アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

徳川家綱 伊達騒動編 三

2021-10-07 10:50:22 | 漫画


保科正之
「儂は兄君からこの衣を頂き、其方宗家を託されたのじゃ」
「もう、黙って甘やかす訳にはいかなくなりましたぞ!」
「勝手な行動は慎むように厳重に注意致します」

徳川家綱
「おおォ」
「叔父上殿」
「丁度良い所でお会い出来た」
「其方に承認いや承諾して貰いたい事が有るのじゃ」

保科正之
「んんゥ」
「何ですかな?」

徳川家綱
「あのな」
「井伊直孝殿の事は、爺も知っておるじゃろーが」
「井伊殿が武士の情けと申して、忠臣の殉死を防ごうとしておる
爺もその事は存じておるな!」

保科正之
「それは、聞き捨てならんぞ!」
「大政参与は出しゃばった行動をしておるな」

徳川家綱
「えェ」
「爺」
「何を申して居る」
「直孝殿は真っ当な事を申しておるぞ」
「余は感心したのじゃ」

保科正之
「上様!」「良く聞きなされ」
「例え大政参与とはいえ家臣が君主に願い要るなど
無礼千万!」
「大罪ですぞ!」

徳川家綱
「おい」「爺」
「そんなバカな話があるか!」
「儂は其方を見損なったぞ!」

保科正之
「ああァ」「情けない」
「儂は兄君に何とお詫びせねばならぬやら」
「上様!」
「上様は将軍ですぞ!」
「身を正し、勝手な振る舞いは絶対にしてはなりません」
「良いですね」

徳川家綱
「んんゥ」
「儂は、殉死の禁止令を出すことにしたのじゃ」
「爺は殉死の禁を承認すれば良い」

保科正之
「上様!」
「勝ってに御触れなど出してはなりません」
「何のために、儂ら家臣がおるのですか」
「良くお考え下さいませ」

徳川家綱
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「では、其方たちで殉死の禁止を定めてくれ」
「良いな」
「急いでするのじゃ」

保科正之
「残念じゃがダメじゃな」
「殉死の禁止などない」
「決まっておるのじゃ」

徳川家綱
「んんゥ」
「儂は直孝に約束したのじゃ」
「そのような意地悪を言わずに
素直になってもらえんかのォ」

保科正之
「上様!」
「そのことは、儂の一存でどうこうなる事ではないのじゃ」
「有力大名が集まり討議した結果なのじゃ」
「殉死は忠臣のかがみであると決定しておる」
「変更は許されん!」

徳川家綱
「あーァ」
「有力大名とは何方ですかな?」

保科正之
「一人ではないぞ」
「沢山の有力大名が集まり討議した結果じゃ」
「勝手な事を申すな!」

徳川家綱
「その中に論議巧者で駆け引きに長ける者がおるな!」

保科正之
「何を申しておる」
「皆、真剣に話し合い独善性など有るものか!」
「論議もまた、勝手な言動など許されてはおらんのじゃ」
「上様は、ご自分は勝手放題なのを捨て置き
有力大名を蔑ろになさるお気持ちですか」
「爺は情けないですぞ」
「これでは兄君に会す顔が無い」
「上様には、もっと素直になって欲しいのじゃ」
「爺の気持ちを察して貰えんかのォ」

徳川家綱
「では、教えてくれ」
「爺の言う有力大名は誰じゃ」
「全て教えるのじゃ」
「全員じゃぞ」

保科正之
「あのなァ」
「討議は色々な場所で行われて
参加する者もまちまちなのじゃぞ」
「いちいち確認など出来はせんぞ」

徳川家綱
「爺が分かる範囲で良いのじゃ」
「出来るだけ詳しく知りたい」
「頼んだぞ」

保科正之
「んんゥ もォうー」
「実はな、爺は討議には参加しておらん」
「だから、本当の事は良く分からん」

徳川家綱
「では、儂と共に討議に参加して頂きたい」
「爺の後ろ盾が欲しいのじゃ」

保科正之
「んんゥ」
「そのような事は将軍たる者のする事では無いぞ」
「ああ」
「このような不幸を何と言って兄君にお詫びしたらよいか
爺は悲しいぞ」

徳川家綱
「儂と一緒に討議に参加するのが不満か?」

保科正之
「上様!」
「何度同じことを申し上げれば分かって貰えるのですか!」
「将軍たるもの、上座で畏まっておることが肝要なのじゃ」
「勝手気ままな行動は許されません」
「爺は悲しいぞ」

徳川家綱
「おおォ」
「分かった、分かった。もう、よい」
「叔父上は悲しいのじゃな」
「無理にとは申さん」
「気が向いたら参戦してください」

保科正之
「まだ、そのような事を申しておる」
「爺をバカにしよってからに」
「上様!」
「このような事、兄君に何と言ってお詫び申し上げねば・・・・」

徳川家綱
「本当に、もうよいのじゃ」
「儂は、帥と喋っておると酷く疲れる」
「悪いが、もう止めにしておくれ」

保科正之
「また」
「また、そのような身勝手なことを申される」
「ああ」
「爺は悲しいぞ・・・」

徳川家綱
「済まぬのォ」
「儂は爺を悲しませておる」
「許しておくれ」



将軍家綱
「おい」
「お主ども」
「このような場所で何をしておる!」

一同
ーーーー畏まるーーーーー

酒井忠清
「上様!」
「上様は、このような場所に来てはなりません」

将軍家綱
「何故じゃ!」
「儂に聞かれては困る事か?」

松平信綱
「上様に隠し事は御座いません」
「忠清が申すは」
「上様が家臣の下に参るのではなく
我らが主君も下に参るのが忠義との事」
「誤解為さらぬようにお願い致します」

