バスシェルターの明かりの下で

夢を忘れたちっぽけなバス会社のちっぽけな元バス運転士の最初で最後のチャレンジ・・。

あなたの街の“どこでもドア”

2006年08月06日 | 運転士な日常
先日のK線でのできごと・・そうボクがアンちゃんに無理やり頼み込んで勤番を変更してもうたあの日ぃですわ。

ボクはいつものように内輪差に注意しつつ、左にステアリングを切り7番のりばににバスを着ける。
のりばには数名のお客様・・。

最後に乗り込んでこられたのは親子3人・・お母さんと姉弟だ。
見た感じ、2年生のお姉ちゃんと1年生の弟って感じかなぁ・・・
すぐに、ウチの三女と長男とにダブった。

「すみません、小学生2人だけで乗るんですが・・○○は終点ですよねぇ?」
「はい、そうですよ。」
「バス停まで迎えが来ていますので○○でおろしていただけませんか?」
「はい、わかりました。失礼ですが、お迎えに来られるのはぁ・・」
「祖母です。あとぉ・・切符は今渡しておいた方がいいのでしょうか?」
「お客様の御都合のよろしいほうでかまいませんよ。そうですねぇ、今貰っておきましょうか?そのほうが安心ですよねぇ・・」
「はい、じゃぁ、もらうねぇ。は~い、ありがとうございます。」

「あのぉ・・万一のためなのですが、差し支えなければお迎えに来られる方のお名前と携帯をお持ちでしたら番号を教えていただくわけにはいきませんか?」
「えっ?」
「いえ、差し支えなければでいいのですが・・。到着時間の勘違いやバス停の間違いなんかでお見えにならないことが稀にあるものですから・・。」
「あぁ、わかりました。そこまでしていただけるのですか?」
「小さいお子様ですから、私としても責任がありますもので・・」
「川本ちづ子(仮名)・・090~・・です。」
「えぇと・・川本ちづ子(仮名)さま、090-・・ですね。わかりました。ありがとうございます。」

乗降口側、前から3列目に2人でちょこんと腰掛けて笑顔で見送るお母さんに手を振る姉弟。

「はい、お待たせいたしました、それでは発車いたします。」

閉めた乗降扉越しに見えるお母さんの表情は笑顔の中にも幾ばくかの不安も見え隠れしていた・・。

そして、約2時間半後・・終点の○○に到着。
最終案内を終え、ドアを開ける。
最後にその姉弟を送り出すときに・・

「は~い、長い間よくがんばったねぇ。ありがとうございました。おばあちゃんは来てるかな?ちょっと見回してごらん?どう、いるぅ?」
「いない・・」
「どこにもいない?」
「・・・うん。」
「よし、わかったよ。おじさんが今からおばあちゃんに電話してあげるから、そこに座っててくれるかなぁ?」
「うん、わかったぁ」

バックミラー越しに発車待ちのリムジンバスが待機している。
ボクは少しバスを前に移動させ、改めてハザードを点けた。

「トゥルルルルルルルッ・トゥルルルルルルッ・・」
「はっ、はい!」
「あっ、もしもし、私○○バスのBlueと申しますが・・」
「はい、はい、川本(仮名)ですが・・」
「川本さまですか?今、終点の○○に到着してお孫さんをお預かりしているのですが・・どちらにいらっしゃいますか?」
「えぇ・・と、ここはぁ・・、えぇ・・と・・○○があるところです。」
「あぁ、近いですねぇ。わかりました。今、いらっしゃる場所から当社のバスが見えますか?○色で横に○○ってステッカーが貼ってあるのですが・・」
「あぁ・・えぇと・・。あぁ、見えます、見えます。今からそっちに行きますので・・」
「わかりました。お待ちしますので・・。慌てずにおいで下さい・・」

程なくして、前方より、かなり慌てながら年配の女性が走ってくるのが見えた・・。

「ねぇ、ねぇ、あれ、おばあちゃんかなぁ?」
「どこどこ?」
「ほら、あっちから走って来てるやん」
「あぁ、チー子ばあちゃん(仮名)やぁ」
「間違いない?」
「うん、ばあーちゃーん」
「わかったよ。もちょっと待ってねぇ。」

ボクはそういうと先にバスを降りて・・

「失礼ですが、お名前をお教えいただけますか?」
「すいません・・川本(仮名)です・・ハァハァハァ・・」
「すみません、失礼しましたぁ。御心配でしたでしょう?慌てさせてしまったみたいですね・・」
「いいえ・・ハァハァ・・。よかったぁ・・なかなかバスが見当たらないもので・・ハァハァ・・」
「おばーちゃん!!」

「それでは、よろしくお願いします。ありがとうございました。よかったねぇ、おばあちゃんに会えて。ありがとね。じゃぁまたねぇ、バイバイ!」
「本当にお世話になりました。ありがとうございました。これを・・」

そういいながらおばあちゃんはちいさな袋をボクに手渡した・・

「いえ、こんなんしてもうたら・・」
「大したものではないので・・ありがとうございました。」
「いいのですか?ありがとうございます。遠慮なく頂きます。」

中身はグリーンの本皮のパスケースでした。
わざわざお買い求めになられたのでしょうかぁ、申し訳ありません・・

そして袋の表側にはこう書いてありました・・

“無事故で届けて下さり
       ありがとうございました。 
                 川本ちづ子(仮名)”





ボクらの仕事は安全と安心が基本。
すごく大変なことやけど、これはボクらにとって“当たり前の使命”なんや。
その“当たり前の使命”に対して、それを当たり前のように労っていただけるありがたいお言葉・・。

この3行の文章でこの日はとてもハッピーな日ぃになった。

感謝の言葉を言わなアカンのはボクのほうですわ。
こんな気持ちにさせてもうて・・ありがとうございました。



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夏休みに限ったことではないねんけど、学校が長い休暇に入ると決まって多くなるのが子供たちだけの乗車・・

飛行機にはジュニアパイロットなるお子様一人旅がある・・
あれは、とっても勉強になるらしい・・。
楽しいし、子供がひとまわり成長するって・・。

バスの場合、そこまではいかへんかなぁ・・
飛行機ほど至れり尽くせりとはいかへんよぁ・・

せやけど、バスはねぇ・・

“お母さんが笑顔で見送ってくれたあの街”と“大好きなおばあちゃんのいるあの街”を扉一枚でつないでくれるねんでぇ。

そう、たった、一枚の扉でねっ!


まさにそれは、“どこでもドア”やねんでぇ


気軽にノックしてください。
いつでもノックしてください。

さみしくなったら開いてください。
会いたくなったら開いてください。

あなたの思いをつなぎます。
あなたのココロをつなぎます。
それがボクらの使命です。

バスはいつでも、あなたの街の“どこでもドア”です。



その翌日、Q線勤務で到着したボクの携帯に事務所のひらりん(女性総務係長)から電話がありました。
その姉弟のお母さんからお礼の電話があったとのことでした。

ホンマにありがたい話です・・・。


バス運転士・・
エエ仕事ですぅ。