10月26日、小泉進次郎衆議院議員らを中心とする自由民主党若手議員20人のグル-プが、雇用や社会保障に関する大胆な政策提言を行った。
社会保険を全非正規労働者に適用拡大した「勤労者皆社会保険制度」、低所得労働者の社会保険料本人負担の免除、在職老齢年金制度の廃止、軽微な疾患・医薬品への公的医療保険適用の見直し、年金支給年齢の引き上げなど、人々の多様な働き方にあわせて、社会保障制度でセーフティネットを張っていく意図はわかるし、それなりに賛成できる。
ただ、「健康ゴールド免許」と言うのが気に入らない。
2020年以降、高齢化の進展に加え、医療技術がますます高度化すると、医療介護費用が一層高額化していく。 医療介護制度の持続可能性を確保するためには、「病気になってから治療する」だけでなく、そもそも「病気にならないようにする」自助努力を支援していくと言う。医療介護費用の多くは、生活習慣病、がん、認知症への対応であり、これら は、普段から健康管理を徹底すれば、予防や進行の抑制が可能なものだと言う。 しかし、現行制度では、健康管理をやってきた方も、自己管理が悪くて生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられるのはおかしいという。今後は、健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けてもらう。そして、健康維持に取り組んできた者が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化すると言う。
優良ドライバ-に「ゴールド免許」が与えられるのと同じ発想であり、医療介護版の「ゴールド免許」である。これには批判が噴出した。フリーアナウンサー長谷川豊氏の透析患者に対する暴言が背景にあった。長谷川氏は、人工透析患者の相当な割合が自堕落な生活を続けたことが原因による自業自得の患者であるとし、さらには自業自得の透析患者の費用は全額自己負担にし、無理なら「殺せ」と主張したのである。
今回の「健康ゴ-ルド免許」構想は、病気になったのは自己責任と言う意味で長谷川氏の暴言と同じものである。 確かに予防は可能だが、健康な生活をしていても病気になる人はいるわけで、自己責任と決めつけるのは、むちゃくちゃな話である。
「予防に努力した人と努力しない人を分けて、医療費負担額に差をつける? それでは病気になった人への制裁ですよ」。「認知症の人と家族の会」代表理事の高見国生さん(73)は言う。
井手英策・慶応大教授(財政学)は「『中流』から転落しないようにと多くの人が必死になっている格差社会では、自己責任論が広がりやすい。そんな状況で努力した人・しない人と区別する政策は、社会のさらなる分断を招きかねない」と懸念する。
同じ食事、同じ生活でも、病気になる人もいればならない人もいる。自己管理ができないから病気になるわけではないのだ。確かに医療費削減のために健康管理は必要だという理屈は正しいのかもしれない。しかし、そもそもこの議論は国民の健康が目的なのではなく、医療費の削減と言うところに狙いがある。
本当に検診が増えて予防医療が盛んになれば、医療費は下がるのか?現在の健診は、健康意識の高い、相対的に豊かな層の中高齢者が、自身の健康を高めるツールとして利用している。健康リスクの高そうな人たちが未受診であるという現状は、もし健康診断の受診率を高めた場合にどういうことが起きるのか?受診、そして保健指導の実施により、これまで受診してこなかった人たちの医療サービス需要を高めることで、医療費が高まる可能性すらある。予防医療というのは、そもそも医療費の削減のためにあるのではなく、国民の健康の質を高めるためにあるのであって、そのために費用がかかっても、健康上のリターンがあるならば、実施する価値はある。ただし、費用の節減を期待して実施するなら、必ずしも期待に沿えるものではない。 慢性疾患の抑制は、医療費を削減するが、長寿化によって、生涯ベースでみた医療費は果たしてどこまで減るか疑問である。殆どの人は、医療費の大部分を終末期に使う場合が多いが、その時期が先にくるか、遅くになるか、という違いに過ぎないかもしれない。確かに長寿で死ぬと終末期医療費が少なくなるという可能性も否定できないが、ガンなど不治の病が早めに見つかった場合、延命治療だけがいたずらに長くなるという可能性もある。
要するに、「健康ゴールド免許」構想を、好意的に健康診断の促進策として捉えた場合でも、人々の健康の質は高まり、満足度は高まる可能性は高いが、医療費の節減効果として期待に沿えるかどうかはわからない。
さらに「健康ゴールド免許」構想の問題点は、インセンティブを高めるツールとして、患者の自己負担割合を使おうとする発想だ。民間保険の場合、患者の健康リスクに応じて変化するのは保険料率であり、自己負担割合ではない。そもそも、保険というのは、リスクに対して事前に加入者間でリスクシェアをするものであり、事後的に給付割合が変わってしまう保険などあり得ないのである。また、健康診断を受診しないのは、低学歴、低所得の人たちに見られる特徴で、「健康ゴ-ルド免許」は、所得の再分配の観点から、逆再分配をしようと言う危険な発想である。
誰も好き好んで病院に行くわけではなく、やむにやまれず行くのであり、あまり価格のことはかまっていられない。つまり、健康リスクの高い人たちに高い自己負担割合を課すというのは、彼らの医療支出をあげるということになる。
しかも、自己負担をあげることによって抑制できるかもしれない受診と、抑制できない受診がある。また、一時的に外来受診が抑制できても、その分、人々の健康状態が悪化し、結果として入院確率が高まるということになるかもしれない。このように、本来はきめ細やかな対応が必要とされる医療給付において、自己負担の増減でインセンティブをつけようとすること自体、弱者に冷たい施策である。
自分の命に係わることだから、インセンティブを与えなくても生活にゆとりのある人は自主的に健康管理をする。健康管理ができないのは生活に余裕のない人であり、一番医療保険を必要としているのに、あなたは努力していないから多く支払いなさいと国が言うのが正義なのか?平等なのか?