将軍家綱
「んんゥ」

「おい」
「首座!」

酒井忠清
「はい」
「上様!」

将軍家綱
「お主ではない!」
「老中首座伊豆守信綱じゃ!」

松平信綱
「上様」
「忠清は間違えておりません」
「首座は忠清が引き継いでおります」
「忠清が首座で御座います」

将軍家綱
「えェ」
「信綱・・・・」
「お主は隠居か?」

松平信綱
「いいえ」
「信綱は老中で御座いますが
統括は首座忠清殿が引き受けてくれました」
「上様が留守中では御座いましたが
幕府の政務が多忙を極めており
火急に対処する必要が御座いました
お許し下さい」

将軍家綱
「んんゥ」

「おおォ」
「其方は上野介じゃな」

吉良上野介
「はい」
「上様とは謁見が叶っております」
「その時、生まれが同年で日も近いと申されまして」
「感銘を受け、大変な名誉で御座いました」

将軍家綱
「綱吉がお主から貰った犬を喜んでおったぞ」
「気が利く奴じゃ」

吉良上野介
「はい」
「とても良い子犬を手に入れましたので
城への参入が叶いましたら
お譲り致そうと思っておりました」
「今回の婚礼の儀で城下町住まいで御座いましたので」
「良い機会に巡り合えたと思っております」

将軍家綱
「んんゥ」
「そうじゃのォ」
「あの者達が儂が居ると困るようじゃから
儂は退散するぞ」

阿部忠秋
「上様!」
「大概になさいませ!」
「その様にお疑いならば」
「此処で話を聞いておれば宜しいのです」

将軍家綱
「いゃ」
「そのように怒るではない」
「上野介殿がびっくりしておるではないか・・・」
「邪魔したな」

阿部忠秋
「上様!」
「もう」
「逃げてはなりません」
「これでは、上様を追い出したことに成ってしまうではありませんか!」

将軍家綱
「おいおい」
「今度は此処に居れか・・・」
「儂は如何すればよいのかのォー」

松平信綱
「大変な失礼をお詫び致します」
「いえ」
「此処に集まりしは
この上野介の婚礼に関しての打ち合わせで御座います」
「この打ち合わせに上様が列席とあれば
他の有力大名が嫉妬致します」
「それ程までに上様列席の意味が御座いますので
憂慮しておりました」
「お許し下さい」

将軍家綱
「ほォー」
「儂の婚礼と其方の婚礼じゃな」
「其方とは何やら深き縁がありそうじゃな」

吉良上野介
「勿体ないお言葉」
「感謝申し上げます」

松平信綱
「上野介よ」
「良いか」
「事情は分かっておるな」
「上様列席のこと他言は許しませんぞ」

吉良上野介
「はい」
「心得ております」

松平信綱
「では、出羽米沢藩主・上杉綱勝の妹・三姫を吉良上野介に
嫁がせることとする」
「異存は有るまいな!」

一同
「はい」
「御座いません」

「上様も承知して頂けますか?」

将軍家綱
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「承知もなにも
何やら良く分からんが」
「目出度き事じゃ」
「良き門出じゃ」
「のォ」
「上野介」

吉良上野介
「はい」
「上様」
「皆皆さま」
「感謝申し上げます」





家綱
「爺・・・」
「何故に、この様な匿われた部屋に・・・」

正之
「んゥ」
「人に話が漏れんようにな」

「なァ 家綱」
「お前は何を知りたがっておるのかな?」

家綱
「仮早稲米の事です」

正之
「そうか・・・」
「それでは、爺が教えてやるぞ」

「先代の兄君統治には三大老が絶大な権力を持っておったのじゃ
だからな、老中の松平信綱は大きな手柄は立てておったが
まだ弱い存在であった」

「三大老の中でも土井勝利は大きな権力を握っておった」

「土井勝利と勘定奉行は兄君と協力して
商家から幕府への資金を移す方法を考えておったのじゃ」
「それがお前の知っておる
大名が抱える百万貫に姿を変えた・・・・」

「では、松平信綱は何をしていたか?」
「お前は知っておるのかな」

家綱
「知りません・・・」

正之
「あの者は、一人で百万貫の借り入れを阻止しようとして
奮闘しておったぞ!」

「兄君は信綱の働きに感銘を受けて
土井勝利を失脚させ大老を退け
小姓組を編成したのじゃ」

家綱
「知りませんでした・・・・」

正之
「では、仮早稲米じゃ」
「今、大名どもは大きな借款で苦しんでおる」
「借金の返済は如何しておるのかな?」

家綱
「仮に徴収している米を借金のかたに取り上げていると・・」

正之
「しかしな、取り上げた米はいずれ金に換える必要があるのじゃ」
「だからな、大名は仮早稲米を買い戻しておる」
「心配はいらん」
「百姓が飢えることは無いぞ!」

家綱
「しかし、爺・・・」
「何か変じゃ」

正之
「確かに変じゃな」
「変なのじゃが、大きな問題は何も起きておらん」
「むしろ、幕府も諸大名も以前に増して知行地や小作人が増えておる」
「これは、借款で得た資金が水路や新田開発に流れ
生産力を持つ町方は更に貸し付けを増やしておる」
「借款で苦しんでおるのは借金で首が回らなくなっておる
大名や旗本じゃ」

家綱
「 しかしな 爺 」
「儂は佐倉領で百姓が苦しんでおるのを見て来たぞ」
「仮早稲米は返却されておらん!」

正之
「佐倉藩には特別な事情がある」
「兄君はお気に入りの大名に惜しみなく褒美をとらせておった」
「その中でも、佐倉藩の堀田正盛には多くの
褒美米があった」
「そして、その褒美米は何時の日か仮早稲米に姿を変えた」
「これは、兄君が崩御した時に正盛も殉死して
褒美米の約束が消滅したことが原因なのじゃ」
「しかしな、仮早稲米は返却されておる」
「何も心配はいらんぞ」
「安心しておれ」

