The Blueswalk の Blues&Jazz的日々

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Live From The Village Vanguard Bill Evans

2011-04-17 11:02:31 | 変態ベース

Live From The Village Vanguard
Bill Evans
                                                                     By 変態ベース
ビル エヴァンスのトリオは、エディー ゴメスとマーティ モレルの在籍した頃が一番長くて安定していた。70年代の初め頃、タキシードを身にまとい、長い髪を振り乱して演奏する彼等の姿は、お世辞を言えばクラシックの名演奏家のように見えなくもなかったが、冷静な判断を下すならば、如何にもむさくるしくて薄汚く、私はピンカラトリオのイメージがダブって拭
えない。
まあ演奏の好し悪しは外見とは関係ないので、風体は大目に見て聴くことに専念しよう。彼等のトリオがヴィレッジ ヴァンガードに登場したのは、1974年1月11、12日のことである。この日の演奏は『Since We Met』『Re:Person I Knew』の2枚のアルバムに分けて発表された。その辺りの経緯は何となくリヴァーサイドの名盤『Waltz for Debby』『Sunday at the Village Vanguard』を連想させる。エヴァンスのヴィレッジ ヴァンガード贔屓は世間によく知られている。毎年このライヴハウスで数回の演奏をこなし、それはニューヨークに戻った際の恒例行事のようになっていた。しかしヴァンガードのライヴ録音も度重なると、どうも二番煎じみたいで印象も薄くなる。だからと言って、内容まで薄いなんてことは決してあり得ないので、何卒ご安心して聴いて頂きたい。


先に発売されたのは、『Since We Met』だ。ミディアム~スローテンポの似たような曲が並び、全体的に穏やかなイメージを受けるアルバムである。しかし似たような速さの曲が続くと、どんな音楽でも一本調子になってしまう。エヴァンスというミュージシャンは、意識してファーストテンポの演奏を避けていたきらいがある。それは速いフレーズの中には、微妙な感情や繊細なニュアンスを込めることが出来ないと、考えていたからではないだろうか。
またそれとは対照的に、エヴァンスのワルツ好きは病的なところがある。特に『Since We Met』では、表題曲をはじめワルツもしくはワルツのパートを含むナンバーは四曲。実にアルバムの楽曲の半数を占める。その他のアルバムでも、ワルツは必ずと言いていいほど何曲か登場する。しかしながら彼のワルツは、たくさん聴かされても嫌にならないから不思議だ(少なくとも私は全く苦にならないが)

エヴァンスがもっとも信頼を置いたベーシストは、やはりスコット ラファロだったと思う。彼を失ったエヴァンスの落胆ぶりが尋常ではなかったからだ。そんなラファロの後任を務めることは、どんなベーシストにとってもそれなりの決断を迫られることだったに違いない。しかしエディー ゴメスはその穴をうまく修復し、エヴァンスの信頼を勝ち取ったのだ。数ある共演者の中でも最も長期に亘りパートナーを組んだ事実が、そのことを証明している。ゴメスはプエルトリコ出身で、若くしてニューヨークに進出した。名門ジュリアード音楽院にベースを学び、次席の成績で卒業をした。因みにその時の主席は、クラシックの名演奏家ゲイリー カーであったという噂だ。演奏のスピードと安定感。音の粒ぞろいと音程の正確さ。いずれをとっても超一流。彼の右に出る人物はそうそう見つかるものではない。但しテクニックに依存しすぎて、時たまソロが荒っぽくなることがある。テクニシャンであるがゆえの難点だ。
楽器にはそれぞれの特性を生かした役割分担というものがあるはずだ。いかに優れたベーシストであっても、所詮ピアノのような楽器(それもエヴァンスのように極度の集中力が必要なプレイヤー)と対等に会話を交わしたり、渡り合うなんてことは困難の極みである。しかしエヴァンスは自分の音楽をより完璧なものにするために、無謀にもそんなハイレベルの技術と感性をベーシストに要求していた。インタープレイを否定するものではないとしても、エヴァンスの理想は高すぎたように感じられる。たとえばもう少し控え目なベーシストがレギュラーを務めていても、トリオの演奏が色褪せることは無かったのではと私は思うのだ。

『Re:Person I Knew』のほうが少し変化に富んでいる。タイトルナンバーは、よく取り上げられるエヴァンスのオリジナルだ。この不可解なタイトルはプロデューサーの、Orrin Keepnews(オリン キープニューズ)の名前のアナグラム(文字の並べ替え)である。
T.T.T.はTwelve Tone Tuneの意味。シェーンベルグの12音技法を取り入れたものかどうかは知らないが、確かにどこか無調に聴こえる。コーラスごとに三人がソロを取る。ゴメスがねを上げたといわれるナンバー。これまた高いスキルなくしては演奏できない代物だ。プロのミュージシャンと云えどもおちおちしてはいられない。

いつも疑問に感じるのはこの両アルバムの録音状態だ。同じロケーションのはずだが、何となく録音レベルに差異を感じる。特に『Since We Met』の方が、ノイズが気になる。私の耳がおかしいのか、ターンテーブルが悪いのか、回転むらを起こしているふうに聴こえて仕方がない。マイルストーンはリヴァーサイドのプロデューサーだったオリン キープニューズが立ち上げたレーベルだが、全般的に録音の程度はよろしくない。機材が古いのだろうか。それともエンジニアのセンスの問題か。それを考えるとルディー ヴァン ゲルダーやはり優れた手腕の持ち主だった。