上田早夕里先生インタビューに続き、「SFセミナー2011」レポートの続き。
今回は若島先生による、アカデミックなSF授業の模様をお伝えします。
【乱視読者の出張講義―ジーン・ウルフ編】
若島正教授による、大学での文学講義の出張版。お題は自家薬籠中のジーン・ウルフ!
まずは若島先生の方針として、テキストを精読(クローズ・リーディング)するという「新批評」の方法論に倣いつつ、
それに留まらない読みとして、作品に関する副次的な情報も「パラテクスト」として用いるとの説明がありました。
要は「作中の情報を丹念に読むのが前提になるけど、献辞とか序文とか奥付とかサブタイトルとかにも
読み解きの情報が仕込まれてるから、そっちも見落とさないようにしましょう」ということですよね。
書物まるごとが仕掛けとなっているウルフの本を読むとき、この手法は非常に効果がありそうです。
(とか書いていて、おもいっきり私の解釈違いだったらすいません。)
さて、今回のテキストは「BIBLIOMEN」に収録された「Sir Gabriel」です。
左が1984年の初版表紙、右が1995年の増補版表紙。増補版では2篇増えているそうです。
この「ゲイブリエル卿」は、若島先生がSFマガジンの連載かなんかで「大好きな作品」として取り上げており、
後に『新しい太陽のウールス』の解説文でも紹介済み。今回の講義も、このへんがベースになっています。
なので講義の内容にちょっとでも触れたい人は、まず『新しい太陽のウールス』をお求めいただき、巻末の
解説文をじっくりお読みください・・・とか言うまでもなく、ウルフファンなら購入済みですよね(^^;。
とはいえ、今回は初版のCheap Street版と増補版のBroken Mirrors Press版の相違点に言及しつつ、
先の解説では書かれていなかった情報も追加されており、作品へのアプローチ度は大幅にアップ。
そしてこれらの情報を駆使しながら作品の核心へ深く斬りこんでいく若島先生からは、日本における
ウルフ解読の第一人者としての風格さえ感じました。
日付の記述から奥付の情報まで活用した読み解きにより、現実と超現実(実在と非実在)を行き交う
物語=人物としての「Sir Gabriel」について説明し、「なぜ彼は夢中になってその本を読んだか」
という問いに対して、「自分の出てくる唯一の物語=自分を肯定してくれる唯一の本に出会えた喜び」
というひとつの解答を示すまでの流れは、この講義における最大の見せ場でした。
そして最後に、同種の「自己を肯定する物語」として、若島先生が選んだ3篇が紹介されました。
ひとつめの物語は短編集「Starwater Strains」収録の未訳作品「From the Cradle」。
これは「自分の人生を予見する一冊の本に出会った男の物語」だそうです。
そしてふたつめの物語は、言わずと知れた傑作「デス博士の島その他の物語」です。
悲惨な境遇のタッキー少年が出会った一冊の本は、彼にとっての逃避場所となるだけでなく、
自分の生きる世界を魅力的に変えてくれるもの。
そして本の力によって、現実世界の「悪」が最も魅力的な存在へと変じて登場することが、
タッキーの人生そのものを肯定する物語としても機能している・・・という風な説明でした。
(このへんはちょっとうろ覚えなので、修正が必要かも。情報があったらお寄せください。)
そして第三の物語は、短編集『Wolfe Archipelago』の序文であり、本邦で独自に編まれた短編集
『デス博士の島その他の物語』の巻頭に収録されている「島の博士の死」です。
若島先生は基本的に邦訳を読まないので、これもセミナー前夜に原書で読んだところ、あまりの感動で
寝られなかったとのこと。
うだつのあがらない博士が若い二人に伝えた“奇跡”とは、読み手である私たちにも当てはまるものだと
みんなを感動させた後に、「島博士(Dr. Insula)」の境遇に自らの大学教授としての境遇を反映させた
爆笑ネタで締めるという名人芸には、もはや賞賛の言葉しかありません。
と書きつつも、「島の博士の死」には「また別の読み解き方」があるのでは・・・なんてことも思ったりして。
若島先生が今回の講義ではしょった部分に、この作品の重要なポイントがありそうな気がするのです。
そして、実はあの場面の裏では、あえて書かれなかった「ある出来事」が起きていたのでは?
…でもそこは「書かれていないこと」だから、精読の読み方には反するということになるのかなぁ。
周到な若島先生だけに、あえてその部分は触れずにおいたという可能性もありそうだし。
と、つい余計なことまで考えさせてしまうのが、ウルフ作品の底知れない怖さでもあります(笑)。
なお、この講義の内容もどこかの媒体で紹介される予定があるそうです。
きちんとした若島講義の全貌を知りたい方は、今後の情報に期待しましょう!
