Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

SFセミナー2011レポート(その3)ミリタリーSFの現在&SFPWなど

2011年05月13日 | SF・FT
SFセミナーレポート、いよいよ最終回です。

・ミリタリーSFの部屋
最近ハヤカワSF文庫でガンガン点数を増やしている翻訳モノのミリタリーSFについて、
その手の作品に疎そうなSFセミナーの参加者に読みどころを教えます!的なトーク。
司会進行は堺三保さん、相方を務めるのは軍事評論家でSFマニアの岡部いさく先生です。

ちなみに岡部さんは、合宿企画の「30年目のラファティ」にもいらしてました。
押井守監督との対談くらいしか知らなかったけど、本当にSF好きな方なんですねー!

ペラ1枚のレジュメにずらりと並んだ80年代以降のミリタリーSFは一本も読んでないので、
正直なところ面白さについてはさっぱりわかりませんでした。
でも「海軍モノは出世すごろくとして読まれている」とか「昔ながらのスペースオペラが減って、
そのニーズを埋める形でミリタリーSFが一定の支持を受けている」という説明は、スペオペから
SFの世界に足を踏み入れた者として、かなり興味深かったです。
堺さんが例として示したのは「レンズマン・シリーズ」でしたが、自分がまず思い浮かべたのは、
A・B・チャンドラーの「銀河辺境シリーズ」ですね。
まあアレに関して言えば、野田昌宏大元帥の翻訳と加藤直之画伯のお色気たっぷりなイラストが
何よりも魅力的でしたが(笑)。

また、「海外では巨大ロボットに乗って戦うという設定が、なぜかほとんどない」という指摘は、
昔から自分も気になっていたところ。
日本では機械による身体能力拡張への指向が強いのに対し、アメリカSFではバイオ技術による
身体そのものの改変や超人化の傾向が目立つように感じます。
(だから日本以上に、ニンジャという超人的存在に人気が集まるのかも。)
このあたりは国家における戦争との関わり方、あるいは身体能力に対するコンプレックスの度合いが
大きく影響しているのかもしれません。
きちんと研究すれば、比較文化論としてもかなり面白くなりそうな気がします。

ちなみに個人的に大笑いしたのは「近距離ワープが可能な設定にしちゃうと、戦術面も映像面も
なんだかワケがわからなくなってしまう」という話題。
・・・うわ、それってまるっきり「機動戦士ガンダム00」へのダメ出しじゃないですか(笑)。

たしかにトランザムライザーの量子化は、あまりにチート過ぎてげんなりしたもんなー。
まああの作品は「21世紀のガンダム」というより「21世紀のイデオン」を目指してたみたいだから、
戦術もへったくれもなくて当然かもしれませんけどね(^^;。

・「SF Prologue Wave」発進!
小松左京賞とSF新人賞の休止に伴い、危機感を持った若手作家と評論家が主体となって
新しく立ち上げたウェブマガジンについての、ほとんどプロモーション的な企画。
登壇者は運営側から八杉将司、片理誠、高槻真樹の三氏、ご意見番として翻訳家の増田まもるさんと
編集者の小浜徹也さん、さらにビジュアル面で協力されたイラストレーターのYOUCHANさん。
司会進行はこの手の企画ならお手のものの大森望さんです。

たくさんの人が出ていたものの、船頭多くしてなんとやらの感がありあり。
他の企画に比べて、どうにもまとまりがなかったのが非常に残念です。
情報発信がしたいのか、とにかく書いたものを読んで欲しいのかがいまひとつ伝わらず、
若い書き手が危機感を感じているなら、もっと必死になってアピールして欲しい・・・と、
逆に先行きへの不安を強く感じてしまいました。
せっかく出てもらったYOUCHANさんの発言機会がほとんどなかったのも、もったいない話です。

最後でややグダグダな感じにはなりましたが、全体としては見どころ・聴きどころ満載で
大変に充実した内容だったと思います。
また物販コーナーでは、青心社さんが書店で手に入りにくいと話題の『翼の贈りもの』を販売し、
その横では「はるこん」スタッフの方がソウヤーの短編集用の紙箱をせっせと手作りしたりと、
小さいながらも和気あいあいとしたスペースになってました。

