残照日記

晩節を孤芳に生きる。

邯鄲の夢

2011-02-25 15:34:16 | 日記
<胡蝶の夢>(「荘子」斉物論篇)

昔者(むかし)荘周夢に胡蝶となる    
栩栩然として胡蝶なり      
自ら喩(楽)しみて志に適う   
周(荘子)たるを知らざるなり  
俄然として覚むれば、      
則ち虚虚然として周なり     
知らず、周の夢に胡蝶となるか、 
胡蝶の夢に周となるかを     
周と胡蝶とは、則ち必ず分あり  
これをこれ物化という
      
(春の日の真昼時、荘子うと/\まどろんだ/いつの間にやら、花から花へと舞い飛ぶ蝶に/ひら/\ひらり。あゝ愉快だ。自由自在だ/今は蝶。かつて荘子だったことを忘れて飛んでいる/──突然目が覚めた/「何だ、夢だったか」/あれ?俺が夢を見て蝶になったのかな/それとも蝶の俺が荘子になっているのか?/荘子と蝶には自ずから分限(相違)がある/物の変化(実態)とはこんなものなのかも

<関東地方で春一番、4月下旬並みポカポカ陽気──気象庁は25日、関東地方で「春一番」が吹いたと発表した。昨年の春一番も同じ日だった。同庁によると、千葉市で同日午前10時47分に最大瞬間風速17・0メートルを、横浜市ではその5分後に18・3メートルを観測した。関東地方は、南部を中心に南からの風が強まった影響で気温が上昇。東京・千代田区は、同日昼には20度となり、4月下旬並みの陽気となった。>(2/25 読売新聞)

∇春は眠くなる。猫は鼠を取るのを忘れ、人間は借金のあるのを忘れる。と、迄はいかないものの、ともかく「春眠暁を覚えず」の時節になってきた。

春眠不覚暁   春あけぼのの うすねむり
處處聞啼鳥   まくらにかよう 鳥の声
夜來風雨聲   風まじりなる 夜べの雨
花落知多少   花ちりけんか 庭もせに
(孟浩然「春暁」 土岐善麿訳)

∇中国唐の初期、邯鄲という町に一人の老人が昼飯の黄粱を炊いて休んでおった。そこへ虞という青年が野良着姿の汚い格好で馬を引いて立ち寄り、歎息して言うには、「あゝ、男として生まれてきながら、一生百姓で終わるとは」。老人それを聞いて穏やかに応えた。「あんたのように丈夫な身体を持った男が何を不幸ぞ」と。虞「いえいえ、世が世なれば私だって大将とか大臣になって、豪華で愉快に暮らせるものを」。老人はそうかそうかと頷いて側の袋から枕を取り出して青年に言った。「さあさ、これを枕にして寝てごらん。功名富貴意のままだ」。

∇青年はいつしかうとうとと眠入ってしまった。それからどうしたわけか、ともかく立派な邸宅に住む身になって、素封家の美人娘と結婚した。毎日不自由なく贅沢に暮らし、進士の試験には優等で合格して地方長官、知事へとトントン拍子で出世した。そして皇帝の命に従い、チベット軍を破り、勇躍して凱旋するやその名望は全土に聞こえた。ところが好事魔多し。大いなる功績を妬む輩共に中傷されて左遷の憂き目に遭った。悶々と過ごすこと三年余。時至り、誤解が解けて復た中央に返り咲いた。そして累々と実績を重ね、遂に宰相となった。実権を握ること十年。またしても同僚の讒言にあい、獄中の人に。

∇妻の懇願と周りの援助により皇帝の怒りを解き、再び大臣となり、位人臣を極めた。たくさんの子供達もその恩恵に浴し、九族一門栄えに栄えた。そうこうするうちに病に罹り、全土からあらゆる名薬が届けられたが効無く、息を引き取った。──とたんに目が覚めた。鼻にぷーんと黄粱の芳香。側には件の老人が座っている。虞「なんだ、夢だったのか」。老人笑って言うには「青年よ、よい夢を見たかね。人生とはこんなものだよ」。青年何か悟るところがあったとみえて、老人に深く謝してもと来た道を引き返していった。将に人生“邯鄲一炊の夢”。

春眠不覚暁   春眠暁を覚えず
處處聞啼鳥   處處啼鳥を聞く
夜來風雨聲   夜来風雨の聲
花落知多少   花落つる知る多少

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