家綱
「そうじゃ 爺!」
「殉死は禁止出来んのか!」

正之
「井伊直孝の事を心配しておるのじゃな」
「あの者の家来には儂が強く言い聞かせておる
殉死は無い」
「安心しておれ」

家綱
「では、殉死を禁止して貰えるのですね」

正之
「いや」
「まだ無理じゃ」
「じゃがな、堀田正盛や多くの殉死した忠臣嫡子の
願いが変われば、いずれ殉死は禁止される」
「時が解決するのじゃ」
「心配いたすな」





将軍家綱
「おい」
「爺」
「儂は爺組を作ることにした」

牧野親成
「はい」
「組で御座いますか」
「親成は何を御手伝い致しましょうか・・」

将軍家綱
「戦の準備じゃ!」
「爺組を精鋭として育て上げ合戦じゃ!」

牧野親成
「はい」
「戦の稽古で御座いますね」
「それでは、準備致します」

将軍家綱
「よし」
「土屋数直と久世広之を加えて精鋭部隊を作るのじゃ!」

牧野親成
「どれ程の規模に御座いますか?」

将軍家綱
「伊豆守信綱をケチョンケチョンに打ち負かす
強力な勢力を作れ!」

牧野親成
「・・・・・」

将軍家綱
「何じゃ」
「強力な部隊を編成せよ!」

牧野親成
「上様・・・」
「いったい、如何なる稽古で御座いますか?」

将軍家綱
「あのな」
「あの者が言うには
儂が家臣の下に行って論議しては為らんそうじゃ
家臣を呼びつけて申し付けよと言うておる」
「じゃがな、儂が一人で戦うには戦力不足であるから
爺組を編成して団結力で粉砕することにした」
「よいか!」
「儂の進退を賭けた大勝負じゃ」
「儂に続け!」

牧野親成
「はい」
「ところで、何を為さりたいのでしょうか?」

将軍家綱
「あのな
信綱には何か秘密があるのじゃ」
「儂は、貝のようになっておる
あの者の口から秘密を聞き出さねば為らんと思っておる」
「お主も興味があるじゃろォ」

牧野親成
「左様で御座いますか・・・」

将軍家綱
「これより、土屋数直と久世広之を加えて
綿密な作戦を作り決戦に挑む」
「お主は決死の覚悟で
今回の戦に臨むのだ!」
「よいか!」

牧野親成
「はい」
「親成には良く分かりませんが
上様は伊豆守様と論戦を交わしたいと申しておいでかな?」

将軍家綱
「バカ者!」
「真剣勝負じゃ」
「生死を賭けた大勝負じゃ」

牧野親成
「上様・・・・」
「もう少し爺にも分かるように
お話し下さい」
「上様は、いったい何を為さりたいのか
さっぱり分かりません・・・・・」



将軍家綱
「皆の者!」
「よくぞ、参った!」
「そこへ、ひかえておれ!」

ーーーー一同畏まるーーーーー

「よし、それではこれより
儂が一番槍をかって出る」
「其方たちは誰が応戦するのか決めよ!」

酒井忠清
「上様!」
「いったい、何を為さる御積りですか?」

将軍家綱
「よし」
「お主が首座じゃ」
「一番槍に応じよ!」

酒井忠清
「はい」

将軍家綱
「仮早稲米の秘密を明かせ!」

酒井忠清
「秘密は何も御座いません」

将軍家綱
「儂は仙台で言葉狩りが行われておることを
知っておるぞ!」
「秘密があるではないか!」
「嘘を申すな!」
「戯け者が!」

酒井忠清
「言葉狩りとは、如何様なものに御座いますか?」

牧野親成
「上様の申されておる言葉狩りとは
仮早稲米の話が仙台藩では禁止されている事でござる」

酒井忠清
「いえいえ」
「江戸市中では言葉狩りは
御座いません」
「戯け呼ばわりは
あんまりに御座います」

阿部忠秋
「忠清殿は老中になり日が浅う御座います」
「代わりに、忠秋が
お相手致します」

将軍家綱
「おおォ」
「忠秋殿か!」
「相手にとって不足はない」
「かかって参れ」

阿部忠秋
「上様!」
「上様が水戸に行かれたのは良しとして
何故!無断で!仙台に行ってしまったのか!」
「我らがどれ程心配し、混乱していたか
考えたことが御座いますか!」
「婚礼の儀に大きな支障が出て
朝廷に言い訳も出来ませんぞ」
「大失態ではありませんか!」

将軍家綱
「もう、そのように怒るではないぞ」
「お主にも謝ったと思ったが・・・」

「んんゥ」
「あのな」
「儂が奏者番に引き立てを命じておった堀田正信じゃが
姿が見えぬ」
「これは、如何いう事かな?」
「儂の命令が聞けぬのかな!」
「忠秋!」
「理由を申してみよ!」

阿部忠秋
「あの者は、無断で江戸を去り
佐倉に帰りました」
「この罪は重く堀田一族は皆、重罪で御座います」

将軍家綱
「ええーーーェ」
「何で!」
「何で勝手に帰ったの?」

「むむむむゥ」
「お前たちが正信をイジメたのじゃな」
「何も無いのに
勝手に無断で帰る訳が無いぞ!」

松平信綱
「上様!」

将軍家綱
「おおォ」
「遂に、首領様のお出ましじゃな!」
「お主!」
「正信をイジメたであろーォ」
「正直に白状しろ!」

松平信綱
「恐れながら申し上げます」
「上様が仙台に行くことを
水戸殿は知りませんでしたが」
「仙台に行くことは、何方かに申し付け下さいましたか?」
「まさか」
「黙って、内緒でお出かけ為されたのでは・・・・・」