SFセミナー本会のレポートはこれで終了ですが、合宿では上田早夕里先生から直接お話を伺ったり、
巽孝之先生から「ダールグレン」の裏話を聞いたり、「30年目のラファティ」では限定小部数発行の
すばらしい小冊子をもらったりしました。

5月25日前後に前後編一挙発売予定の『ダールグレン』束見本。
大震災の影響で当初の予定と違う紙を使うことになったとか。
黒い表紙は本編に関係あるようですが、それは読んでのお楽しみだそうです。


巽先生の私物、ディレイニーの短編集の見開き。サインはもちろん、ディレイニー本人のもの。


限定51部のラファティ小冊子「長い火曜の夜だった」。
私のもらったのは15番のナンバー入りでした。背後は一緒に配られた未刊行作品の英語リスト。

そして深夜のお楽しみ企画「水鏡子さんを囲む部屋」。
ここでは伝説のSF評論家にまつわる数々の武勇伝として「詰襟少年SFクイズ全問正解事件」、
「面前罵倒事件」、「SF大会水遁の術事件」などが、本人立会いの下で多くの関係者により、
赤裸々に証言されました。
そして後半には、謎のSF女子も登場。並み居るベテランSF者を次々と打ち倒す・・・などという
壮絶な一幕があったような、あるいはなかったような(笑)。

とにかくめちゃめちゃ面白かったので、いい企画があればまた参加したいと思います。
主催者・出演者・参加者のみなさま、お疲れさま&ありがとうございました!
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2 コメント

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Unknown (sfonline@SFファン)
2011-06-04 22:46:13
いきなりコメントして失礼します。
面白そうなSF小説が読みたくて、レビューを検索していたら来ました。

今まで気になっていましたが、ミリタリーSFも読んでみたいものです。
ミリタリーSFというと、トム・クランシーの書くようなものかと思っていましたが、違うみたいですね。ガンダムも列記としたミリタリーSFですしね。

80年代にミリタリーSFがはやっていたとは知りませんでした。調べてみたいと思います。
返信する
コメントありがとうございます (青の零号)
2011-06-05 23:58:06
sfonline@SFファンさん、コメントありがとうございます。

ブログを拝見すると結構SFを読んでらっしゃるようなので、
ウチはあんまり参考にはならないと思いますが、
ちょっとでも興味を引けたのならうれしいですね。

80年代はレーガン政権による「スター・ウォーズ計画」のからみで、
アメリカを中心に宇宙戦争モノのちょっとしたブームがあったはず。
(私ぜんぜん読んでないのですが)。
SFセミナーではパーネルの「地球から来た傭兵たち」とか、
ティモシイ・ザーンの「宇宙戦記」(別名「コブラ部隊」シリーズ)を
典型例として挙げてました。
ザーンはこのころ、宇宙版ニンジャ部隊の「ブラックカラー」なんてのも
訳されてたはず・・・うーん怪しい怪しい。

>今まで気になっていましたが、ミリタリーSFも読んでみたいものです。
今回の「ミリタリーSF」については、堺三保さんのくくりとして
「職業軍人が主役で、戦術面への興味を主とした未来モノ」という作品を
取り上げていました。
中でもSFとして優れているのがスコルジーの「老人と宇宙」シリーズで、
下士官小説として陸戦をリアルに描写したのが、タニア・ハフの
「栄光の〈連邦〉宙兵隊」だそうです。

ガンダムについては、モビルスーツの元ネタのひとつである「宇宙の戦士」が
これに該当しますが、ジオン独立運動やコロニー落としの元ネタになった
「月は無慈悲な夜の女王」も、広義の戦争SFとして読めると思いますね。

あと小説ではないですが、個人的には星雲賞も受賞したプレステのSLGゲーム
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」が、ジャンルを超えた国産ミリタリーSFの
ひとつの集大成ではないかと思います。

以上、とりあえずいろいろ並べてみました(^^;。
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