人間が生きる上での基盤となる医療や教育、衣食住を市場原理に委ねるから、格差がますます増幅され、貧困が世代間に受け継がれてしまう。頑張った分だけ報われることを否定するわけではないが、生きる上で基盤になる医療や教育、衣食住で格差が拡がるのは正義とは言えない。誰もが頑張れるよう、基盤を整えることが政治の役割だ。ホームレスであろうと金持ちであろうと、平等に医療を受けられる、それが医療の在り方だ。
高学歴、高所得者が多いと思われる組合健康保険や共済組合の受診率は70%を超えるが、国民健康保険では34.2%、特に大都市の国民健康保険では27.9%と言う。健康リスクの高い人ほど検診を受けない。生活の苦しい人は検診を受ける時間的・金銭的余裕すらないのである。
もう一度言う。医療の施策は国民の健康長寿が目的である。その施策によって医療費が増大し、逆効果になるかもしれない。医療費を削減したいなら、薬価、そして薬漬けの治療にこそメスを入れるべきであり、検診を高めることで医療費削減を期待すべきではない。
小泉進次郎氏は、自民党農林部会長を務めていて、全国の農家を巡っている。そして、「10年後の農業」のために大切なことは、「失われた持続可能な農業を取り戻すこと」と語る。日本のコメ農家の平均年齢は70歳を超え、跡継ぎがいない農家も多い。放置された田畑が急増している。
小泉氏は、「農家を増やす政策ではなく、農業経営者を増やす政策」を考えているという。家業としての農業を守るのではなく、「農業に就職できる環境を作りたい」ともいう。
手間暇かけて栽培する果物や米など、日本の農作物は世界的に評価が高い。目指すはオランダだ。面積も人口も九州と同じだが、農産物の輸出額は世界第2位である。
小泉氏は、「生産コストを下げ商品の付加価値をつけて、海外に輸出していく基盤を作っていくことが大事だ。人口減少を嘆くのではなく、イノベーションで解決する。人工知能(AI)の活用も重要だ。」
これまでのAIは、リンゴやイチゴ、トマトなどを認識できなかった。いまやAIは、この「認識」ができるようになった。つまり収穫作業、間引きや選果など、たいへんな労働作業をロボットに任せることが可能になるというのだ。農業が将来性のある産業になるというのだ。
農業改革は農協改革なしでは行えない。ひと口に農協といっても、地域の個別の農協(単位農協)のほか、事業ごとに県組織と全国組織がある。単位農協は、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合で、全国の数は679。農家に苗や肥料などを販売し、農業を指導し、農産物を市場に出荷するのが本来の役割だ。そのほか、貯金や共済保険も扱っている。
全国組織としては、単位農協の指導・監査を行う全国農業協同組合中央会(JA全中)、販売、購買など経済事業を手がけるJA全農、貯金事業の運用機関として農林中央金庫(農中)、共済保険事業では全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)などがある。農協改革を行う場合、地域の単位農協には政治的な集票力があるので手をつけにくい。そこで、全国組織がターゲットになる。もともと、農業は地域性がポイントであるので単位農協は重要だが、画一的な指導を行う全国組織が単位農協の自主性を阻害すれば、農協全体ひいては農民のためにもならないからだ。
農協改革を目指した改正農協法は、昨年8月に成立した。その柱は、JA全中の持つ強大な権限の源とされる、単位農協に対する監査・指導権の廃止だ。これは既に決着済みなので、JA全中は改革に前向きだ。残されたのはJA全農である。金融事業の全国組織である農中やJA共済連は、単位農協にとっても不可欠な存在であり、もはや金融事業なくして都市部の単位農協の存続は不可能なので、農中やJA共済連が改革の俎上に乗ることはない。
農業改革を主導する自民党の小泉進次郎農林部会長が正念場を迎えている。力を注いできた全国農業協同組合連合会(JA全農)などの抜本改革をめぐり、積極的な推進を求める政府の規制改革推進会議作業部会と、性急な改革を嫌う与党幹部との板挟みになっているのだ。合同会議は2時間を超え、45人の議員から「農協つぶしで地方創生に逆行する」などの批判が続出した。参院議員61人は「提言を絶対に認めることはできない」との決議も出した。