将軍家綱
「えェ」
「あのな」
「そのような詮索はするな」
「儂は将軍じゃぞ」
「いちいち、家来の指図は受けん!」

松平信綱
「いいえ」
「これは、重要な事で御座います」
「堀田正盛殿は殉死した忠臣で御座います」
「そして、堀田正信殿は、その嫡男」

「更には」

将軍家綱
「おいおい」
「何を言い出す!」
「よせよせ」

「おい」
「親成の爺!」
「儂に加勢せい!」

牧野親成
「はいはい」
「皆の者」
「上様の仰せの通り致せ」
「上様の御命令じゃ」




家綱
「おい」
「思い出したぞ!」

久世広之
「・・・・・」
「はて?」

家綱
「爺は木内惣五郎を知っておるな!」
「あの時、惣五郎の申し出を受けながら
爺は何もしなかった」

久世広之
「はい」
「そのような事が御座いましたな・・・」

家綱
「爺は責任を感じておらんのか!」
「その後、佐倉の百姓が苦しんでおったぞ!」

久世広之
「では、そのことについて爺がお話し致しましょう」

「先代君家光様の申し入れで酒井忠勝様に大藩を預けられましたが
忠勝様は諸藩の模範となるべき態度で丁重にその褒美を
あえて受け取らなかった」
「先代君は堀田正盛を大政参与に引き立て
大藩に領地替えを考えておりましたが
忠勝様に遠慮して出来なかったのじゃ」
「そこで、どうしても褒美をしたかった先代君は
佐倉藩に有り余る程の褒美米を与えた」

「それから、先代君が崩御なされ、正盛様は殉死され
褒美米も無くなった」
「褒美米は佐倉の倉庫に保管されておる物では無く
市場で購入する物であるから
実際の褒美米は現物の米ではなくて約束の書簡なのじゃ」
「この手続きは仮早稲米に受け継がれた」
「仮早稲米も同様に佐倉の倉庫には無いのじゃ」
「仮早稲米は召喚状を受けて確認書を受理しなければ
手に入れることは出来ん」
「実際、この確認書にしてみても、ただの紙切れ」
「実際の米は市場で手に入れなければならん」
「じゃからな、確認書とは約束手形の写しのような意味しかないのじゃよ」
「幕府からの借金じゃな」

家綱
「さっぱり分からん???」

「儂は、何故、惣五郎殿の申し入れを受けながら
爺が何もしなかったのかと聞いておるのじゃ」

久世広之
「あっはははは」
「内緒じゃぞ」
「爺はその時、五千石の加増を受けておった」
「そして、その五千石を佐倉の倉庫に運び入れたのじゃ」
「そして、その後、百姓は安心しておったのじゃぞ」

家綱
「じゃけどな」
「その後、直ぐに百姓がひもじくなっておったぞ」
「変じゃろーが」

久世広之
「まっ」
「五千石だけじゃからのォ」
「それ以上はことは無理じゃ」

家綱
「確認書があればよかろーが!」

久世広之
「確認書は約束手形の写しじゃ」
「手形は幕府が一時的に持っておりが
それもまた、市場に出回っておる」
「手形も、米も市場をぐるぐると回って
動きまわっておるのじゃ」
「確認書があっても
肝心の米が買えなければ意味がないぞ
幕府の後ろ盾、信用がなければ
確認書はただの紙切れじゃ」
「確認書を持って市場の手形を取り戻して
手形を持って市場で米を手に入れるのじゃ」

家綱
「無駄な事をやっておるのじゃのォ」
「そのような無駄は止めにできんのか?」

久世広之
「これは、米券が始まりじゃからな」
「淀屋のような大きな問屋は
現金で米を売り買いしておらん」
「信用取引なんじゃ」

家綱
「んんゥ」
「大金を持って大量の米を売り買いするよりも
帳簿に記載して米券を使う方が便利じゃな」

久世広之
「はい」
「米を買うのに千両箱を用意するのは
大変ですぞ」

家綱
「しかしなァ」
「何で佐倉藩の百姓だけがひもじくなっておったのか
説明が出来ておらんぞ」

久世広之
「はい」
「やはり、それは褒美米が原因でしょうな」
「佐倉の百姓は褒美米を貰って分家を繰り返し
小作人が増えておりましたが
褒美米をあてにし過ぎて新田開発は遅れておりました」
「小作人が増えて知行米が減れば如何なりますかな?

家綱
「んんゥ」
「そうか・・・・」
「爺の申す通りじゃ」
「儂は何も知らんかったぞ・・・・」

久世広之
「最近、爺組についての話を聞いておるのじゃが」
「爺組とは何ですかな・・・・?」

家綱
「おおォ」
「そうじゃ!」
「儂はのォ」
「信綱が作った小姓衆に対抗して爺組を作ることにしたのじゃ」

久世広之
「ほぉ」
「対抗ですか?」

家綱
「いや」
「対抗ではない対決じゃ」
「信綱はな、爺のようには教えてはくれん・・・・」
「何か重大な秘密を隠しておるのじゃ!」

久世広之
「きっと、時期が来ればお話し下さると思いますぞ」
「焦らぬことじゃ」

家綱
「いや」
「今がその時期じゃ!」



徳川家綱
「どうも、不思議で仕方がない」
「儂が正しいと思って改善しようとしても
皆が反対するのじゃ」
「儂は将軍じゃぞ!」

土屋数直
「何を改善為さりたいのですか?」

徳川家綱
「あのなァ」
「儂は将軍じゃぞ!」
「じゃけどなァ」
「儂が御触れを出そうとしても
反対されるのじゃ!」
「それなのに、変な決まり事やら
祭事は勝手に決まっておる」
「無駄じゃとは思わんか!」

