Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

SFマガジン2010年7月号「特集:伊藤計劃以後」

2011年06月14日 | SF・FT
SFマガジン2010年7月号で「特集:伊藤計劃以後」と銘打ち、伊藤氏に関する記事や評論と、
2010年代の日本SF界についての展望をまとめた企画が掲載されました。



今回は小説よりもインタビューや評論が多く、いわゆる「10年代」の日本SFを先取りするには
最適のガイドブックになっています。
ただ記事の構成がなんとなく「ユリイカ」っぽいなぁと思ったのは、私だけですかね?

ところで近年のSFマガジン7月号を振り返ると、2009年度は「追悼:伊藤計劃」、
2010年度は「メタルギア・ソリッド」、そして2011年度の「伊藤計劃以後」と、
この時期は必ず伊藤計劃氏にまつわる企画を持ってきてるのが興味深いところです。
2012年の7月号では、何が取り上げられていることやら・・・。

今号ではまず冒頭に『ハーモニー』がディック記念賞特別賞を受賞した直後に行われた
『伊藤計劃記録 第二位相』発刊記念トーク「いかにして伊藤計劃は作家となったか」が
まるまる採録されており、特集の大きな要となっています。

出演者4名の中で一番説得力ある発言だと思ったのは、伊藤氏と同じ創作者であり、また伊藤氏に
様々な側面で多大な影響を与えたという、ゲームクリエイターの小島秀夫氏。
伊藤氏と個人的な思い出話も興味深いのですが、何よりコメントから感じられる作品のとらえ方や
作者の資質に対する洞察力が格段に深く、やはり伊藤氏と最も近い場所に立つ人だと思いました。

伊藤氏がもう少し長く活躍して、小島監督と一緒にプロジェクトを立ち上げていれば・・・というのは、
今となっては夢でしかありませんが、今後も伊藤氏に続く才能を触発するためにも、小島監督には
今後一層の活躍を期待したいものです。
というか、前から何度も書いてる気がするけど、小島監督にはぜひとも『虐殺器官』の映画化を
実現して欲しいと思ってるのですが・・・。
(ただしゲームやCGメインではなく、あくまで実写ベースのSFX作品を希望します。)

ちなみに『ハーモニー』を映像化するなら、こちらは劇場用もしくはノイタミナ枠あたりでのアニメ化が
ちょうどいいかな、と思っています。
監督はダークで濃密な人間ドラマを撮るのがうまく、SFへの造詣も深い岡村天斎氏が第一希望。
『DARKER THAN BLACK』で登場する、合理的で感情を持たない「契約者」という設定は、今思えば
『ハーモニー』で描かれていた「人類の進化」が到達する姿と、どこか似ているようにも思います。

次点として推すのは、今や日本有数の有名アニメ監督になってしまった細田守氏です。
爽やかな印象のある細田作品ですが、実は作中に人間関係の歪みや秘められたエロティシズムを
さりげなく盛り込んでいる点について、もっと注目されるべきだと思いますね。
また、橋本カツヨ名義で脚本を担当したアニメ『少女革命ウテナ』では、百合やエロスをテーマに
TV的にかなりきわどい話を手がけてたこともありました。
理想を言えば、橋本カツヨ脚本で岡村天斎監督の『ハーモニー』なら、たぶん最強でしょう(笑)。

SFMの話題に戻って、もう一本の採録記事はSFセミナー2011で行われた「上田早夕里インタビュウ」。
当日話された内容が全部採録されているわけではありませんが、重要な部分についてはもれなく押さえた上に、
上田氏自らが何点か追記を加えていますので、公式記録としてはベストだと思います。
「SFが読みたい!2011年版」に掲載されているインタビューとあわせて読めば、上田早夕里という
いま最も注目すべき作家と作品をより深く知ることができるはずです。

あと個人的にウケた記事は、最近アンソロジーを編集しまくっている「日本のJ・ストラーン」こと
大森望氏へのインタビュー&本人によるエッセイですね。
話の締めくくりに、twitterなどでSF関係者の話題に上った星海社による「SF老人打倒宣言」への
皮肉まじりの返答を入れたところが、なんとも大森氏らしいところかと。

東日本大震災を受けた企画「3・11後のSF的想像力」では、自ら被災者となってしまった冲方 丁氏、
西日本から被災地へと足を運んだ小川一水氏、そして被災地と距離を置いて大震災を見つめようとした
長谷敏司氏による、今の日本とSFの在り方についての考察が述べられています。
立場の違う三者のエッセイを読み比べることで、震災以後への新たな視点が得られるのではないでしょうか。
少なくともこの3人が、それぞれ真剣に「災害とSF」に向き合っていることは、強く伝わるはずです。

他には評論が9本と「次世代作家ガイド」と称された期待の新人紹介ページが掲載されてました。
岡和田晃氏の『ハーモニー』論は、私とは異なる読みの部分もありますが、示唆に富む点の多い力作。
ただし、ややテーマを盛り込みすぎの感じもあって、視点が散ってしまったようにも感じました。
できれば内容を整理した上で、ぜひとも続きを書いて欲しいと思います。
それにしても、本文の中で紹介されていたピーター・ワッツの"Malak"は読んでみたいなー。
これを紹介した石亀渉氏のブログ「送信完了。」では、伊藤計劃氏の短編「The Indifference Engine」や
『ハーモニー』のディック記念賞ノミネートの話も取り上げているので、そのへんもぜひご一読を。

問題なのは後半の「小説外の想像力」と題された一連の評論で、正直なところこのへんが私にとって
今月のSFマガジンが『ユリイカ』っぽく見えた最大の原因です。
内容の良し悪しは置いといて、ジャンルの外側からSFを語るというやり方ってやっぱり古いなと思うし、
サブカルの文脈でSFを扱うなら、それこそ『ユリイカ』を含む各種の評論誌が立派に機能しています。
だったら、いまや国内に一誌しかないSF専門誌が取り上げるべき記事って、もっと他にあるんじゃないの?

例えば昨年の「はやぶさ」、そして今年の大震災プラス原発事故など、SFが扱ってきたテーマの数々が
最近になって次々と現実化し、世の中で大きく取り上げられています。
そんな状況なのに、なぜSFが社会あるいは現実への指標として、もっと注目されないのでしょうか?
そこをなんとか打破していかない限り、SFは21世紀になっても「若者の文学」止まりだと思うのです。

もう21世紀も10年たっちゃったことだし、SFもそろそろ「サブカル」に甘んじることはやめて、
現実の事象に対して向き合える文学ジャンルであるという「自己主張」を、もっと前面に出したほうが
いいんじゃないでしょうか。
特に「未曾有の事態」を扱うことについては、まさにSFの独壇場と言えるわけですし、こんな時こそ
日本SF界には一層の奮起を求めたいと思います。

これからのSFが目指すべきは、社会を斜めに見る「サブカルチャー」から、先に立って社会を切り開く
新たな視点を提示できる、いわば「コアカルチャー」とでもいうべき立場への転換ではないでしょうか。
そんな可能性を垣間見せてくれたのが伊藤計劃氏の作品であり、彼が切り開いたこの可能性こそ、
きっと「2010年代以後の日本SF」の在り方を左右する重要な鍵になるのだと思います。

最後はやや大げさな話になりましたが、このくらいはブチ上げないとつまらないですからねー!
星海社も「SF老人打倒!」なんて小さいことは言わず、もっとでっかい目標を掲げてもらって、
いっそブンガク界全体に挑戦状を叩きつけるとかして欲しいものですな(^^;。
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