Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

夏のシブヤ奇想まつり!「ブリューゲル 版画」の世界展

2010年08月29日 | 美術鑑賞・展覧会
渋谷のBunkamuraにて、8/29まで開催中の「ブリューゲル 版画の世界展」に行ってきました。

チラシを見てからずっと楽しみにしてたけど、いろいろあってこの時期まで伸び伸びに。
ようやく観に来てみると、場内は細かい描写と横の説明文を食い入るように見つめる人で
壁が埋まって動かないという状態でした。
夏休みとはいえ、なんという繁昌ぶり!ブリューゲルの知名度も大きいのでしょうけど、
やはり皆さん“へんないきもの”が大好きということみたいですね。

とはいえ、ブリューゲルもへんな生き物ばかりを描いていたわけではありません(笑)。
今回の展覧会では、得意の民衆画などを含む多彩な版画作品を見ることができます。

まず冒頭には「大風景画」と呼ばれる連作を中心にした、風景画の展示。

アルプスの風景に魅せられたブリューゲルが描く山並みは、複雑な曲線の重なりによって
たっぷり量感のある岩塊として描かれています。まあ水まで岩っぽく見えるのはご愛嬌(笑)。

さらに狙ってか偶然か、視点を高くとることによって遠近法に微妙な不自然さが生じて、
奥の風景が手前に押し出されるような視覚効果を生んでいるのもおもしろいところ。
これって雪舟の「慧可断臂図」や若冲の「群鶏図」に感じる圧縮感にちょっと似てるかも。

なお、この章の最後を飾るのは、ブリューゲル本人が彫ったとされる「野うさぎ狩りのある風景」。
職人による彫版に比べて線が太いのですが、それが素朴さや線の勢いにも感じられるのは、
本人作というありがたさだけではないと思います。

続いては聖書の主題と宗教的な寓意が取り上げられています。
といっても描き手がブリューゲルだけに、作品からは神の威光よりも辛らつな寓意が中心。
また「キリストと姦通女」などは、彫りの技術による人物や服装の表現がすばらしいです。

これは宗教画よりも、むしろリアリズム絵画として高く評価できる作品だと思いますね。

そしていよいよ“へんないきもの”総登場の連作「七つの罪源」が登場!

こちらはチラシの裏にも使われた作品「傲慢」。
画面構成や怪物の描写には、先達のヒエロニムス・ボスに学ぶところも多く見られますが、
ボスがあくまで宗教画として「快楽の園」を描いたのに対し、ブリューゲルは版画という
大衆芸術の中で、俗っぽさを全面に出した、より親しみやすい表現を選んだように思えます。

出てくるのはバケモノばかりですが、そのしぐさは恐ろしさよりもどこか微笑ましくて、
何よりも人間くささを感じさせます。
それに比べると、作中の人間たちは外見も行動もどこか歪んでいて、怪物以上に怪物的。
ボスが天上の世界を描いたのなら、ブリューゲルはあくまで俗世を描いたとも言えそうで、
その点ではこれらの奇想画も、ある種の民衆画と考えても良さそうですね。

さらにこの章では、ブリューゲルの作品で特に知られたあのモチーフも見つかります。

ウィーン美術史美術館所蔵の油彩が有名な「バベルの塔」の版画版。

これは油彩をもとにした版画ですが、色がないぶんだけ細部の描き込みが際立ちます。
塔の独特の形状や押し出しの効いた画面構成は、風景画で鍛えた成果かもしれません。
ただし絵そのものはかなり小さいので、単眼鏡の使用を強く推奨します。

また、ブリューゲルは人だけでなく、お船もバリバリと描いてました。

丸っこい人物を描くという印象が強い人ですが、幾何学的な図形を組み合わせた帆船もお手のもの。

そういえば「バベルの塔」も、単なる宗教画というだけでなく、架空の高層建築を建てる工程を
リアルに描写した“工業技術絵画”でもありました。
ややオーバーに言えば、東京スカイツリーを写真に撮る感覚をすでに先取りしていたのかも?

場内ではブリューゲルの版画作品をCG処理した、アニメーション作品も上映してました。
もとは静止画なのに、動きをつけても違和感がないのが不思議といえば不思議なのですが、
そもそもブリューゲル作品の中に、そういった動きの要素が取り込まれているのかもしれません。
このアニメ、会場ではDVDの販売もあります(実は買ってしまった)。

最後に、展覧会のおみやげ。
カプセルベンダーで買える“へんないきもの”のフィギュア、1回300円ナリ。

やはりお魚さんがいいですね~。なんだかインスマウスの住人みたい!

最近はあちこちの展覧会でガチャガチャを見かけますが、大人はあまり回さないですね~。
私は平気で、というかイベント限定モノは進んでガチャるようにしておりますが(^^;。
色違いとはいえ、今回は全種そろってよかったです。

Bunkamuraでの展示は8/29までですが、以後は次の日程で巡回します。

2010年 9月 4日(土)-10月17日(日)新潟市美術館
2010年10月22日(金)-11月23日(火・祝)美術館[えき]KYOTO
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