今回は若島先生による、アカデミックなSF授業の模様をお伝えします。
【乱視読者の出張講義―ジーン・ウルフ編】
若島正教授による、大学での文学講義の出張版。お題は自家薬籠中のジーン・ウルフ!
まずは若島先生の方針として、テキストを精読(クローズ・リーディング)するという「新批評」の方法論に倣いつつ、
それに留まらない読みとして、作品に関する副次的な情報も「パラテクスト」として用いるとの説明がありました。
要は「作中の情報を丹念に読むのが前提になるけど、献辞とか序文とか奥付とかサブタイトルとかにも
読み解きの情報が仕込まれてるから、そっちも見落とさないようにしましょう」ということですよね。
書物まるごとが仕掛けとなっているウルフの本を読むとき、この手法は非常に効果がありそうです。
(とか書いていて、おもいっきり私の解釈違いだったらすいません。)
さて、今回のテキストは「BIBLIOMEN」に収録された「Sir Gabriel」です。
左が1984年の初版表紙、右が1995年の増補版表紙。増補版では2篇増えているそうです。
この「ゲイブリエル卿」は、若島先生がSFマガジンの連載かなんかで「大好きな作品」として取り上げており、
後に『新しい太陽のウールス』の解説文でも紹介済み。今回の講義も、このへんがベースになっています。
なので講義の内容にちょっとでも触れたい人は、まず『新しい太陽のウールス』をお求めいただき、巻末の
解説文をじっくりお読みください・・・とか言うまでもなく、ウルフファンなら購入済みですよね(^^;。
とはいえ、今回は初版のCheap Street版と増補版のBroken Mirrors Press版の相違点に言及しつつ、
先の解説では書かれていなかった情報も追加されており、作品へのアプローチ度は大幅にアップ。
そしてこれらの情報を駆使しながら作品の核心へ深く斬りこんでいく若島先生からは、日本における
ウルフ解読の第一人者としての風格さえ感じました。
日付の記述から奥付の情報まで活用した読み解きにより、現実と超現実(実在と非実在)を行き交う
物語=人物としての「Sir Gabriel」について説明し、「なぜ彼は夢中になってその本を読んだか」
という問いに対して、「自分の出てくる唯一の物語=自分を肯定してくれる唯一の本に出会えた喜び」
というひとつの解答を示すまでの流れは、この講義における最大の見せ場でした。
そして最後に、同種の「自己を肯定する物語」として、若島先生が選んだ3篇が紹介されました。
ひとつめの物語は短編集「Starwater Strains」収録の未訳作品「From the Cradle」。
これは「自分の人生を予見する一冊の本に出会った男の物語」だそうです。
そしてふたつめの物語は、言わずと知れた傑作「デス博士の島その他の物語」です。
悲惨な境遇のタッキー少年が出会った一冊の本は、彼にとっての逃避場所となるだけでなく、
自分の生きる世界を魅力的に変えてくれるもの。
そして本の力によって、現実世界の「悪」が最も魅力的な存在へと変じて登場することが、
タッキーの人生そのものを肯定する物語としても機能している・・・という風な説明でした。
(このへんはちょっとうろ覚えなので、修正が必要かも。情報があったらお寄せください。)
そして第三の物語は、短編集『Wolfe Archipelago』の序文であり、本邦で独自に編まれた短編集
『デス博士の島その他の物語』の巻頭に収録されている「島の博士の死」です。
若島先生は基本的に邦訳を読まないので、これもセミナー前夜に原書で読んだところ、あまりの感動で
寝られなかったとのこと。
うだつのあがらない博士が若い二人に伝えた“奇跡”とは、読み手である私たちにも当てはまるものだと
みんなを感動させた後に、「島博士(Dr. Insula)」の境遇に自らの大学教授としての境遇を反映させた
爆笑ネタで締めるという名人芸には、もはや賞賛の言葉しかありません。
と書きつつも、「島の博士の死」には「また別の読み解き方」があるのでは・・・なんてことも思ったりして。
若島先生が今回の講義ではしょった部分に、この作品の重要なポイントがありそうな気がするのです。
そして、実はあの場面の裏では、あえて書かれなかった「ある出来事」が起きていたのでは?
…でもそこは「書かれていないこと」だから、精読の読み方には反するということになるのかなぁ。
周到な若島先生だけに、あえてその部分は触れずにおいたという可能性もありそうだし。
と、つい余計なことまで考えさせてしまうのが、ウルフ作品の底知れない怖さでもあります(笑)。
なお、この講義の内容もどこかの媒体で紹介される予定があるそうです。
きちんとした若島講義の全貌を知りたい方は、今後の情報に期待しましょう!
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