作業部会が会議前に示した提言案では、全農は1年以内に資材販売事業から撤退、貯金や貸し出しなど金融事業を行う地域農協を3年後をめどに半減-などの急進的な内容だった。だが、党内では農業票に支えられる地方議員を中心に、提言案への反発が強まり、21日の全国農業協同組合中央会(JA全中)が都内で開いた農業改革に関する緊急集会には、二階俊博幹事長も出席し言い切った。「自民が皆さんを裏切るようなことはありません」
自民党は7月の参院選で農業が盛んな改選数1の東北6県のうち5県で敗北。小泉氏は農業改革を訴えて東北にも応援に入ったが、結果は出せなかった。
自民党農林関係部会の幹部らは23日、政府の規制改革推進会議が提言した全国農業協同組合連合会(JA全農)など農協の急進的な改革案をほぼ白紙に戻す農協改革案の骨子をまとめた。3年後をめどに金融事業を行う農協を半減させるなどとした提言の内容は盛り込まず、従来通りJA全農に自己改革を促す。同会議が28日にもまとめる最終提言も同様の内容になる公算が大きく農協改革は事実上、失敗した。
TPPがやっと農業改革を推進するかに見えたが、これで元の木阿弥である。笑っちゃうね。
米大統領選はドナルド・トランプ氏が勝利したが、得票数ではヒラリー・クリントン氏が僅差で上回っている。にもかかわらず、トランプ氏が接戦を制したのは米国独特の「選挙人制度」が背景にある。各州に割り当てられた選挙人を選び、その選挙人が大統領を決める仕組みだ。大半の州は1票でも多く得票した候補がその州の選挙人を全て獲得する「勝者総取り方式」を採用するため、選挙人の獲得ではトランプ氏が289人とクリントン氏の218人を大きく上回っている。2000年の大統領選でも、得票数で上回ったゴア氏(民主党)に対し、大票田フロリダ州で537票差で選挙人を総取りしたブッシュ氏(共和党)が当選した。
EU離脱に続いて、また予想しない事態が起きた。まさかのトランプ大統領である。全米の出口調査によると、白人の55%、黒人の8%、ヒスパニック系の27%がトランプ氏に、白人の37%、黒人の87%、ヒスパニックの65%がクリントン氏に投票したという。
昔の良き時代に戻せというトランプはアメリカ孤立主義者で排外主義者。
「アメリカはアメリカの繁栄だけを考えていればよい。もっとアメリカを豊かにしよう。偉大なアメリカにしよう。アメリカ人の生活さえ良くなれば、あとは知ったことじゃない。」
世界の警察官を止め、アメリカが出てこなくなるなら、中国やロシアは大歓迎。意外と平和外交になるかもしれない。
日本との関係も、「なんで、オレたちがあいつらのことを命を懸けて護らなきゃいけないんだ。自分の身は自分で護れ。」ということになる。
「TPPもやめる。日本のクルマにも家電にも思い切り関税をかけてやる。アメリカだけ良ければいいんだ。」
白人の貧困層に受けたという。しかし、考えてみれば、クリントン大統領になっても議会は共和党が安定多数、重要な施策はまるっきり実現できなかったろう。オバマに始まる8年間の決められない政治が継続し、民主党がさらに信頼を失うのは明白だった。そう考えると、トランプになった方が4年後のアメリカには良いかもしれない。
保護貿易主義で白人困窮者を救えるのか。外に出て行った製造業を元に戻せるのか。白人の雇用を増やそうと思ったら、人種差別、またはニュ-ディ-ル政策のように公共投資を大規模にするしかない。最初の演説で減税と公共投資と言う相容れない政策を同時に実施することを明らかにした。
トランプは、市場に任せれば経済はうまく回るとアメリカが30年間にわたり主導してきた「グローバリズム」と「新自由主義」を、真っ向から否定した。その訴えがアメリカ国民の心をとらえた。格差の元凶はグローバリズムだ。一握りの富裕層だけが富み、中産階級が崩壊した。トランプが『中国が雇用を奪っている』『雇用を奪うTPPを止める』と自由貿易を批判すると、聴衆は拍手喝采し、熱狂した。これは“サンダース現象”にも通じる。サンダースも、新自由主義を否定し、TPPを『破滅的な協定だ』と批判して支持を集めた。
