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Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

『「帰ってきたウルトラマン」庵野秀明監督セレクション10+1』

2010年09月19日 | イベント・観覧レポート
池袋の新文芸坐で『「帰ってきたウルトラマン」庵野秀明監督セレクション10+1』を見てきました。

場内は立ち見も出るほどの大盛況。
そして会場の7割くらいがリアルタイムで「帰りマン」を見てた人のようでした。
逆に1割弱くらいは、初めて見るというお客さんもいたみたい。
この人たちはEVAと庵野さんの影響で来場したのかもしれません。

オールナイトでスタートは夜の10時半、終了は翌朝5時過ぎという構成。
最初の45分は、特別ゲストの郷秀樹役・団時朗さんと作品セレクトを担当した庵野監督が登場し、
司会役のライター・清水節さんの進行でトークをされました。

団さんは新マン登場前は本名の村田英雄で活動していたため、営業先にお年寄りが詰め掛けたとか、
CM出身なので自分から画面に映りに行くという感じがつかめなかった・・・などの体験談を話してました。

団さんからは岸田隊員(攻殻SAC2のゴーダ役でも知られる西田健さん)にも声をかけたそうですが、
今回は残念ながらロケのためお越しいただけなかったそうです。

一方、庵野さんは帰りマン初体験が小学5年生のとき。
小学3年生がメインターゲットな作品を、5年生で見た感じはどうでした?という質問に対しては
「かえってそれがよかった」とのことでした。

「初代マンやセブンが近未来の世界観を描いていたのに対し、帰りマンは放送当時である
70年代のリアルタイムを描いているのがよかった。」
「自分がもっと小さければ、そのよさが理解できなかったと思います。」

なるほど。そういえば無線ひとつとっても普通のトランシーバーを使ってたりと、
旧マンやセブンよりは明らかに現実的な装備でしたね。
その現実味が新マンのコンセプトであることに、庵野さんは気づいていたわけですな。

そんな庵野さんに対して、団さんからはこんなコメントが。
「EVAでは僕もよく勝負してますよ、なかなか出してくれないけど」(パチンコの話ですね)
庵野さんは「それは僕にはわからないとこなので・・・」とかわしてましたけど。

そして上映作品のラインナップについて、庵野さんの解説も加えての紹介がありました。
(破線で区切った部分は、私の感想です。)

◎第5話「二大怪獣東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」
地底怪獣グドン、古代怪獣ツインテール登場。

いきなり5話からのスタートですが、これは庵野さんの説明によると
「みんなもう見てるだろうから、1話2話は最初はすっとばしてもいいや」と判断したとか。

この回は郷と岸田の対立に加えて、いきなり話がマット解散の危機にまで発展。
「解散という言葉は、これで覚えました」(庵野さん)
ツインテールのデザインは、団さんもお気に入りだとのこと。

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大人の社会の対立は子供の庵野さんにも印象深かったとのことで、これが後になって
EVAの作劇にも影響したんじゃないか、という気がしました。
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◎第28話「ウルトラ特攻大作戦」
台風怪獣バリケーン登場。

脚本にバラエティを持たせて欲しいという円谷側の以降も汲んで、実相寺脚本を選択。
民家の屋根にタンカーが落ちてるというビジュアルにもやられたそうです。
ちなみに22話で隊長が変わってるので、ここでは既に加藤隊長から伊吹隊長になってます。

清水さん「加藤隊長と伊吹隊長はどちらが好きですか?」
庵野さん「僕は伊吹隊長派。加藤隊長はいい人だけど、解散もやむなしというタイプ(会場爆笑)」
なお、演じる根上淳さんは映画スターなので、TV出身の団さんたちはとても緊張されたとか。

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ちなみに台風を怪獣に見立てる天気図は、後に「トップをねらえ!」でも引用されてます。
気象庁とのやりとりでは、山本弘さんの怪獣SF小説『MM9』が連想されました。
そしてバリケーンの“ふわっ”としたやられ方には、場内から失笑が・・・。
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◎第31話「悪魔と天使の間に・・・・」
囮怪獣プルーマ登場。

脚本は市川森一。
庵野さんは「子供の芝居もいいけど、その首を絞める郷の演技がいい」とのことでした。
この回では郷の現住所として、浅草あたりの住所が書かれた履歴書がチラッと映ります。
これに対して団さんは「浅草だった?成城あたりじゃなかったの?(笑)」

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首絞めは劇EVA完結編にも出てくるカットなので、やはりこれも原体験となった映像?
見た後の感想としては、ブラッドベリ「小さな殺人者」の翻案っぽいなというところ。
しかしその後の意外な展開には驚かされます。
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◎第32話「落日の決闘」
変幻怪獣キングマイマイ登場。

行方不明の父がちらっと映るとか、等身大の新マンが子供を抱えて走る姿が好きだそうです。
監督が特撮出身の大木淳さんで、落盤の特撮もいいとのこと。

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迷彩のマットビハイクルというレアなメカも出てるので、これも見どころのひとつです。
上野隊員のコミカルな芝居が、いつにも増して際立つ作品でもあります。
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◎シークレット回 NG2話「タッコング大逆襲」
オイル怪獣タッコング登場。

DVD-BOXにも収録されている、本放送とは異なるバージョンだそうです。
オープニングや変身ポーズなどの演出が異なるほか、主題歌がインストのみになってるのが特徴。
この時の曲の歌入りは、後にDAICON FILM版「帰ってきたウルトラマン」の主題歌として使われ、
意外な形で陽の目を見ることになりました。

