8月の始め頃のお話です。
母からもらった山椒の木の芽は何に使われることもなくただ虫の棲みかとなっていた。
そんな山椒を緑茂るベランダガーデンとは反対側に置き疎ましく横目で見る。
ある日、自称2.0の視力が緑の葉から別な色の小さき玉を見つけた。
不確かではあるがでもはっきりと蝶の卵と確信。
見つけられた卵は2個。
それから疎ましかった山椒は愛すべき山椒へと変わり、
どの緑や花よりも朝一番に観察する物へと変わった。
数日後、卵は跡形もなく消え去り、
真珠色の卵からは想像もつかない幼虫が我が物顔で歩き始める。
ああ、やっぱり蝶だった。3匹もいる。
キアゲハかナミアゲハがあたしのベランダから飛び立っていく。
例え虫が嫌いといっても、生きとし生ける物みな同じ生命。
大事に育って頂かなくては。
見た目は気持ち悪いが観察してれば目も慣れてくる。
孵化して数日後、布団を干すのに邪魔だった山椒を室外機の上に置いた。
翌日、風を入れようと窓を開けたら、室外機前に土が飛び出し根も見えてる山椒があった。
呆然と立ち尽くす。何が起きたのか分からない。
ふとそんな呪縛から解き放たれ、
止められていた発条が外されて勢いよく飛び出すようにベランダへ。
鉢、土、山椒、隈なく捜したが幼虫の姿はどこにもなく。
置いてあった場所、倒れてた場所も捜したがどこにもいなかった。
山椒の枝葉ほぼ全滅。枝を処理しながらも捜したが・・・。
あたしの3幼虫ちゃんは旅立っていった。
大空ではなく、もっと大きなところへ。(多分)
山椒の木の芽がまた茂る頃、ここへ戻ってきてくれるだろうか。
きっとまた・・・。
だってあたしの心からはまだ飛び立ってないのだから。