行き過ぎた新自由主義とグローバリズムが当のアメリカで限界に達しつつあることを今回の大統領選は示した。安い労働力を求めて企業が海外に進出したために雇用は減り、その一方、安い商品が海外から流入し、アメリカ製は競争力を失ってしまった。それにもかかわらず、安倍首相のTPP信仰は揺るぎないようだ。TPPはグロ-バリズムを進める政策だ。例外なき関税撤廃、自由貿易が大前提のTPPに参加したら、日本の産業と雇用が破壊される。世界の企業と戦って生き残れる企業が日本に多いと政治家も産業界も錯覚しているのか。日本が強い自動車産業だって、全メーカーが生き残れるはずがない。まず農業、林業、漁業は、外国産に太刀打ちできない。第1次産業が壊滅し、地方経済は成り立たなくなる。新自由主義とグローバリズムの本質は、一般国民を犠牲にしてグローバル企業を儲けさせることだ。世界的な大企業は潤うが、庶民には縁がない。だからアメリカも、産業界、特に金融業と製薬会社はTPPに賛成し、多くの国民が反対している。
日本製品が世界市場を席巻している時だったら、TPPのメリットがあったかもしれない。国際競争力が低下している今、参加するのは狂気の沙汰だ。「異次元の金融緩和」で経済対策に何十兆円もの税金をつぎ込んでもデフレはおさまらない。安い製品が入ってくるグロ-バル化を進めているのだから、当然だ。
日本のGDPの6割は個人消費。一部のグローバル企業を強くし、多少輸出を増やしたところで、景気が良くなるはずがない。
アメリカの代弁者として経済学者やエコノミストが、新自由主義、規制緩和、構造改革をはやし立てる。年功序列、終身雇用、系列といった日本型経営をアメリカ型に変えて日本は豊かになったのか?雇用が守られることなく、派遣労働者が増え、結婚、子育て、マイホーム取得と言った当たり前の人生設計を立てられなくなった。将来不安で消費も低迷する。
アメリカ大統領選でなぜ、「トランプ現象」や「サンダース現象」が起きたのか?まだアメリカほどの超格差社会になっていない日本はよく考える必要がある。
トランプ大統領誕生後、各地で反対デモが起きているのを見て、改めてアメリカの超格差社会はすさまじいと気づかされた。
金持ちの子弟しか、ハーバードには入れない。年間の授業料が7万ドルだという。アメリカのほとんどのエリート大学の授業料は高すぎて庶民は入れない。そして、エリート大学を出た者だけが投資銀行などで年収2000万~3000万からのスタートになると言う。
それ以外のアメリカ人は就職口がない。あるいは、大学を卒業してもアルバイトで食いつなぐ人生だ。格差がどうにもならないところまで拡がってしまっている。
今回の選挙戦で面白かったのはマスメディア、有力新聞が殆どクリントン支持を公表したにもかかわらず、国民はクリントンにそっぽを向いたことだ。ウォール・ストリートの代弁者のようなマスコミに国民が反逆したのは実に痛快だ。トランプは土建屋だから、実業は重んじるけど、金融業の大金持ちには増税するかもしれない。予測可能性が乏しい状況を市場が好むことはほとんどなく、トランプ氏は投資家にとっては悪夢だ。
バーニー・サンダースと部分的に通じるものもある。
バーニー・サンダースは社会主義的な方法、トランプは独裁的な方法で社会改革をやろうとしている。新自由主義やグロ-バル化が進めば、民主主義国家では国民が過激なチェンジを求めて意思表示を始める。そういう意味ではアメリカはとても健全な国だ。この4年間がアメリカでグロ-バリズムの転換点になることを祈りたい。少なくとも共和党の本質が露わになり、信頼を失うことを望みたい。
今回の米大統領民主党予備選で、バーニー・サンダース氏が善戦した。社会主義を打ち出し、驚くべき人気を得た異色の候補がもたらしたものは大きい。熱烈な支持者からの小口の寄付金だけに頼って圧倒的強さを誇るクリントン氏に食い下がるサンダース氏は、無党派層を動かした。ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、出口調査の結果、アラバマ、アーカンソー、マサチューセッツなどのいくつかの州では、サンダース氏を支持する有権者の45%は無党派であり、他の州でもサンダース氏に票を投じた人の3分の1が、無党派だとされている。民主党から出馬した理由はメディア報道を得るためだとサンダース氏は語っており、自らの主張を広めるために民主党を利用したとも言える。
