fantasia*diapsida

とりとめのないメモの山

Gymnothorax kidako:

2009-02-09 00:00:00 | biologie*

ウツボ Gymnothorax kidako (Temminck et Schlegel, 1846) 。

脊索動物門 Chordata
脊椎動物亜門 Vertebrata
条鰭綱 Actinopterygii
新鰭亜綱 Neopterygii
ウナギ目 Anguilliformes
ウツボ亜目 Muraenoidei
ウツボ科 Muraenidae 。
   
以前アメ横の魚屋で入手した個体である。
ウツボを食べる地域は、日本でも太平洋岸に点在していて(館山、紀伊半島などが有名か)、
原色魚類検索図鑑などにはあまりおいしくないと書かれているものの、
どうしてどうして白身のアッサリした上品な味わいである。
ただ、皮が堅く・肉が柔らかく・小骨が多いので、捌くのは難しく、
故に恐らく調理者によってその料理の出来がかなり左右される、のかもしれない。
   
さて、
ウツボはウナギ目(Anguilliformes)の硬骨魚(teleost)であり、ご想像のとおりウナギに近い。
ウナギ目には、
 腹鰭(pelvic fin)を完全に失っている。
 胸鰭(pectoral fin)は体側の正中より背側にあり、肩帯(pectoral girdle)は頭蓋と接続しない。
 背鰭(dorsal fin)と臀鰭(anal fin)が伸張して尾鰭(caudal fin)と連続する。
 棘条(spiny ray)がなく、鰭はすべて軟条(soft ray)で構成される。
 浮袋(bladder)を持つ。
 卵管(ovarian duct)を欠く。
といった特徴があり、
この中のウツボ亜目(Muraenoidei)では、
 胸鰭を欠き、支持骨格もほとんど見られない。
 前頭骨(frontal)は分割されている。
 鰓弓(branchial arch)や側線(lateral line)が著しく退化する。
 鱗を欠く。
といった特徴が見られる。
   
中でも外から見て特異なのは胸鰭の欠如だ。
胸鰭を支持する肩帯も多くの種で完全に失われているが、実は退化的な骨が僅かに存在する種も見られる。[1]
まぁ、僅かにあったところでほとんど素人目には判らないくらいの弱小なものであります。
外見からは通常の硬骨魚のような鰓蓋は見えず(一応これは小さいながら硬骨として保持している)、
頭の後方に鰓孔(gill pore)が小さく開口。
皮膚は分厚く鰭まで覆い、鱗は欠くか微細になって皮下に散在するかである。
さて、硬骨魚の鼻孔は左右2対あるのが通常である(前方の鼻孔から水が入って鼻道を通り、すぐ後方の孔から外に出る)が、
ウツボの場合この入水-出水孔が離れており、
入水孔が鼻先にあるのに対して、出水孔は眼のすぐ上にある。
大概鼻先の方の鼻孔は管状に外に突き出てヒラヒラしているので、水族館などでウツボを見て「鼻の皮が剥けている」みたいに思う人もいるとか。
  
 articular:関節骨,  ceratobranchial:角鰓骨,  dentary:歯骨,  epibranchial:上鰓骨,  frontal:前頭骨,  hyomandebular:舌顎骨  hypobranchial:下鰓骨
 maxilla:主上顎骨,  opercle:主鰓蓋骨,  parietal:頭頂骨,  pharyngobranchial:咽頭鰓骨,  preopercle:前鰓蓋骨
 premaxillo-ethmovomerine:前上顎-篩骨の癒合…?,  quadrate:方形骨,  subopercle:下鰓蓋骨,  suborbital:眼下骨

さて、今回見たかったのはウツボの"第2の顎"、咽頭顎(pharyngeal jaw)だ。
咽頭顎ないし咽頭歯自体は、広く硬骨魚で見られるが、
ここまで顎っぽく分化し、アクティヴな挙動を示すものは他にないんじゃなかろうか。
詳しくはnatureの"Raptorial jaws in the throat help moray eels swallow large prey" Rita S. Mehta & Peter C. Wainwright,
Nature  449, 79-82 (6 September 2007)

