【設定情報】ドラゴス家について

　アルカード＝ヴィルトール・ドラゴス、グリゴラシュ・ドラゴス、アドリアン・ドラゴスの出身であるドラゴス家は、ワラキア公国の叛オスマン派封建貴族家《ボ　イ　ェ　リ》のひとつです。
　代々部将の家柄だったのですが、アドリアン・ドラゴスの父親はヴラド・ドラクルの時代にヴァルナの戦いで戦死しています。

　作中に登場している人物は以下の通り。モブは省略します。

アドリアン・ドラゴス……
　一四七〇年代当時のドラゴス家の当主。卓抜した剣技を誇っていたほか、中二病をこじらせて地上戦を突きつめて甲冑を装備したままの組討を徹底して練り上げた人物です。
　アルカードの格闘戦技能はほぼすべて彼から受け継がれたものです。もともとは長剣技術よりも短剣技術に長けていたため、空いた手をどう使うかというところから入った人物なのですが、それがヴィルトールに伝わると完全な素手での白兵戦技能に特化した技へと変節を遂げました。
　ただし師匠としてはちょっとずれ気味で、甲冑を着たまま何十キロも走れとか言っちゃう人です。実行するヴィルトールもヴィルトールですね。フィオレンティーナたちが同じ鍛え方を課されてないことを願うばかりです。
　本来叛オスマン派の人物ですが、ヴラド三世がトランシルヴァニアへ落ち延びたときは離ればなれになっており、最終的にはヴラドが再び力をつけたときに内部から呼応することを目的にラドゥに臣従してワラキアに残りました。
　ヴィルトールがヴラドの落胤であることを知らずに家に置いており、それが露見したときに政権転覆を疑われて人質を要求され、長男のグリゴラシュを差し出すことになりました。その結果第二次ワラキア政権末期のメフメト二世による内紛誘発策でヴラドが失脚した際、グリゴラシュはヴラドや従者とともにトランシルヴァニアに落ち延びています。
　それから十年近くたってから、フニャディ・マーチャーシュの密命を受けて密偵としてワラキアに帰還したグリゴラシュと再会、彼に戦闘技術を仕込みつつ国内のラドゥ政権に不満を抱く封建貴族と秘密裏に接触、カトリック教圏を味方につけたヴラド三世と呼応して内部蜂起のチャンスを窺い、最終的に決起してトゥルゴヴィシュテのワラキア公宮を襲撃、ラドゥ政権を転覆し第三次ヴラド政権の成立に寄与しました。
　そののちはヴラド三世の指揮下でオスマン帝国との戦争に身を投じ、戦闘中に重傷を負ってグリゴラシュを護衛につけて後送され、ブカレストの自宅にいたところを吸血鬼化したドラキュラに襲撃されて死亡しました。

グリゴラシュ・ドラゴス……
　アドリアン・ドラゴスの実子で、長男です。
　ヴィルトールの存在が露見したときに人質としてドラキュラの下に差し出され、のちにワラキア公の地位がラドゥによって簒奪された際にヴラド三世とともにトランシルヴァニアに落ち延びています。
　フニャディ・マーチャーシュの許ではお世辞にも恵まれた少年時代を送ってはいなかったらしく、その状況に陥る原因になったヴィルトールに対して恨みを抱いていました。
　のちにフニャディ・マーチャーシュの元で戦闘訓練と密偵としての諜報技術を叩き込まれ、密命を帯びて単身ワラキアへ帰還、アドリアン・ドラゴスほかオスマン帝国の支援を受けたラドゥの政権に不満を抱く封建貴族たちと秘密裏に接触してクーデターの準備を整えます。
　ラドゥが追い落とされて第三次ドラキュラ政権が成立したのちはアドリアンやヴィルトールと轡を並べてオスマン帝国軍と戦い、重傷を負った父を後送して生家に帰還、吸血鬼化したドラキュラ公爵の襲撃を受けた際に自ら望んで吸血を受けてドラキュラの『剣』になりました。

ヴィルトール・ドラゴス……
　アルカード・ドラゴスの本名です。
　アドリアンの養子で、グリゴラシュをはじめとするドラゴス家の子弟の中で一番年下でした。
　自分の父親が誰なのかは知らされないまま、アドリアン・ドラゴスの戦闘訓練を受けて成長します。
　極めて高い身体能力を持っており、アドリアンから教授された技術を徹底的に昇華して打極投すべてを組み合わせた素手の戦闘技術を身につけ、長剣や短剣の技術も受け継いでいます。戦闘能力も高く、下位とはいえ吸血鬼数体を同時に相手にして殺害するほどでした。
　自分の格闘戦技能が無音殺傷に使えることも自覚しており、身体能力の高さも相まって斥候としても非常に高い能力を持っています。
　回避に専念すれば地上に存在する何者も自分に攻撃を当てることは出来ないと豪語しており、実際攻撃の布石として以外で敵に触られたことは作中では一度もありません（吸血鬼を除く）。
　自分の格闘戦技能を存分に発揮するため、可動域を重視して遊びの多い特製の甲冑を愛用していました。
　当時のワラキア公国で人民に被害をもたらしていた羆を撃退する際には、羆の攻撃を一切受けないことから主戦力や囮として重宝がられています。脳を破壊出来る武器があれば単独で羆を撃破することも可能だったため、羆殺しなどと呼ばれていたりもしました。
　のちにアドリアン・ドラゴスとともにラドゥ政権を転覆するためのクーデターに参加し、第三次ヴラド政権の成立に寄与しました。
　その後はヴラド・ドラキュラ政権下でオスマン帝国との戦争に身を投じ、部隊が壊滅してアドリアン・ドラゴスが重傷を負った際には同行していたグリゴラシュと友人にアドリアンを預けて自分が踏みとどまり、残存兵力を集めてルステム・スィナンの騎兵部隊とイェニチェリの混成部隊に戦いを挑み、小麦粉や石炭を混ぜ合わせた粉末を利用した粉塵爆発で小銃部隊を混乱に陥れて壊滅させたのち指揮官を殺害しましたが、別の部隊の砲撃を受けて残存部隊は壊滅、単身ブカレストに帰還した際にドラキュラの襲撃に居合わせて生家を失うことになります。
　生家での戦闘ではドラキュラ本人やその下位個体に吸血を受けて噛まれ者《ダンパイア》化した吸血鬼、および喰屍鬼《グール》数体を殺害、そののち吸血鬼化したヴラド三世と交戦して敗北し死亡、真祖として蘇生しました。