女流アルトに期待
By The Blueswalk
最近の女性ホーン奏者の台頭には目を見張るものがある。特にアルト・サックスにおいては国内外問わず、それが顕著である。少し前までは高校生の矢野沙織が目立った存在であったが、すでに彼女も24歳にならんとしており、その後輩たちが続々と続いているといった状況である。矢野ちゃんもうかうかして居れない状況を呈している。そして、彼女らが目標というか目指しているのがチャーリー・パーカーであることも共通の傾向である。矢野沙織などは最初から女パーカーを標榜し、パーカーの楽曲ならびにビ・バップの楽曲を多く取り上げ、若いジャズ・ファンへはその容貌で魅惑し続け、昔からのジャズ・ファンにはバップ的演奏で惹きつけている。少し前、CDのオマケにDVDがあり、それを見ていると、まるでファッション・モデル並みの扱われ方であった。
そんな中で最も脚光を浴びているのが“天才高校生”とのキャッチコピーで売り出された寺久保エレナちゃん。”山下洋輔、渡辺貞夫、日野皓正など、数々の巨匠との共演”の触れ込みだから、相当な場数も踏んでいるのであろう。タイトルが『ノース・バード』、つまり“北のチャーリー・パーカー”ということだ。バックにケニー・バロン(p)、クリスチャン・マクブライド(b)、ピーター・バーンスタイン(g)、リー・ピアソン(ds)ときている。期待の大きさが伺われるというものだ。そして、肝心の音であるが、流石に“天才高校生”と謳われるだけあって、相当なテクニックの持ち主であることがすぐ判る。さらに、曲の中での抑揚の付け方、音質の転換など、そんじょそこらのガキとは違うんじゃと、これでもか、これでもかと惜しげもなくすべてをさらけ出し煽りつづける。空恐ろしいばかりだ。だが、褒めてばっかりはいられないのが年寄りジャズ・ファンのしがない性。抽象的な表現だが、どうも心に響いてこない。何故か?結論を言ってしまうと、“自分自身に陶酔してしまっている”ということだ。“私、こんなこともあんなことも何でも出来るのよ。バラードもこんなにこころがこもっているでしょ。どお、まいった?”といった押し付けがましさが見えるのだ。
さて、もう一人の新星、纐纈歩美(コウケツアユミ)さん。ファースト・アルバムが『ストラッティン』。こちらはバックをいつもの気心知れた納谷嘉彦(p)のトリオで固めている。エレナちゃんとは打って変わって、落ち着いた自然な音が気持ちよく謳っている。派手さは殆どないが、しかしテクニックでエレナちゃんに劣るというようなところは全く無い。自分を知っているというか、身丈相応のジャズをしっかりとこなしているという安心感がある。難しい曲を易しく聴かせる本能的なサムシングを持っている。選曲はバラードありアップテンポありでバランスの面でも工夫が伺えていい。欲を言えば、全11曲の中でのメリハリが欲しいところだ。つまり、メインで聴かせたい曲、干渉的に聴かせる曲などが見えれば、聴く方もそれなりに全体の流れに乗りながら鑑賞出来るというものだ。“全部がお上手ですね”で終わってしまう危険性をはらんでいるのだ。今後は“個性”をいかに出していくかがポイントになりそう。そうでないと、埋もれてしまいかねない。
いずれにしても、両者とも出来としてはかなりのレベルに達していると思うので、今後、ますます個性を磨いて、1フレーズ聴いただけで、あっ、エレナちゃんだ、アユミちゃんだと判るようなミュージシャンになってもらいたいという望みと大いなる期待だ。