土屋数直
「かなり、鬱憤が溜まっておられるようですな」
「では、爺がお話し申し上げましょう」

徳川家綱
「おおゥ」
「爺も話を聞かせてくれるのか!」
「さあ、話せ!」

土屋数直
「上様は久世広之殿に佐倉藩の事を聞きましたね」

徳川家綱
「そうじゃ」
「広之はのォ
儂が聞くまで黙っておった」
「何も聞かれたくなかったようじゃ」

土屋数直
「実を言うと
爺も同感なのですぞ」
「口は災いの元と申します」
「しかし、広之殿だけに災いがあっては気の毒じゃ
儂も災いを被ることにしよう」

徳川家綱
「災いなど無い」
「安堵せよ」

土屋数直
「広之殿は佐倉藩の百姓の困窮は
褒美米が原因と申されたのではありませんか?」

徳川家綱
「そうじゃ」
「儂はそれで納得したのじゃ」
「何故、隠す必要がある!」

土屋数直
「実は、爺はも・・・・」
「褒美米が原因で佐倉藩の百姓が
怠慢になっていることを指摘したことがあったのですが・・・」
「前様は酷くお怒りになり」
「爺を政務から遠ざけられたのです」
「きっと、広之殿も同じ思いで
あったのでしょうな」

徳川家綱
「おおォ」
「何と言う事じゃ」
「済まぬ」
「知らぬ事とはいえ」
「大変な過ちじゃ」
「何故、父上はそのような愚かな過ちをなさるのか?」

土屋数直
「いえいえ」
「前様をそのように申しては為りません」
「褒美米は忠臣への感謝の気持ちでありましたから
好意を否定されたことが悲しかったので御座いましょう」

徳川家綱
「儂は、帥と広之に謝るぞ」
「そして、父を許してほしい」

土屋数直
「上様」
「左様な事はお止め下さいませ」
「爺は上様の家臣で御座います」

徳川家綱
「では、もしや」
「殉死に関しても同様の圧力がかかっておるのではあるまいか?」

土屋数直
「いいえ、いいえ」
「殉死は忠臣の証」
「同じ意味合いは御座いません」

徳川家綱
「帥が良いと言っても
儂の気が済まぬ」
「儂は帥を大政参与に格上げする事とするぞ!」

土屋数直
「有難き事と存じ上げますが、
いきなり大政参与は身分不相応で御座います」

徳川家綱
「なんじゃ、不満か?」

土屋数直
「上様!」
「堀田正盛様はいきなり大政参与に抜擢され
惜しみない褒美を受けておりました」
「佐倉藩の領民は褒美を我が事として喜び
毎日お祭り騒ぎ、仕事は後回し、
大勢の小作人も褒美米を頼りにして
まともに働こうとはせず
田畑は廃れておりました」
「同じ過ちとなりますぞ」

徳川家綱
「しかしなァ」
「お主は正盛と同じ過ちは犯さぬ」
「儂は信頼しておるぞ!」

土屋数直
「正盛様は城住まいで御座いました」
「領地に赴くことは御座いません」
「佐倉領民の依存心が招いた
悲劇なのです」
「正盛様に防ぐ手は御座いません」

徳川家綱
「そうか」
「無理にとは申さぬ」
「では」
「帥は何が望みじゃ!」
「申してみよ!」

土屋数直
「はい」
「爺は、上様に儒教を学んで欲しいと思っております」

徳川家綱
「えっ」
「嫌じゃ!」
「儂は、そのような教えは
よう分からん」
「だから、嫌じゃ」

土屋数直
「何を仰っております」
「これが爺の望みですぞ」
「上様! 明日とは言わず
今日からでも遅くはありません」
「さあ、学びの間に」

徳川家綱
「いや」
「いやいや」
「やはり、爺は大政参与になれ!」
「儂は、学びは嫌いじゃ!」

土屋数直
「残念ですが
爺は大政参与にはなれません」
「それよりも」
「上様の学びをお手伝い致しましょう」

徳川家綱
「ひィーー」
「嫌じゃ、嫌じゃ」

土屋数直
「上様!」
「お待ち下さい」
「いざ、学びの間に!」



酒井忠清
「上様は仙台に行っておった」

稲葉正則
「はい」

酒井忠清
「甲斐とは接触していたと思うか?」

稲葉正則
「いいえ」
「今、甲斐殿は江戸におりますぞ」

酒井忠清
「ほォ」
「何故であろうな?」

稲葉正則
「何やら、幕府からの指示待ちのようじゃ!」

酒井忠清
「ほォーォ」
「儂の指示でも待っておるのかのォ・・・・」

稲葉正則
「分かりません?」

酒井忠清
「今のところ、仙台藩のことは旨くはこんでおるが・・・」
「甲斐の目的は何じゃろーか?」

稲葉正則
「きっと、幕府の意図を探っておるのでしょう」

酒井忠清
「んんぅ」
「おい」
「甲斐を利用出来んか?」

稲葉正則
「如何様に?」

酒井忠清
「下手に動かれてもこまるでのォ・・・」
「泳がせておいて」
「様子見が良いか・・・・」

稲葉正則
「はい」
「では、あの者の動きを監視しておきましょう」

酒井忠清
「あっ そうじゃ」
「伊豆守様にも知らせるのじゃ」
「我らの計画を成功させるために
万全の態勢を整えなければならん」
「良いな!」

稲葉正則
「はい」
「承知致しました」



松平信綱
「甲斐殿」
「評定役、ご苦労で御座った」
「引き続き、協力をお願い致したい」

原田宗輔
「はい」
「こちらこそ、伊豆守様の御恩に感謝致しております」
「仙台藩本藩からの申し入れで御座いますが
仮早稲米の確認書をお願いしたいとの事・・・」
「如何致しましょうか?」

松平信綱
「おおォ」
「そうであったな」
「早急に準備しよう」
「あくまでも、これは確認書じゃ」
「借款は淀屋からであるから
誤解無き様にお願い致す」

原田宗輔
「はい」
「承知致しております」
「しかし、このように借金が積み重なると
恐ろしゅう御座いますが・・・・」
「いったい」
「何が起こっておるのか
全く見当も付きません」

