ひとり暮らしの俺はワンルームマンションに住むサラリーマンである。
もうすぐ彼女がこの部屋へやってくる。何度かデートはしたが、部屋へ来るのは初めてだった。ふくらむ期待で表情を緩めながら部屋の掃除をして、腕によりをかけて作ったランチを用意した。そして少し高いワインを奮発した。
ピンポンとドアホンが鳴る。
てっきり彼女だと思い、目いっぱいの笑顔でドアを開けると、外に立っていたのは宅配の配達員だった。
「お届け物です」
段ボール箱が配達員の横の台車に積まれてある。
かなり大きな段ボールである。
送り主はインド在住であるらしかった。心当たりはないものの、あて先は間違いなく俺である。
配達員は重そうにダンボールを部屋に入れてくれた。サインをして、配達員が帰って行くと、しばらく大きな箱を眺めていたが、意を決して開封し始める。
驚いたことに中には器用に手足を折り曲げた男が入っていた。とても大人が入れるような大きさの箱ではない。全く動かないので、もしかしたら死んでいるのかと思ったが、男は折り曲げていた手足を水で戻したようにダンボールからむくりと起きあがったのである。俺はさらに驚いてその場にしりもちをついてしまった。
男の歳は俺と同じくらいだろうか… ターバンを頭に巻き、白い服を着ていた。
見るからにインド人のような風貌である。
「インド人ですか?」
訊ねると、男は日本語が分かるようだった。
「あなたの目にそう映るならそうですよ」
男は笑顔でそう答えると、右の掌を俺の額に軽く当てた。
何故か身動きが取れなくなった。
「交代です」
男の顔が不気味な笑顔に変わったかと思うと、ものすごい力で俺の身体を掴んできた。
抵抗したくても何故か体の自由がきかない。
男は俺の身体を無理やりに折り曲げる。体中の骨という骨がボキボキと音を立てて折れるのが分かった。俺の身体はコンパクトに折りたたまれて、段ボールの箱の中に収められた。
薄れゆく意識の中でドアホンが鳴っていた。
男が彼女を迎え入れた。
「あれ?ヒロシくんは?」俺の名前を読んでいる。
男は彼女の額に自分の掌を軽く当てながら言う。
「僕がヒロシじゃないか」
彼女の怪訝そうな顔も何故かすぐに笑顔に変わる。
「そう言われればそんな気もするわ」
やがて二人は楽しい時間を過ごし、俺はどこかに運ばれて行った。
夜、終電車を列の先頭で待っていた。
ホームには見慣れない列車が到着する。
あれ? こんな列車あったかな?
中に入ると、2列ずつの座席が前を向いている。長距離列車のようなレイアウトだ。
少し不思議に思うが、座席に座る。乗り込んできた客もみな首をかしげるような表情をしている。乗客はそれほど多くなく、立っている客はいなかった。
車掌の社内放送が流れる。
「この列車は急行です。このあと全ての駅を通過します」
え? どういうこと?
やがて安全バーが降りてきて、体が固定された。
ジェットコースターじゃあるまいし、何で安全バー?
バーはロックされており、手で上げようとしてもびくともしない。
「それでは発車します」
ドアが閉まり、列車はゆっくりと進み始める。窓の外に運転手と車掌が並んで立っているのが見えた。
誰が運転していのだろう?
しばらく進むと、列車はカタカタと音を立てて急こう配をゆっくりと上り始める。
まるでチェーンで引かれて勾配を登るジェットコースターのように…
列車はどこまでも上って行く。
な、なんなんだ、これは…
いつもの通勤列車とは明らかに違う。
街の夜景が遥かかなたの下界に広がっている。
信じられないほどの高さまで列車は上って行く。
ま、まさかこの高さから…
列車内はざわめき始めるが、安全バーが体を固定しているため、身動きはとれない。
列車は斜め姿勢から水平になったと思った次の瞬間、ものすごいスピードで下降して行く。
加速はさらに増していく。
加速力で胃袋を吐き出しそうなる。
たくさんの乗客が恐怖で大声を張り上げる。
列車はものすごいスピードでループを一周し、その先にはジャンプ台がある。
そこで線路は終わっている。
列車は猛スピードでジャンプ台から暗闇に放り出され、二度と戻ることはなかった。
テーマ『目の前のスイーツを買うか買わないか』
西武池袋駅構内にあるスイーツボックスにて
本心「この期間限定の濃厚チーズケーキ今日までなんだ」
邪心「欲しいものは買っちゃえよ、我慢するのはよくないよ」
本心「ここのチーズケーキ美味いよな」
良心「ちょっと待った! この前の人間ドックでコレステロール値高かったでしょ」
本心「そういえば標準値をかなり越えてたな」
邪心「あれ位どってことないって」
良心「甘いものもコレステロール値を上げると言われたよね」
本心「お土産に買って帰れば家族も喜ぶし…」
邪心「脂っこいものは食べてないし、少し位ならいいって」
良心「保健士さんからも甘いものは控えるように言われたでしょ」
本心「そうだよね、控えた方がいいよね」
邪心「水泳もやってるし、大丈夫だって!」
良心「だめだよ!今日間食にパン食べてるだろ!」
本心「そうだよね。わかった、やめるよ」
邪心「美味しそうなんだけどなあ」
良心「それでは、買わないという事で…」
本心「うん」
邪心「しょうがねえなあ…」
良心「あ、こ、こら!何をする! 買わないと決めたでしょ」
結局買ってしました。期間限定京都フレフレボンの濃厚チーズケーキ
レアチーズケーキの上に生クリームがのっていてコレステロールは多そうだけどメチャ美味しい!
