いているといもの。実は買ってから気がついたのだが、まあ、たまにはこういう異色の音楽も面白いかな、と。まるで映画音楽にような美しさだ……。
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先日ソン・ヨルムさんのピアノ聴いてきました!
ダイナミックな演奏に感動しっぱなしの2時間でした。即CDを購入して毎日ショパンが頭の中グルグルしてます。
ヴァンクライバーンでは辻井さんより気になっていた演奏家だったので生で聴く機会ができ嬉しく思いました。翌日は福岡の公演だったので疲れが残らないか?心配でしたが・・・
アンコールは4曲も!
サイン会では(図々しく)握手までして頂きました~
コメントをお寄せいただきありがとうございます。
うさこ様が聴かれたのは2012/06/26の日経ホールでしょうか。私も出来れば聴きたかったのですが、他のコンサートと重なってしまったために断念せざるを得ませんでした。
ソン・ヨルムさんは本当に音が透き通っていてキレイだし、音楽にも雑念がないような気がします。とても素敵なピアニストですね。この次に日本に来てくれたときには必ず聴きに行きたいと思っています。
私が聴きに行ったのは金沢で「かなざわ国際音楽祭2012」なんです。(ピアノはやはりヤマハでした。)音楽雑誌などには急遽決まったのか?載ってなかったような気がしました。私も次回、来日した際には是非遠くても再び行きたいです!
ヨルムさんのピアノを聴いたあとの感動を共有していただける方がいらっしゃって感激です。
ありがとうございました。
いつもは車でバッハばかり聴いてるんですが・・・
ここ1週間はショパンが
幸せな時間を過ごしてます