TPPに反対したり、ウォール街を激しく攻撃することで、クリントン氏の政策を大きく、左寄りに変えることができた。若者を政治に引き付けた功績も大きい。サンダース氏は30歳以下の民主党有権者の76%という圧倒的な支持を受けていた。
サンダース氏の撤退にあたって、クリントン氏は、サンダ-ス氏の教育プランを自分の政策に採用し、健康保険制度に関する方針にも積極的に歩み寄る姿勢を見せた。一家の年収が12万5千ドルまでの家庭の子どもたち、つまりアメリカの8割以上の家庭が対象となる学費無料化政策や現在65歳以上が対象となっているメディケア(老人医療保険制度)の対象年齢を55歳にまで引き下げるプランはサンダ-ス氏の功績だ。さらにクリントン氏は、現在のオバマケアに代わり、年齢にかかわらず公的保険制度に加入させるという政策を掲げた。2008年の大統領選時に彼女が提唱した政策である。また、患者の医療費支払い能力にかかわらず初期医療が受けられるようにするため、全米各地の(低所得者層向け)地域医療センターへの400億ドルの拠出も約束した。大統領選に立候補するにあたり、クリントンは、賛成の立場を取っていた環太平洋経済協定(TPP)に対して、反対の立場を取っている。民主党の候補者選びの終盤戦でクリントンが重要政策に関して左寄りに方針転換を図らざるを得なくなったことは、彼女がサンダース陣営の草の根的な選挙運動に苦戦していたことを示している。共和党のライバルであるドナルド・トランプが無策であるが故に、クリントンは左寄りの政策を取ることができた。民主党が掲げる現在の政綱は、まるでサンダースのウェブサイトから写し取ったような内容になっているという。
1時間あたり15ドルの最低賃金の実現も含まれている。ウォールストリートの改革案として、大銀行の解体と、銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法の復活を提案している。刑事司法制度の改革としては、死刑制度の廃止、民営刑務所の廃止、警官の発砲に対する司法省による監査実施が挙げられている。さらに気候変動対策として、連邦議会に対し温暖化ガスの排出に税金を課し、すべての政策決定に際して気候変動問題を重要視することを求め、さらに、風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの支出を増やすよう提言している。
サンダ-スは民主党の政綱を大きく変えた。「我々は大きく前進した。ここまで支援してくれた全国の何百万もの人々、その多くは初めて関わってくれた人たちだが、その皆さんのおかげで民主党の歴史に残る最も革新的な政綱を作ることができた」と、その功績を支持者のおかげとする。
社会主義なんてアメリカ人には絶対に受け入れられない思想のはずなのだが、それが若者に受け入れられ、無視できなくなっている現実がある。先進国のほとんどがリーマン・ショックの後始末に追われており、大量に発生した低所得者層がツケを払わされている。その一方で、大企業や大銀行は合併を繰り返して巨大化、富は十分に蓄積されているのにトリクルダウンはいつまでたっても起きない。極右の台頭が先進国で目立ち、自分たちが得るべき権利と自由を取り戻すために、社会的弱者に拳を振り上げる。本当の敵は企業国家なはずなのに、新自由主義政策なはずなのに、移民や貧困層に汚い言葉を投げつける。2008年の金融危機で人々の暮しを台なしにした巨大銀行、一般市民には手の届かない高額な医薬品や保険制度で人々を苦しめる巨大な医療企業、そのような大企業の利害に操られる政府や議会……強欲な資本主義経済による不均衡な富の配分を正すしか資本主義の再生はないのに、その犠牲者にも本当の敵が見えない。
資本主義の矛盾が一番先に現れるのが米国なのかもしれない。そして今、経済格差や貧困問題と人種差別の暴力が同じ根を持つ資本主義経済の構造的暴力であることが理解されはじめた。人種差別を維持する経済構造そのものを変えるための具体策として、収入や雇用の格差解消策、教育や生活の質の向上など具体的な政策が民主党の政綱に盛り込まれた。
今回の大統領選が強欲資本主義の転換点になることを祈りたい。