今年のマイ・ブーム
By The Blueswalk
今年は社会的にも個人的にも身の回りにいろいろな事が起こった一年であった。ジャズ界でもスウィング・ジャーナルの廃刊とそれに代わるジャズ・ジャパンの創刊、ワルツィ堂島の閉店など激動と言ってもいいような出来事が起こった。そして僕はちょっとやりすぎじゃないかと思うぐらいレコードやCD蒐集に明け暮れてしまった。来年からは蒐集は少し控えめに、聴くことに集中したいと思っている今日この頃である。
ただアメリカからは新しいジャズの息吹があまり聞こえてこない中で、幸運なことに相変わらずなのはイタリア・ジャズの活況である。今年もハイ・ファイヴを中心としたイタリア・ジャズの台頭には目を見張るものがあった。その中で録音はずっと古いが、個人的に良く聴いたのが「バッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテット」である。ジャンニ・バッソはこのところピアノのレナート・セラーニとのコンビでの『ボディ・アンド・ソウル』やギターのイリオ・デ・パウラとのコンビでの『リカード・ボサ・ノヴァ』と、70歳を過ぎても精力的な活動が見られるが、このヴァルダンブリーニとのグループはイタリア・ジャズを語る上では欠かすことにできない重要なコンボである。1950年代の中ごろ、ジャンニ・バッソ(ts)とオスカー・ヴァルダンブリーニ(tp)を双頭リーダーとして結成されたコンボで、1959年にデビュー・レコードを発表し、戦争の影響でヨーロッパの中でも遅れていたイタリア・ジャズを最初のイタリア発のモダン・ジャズとして世界にその名を知らしめた。60年代のイタリアを代表するジャズ・コンボであった。その特徴は、ウエスト・コースト・ジャズの華麗なアンサンブルとイースト・コースト・ジャズの激しいアドリブをあわせ持ったユニークなスタイルにある。ただ、両者の良いとこ取りをしたからといって、一概に1+1=2になるとは云いがたいところがジャズの難しいところではあるが、彼らはそれで成功したといっていいだろう。
『バッソ=ヴァルダンブリーニ・カルテット・プラス・ディノ・ピアナ』
は1960年作。クインテットにトロンボーンを加えた3管フロントでよりアンサンブルを厚くした作りではあるが、3人のソロもふんだんに取り入れており、ウエスト・コースト風とハード・バップ風が交互に出てきて飽きさせることは全くない。1曲目の“クレイジー・リズム”ではスタン・ゲッツ風のバッソのテナーとチェット・ベイカー風のヴァルダンブリーニのトランペットがユニゾンでハモりながらも若々しいハツラツとしたソロも聴かせてくれる。そこへ、ピアナのトロンボーンとセラーニのピアノが絡んできて、盛り上げていくという具合だ。本作では、ほとんどがスタンダードでまだオリジナル性を確立する前の段階といえるだろう。この時点では、まだウエスト・コースト・ジャズの影響を受けたイタリアの新進気鋭の若者たちのジャズという雰囲気が前面に出ており、これはこれで完成された出来具合だ。
『ウォーキング・イン・ザ・ナイト』
も同じく1960年の作。1曲目の“ロタール”は完全にブラウン=ローチ・クインテットを髣髴とさせるハード・バップ演奏である。特に、ドラムがローチ・ライクなシンバルさばきで、このリズム隊三人はそれを強く感じさせる。それに加えて、短いながら、トランペット、テナーのソロが快調に飛ばしていく。これがイタリア・ジャズの火付け役となった名曲・名演であるとのこと、一気呵成の3分間があっという間に過ぎてゆく。3分そこそこと短い演奏なのがもったいない。2曲目の“ブルース・フォー・ジェリー”はどことなくジャズ・メッセンジャーズの“モーニン”を模したような快適なブルース。ウォーキング・ベースを聴いているだけでなんだかワクワクする演奏だ。これほどの颯爽とした演奏を聴かせるグループが当時のアメリカにどれほどあったろうか。とにかく殆どをオリジナル曲で占めながら、当時のアメリカのメインストリーム・ジャズに全くひけをとらない演奏技術とスウィング感には驚嘆するだろう。それに、当時のアメリカのコンボと根本的な相違は、すべてとは言わないが、アメリカの有名なコンボの多くが、演奏者の演奏技量とアドリブのひらめき一発に賭けて作られたのに対し、こちらはきっちりとした編曲でアンサンブルを構成し、その上に各自のアドリブをちりばめて短いながら密度の濃い演奏をしていると云えることだろう。その典型がこのアルバムに現れていると言っていい。
『ザ・ベスト・モダン・ジャズ・イン・イタリー1962』
はタイトル通り1962年の作。これもトロンボーンを加えたセクステットで、オリジナルとスタンダードが半々ずつの構成である。どちらかというとイースト・コースト味が強化されているようだ。各ソロも手を変え品を変えして、アグレッシヴに攻め立ててくる。テナーが前2作に比べて太くたくましい音に変化しているのは全体に重量感とアーシーな雰囲気を出そうと工夫しているのだろう、そのため聴いた後のイメージが若干変わってくる。いずれにしても3人のフロント奏者の力量が高いレベルで同質なため、どんなタイプの曲でもこなせるというのがこのコンボの強みである。こんな演奏が1960年代のイタリアにあったんだという感動がふつふつと湧いてくるのだ。残念ながらこのコンボは1970年ぐらいに解散してしまったということで、その解散が惜しまれる。まだ、当時の音源が残っているならどんどん出してもらいたいものだ。
イタリアのデジャヴというレーベルの主宰者でプロデューサーのパオロ・スコッティの呼びかけで、2005年に「イディア6」というバッソとピアナの双頭コンボが復活し、2007年には日本公演もあった由、まだまだ若者には負けていられないという彼らの意気込みが衰えていないことの証であろう。残念ながら、最年長のヴァルダンブリーニは1996年に亡くなったとのことであるが、他のメンバーは健在も活動を続けているのは喜ばしいことである。スコッティはイタリアのモダン・ジャズ黄金期の歴史的遺作を復刻すると同時に新しいジャズの創造を提唱しているとの事なので今後もそれに対する期待は大きい。このことが、現在のハイ・ファイヴたちイタリア・ジャズへいい影響をも与えているようである。