残照日記

晩節を孤芳に生きる。

脇を固めよう

2010-12-14 09:23:59 | 日記
○人の悪しき事を見る時 我もまた
      かくやあらんと反り見よかし(源 成勝)
○かへりみて 心に恥じよ なす業の
      その言の葉に 露も似ぬ身を(読人不知)
○人多き 人の中にも 人ぞなき
      人となれ人 人となせ人  (読人不知)

∇菅直人首相が12日夜、都内で開かれた自身の後援会会合で、首相就任後の半年を振り返り、これまでは仮免許だったが、これからが本番で、自分の色を出していきたい、と語ったそうだ。メディアは一斉に<自らの政権運営を自動車運転の「仮免」に例えたような発言は今後、与野党の批判を招く可能性がある。>(12/13時事通信)と報じた。 案の定、現政権の失言・失策を虎視眈々と窺っている野党側に一刻も早い退陣を迫られ、釈明に負われている。会には地元の支持者など約500人が集まり、非公開で行われた。仲間内なので気が緩む。そこでの失言だ。柳田元法相の「悪しき」例があったばかりなのに。もううんざりだ、しっかりしろ、と檄を飛ばし、横っ面を殴打したいくらいだ。

∇首相や大臣クラスは、常にその言動が見張られている。気を抜いてはいけない。そんな当たり前のことを、何故自覚し意識できないのか不思議なくらいだ。ましてや前例のほとぼり冷めぬ間に“前車の轍を踏”んでしまうとは。──「詩経」に曰く、<戦戦競競として、深淵に臨むが如く、薄氷を履(ふ)むが如し>と。深い淵に臨めば落ちないか、薄い氷を踏む時には割れないかと恐れるように、首長・大臣たる者は常に身を慎まねばならない。易にも曰く、<いつ滅びるかも知れない、いつ滅びるかも知れないと弱い小枝につかまるように細心を以て事に当れ(否卦)><懼れて以て終始すれば、その要は咎めなし(繋辞下伝)>と。自らの言動を慎め、慎重にも慎重にも言葉を選べ。そしてしっかり脇固めを図ることも忘れるな!
 
∇権勢を握った者の「脇固め」は身内からである。かつて必読の書として為政者や企業のリーダーに頒布された「日暮硯」という名著がある。信州松代真田藩での財政再建物語である。主人公は末席家老だった恩田木工(おんだもく)。──時は宝暦五年(1755)、信州では千曲川、犀川の洪水にたびたび見舞われ、真田藩の領地は荒廃し、藩の財政が極度に窮乏した。藩主幸弘は末席家老であった恩田木工を藩財政建て直しのために抜擢した。勝手掛(勘定奉行)に就任した恩田木工は家族・召使・親族一同を集めて言った。「この度、勝手掛を仰せつかった。ついては女房は離縁、子供は勘当いたす。召使共には暇をとらす。どこにでも奉公いたせ」と。驚いた一同が訳を尋ねると木工はこう答えた。──

<今後この藩政改革の大役を果たすについては、何が何でも任務を完遂せなばならない。ついては先ず第一に、私は決して嘘はつかない覚悟を決めた。しかし、皆の者にそれを強要することはできない。されば身内の者が嘘をつくこともあり、私も世間から信用されなくなってしまう。その上、私は、普段は飯と汁以外はたとえ漬物でさえ食べないし、着るものとて、木綿以外のものは着ないつもりだ。だが皆の者はそうはいかないだろう。今までどおり、虚もつきたいだろうし、菜も食べたいだろう、木綿の着物ばかりではいやであろう。だから暇を出すのだ>と。

∇これを聞いた女房や子供たちは、必ずお言葉に従うので何卒離縁・勘当を解いて頂きたいと申し出た。木工はそれなら今迄通りにしようと言った。又、召使一同も嘘は言わず、どんな辛抱もするので今までどおり奉公させて頂きたいと懇願した。そこで木工は、そこまで誓ってくれるなら、自分に限って言えば千石の知行取りで、飯と汁とより他に食わぬし、木綿より他に着ないのだから、別段費用はかからぬ。お前達は家族を養う身であるから、金もいるだろう。給金は遣わすのでそう心得よと言った。召使共は非常に感動した。次いで木工は親類一同に義絶を申し渡した。彼らも嘘を言わず質素倹約を誓ったので、これまで通りとされた。<右の通り、江戸より帰国すると直ちに家内並びに自分の親類を最初堅められしは、前代未聞の賢人なり>と「日暮硯」の作者は語っている。政治家諸氏も見習って、先ずは自身・身内は当然、党内、そして後援会諸兄に至る一連の「脇固め」を強化すべきだろう。国事に専心することこそが本来の任務なのだから……。


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