Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

「伊藤若冲 アナザーワールド」千葉市美術館

2010年07月03日 | 美術鑑賞・展覧会
千葉市美術館で6/27まで開催していた「伊藤若冲 アナザーワールド」を見てきました。


伊藤若冲といえば、もっぱら「極彩色と細密描写の人」というイメージですが、
今回の展示の中核を成すのは水墨作品。
ゆえにタイトルにも“アナザー”とある通り、いわば「裏の若冲」なわけですが
しかしこの「裏若冲」、絵として見れば彩色作品に劣らないほどの魅力があります。

確かに「皇室の名品展」で登場した動植綵絵は圧倒的でしたが、それを支える要素は
線と形態への鋭敏な感覚と、それを実現する技術の高さでしょう。
だからその感覚と技術の冴えを味わうなら、色に目を奪われずにじっくり筆致が見られる
水墨画のほうに分があるというもの。
そして今回の展覧会では期待したとおり、若冲の描く「かたち」と「線」の楽しさ、そして
白黒の中に見せる多様な階調の妙を味わえました。

中でもその集大成というべき傑作が、近年発見された「象と鯨図屏風」。
本来はMIHO MUSEUM所蔵のお宝ですが、今回は静岡を経由して千葉へとやってきました。
去年の「若冲ワンダーランド」の協力に対する返礼っぽいので、今後関東で見られる機会は
あまりないかもしれません。

先に見てきたshamonさんから「会期末は混むから朝イチがいいですよー」との情報を得て
鑑賞当日は朝から現地入り。おかげで楽々と拝見することができました。

さて、入場したらさっそく一番のお目当て「象と鯨図屏風」のところへ。

土坡みたいにモリモリ盛り上がった波からぬっと現れ、勢いよく潮を噴き上げるクジラと
のっぺりした地べたに丸々と横たわり、長い鼻をぐっと天へ突き上げるゾウの対比。
海の主と陸の主を並べることで、気宇広大なスケールの世界を演出しています。

若冲といえば、描きこみの多さに比べて奥行きがない画風も特徴のひとつ。
これが画面に独特の異様さ、そして密度の高さを感じさせる一因なのですが、
「象と鯨図屏風」の場合は、画面の中に消失点が無いことが功を奏したのか、
横方向への広がりが強調されるように感じました。
細かく描いてないぶん、逆にのびのびした気風もあって、天地の広さを丸ごと
画面の中に取り込んだような作品でした。

クジラの表皮は水墨によるたらしこみが用いられ、齢を経た巨鯨の貫禄を表してます。
白象のほうは丸々とした姿に、切れ長の眼とすっと伸びた牙が変化を与えてますね。

円で構成される象の体、鼻と尻尾のうねる線、そして切れ長で笑ったような眼に半開きの口元。
これらの特徴には、やはり若冲が水墨で描いた仏画との共通性を感じます。
だとすれば、この白象はやはり普賢菩薩を意識して描かれたものかもしれませんね。
まつげが長いのも、実は菩薩の眼を想定してのものではないでしょうか?

そしてシンプルな円を基調として対象の特徴を捉えるおもしろさも、細密画にはない魅力。
ここには省略の美、単純化の楽しさが感じられます。
この「細密」と「省略」の融合した手法が、後の「桝目描き」なのかなぁとも思ったりして。

そして桝目描きといえば、静岡からはこんな作品もやってきてました。

静岡県立美術館蔵の「樹花鳥獣図屏風」。

細密と省略の両立が、この異様な感動を生む作品へと行き着いたとすれば、
やはり若冲は普通の人とは決定的に異なる感性を持っていたのでしょう。
そして「桝目描き」による、画面が盛り上がるかのような立体感!
そこには透視図法とは異なる形での、立体視への挑戦が感じられるようです。

また年代による画風の変遷がわかりやすく表れるのも、水墨画ならではのおもしろさ。
青年から壮年期の作品には線の鋭さや筆運びの豪快さがありますが、後年の作品では
切り裂くような筆遣いや、のた打ち回るように派手な描線はすっかり影をひそめており、
逆に落ち着きをもって対象の形や動きを捉えようという意図が見られます。

こういった見比べができるのも、展示内容の充実ぶりによるものでしょう。
また水墨中心とはいえ、カラー作品にも質の高いものが出品されてました。
わざわざ遠くまで足を運んだ甲斐があったというものです。

そして帰りがけには、館内でこんなモノを発見!

ミース・ファン・デル・ローエによる名作イス、バルセロナ・チェアじゃないですか!!

先に座ってる人がどくまでじっと待って、しっかり座ってきましたよ!
シートのステッチ、足のクロスする曲線、背中からシート部に貼られた皮バンドなども、
いちいち触って確認してきました。
初めて座ったけど、やはりすばらしいイスですな~。

ミースといえば、“Less is more.” (より少ないことは、より豊かなことである。)という
名文句が有名ですが、これって色や線の少なさが作品をより豊かに見せるという
若冲の水墨画にも通じるものがありますね。
その意味では、「伊藤若冲アナザーワールド」に最もふさわしいイスかもしれません(笑)。

さらに入口付近の展示コーナーを見ると、ご当地の面白いものがありました。

いわゆる“古代ハス”と言われる大賀ハスは、千葉で発掘されたものです。
その大賀ハスをアクリル樹脂に封じ込めたものが展示されてました。

最後にもうひとつ、ご当地の一品をご紹介しておきます。
会場の近くにある和菓子店「千葉虎屋」のお菓子。
名前がちょっと思い出せないのですが・・・若緑だったかな?

浮島製なので、もちもちふわっとした口当たり。色の美しさもごちそうです。
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2 コメント

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いい展示会でしたね (shamon)
2010-07-04 21:15:15
>天地の広さを丸ごと
そうそう^^。この広がり感がいいんです。
象さんの眼は菩薩、、気がつかなかったな。
色っぽく感じたのはそのせいかも。

「象と鯨図屏風絵」は絵葉書買っちゃいました^^。
松林図屏風を思い出しました (青の零号)
2010-07-04 21:59:03
shamonさん、いつもありがとうございます。
思った以上に充実した内容でした。
言われたとおりに早起きして行ってよかったです。

「象と鯨図屏風絵」は気持ちのいい絵でした。
存在感はあるのに、押し付けがましいところがないのは
白黒の水墨画ならではのよさかも知れませんね。

金箔地や彩色では、この開放感はだせないでしょう。
その点は等伯の松林図屏風にも通じるものだと思います。

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