残照日記

晩節を孤芳に生きる。

政治改革⑪

2011-07-06 18:49:58 | 日記
【松本復興相辞任劇】(7/6各紙「社説」拾遺)
∇【読売】≪松本復興相辞任 延命政権の限界を露呈した≫【東京】≪復興相辞任 政治の不全が極まった≫【毎日】≪松本復興相辞任 政権末期の限界を露呈≫【日経】≪政治不信どこまで増幅させるのか≫【朝日】≪菅政権―ああ、貧すれば鈍する≫──政府と地方自治体が一体となって本格的な復興を進めようという時に、こんな人物を指揮官に据えたことに無理があった。(読売、東京、毎日、朝日) 菅首相の任命責任は重い。(日経、読売、毎日、東京) 首相は即刻身を引く潮時だ。(東京、読売)

∇東日本大震災から100日余、就任早々の松本龍復興担当相が辞任した。引責理由は被災地の宮城、岩手両県知事への放言だ。彼の言語道断の発言には、被災地のみならず世間もたゞ唖然とするばかり。国会は6月に会期延長を決めてから、ずっと開店休業だった。政府は昨日第2次補正予算案を閣議決定した。そして約2週間ぶりに国会は今朝から質疑を再開した。今度こそ「任命責任」がどうの、「即刻退陣」がこうのは止しにして欲しい、と思っていたら、残念ながら開会早々、そこから始まった。テレビで国会中継を一寸見たが、バカバカしいので「節電」協力に切り換え、スイッチを切った。尚、新聞情報によれば、菅首相を引き降ろすには、北風のように激しく攻撃する「北風作戦」は逆効果のようだ、として、与野党共にイソップ物語の「北風と太陽」宜しく、「太陽作戦」にチェンジする動きがあるという。つまらぬ“菅降ろし”一点張りから、政策協議に重点を移すという意味なら大いに賛成だが、どうなることやら。首相が自主的に退陣するのはもう目に見えている。これ以上“窮鼠”を追い込む必要はないと思うのだが……。延長国会は8月末までしかない。

∇さて、前回、朝日新聞「声」欄に載った「永田提案」を紹介したが、その中に、≪大事なのは、国の指導者がリーダーシップを発揮できるよう、その評価の基準を定めることではないか。ポピュリズムに陥ることなく、現在のみならず将来にわたり本当に国民のためになると指導者が一身を顧みずに決断した時、それをリーダーシップとして評価することが必要と思う。≫とあった。「評価基準」という考え方は、流石に元量子生物学研究者だけのことはある名案だとは思う。問題は、国家元首のリーダーシップに、どのような「評価基準」を当てるかが難しい。彼らの「結果責任」をいつの時点、どのような指標を以て評価するのか。しかも、それには政権が仕事をするに最低必要な執務期間を与える必要があるだろう。そこで、「永田提案」を広義に解釈し、現在の日本のように、この4年間で5人も首相が代るような実態を制度上改善し、少なくとも一度選任されたら、余程のミスでもない限り任期一杯は政権に仕事を任せる、というルールがあれば、彼らはそれなりの実力で仕事を為し得るし、任期切れでの解散総選挙で民意を問うことで、その期間に於ける一定の評価が可能になる。未曾有の大震災に際して、僅か一ヶ月も経たないのに初動ミスだ、対策が後手後手だ、人災だ等々のみ責められ、遂には「内閣不信任案」「即時退陣」「任命責任」を突きつけられたのでは、どんな「天才政治家」だって失格印を押されてしまう。

