残照日記

晩節を孤芳に生きる。

危機情報

2011-04-24 20:45:45 | 日記

【群盲象を撫でる】(群盲象を評す)
《多くの盲人が象をなでて、自分の手に触れた部分だけで象について意見を言う意から》凡人は大人物・大事業の一部しか理解できないというたとえ。群盲象を撫(な)ず。群盲象を模す。
(朝日コトバンク)

∇昨日横道にそれて、そのまゝになてしまった、<巷間誰もが口にする“政府の情報公開が遅い”という指摘にしても、「危機時の情報公開のあり方」に関わる問題で、一概に遅かったと、評論家風に批判して片付く問題ではない>ということについて考えたい。元内閣官房副長官を務めた古川貞二郎氏が、宇野重規東大教授との紙上対談で、<政府や東電には隠そうという意識ではなく、まだよく分らない部分があり、質問に十分に答えられない中で、何かを隠しているのでは、と見られた面もあったのではないか>と言っていたが、宇野教授は「日本の政治文化」が背景にあるのではないか、と指摘した。どういうことか、というと、<米国のような国で重視されるのは、非難するかしないかを含め、個人がすべてを決定するという原則だ。(従って)政府の一番の役割は、まずは信頼のおける情報を示すこと。これが情報公開の発想の基本にある>と。一方日本はどうか。

∇<危機が発生したら、日本の政府は内部で政策を検討し、結論だけを出す。原発事故でも、住民を混乱なく移動させる見通しをつける前に危険だという情報を示すことはない。(これが)裏を反せば、情報伝達の遅れにつながる>と。確かにどちらがよいかは別にして、情報公開に対する日米対応の相違点を突いている気がする。日本の場合は、「政府が皆、面倒を見る方式」だ、と換言できる。政府が危険区域の住民の面倒を見るのだから、やたらに危険を煽ることもできないし、かといって、想定される危険はギリギリのところまで伝える必要もある。放射能等「危険な情報」の報じ方の常識的原則が、「不安を煽ってもよくないし、抑制しすぎてもよくない」のは事理当然である。外交問題、例えば先の尖閣諸島沖のビデオ流出問題にしても、「そのまゝ流して表沙汰にして日中関係を悪化させてはならないし、国民に事実を隠して処理するのもいけない」。何をどこまで、いつ、どのように伝えるか、を事前に政府・官僚・有識者でルール化しておく必要があると思う。

∇元NHK解説委員で科学ジャーナリストの小出五郎氏や早稲田大学院教授の瀬川至朗氏らは、この度の原発会見に対して、<官房長官が科学的な意味合いまで説明するのは無理があり、専門家とともに会見すべきだ。><わかりやすく説明できる科学公報・コミュニケーションの専門家が必要だが、こうした人材がいない。>と指摘している。(4/20朝日新聞) 確かにその通りで、会見場にしっかりした専門家を4、5人同席させることが必要だったかも。一番難しいのが恵泉女学園大武田徹教授が指摘する「立ち位置の二面性」ということだろう。曰く、<放射線が検出された農作物などの危険性を全面に打ち出せば風評被害を招き、その責任を問われかねない。逆に警鐘を鳴らすことなく放置し、将来、被害が拡大すれば不作為責任を問われる。──こうした情報をどう伝えるか。>と。 今後、米国のように個人の決断に任せるべきなのか、日本式の、ある程度までは政府が方針を決めて国民を誘導すべきなのか。そのどちらに寄るかにより情報公開の密度が異なることは事実であろうが、難しい問題である。

∇先月日本政府が、半径20キロ圏の避難指示、20から30キロ圏の屋内退避指示勧告令を出した際、米国は3月16日に“80キロ避難勧告”を出した。その日米両国の判断の違いが議論を呼んだが、< アメリカ政府が、福島第一原子力発電所の事故発生後、原発から半径80キロ以内に滞在するアメリカ人に対して避難勧告を出したことについて、アメリカの原子力規制委員会は、当時、得られる情報が限定的だったためとして、「2号機の燃料が完全に損傷した」という仮定に基づき判断を下していたことを明らかにした。>(4/9 NHK) 即ち、この時点で米国政府が、米国民に避難勧告を出すにあたっては、放射能の危険性の厳密な精度は不要で、できるだけ危険から遠ざかることを示唆するだけでよかった。日本が逆の立場だったら、米国同様必要以上の遠距離、場合によっては帰国命令を出したであろう。これをマスコミや野党政治家が日本政府の判断は甘いなどと追求していたが、論外である。

∇米国側の発表がなければ、政府は放射能の危険性を隠していると誤解されても仕方がない。当事国と非当事国の「立ち位置の二面性」がこゝには現前することを銘記すべきだ。次に、政府が福島第一原発の20キロ圏内を新たに「警戒区域」に指定、住民の立ち入りを制限することに決めた問題。合わせて、3キロ以外の住民の一時帰宅も条件付きで認めることになったが、住民側は<1世帯1人に絞り、持ち出し品は必要最小限。在宅時間は最大2時間><一時帰宅は、役所の用意したバスなどに分乗して帰宅すること。これ以外は自由に戻ることはできない。圏外者の立ち入りについてはもちろん厳禁、もしこれを無視して立ち入ると罰則規定が適用される>(枝野官房長官)では何もできない、と不満が続出だ。政府としては20キロ圏内住民の健康被害を考慮して苦肉の策を講じたのだが、この「住民の不満の声」のみに同調して、政府の政策が住民無視だとして非難する議員やマスコミには同調できない。“より長く自由帰宅できる”代案を用意して政府に進言すべきだろう。──放射能をめぐる各種情報はどのように提供されるべきか。衆知を結集して、早い段階で納得のいくルール化を目指してほしいものである。


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