松平信綱
「そのような事は心配無用じゃ」
「借款は仙台本藩によるもの
お主は恩恵だけ受けておれば良いのだ」

原田宗輔
「とは申されても・・・」
「何とも、気持ちの悪い思いで御座いまして・・・・」

松平信綱
「何が気になる?」

原田宗輔
「儂、甲斐への恩恵は幕府からの借金に他なりませんが
幕府は損をしてはおりませんか?」

松平信綱
「幕府は借金のかたに仮早稲米を貰って市場で売り出しておる」
「だからな、幕府は損失どころか大増収じゃ」
「しかしな」
「仙台本藩が破産すれば意味がないのじゃ
本藩が破産せぬ為には
仙台藩の一門の力を本藩に集め
仙台藩を大きく成長させる必要がある」
「如何じゃ!」
「お主は何をするべきか分かるか!」

原田宗輔
「そうで御座いましたか」
「なにやら、気持ちの悪い思いでありましたから」
「仙台本藩が権力を持つことは
甲斐にとっても願ったり叶ったりですので
気持ちよく協力することが出来ます」
「何卒、伊豆守様のお力を持って
仙台藩を御救い下さいませ」

松平信綱
「いやいや」
「こちらこそじゃな」
「本藩の躍進なければ
本藩に貸し付けておる借款は焦げ付き
幕府は大損じゃ」
「儂は、もう、お家のお取り潰しは御免じゃ」
「本藩は潰されぬよう
一門を吸収して成長せよ」

原田宗輔
「はい」
「ただ・・・」
「後見役の田村宗良殿が気が弱く
一門に対抗出来ません」
「如何致したら良かろうかと・・・・」

松平信綱
「ほォ」
「其方は田村宗良殿では不満かな?」

原田宗輔
「いえいえ」
「前から伊達宗勝殿を前面に立てたいと言われておりましたので・・・・」

松平信綱
「んんぅ」
「誰がその様な事を申しておる?」

原田宗輔
「はい」
「首座様の御意向だと・・・・」

松平信綱
「忠清殿か」
「んんゥ」
「儂は田村宗良殿で良いと思っておるぞ」
「本藩嫡子は赤子じゃが
もしもの折は
本藩を受け継ぐには
田村宗良殿でなければ
争いが起きよう」
「儂は、仙台藩にとって
最も良い方法を考えておる」
「田村宗良殿を引き立てておれ!」
「良いな!」

原田宗輔
「はい」
「しかし、首座様と意見が違っておりますと
具合が悪う御座います」
「ここは、伊豆守様より
首座様に
田村宗良殿を引き立てよと号令をお願いしたく・・・・」

松平信綱
「そうじゃな」
「酒井忠清には
そのように申し付けよう」
「田村宗良殿を支援して
仙台藩を一つに纏め
大きな権力とするのじゃ」
「良いな!」

原田宗輔
「はい」
「御心使い感謝申し上げます」
「これからも、
この甲斐を宜しくお願い致します」

松平信綱
「よいよい」
「お互いさまじゃ」
「其方の働きには感謝しておるぞ」

原田宗輔
「有難き幸せに御座います」




田村宗良
「いやいや」
「ご苦労で御座いましたな」
「幕府からの確認書がなければ
仙台藩は潰れてしまう」

原田宗輔
「はい」
「ご安心下さいませ」
「本藩が強ければ
幕府からの援助が途切れる心配は御座いません」

田村宗良
「しかしのォ、儂は恐ろしいのじゃ」

原田宗輔
「何ですかな?」

田村宗良
「あのあァ」
「色々あるぞ・・・」
「先ずは、借款が積み重なっておる」
「借金を返す当てがないのだ」

原田宗輔
「幕府が助けてくれます」
「ただ」
「・・・・・」
「条件が御座いますぞ!」

田村宗良
「おいおい」
「嫌じゃのォー」
「借金のかたに仮早稲米を取り上げられて
更に、何を取り上げるつもりじゃ!」

原田宗輔
「いいえ」
「奪われるのではありませんぞ」
「手に入れるのじゃ!」

田村宗良
「儂は、何も要らんぞ」
「借金が増えるだけじゃ」
「不要じゃ、要らん、要らん!」

原田宗輔
「いいえ」
「借金が増えることはありません」
「領地を増やすのです」

田村宗良
「一門が怒るぞ」
「儂は領地など要らん!」
「争い事は御免被る」
「不要じゃ、要らん、要らん!」

原田宗輔
「しかしのォ」
「奥山大学殿が
幕府の蔵入地であった黒川郡吉岡を貰い受け
知行高を6000石へ加増しておる」
「大学殿はお主の家臣ではないのか?」

田村宗良
「奥山大学は儂には関わりのない者じゃ」
「あ奴が勝手にやっておることじゃ」
「儂の知ったことでは無い」

原田宗輔
「んんゥ」
「あのなァ」
「幕府の蔵入地じゃぞ
幕府がな、お主に治めて欲しいと
思っておるのに
断るのは変じゃぞ」
「とりあえず
受け取っておけば良いではないか・・・」