◎第33話「怪獣使いと少年」
巨大魚怪獣ムルチ登場。

「帰りマン」ではまず最初にタイトルが挙げられる、傑作にして問題作。
よくこの当時、これを夜7時台に流せたものだ・・・と、皆さん感慨深そうでした。
庵野さんはこれをベスト作に推すそうです。(特撮は好みじゃないとか)
団さんも特に印象深いそうで、特にシリーズ助監督としてがんばってきた東條昭平さんの
初監督作品という意味でも、強く記憶に残る作品だそうです。
団さんにとっての帰りマンは、東條さんそのものである・・・とのコメントもありました。

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差別と貧困、そしていじめの問題を真正面から扱った傑作。
メイツ星人を守れなかった郷の苦悩と、人類への失望感がたまりません。
この感じは横山光輝の傑作マンガ「マーズ」の苦い結末に通じるものがあります。

しかし、いじめっ子の犬がいきなり爆発するシーンには場内驚愕&爆笑。

これはもしや「リア充爆発しろ!」を先取りする表現だったりして・・・(^^;。
まあさすがに、いじめっ子本人を爆破するまでには至りませんでしたが。

そして全体にクセのある映像表現には、どこか実相寺作品との類似も感じられます。
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◎第35話「残酷! 光怪獣プリズ魔」
光怪獣プリズ魔登場。

坂田兄役の岸田森さんが朱川審のペンネームで書いた脚本です。
抽象的な特撮と尻切れな終わり方が特に印象に残ったとの庵野さんに対し、団さんからはこんな言葉が。
「なんか『熱海の捜査官』のラストに似てるよね、なんだこの終わり方(場内爆笑)」

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怪獣というよりは「怪現象の捜査と対策」を重視した物語構成には、ウルトラセブンの後番組である
「怪奇大作戦」の雰囲気に近いものを感じました。
ヒーローものとしては異色ですが、私の偏愛する一作です。
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◎第37話「ウルトラマン夕陽に死す」第38話「ウルトラの星光る時」
用心棒怪獣ブラックキング、暗殺宇宙人ナックル星人登場。

坂田兄妹の惨殺は、庵野さんも子供心にショックを引きずったとかで、団さんいわく
「やっちゃいけないことをやっちゃいましたね~」。
しかしもっとやっちゃいけないのは、2年前の劇場版『大決戦!超ウルトラ8兄弟』での
復活劇だとも言ってましたが・・・。

団さん「もうなんでもありかよと。いまだにビックリしてます。」
庵野さん「僕もビックリしました。」

そしてこのエピソードのラストで、いきなり郷秀樹に別の彼女ができるという超展開。
団さん「この後から郷の浮気性が出てくるんですよ。」
庵野さん「子供ごころに“えっ!”と思いました。もう次の人が・・・。」
団さん「(それが)現実ですよ、現実。」

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ナックル星人の帰りマンに対する執拗ないたぶり方は、今見てもエゲつないですな。
ブラックキングはナディアに出てきた“ロボキング”の元ネタとしても有名ですね。
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◎第51話「ウルトラ5つの誓い」
宇宙恐竜ゼットン(二代目)、触角宇宙人バット星人登場。

最終回は初代マンの終わり方を思い出させる、ゼットンとの対決です。
庵野さんにとってはスーツ姿の郷が、大人の旅立ちという感じでよかったとのこと。
ウルトラ5つの誓いが妙に現実的なところも、地に足が着いててよかったとか。

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庵野さんはこの最終回を見て
「大人はいつかいなくなるんだ、子供もいつかは自分でやらなきゃいけないんだ」と
子供ごころに感じたそうですが、これまたEVAのテーマに通じるものがありそうです。
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トークの総括として、庵野さんにとって帰りマンとは何か?という質問に対する答えは

「良くも悪くも、ウルトラシリーズが続いてしまった作品。」

もうリメイクなのか、という旧作への寄りかかりを感じるものの、子供としては
「ウルトラマン、もう帰ってきてくれたんだ!」と単純にうれしかったとか。

ちなみに後づけの名前である「ジャック」という名前については、団さんも庵野さんも
あまり好きじゃないとのことでした。
庵野さんは新マン、もしくは帰りマンとしか呼べないとか。
(庵野家のネコはジャックという名だそうですが、こっちはむしろマイティジャックが由来とか)

会場には帰りマンのスーツアクターだった菊池英一さんもいらしており、紹介時には庵野さんが
うわずった声で「大ファンですから!」と呼びかけるという一幕もありました。
最後は来年の帰りマン40周年に向けて何か盛り上がれれば、ということで、
団さんはスクリーンの中に帰るという流れでトーク終了。

さて、庵野セレクションを見終えて私が思ったのは
・事件に(次郎ではなく、ゲストキャラの)子供が絡む作品が多い。
・肯定的であれ否定的であれ、高度経済成長という70年代を反映したテーマ性が感じられる。
(スモッグ、公害、トンネル工事、ダム開発)
・大掛かりな社会の動揺を描く作風に、当時の流行だったパニック映画への傾倒が見られる。
・「怪獣使いと少年」は、早すぎる「第9地区」だったのかもしれない。

そして庵野さんの好みは、人間と組織のぶつかり合いやエキセントリックな物語に向けられていて、
本編の鍵となるエピソードや有名な怪獣にとらわれていないのが興味深いです。
また映像とストーリーの両面で、後の作品に見られる要素をいくつも感じることができました。
その点では、今回のオールナイトを「The Roots of 庵野秀明」としても間違いではなさそうですね。

個人的には、丘隊員の活躍がうれしかったですね~!
スタイルも身のこなしも存在感も抜群で、戦闘への貢献度も非常に高い。
少数派かもしれないけど、私にとっては今も最高のウルトラヒロインなのです。

場内のロビーには、トーク出演のお三方によるサインが飾られてました。


そしてその横には、こんな告知もあったりして。

というわけで、次回はいよいよ片渕監督ナイト!こちらも楽しみ~!
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