書いてあるので、こちらにリンクしておこう。
口腔まで飛び出して獲物を引きずり込みますからなぁ。非常にカッコいい。
"Functional morphology of the pharyngeal jaw apparatus in moray eels" Mehta RS, Wainwright PC. J Morphol. 2008 May;269(5):604-19
にはより詳細に書いてある。

この咽頭顎は第4鰓弓の変化したもの(quadrate-articularを第1咽頭弓、hyoidを第2咽頭弓とした時の第6咽頭弓)で、
他の鰓弓が非常に細い、軟質な骨格を僅かに残すものになっていたのに対し、
かなり強固な硬骨で、関節まで発達している。
動き方などは上リンクで見られるので省くが、こういう構造が21世紀にもなってようやくちゃんと記載されるとは感動ものだ。
まだまだ分からんことは多いねぇ。
  
ちなみにいわゆる呼吸のための"鰓"は、咽頭顎のある食道のちょうど外側あたりに腔所があって、そこに左右3枚ずつ収まっている。
形状はいかにも普通の硬骨魚のような"鰓"。鰓蓋;opercleは小さいながら存在しており、
どうやら水族館などでウツボを見る様子では、この鰓蓋を普通の魚同様のパターンで動かして水流を鰓に送っているようである。
外見はエキセントリックなウツボさんだが、基本的には
ごく普通の硬骨魚に厚い皮を一枚被せたので、鰓蓋とか上顎とか隠れて見えなくなってしまいました、といった感じなようだ。


  
ちなみに身は唐揚げになりました♪

< National Geographic News>


BLOG内LINK:
specimens: その他の収蔵標本。
vertebrata:0102 脊椎動物。

 ・Stephanolepis cirrhifer: カワハギの骨格標本。
 ・gecko:skelett トッケイヤモリ全身骨格標本



Reference:
[1]  "Previously Unreported Pectoral Bones in Moray Eels (Anguilliformes: Muraenidae)
  Christopher Fielits, Copeia, 2002(2), pp. 483–488

[2]  "Raptorial jaws in the throat help moray eels swallow large prey"
 Rita S. Mehta & Peter C. Wainwright, Nature  449, 79-82 (6 September 2007)

[3]  "Functional morphology of the pharyngeal jaw apparatus in moray eels"
 Mehta RS, Wainwright PC. J Morphol. 2008 May;269(5):604-19

・  "Biting releases constraints on moray eel feeding kinematics"
 Rita S. Mehta* and Peter C. Wainwright, J Experimental Biology,2007, 210, 495-504.



『魚学概論 第二版』
 岩井保 :著  (恒星社厚生閣, 1991)
『Studies on the Structure & Development of Vertebrates』(Hardcover)
 Edwin S. Goodrich :著  (Macmillan and co., limited,  1930)
『The Vertebrate Body』(Hardcover)
 Alfred Sherwood Romer, Thomas S. Parsons :著  (W.B.Saunders, 1977)
『バイオディバーシティーシリーズ7 脊椎動物の多様性と系統』
 松井正文 :編集,  (裳華房, 2006)




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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
どう見ても (モンブラン)
2009-02-11 21:25:06
グラディウス的な何かwwwww

うちも骨欲しいです。
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ほにぇ~ (LOKI:(fantasia*diapsida))
2009-02-12 01:27:38
龍っぽくてイカしてます。
頭部分は骨が少なくて意外に簡単でしたねー。

骨は、やっぱりカエルが初心者向きだと思いますね。
解剖しても臭いが少なく血も出ず爽やか(魚捌くようなもんです)、で肋骨とか細かい骨が少なく、
各骨が大きくて特殊化しているので、バラけても組み立てられる、
それによく解剖されるから資料が手に入りやすい、ので。
魚は入手しやすいですが、細かい骨が多い上に
バラバラになると常人には組み立てられないので難しいです…
ティラピアがやり易いと聞きますが…
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