田村宗良
「んんんゥーーーーー」
「嫌じゃけどなァ」
「受けねばならんのかなァ・・・」
「嫌じゃなァ」

原田宗輔
「では」
「後見役として田村宗良殿が
蔵入地を治めることを確認しましたぞ」

田村宗良
「ええェーーーー」
「勝手にきめるのかァ」
「儂は、奥山は苦手なんじゃ」
「儂はな、きっと奥山に殺される」
「あ奴は、恐ろしいぞ」

原田宗輔
「相談役の立花忠茂様が警護に当たっております」
「儂も、お主の味方じゃ」
「安心して治めなされ」

田村宗良
「んんゥ」
「あのなァ」
「勝手に儂を引き立てておるがなァ」
「儂は藩主になどなりたくないぞ!」
「争い事に巻き込まれるのは
まっぴら御免じゃ」

原田宗輔
「よいですかな・・・・」
「今、幕府に見放されれば
仙台藩はお取り潰しを免れませんぞ」
「幕府に大量の借金がある事を
お忘れに為らぬように」

田村宗良
「ああァ」
「やっぱり」
「借金をかたにしておるではないか!」
「早く、借金を返済せねば
夜も安心して眠れんわ・・・」

原田宗輔
「はい」
「ここは、この甲斐にお任せ下さい」
「借金返済は幕府が支援することを
約束しております」
「ただ、条件として」
「本藩が強くなることです」
「本藩が強く成らねば
知行米も上がらない」
「地行米が上がらなければ
借金も返せない」
「どうですかな」
「この、道理でござる」

田村宗良
「そうじゃのォ」
「お主の申す通りかも知れんのォ」
「早く、借金を返さねば
為らんからのォ」
「しかし」
「その役目は儂なのか?」
「そうじゃ!」
「大叔父の伊達宗勝殿も後見人じゃ」
「宗勝殿にお願いしては如何じゃ!」

原田宗輔
「いいえ」
「幕府の指示で御座いますぞ」
「幕府は其方を盛り立て、
仙台藩を豊かにするように、との事」
「責任逃れは出来ませんぞ」

田村宗良
「責任と言うがなァ」
「儂が借金を作った訳では無いぞ」
「ああァ」
「逃げ出したいなァ」

原田宗輔
「いいえ」
「逃げれませんな」



池田光政
「光政、上様との謁見が許されましたこと
感謝申し上げます」

将軍家綱
「おおォ 光政殿」
「丁度良いところで、お会い出来た」
「備前の地は豊かじゃと聞く」
「因幡は難儀であったのォ」

池田光政
「はい」
「領地替えで
我らは息を吹き返した思いに御座います」
「光政! 上様の恩は決して忘れません」

将軍家綱
「ああッ、そうじゃ」
「赤穂は武闘派であると聞いておるが
渡るのに揉め事が心配ではないか?」

池田光政
「はい」
「我らも心配しております故」
「遠回りでやり過ごしております」
「あらぬ事があっても困りますが故」

将軍家綱
「お主」
「そのように、近隣諸藩にも気遣っておるが
陸奥の国まで行くとなれば
大変じゃな」

池田光政
「いいえ」
「光政、近年では陸奥には行っておりません」

将軍家綱
「変じゃのォ」
「光政殿は仙台藩に赴き伊達綱宗殿に会っておると
思っておったが」
「違うのか?」

池田光政
「はい」
「光政、伊達綱宗殿には会っておりません」

将軍家綱
「んんゥ」
「じゃがなァ」
「お主は、連名で伊達綱宗殿の強制隠居を求めたと聞くが
会ってもおらん者を蟄居させたのか?」

池田光政
「いいえ、これには確かな証拠が御座います」
「また、いきなり隠居を求めたのでは御座いません」
「何度も、注意申し上げたのも聞かずの
遊興放蕩三昧で御座いましたので
仕方がなく、止むを得ず、心ならずの処置で
御座いました」

将軍家綱
「んんゥ」
「あのなァ」
「お主は、伊達綱宗殿が遊興放蕩三昧をしておるのを
実際には見ておらん筈じゃ」
「何を証拠にその様な事を言っておる」

池田光政
「はい」
「伊達綱宗殿の大叔父である伊達宗勝殿から直接の
ご報告で御座いました」

将軍家綱
「それだけでは
確かな証拠とは言えんぞ!」

池田光政
「しかし、この事は
幕府の知る事と承知しておりますが・・・・」

将軍家綱
「んんゥ」
「そうじゃな」
「いやな、お主を責めておるのでは無いぞ」
「儂はな真実を知りたいのじゃ」

「実はな、儂は内緒で仙台に行っておったのじゃ」

池田光政
「ええェ」
「上様が仙台に行っておられたので・・・・」

将軍家綱
「そうじゃ」
「内緒で行ったからな」
「根回し無しじゃ、だから仙台藩の実態が正確に分かる」

池田光政
「おおォ」
「では」
「伊達綱宗殿の遊興放蕩三昧は嘘で・・・・」

将軍家綱
「おそらく、嘘じゃ」

池田光政
「恐れながら・・・・」
「理由をお教え願えませんか?」

将軍家綱
「理由は簡単じゃ」
「今、仙台藩では言葉狩りが行われ
領民は皆、恐怖に震えておる」

池田光政
「言葉狩りで御座いますか?」

将軍家綱
「仙台藩では今、
伊達綱宗殿が遊興放蕩三昧であったの話は
言葉狩りの対象外になっておるが
伊達綱宗殿が立派な藩主であったとする
藩主の業績は厳しい制約をもって
取り締まれておるのじゃ」
「もし、藩主伊達綱宗殿を褒めるような
話をしておれば
その者は闇討ちに会う」
「よって」
「領民は口を噤んでおるのじゃ」

池田光政
「おおおォ」
「それが真であれば
儂は大変な過ちを犯した事となる」
「如何すれば良いのだ・・・・」

将軍家綱
「其方は、知らなかったでは済まぬな」
「しかし、お主は
伊達宗勝に騙され、
老中の命令に逆らう術がない」
「儂とて同じじゃ」
「如何じゃ」
「これから如何したらよいか」
「儂と一緒に考え行動しようではないか!」

池田光政
「はい」
「光政の罪を償いとう御座います」

将軍家綱
「そうじゃ、じゃがな」
「今は、仙台藩は落ち着いておる」
「だから、下手に動く事は謹んで欲しい」
「誰が何をするか?しようとしているか?」
「儂は良く観察してから行動する」
「お主も手伝ってくれるか?」

