The Blueswalk の Blues&Jazz的日々

ブルースとジャズのレコード・CD批評
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この春 2012 Part Ⅲ

2012-04-16 23:06:50 | 変態ベース

この春 2012 Part Ⅲ
                                                 By 変態 ベース
 宝塚歌劇を見に来るお客さんはどんな連中なんだろう。ちょっと澄ました麗人達が客席を埋めているのかと思ったが、期待に反してそうでもなかった。結構普段着のおばさんが多いのだ。但し想像したとおり女性が圧倒的で、その比率は20対1くらいか。少数派のおっさん達には、気恥ずかしいような肩身の狭いような一日だったに違いない。3月1日は私もその気恥ずかしいおっさんの一員だったのだ。
 お断りしておくが、もちろん私は常日頃から宝塚に関心を持っているわけではない。さるところからうちのかみさんが招待券を2枚頂いて、どうしても行かなければならない羽目になってしまったのだ。まあ、話のネタにでもなるのではという興味も無かったわけではないが、会社まで早退させられてしまったのでは殆んど強制連行だ。
 宝塚には手塚治虫記念館があって、子供が小さい頃には連れて来たものだ。しかし劇場に足を踏み入れるのは初めてのことだ。館内はゆったりとしていて、劇場エントランスまでの通路には、レストランやキャラクター商品を扱う売店がずらりと並んでいた。劇を観ない通りのお客さんも、そのお店で買い物ができるようになっている。公演は午前、午後の部があり、毎日2回行われている。役者さんも重労働だ。私達が観劇したのは15時スタートの午後の部だった。2階席の様子は分からないが、1階席は後の端の方を除いてほぼ詰まっていた。世の中にはよほど暇な人が多いのか、平日の昼間からよく入るものだ。

ミュージカルのタイトルは『エドワード8世』。月組主役コンビの男役 霧矢大夢(きりやひろむ)と娘役 蒼乃夕妃(あおのゆき)はこのステージを最後に卒業退団する。宝塚には月組、花組、雪組、星組、宙組(そらぐみ)があって、大阪、東京の劇場で入れ替わり公演を行っている。それぞれの組に看板スターがおり、このふたりその中でもかなり人気者みたいだ。
 宝塚歌劇の出し物は2部構成になっており、第1部のミュージカルが1時間半、30分間の休憩を挟んで、1時間のレヴューがある。さて第1部のミュージカルの感想だが、率直に申し上げてあまり面白くなかった。人の好みや楽しみは千差万別。まあ、自分には性があってないとしか言いようがない。隣のかみさんを見ると開始直後からコックリコックリ舟を漕いでいる。誘った本人がこの始末だ。私も開演中はうとうとしていたので、結局ストーリーがよく解からないまま気がついたら終わっていた。劇中、コール・ポーターのBegin The BeguineとガーシュインのFascinating Rhythm 魅惑のリズムが挿入されていたことはぼんやりと覚えているが、それ以外どんな展開だったか全く思い出せない。男役と娘役の俳優もみんな同じ人物のように見えた。申し訳ないが配役すら最後まで把握できなかった。
 第1部でよく寝たおかげで、第2部は頭すっきり眼もパッチリ。しかし妙なことが気になってしかたがない。というのはレヴューの様子が口(くち)パクに思えて仕方がないのだ。舞台袖のスピーカーから聴こえる大音声の歌と演奏は、この上なくバランスよくミキシングされ、まるでCDに録音された音のように聴こえる。歌も演奏も生音にしては一糸乱れることもなく、不自然なくらい見事にまとまっている。舞台の手前にオーケストラピットがあって、指揮者の頭が見える。しかしそこにいるはずの楽団員の姿が全く確認できない。しかもオケピからは直音が全く聴こえないのもこれまた不思議だ。そのことが気になってずっと荒探ししていたのだが、明確な証拠は見つからなかった。ネットで調べると、私のように口パクに疑念を抱いている人がいるみたいだが、宝塚は基本的に生歌だと書き込みされていた。それでもあれはやはり口パクだったに違いないと今でも私は疑っている。別に口パクでも構わないのだが、気になるよなあ。