∇最近、政治専門の論説委員や国内担当者よりも海外担当記者に優れた評論がある、と予告しておいた。先に朝日新聞論説委員や政治グループ委員の記事を非難した関係上、良い報告・提案も朝日から、という訳でヨーロッパ総局員の有田哲文氏、アメリカ総局伊藤宏氏、英国リーズ大学のティム・ヘペル講師にインタビューされた沢村亙記者の記事をもとに、英米の状況を取り上げてみよう。先ずは沢村氏が取材した英国事情。≪小選挙区、党首討論、マニフェスト。日本が「お手本」にしてきた英国では、過去30年間で最も短いブラウン前首相でも3年間務めた。──英国では党首、特に与党党首の交代が極めて難しい仕組みになっている。議会、選挙民、労組の3ブロックの投票で党首を選ぶ労働党の場合、新党首が決まるまで3ヶ月かかる。これほどの政治空白は、あまりにリスクが大きい。保守党では下院議員の過半数が党首不信任に賛成すれば党首を懐妊できる。だが、与党の場合、議員の70人以上が首相によって政府の要職に任命されており、造反は置きにくい。…そして政策面で党首・首相の権限は大きい。>と。即ち、党首選出に充分の時間をかけるので、そう簡単に首の据え替えができない仕組みと、政府の要職に与党議員の多数が任命され、造反しにくい体制が築かれている。トップリーダーへの裁量権付加も権限集中策の一つ、ということか。

∇有田総局員は次のように語る。≪キャメロン連立政権に対して支持3割、不支持5割が定着している。下院の補欠選挙でも与党の敗退が目立つ。それでも政権が方針をゆるめる気配はない。…政治家や識者に聞いて回ると、ぶれない理由は、指導者というよりも制度にある。二院制だが、選挙のない上院は権限が小さく、下院が圧倒的に強い。おまけに任期途中の解散が殆どない。日本のように参院との間で「ねじれ」ができたり、いつ解散があるかと右往左往したりすることはない。保守党・労働党の指定席になっている無風区が7割あり、有権者の怒りを無視できる議員も多い。英国は民主主義のふるさとだ。しかし、ここで感じるのは、民意を問う度合いというか、頻度というか、それが日本よりも低いのではないか、ということだ。英国の悪いところは抑え、いいところを取り入れられないか。≫と。賛成である。米国はどうか。伊藤氏の報告と提案は次の通り。≪米国は現在、ホワイトハウスと上院は民主党、下院は共和党が制する「ねじれ」状態だ。(日本との)一番の違いは何か。私は米国政治の方が「妥協の知恵」が豊富ではないかと感じている。党派対立が深刻なのは米国も同じだ。それでも、重要な課題には与野党から複数の法案が示され、党派を超えた投票がしばしば起きる。多数派形成のための法案修正は日常茶飯事だ≫と。法案を通すためには、“一本釣り”など屁の河童ということだ。

∇伊藤氏は更に続ける。≪米国では第2次大戦以降、分割政府が約6割、ホワイトハウスと両院の多数党が同じ「統一政府」が4割。ねじれに慣れているうえ、超党派の合意の方が制度が長持ちする、などの利点から、世論調査でも、むしろ分割政府を望む人の方が多く、大統領や野党が妥協しなければ、国民の支持を失う土壌がある。日本は多くの場合、政府・与党は法案を自分たちだけで作り、野党は丸ごと反対するから修正も難しい。重要法案で党の方針に反すれば懲罰。いきおい与党は連立組み合わせの「数あわせ」に走り、野党は「首相退陣か、解散か」と政局に持ち込む。政策による妥協の余地が少ない。大統領制と議院内閣制の違いもあれば、菅直人首相の指導力の問題もある。たゞ、大震災の復興に取り組むべき時に、与野党とも「首相の退陣時期」を論じるより、政策で建設的妥協をし、政権や野党が評価される経験を積重ねる方が、よほど意味がある。≫と。ウーム、蓋し名論なり、と感服する次第だ。──目に付いた外国担当記者たちの記事を一寸垣間見ただけで、日本の政治体制や議会のあり方の改善ヒントが満載だ。何故もっと各紙は彼等の情報を「社説」「論説」に取り入れて、日本の政治改革を訴求しないのか不思議なくらいである。菅首相の「即刻退陣」「任命責任」等々が政争課題で、それを助長するマスコミ・有識者ら。何だか日本政治が恥ずかしい。今日はこゝまで。

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