残照日記

晩節を孤芳に生きる。

前後際断の時

2010-12-28 08:25:50 | 日記

<独楽吟> (橘暁覧)
○たのしみは空暖かにうち晴れし春秋の日に出でありく時
○たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
○たのしみはそゞろ読みゆく書の中に我とひとしき人をみし時

<孟子が斉を去る時、随行の門人が道すがら孟子に尋ねた。「先生は先日来、どうも御機嫌斜めのご様子です。先生はかつてこう言っていられた『君子たる者は、どんなことがあっても天を怨まず、人を咎めぬものじゃ』と。どうもお言葉と矛盾しているように思われますが」。すると孟子曰く、「 彼も一時、此も一時なり(あの時はあの時、この時はこの時なのだ)」と。>(公孫丑下篇)

∇<彼も一時、此も一時なり>の解釈は諸説紛々であるが、ここでは、韓非子の<世異なれば則ち事異なる。事異なれば則ち備え変ず>の意にとって話を進めたい。更に言えば、道元禅師の「正法眼蔵」(現成公案)にある<生も一時の位なり。死も一時の位なり。たとえば、冬と春との如し。冬の春となると思わず、春の夏となるとは言わぬなり。>であり、<たき木(薪)灰となる。さらに返りてたき木となるべきにあらず。しかあるを、灰は後、薪は先と見取すべからず。しるべし、薪は薪の法位に住して、先あり後あり。前後ありといえども、前後際断せり。>の「前後際断」の重要性を言いたい。諸事を人為的に前後際断しよう、過去のしがらみを捨てよう、と。

∇今年ブレにブレて、崖っぷちに立ったまゝ年越しの公算が強い民主党政権だが、<菅直人首相は27日の党役員会で、小沢一郎元代表の国会招致問題に関し、「党の一体感もぎりぎりのところに来ている。いつまでも引きづると、モノを決められない党になってしまう」と述べて、衆院政治倫理審査会の議決による小沢氏招致への賛同を促した。>(産経新聞) 小沢一兵卒がそれでも従わぬ時は、小沢氏が強制起訴された段階で離党勧告を突きつける決意もしたようだ。鳩山前首相や小沢系議員が、「政権交代を成し遂げた功労者の一人である小沢氏に対し、証人喚問要求等をできるわけがない」などと寝ぼけたことを言っているが、小沢氏が功労者であったのも一時。現在、民主党デストロイヤー(破壊者)になりつゝある。これも一時である。

∇どうする? 民主党が分裂するならそれでもいい。“小沢切り”を断行すべし。多くの世論調査でも、7割以上の回答者がそう答えている。どうせこのまゝ放置するなら新年早々解散劇に追い込まれることは必定だからだ。来年こそつまらぬ政争をやめにして、国会が本来の政治課題を丁々発止する場に戻ってもらいたい。中国の三国時代、蜀の軍師・諸葛孔明は、重用していた臣下の馬謖(ばしょく)を泣いて斬罪に処した。馬謖が街亭という要所の山間の隘路を守るべく孔明の命を受けながら、自分勝手な判断で山の頂上に陣を張ったため、魏軍の名将・司馬仲達に周囲を囲まれ、蜀軍が水・兵糧を断たれて全滅したからだ。ましてや執行部命に従わず、己の保身のために現政権を批判している「元代表」を持ち上げる必要はサラ/\ない。──それにしても“歴史は繰り返す”ものだ。「海舟座談」に曰く、

∇<併(しか)し今度の内閣も、最早そろ/\評判が悪くなつて来たが、あれでは、内輪もめがして到底永くは続くまいよ。全体、肝腎の御大将たる大隈と板垣との性質が丸で違つて居る。板垣はあんな御人好し、大隈は、あゝ云ふ抜目のない人だもの、とても始終仲よくして居られるものか、早晩必ず喧嘩するに極つて居るよ。大隈でも板垣でも、民間に居た頃には、人のやつて居るのを冷評して、自分が出たらうまくやつてのけるなどゝと思つて居たであらうが、さあ引き渡されて見ると、存外さうは問屋が卸さないよ。所謂岡目八目で、他人の打つ手は批評が出来るが、さて自分で打つて見ると、なか/\傍で見て居た様には行かないものさ。> ごもっとも也。

∇<政治家も、理窟ばかり云ふやうになつては、いけない、徳川家康公は、理窟はいわなかつたが、それでも三百年続いたよ。それに、今の内閣は、僅か三十年の間に幾度代つたやら。全体、今の大臣等は、維新の風雨に養成せられたなどと大きな事をいふけれども、実際剣光砲火の下を潜つて、死生の間に出入して、心胆を練り上げた人は少ない。だから一国の危機に処して惑はず、外交の難局に当つて恐れないといふほどの大人物がないのだ。先輩の尻馬に乗つて、そして先輩も及ばないほどの富貴栄華を極めて、独りで天狗になるとは恐れ入つた次第だ。先輩が命がけで成就した仕事を譲り受けて、やれ伯爵だとか、侯爵だとかいふ様な事では仕方がない。世間の人には、もすこし大胆であつて貰ひたいものだ。政治家とか、何んとかいつても、実際骨のあるものは幾らもありはしない。>。──吉田松陰曰く、<大臣に貴ぶところは、才に非ず、学に非ず、たゞ大識見・大果断、大度量ありて、しかも国家の得失を憂うること、我家を憂うる如くなるにあり。>(「講孟余話」) もうひとつおまけに──

∇<男たる者、先ず“気”=気迫、気魂を養うことが一番大切だ。平時は虎のように猛々しく見える人も、いざという時になると鼠のように臆病になる者が多いが、そうあってはならない。 まして、チョロ/\流れる水のように、あっちへ付き、こっちへ付き、金権者に媚び諂うようであってはならない。常に歴史を読んで、古人の事跡を見るにつけ、“気”を持つことの重要さを痛感している。><古来、政治の中枢に居る者は、事を論ずるに当り、天下の大利害、生民の大休戚(休=喜び、戚=悲しみ。即ち、悲喜に関する事々)を以て本と為すべし。即ち、枝葉末節のことに走ってはならない。ましてや、或る地位にある一、二の人物を排撃する為の人身攻撃などに区々としているなどは、論外のことである。願わくば貴公にはそうあって欲しい!>(宋救国の宰相「李綱文集」某人への手紙) 今年は老生も色々あった。諸事を前後裁断して春風駘蕩、以て残照の中を悠々楽歩することにしたい。。

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