彼女が亡くなった。
1週間前までは比較的元気だったのに、進行の早いがんだった。
とても悲しかった。彼女の死に顔はまるで生きているようだ。心から生き返ってほしいと願った。
彼女をあたかも生きているようにバーチャル化することはできないだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎった。
最初はその考えを否定したが、出来ないことはでないと考え始めた。幸い職業柄ITの知識はある。
まずは彼女のビジュアルをデータ化することだ。
交際中に撮影した写真は何枚もあるが、足りない体の部分を撮影する必要がある。
通夜のあと、葬祭場の霊安室で寝ている彼女の遺体の周りに誰もいなくなるのを見計らい、こっそりと体の写真を撮影する。あとで3D化する必要があるために角度を変えて何枚も撮影した。
彼女の葬儀が終わってからすぐに、彼は彼女をバーチャル化して蘇らせる作業に入った。
撮影した2Dデータを合成して3D化していく。
パソコンの中で、まるで生きているような本物そっくりの彼女のCGが出来上がった。様々な表情を彼女はする。静止画だけではなく、動くことも可能だ。
彼女のCGは彼のスマホと同期するように設定した。スマホの動画に彼女が映し出され、背景と合成された彼女の姿を見ることができる。
自撮り画像と合成して、彼女と一緒に映っている写真を撮ることも可能だ。
観光地でスマホをかざせば、合成された彼女が振り返って手を振ってくれる映像を見ることもできた。
週末は、バーチャルな彼女を連れて出かけるのが楽しみになった。
映像だけでなく、彼女との会話をしたいと思うようになった。
彼が考えたのは、メールでのやり取りである。
彼女の生前の様々な情報、OLであることや、趣味や食べ物や洋服の好みなど、膨大なデータを入力し、それを元にメールを発信したり、彼のメールに対し、きちんと返信してくれるソフトを作り上げた。
SNSのアカウントも作成した。彼女の元同僚がアップした画像に彼女の画像を合成して書き込みをしたり、彼とのデートの写真をアップしたり、知らない人が見れば、彼女は生きてそこに存在すると思う内容である。
実際に体に触れることはできなかったが、それ以外は彼女が生きているときと同じ状況をバーチャル上で作りだすことに成功したのだ。
しばらくは3D彼女との楽しい生活が続いた。バーチャルな彼女はリアルの時のようなケンカもないしわがままも言わない。考えてみれば理想的だった。
それからしばらくして、彼に新しい彼女ができた。
『ごめん、今日仕事で遅くなる』3D彼女にメールすると『仕事頑張ってね』優しいメールが返信されてくる。
だが、新しいリアル彼女は違う。3D彼女とのやりとりを浮気していると疑いだしたのだ。
ある日、彼のスマホをこっそり見てしまう。
リアルなやりとりと寸分違わぬ亡くなった彼女とのやりとりを見れば、現実の女と浮気していると判断しても仕方がない。
嫉妬に狂った彼女と言い争いになり、面倒だなと感じるようになった。
考えてみればこの彼女も3Dにしてしまえば嫉妬もしないし、面倒なことに悩まされないで済む。
彼はリアル彼女を殺害して、同じように3D化してしまう。
今、彼は二人のバーチャルな3D彼女と楽しく暮らしている。
もう、あと何人か3D彼女を増やしてもいいかとな考えている。
やくざ「ねえちゃん、もう金ねぇだろ、文無しは賭場にはいられねぇよ、けぇんな」
少女「どうしてもお金がいるの」
やくざ「だったら体でもかけるかい?」
少女「いいえ、これをかけるわ、このスマホの写真見て」
やくざ「なんだ?この鳥は」
少女「こっそり飼ってるのよ」
やくざ「こ、これはまさか・・・」
少女「そうよ、特別天然記念物のトキよ」
もちろん、こういう話ではありません。
この夏日テレでドラマ『時をかける少女』が放送されています。
過去、何度も映画化やドラマ化された筒井康隆の名作SF。
大林宣彦監督、原田知世主演の映画が一番気に入ってます。