アーリー・エバンス その1

2012-04-09 23:06:59 | Jazz

アーリー・エバンス その1
                              The Blueswalk
 ビル・エバンスがジャズ・ファンに認知され始めたのは1958年5月以降のマイルス・デイビス・セプステット、レコードで云えば、『1958マイルス』以後であり、『カインド・オブ・ブルー』(1959/3/2)においてその大輪の花を咲かせ、その後のスコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)を擁し、新しいピアニズムの境地を開拓していったわけである。

しかし、デビューは1953(1954?)年のジェリー・ウォルド楽団への参加に遡る。タイトルは『リスン・トゥ・ザ・ミュージック』

誰しもデビューはこのようなスウィング・ジャズ・オーケストラでのその他大勢のなかのひとりとしての参加というのが相場で、ビル・エバンスとて同様であっただろう。ただ、このバンドはストリングスにジェリー・ウォルド(cl)、エディ・コスタ(vib)、ポール・モチアン(ds)他のということであるから、少々のソロは取らせてもらったかもしれない。残念ながらこのレコードは持っていないので、ビル・エバンスがどれくらいの演奏をしているのか興味のあるところだ。

 

 ルーシー・リード(vo)『ザ・シンギング・リード』は1954/春の録音。

ルーシー・リードはジャズ・シンガーというよりポピュラー・シンガーと言えるような唱法で、さほど上手いとはいえない。特にアップテンポな歌には高音域のふらつきが気になってしまうが、スローなバラード曲では丁寧な心のこもった歌い振りが良い雰囲気を醸し出している。一方ビル・エバンスであるが、歌伴に徹しており、ボーカルに合わせた選曲、曲調ということもあり、個性というものがまだ出し切れていない。ただ、曲によっては往年のリリシズムの片鱗がところどころ出てくるものもある(特にスローな曲)ので持っていて損はしない程度の価値感か。このレコードの欠点はバックの演奏がディック・マルクスというもうひとりのピアニストのグループ(ピアノ、ベースのデュオ)との混在となっているため、ビル・エバンスのピアノに浸っているといきなり次が無神経なマルクス君の演奏になったりするので聴きづらいということだろう。CDだったら、エバンスがバックを演った曲のみ選択して聴いたほうが良いかもしれない。

 ジョージ・ラッセル『ザ・ジャズ・ワークショップ』は1956/3/31~1956/12/21録音。

フリー・ジャズでは無いが、実験的なジャズを標榜したジョージ・ラッセルの個性的な編曲が楽しいレコードである。アート・ファーマー(tp)、ハル・マクーシック(as,fl)、バリー・ガルブレイス(g)を中心とした、ハード・バップ以降の新しい形式の音楽を模索しているかのような音楽であるが、頭でっかちなことは無く、ちょうどウエスト・コースト・ジャズとハード・バップを混ぜたような音楽といったら良いだろうか。ビル・エバンスも各所でソロを披露している。その中で面白いのは、”コンチェルト・フォー・ビリー・ザ・キッド”におけるちょっとラテンの4ビートリズムにのって、ファーマーとマクーシックのユニゾンによるリフが繰り返されたあと、エレピかと思われるようなエバンスの躍動的なソロ、”バラード・オブ・ヒックス・ブレウィット”における耽美的な演奏が聴き所だろう。が、あくまでもジョージ・ラッセルの編曲重視の演奏なためエバンスを聴きたいと思ってこのレコードを買っても期待はずれだろう。

 トニー・スコット『ザ・タッチ・オブ・トニー・スコット』は1956/7/2録音。

16人編成、テンテット、カルテットと3つのタイプの演奏が入り混じっているので、もう一つ散漫で整合性に違和感のあるレコードである。もちろん主役はトニー・スコットのクラリネットであり、ビル・エバンスの出番は、A面最後の”イオリアン・ドリンキング・ソング”。ここではスコットの情熱的なクラリネット・ソロもすばらしいが、それに呼応したようなエバンスのピアノ・ソロがクールでヤバい。なんか、他のメンバーを無視して自我の境地をいくような恐ろしさだ。著名なアーティストも数名参加しているがソロはなさそうなので、トニー・スコット・ファンかビル・エバンス・マニアなら持っていたい程度の作品だろう。
 このあとやっとリーダー作『ニュー・ジャズ・コンセプション』を吹き込むことになる。     (次回へ続く)