池田光正
「はい」
「微力で御座いますが
全力で上様に尽したいと思います」

将軍家綱
「左様か、帥は良き家臣じゃ」
「面倒を持ちかけたが
乗りかけた船じゃ
最後まで渡り切ろうぞ」

池田光政
「はい」
「仰せの通り
精進致します」

将軍家綱
「よしよし」



伊達宗勝
「なんじゃーおりゃー」
「儂を蔑ろじゃのォ」
「おんどりゃーが」

原田宗輔
「幕府は田村宗良を第一人者として押し立てておる」
「お主は、少し大人しゅうに静かにしとれや」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「忠清様は儂を押しておるぞ」
「儂の息子はな
忠清様の養女を妻にする手筈じゃ」
「おんどりゃーが!
どアホーが!」

原田宗輔
「儂に怒ってなァ・・・」
「これは、幕府の方針じゃ」
「忠清様も首座とはいえ老中新参でありますぞ」
「無理を言ってはなりませんな」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「あの田村宗良のひよっこ野郎がよォ
この伊達家の本藩を纏めることなど
できゃーせんぞ」
「アホんだらーがァ」

原田宗輔
「儂もその件は心配しておったがな」
「確固たる幕府の後ろ盾を得ることが出来た
心配は無用じゃ」
「幕府の指示であるからな」
「お主が出しゃばって
よけいな口出し、手出しをすれば
幕府からの援助は期待出来ん!」
「さすれば」
お家は断絶間違い無しじゃ」

伊達宗勝
「んんゥ」
「幕府の援助無しには
藩の財政は破綻するからのォー」
「しかし、酷い借金じゃ」
「この借金を全て伊達綱宗の遊興放蕩三昧の
せいにするのは無理じゃなァー」

原田宗輔
「綱宗が藩主であったのは、たかが二年間じゃ
何をしておっても作れる借款では無いからな・・・」
「幕府の力が無ければ我らは破滅じゃぞ」
「分かったら、
お主は大人しゅうにしておれ」
「田村宗良は幕府の言いなりじゃが
お主は喧しいからのォー」
「ちったァー反省せいや」
「宗良みたいにして
猫かぶりしてりゃー
幕府も安心して
お主にも声をかけてくるじゃろーよ」


伊達宗勝
「んんゥ」
「これじゃーな」
「何のために綱宗を追い出したのか分からんぞ」
「いっそのこと」
「宗良もやっちまては如何か?」

原田宗輔
「バカ言え!」
「そんな事をすりゃー」
「おめーの仕業が世に知れ渡り」
「ただじゃーおけなくなるんだぜ」
「大人しくしてろや」

伊達宗勝
「んんゥ」
「この借款が有る為に
幕府に頭が上がらねェーのか」

原田宗輔
「ところで」
「何だって、こんなに借金をしちまったんでェー」

伊達宗勝
「これはなァ」
「伊達政宗様の威光を高めるために
使っちまったのさ」

政宗を祀るため瑞鳳殿・瑞鳳寺を建立、寛永17年に白山神社の社殿を建てた。寛永20年に満福寺を創建慶安2年(1649年)に火災で焼失した孝勝寺を再建、翌慶安3年(1650年)には愛宕神社を建立、承応3年(1654年)には東照宮を6年かけて勧請・遷宮した(仙台東照宮)。承応4年(1655年)に仙台東照宮の祭礼 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

原田宗輔
「こりゃー凄い」
「借金も莫大になる訳じゃな」

伊達宗勝
「この膨大な借金を
伊達綱宗の遊興放蕩三昧のせいに
しようってんだからな」
「まァ」
「無理があらァー」

原田宗輔
「何だって、こんな事になっちまったんだ?」

伊達宗勝
「これもなァ」
「幕府の意向じゃ」
「幕府の浪費なんざ、もっと、ひでェーもんじゃぜ」
「こんなのァーかわいいもんじゃ」

原田宗輔
「ほォーォ」
「おめェーも結構
物知りじゃーねェーか」
「まァ」
「本藩はな」
「宗良に任せることじゃ」

伊達宗勝
「あああァ」
「おおィ」
「ふざけんじャーねェーぞ」

原田宗輔
「如何した・・・・」

伊達宗勝
「あの野郎じゃ」
「こん畜生がァー」
「あの、奥山大学じゃーァ」
「あ奴だけは許せん!」

原田宗輔
「何を言っておる!」
「奥山殿は幕府の傀儡じゃぞ」
「お主には太刀打ち出来んのが分からんのか!」

伊達宗勝
「おめェーも」
「奥山の回し者じゃな」
「出ていきやがれ!」
「二度と顔を出しやがると
承知しねェーぞ
こんにャーろーが」

原田宗輔
「おいおい」
「落ち着け!」
「奥山は気に入らんじゃろーがな
我慢じゃ、よいか」
「我慢せよ・・・」

伊達宗勝
「何を言ってやがる」
「いいから
早く出て行きやがれ!」
「奥山なんぞに
伊達家を乗っ取られてたまるか」
「お主は奥山の回し者じゃ」
「ふざけるな!」

原田宗輔
「おおォ・・・・」
「おい」
「変なまねをおこすなよ」

「んんゥ」
「如何しようもないのォ・・・・」
「儂は退散するぞ」
「よいか!」
「冷静になれよ・・・・」

伊達宗勝
「出ていきやがれ」
「儂は奥山は嫌れーじゃ」




奥山常辰
「おおぉ」
「兵部殿!」

伊達宗勝
「うぎャー」
「大学か・・」

奥山常辰
「兵部殿!残念であったのォ」
「後見人は田村宗良が第一人者となりましたぞ!」

伊達宗勝
「おい」
「そのように、大きな声を出すな!」
「無礼であろう・・・・」

奥山常辰
「いゃーわりィ、悪ィ」
「これは地声じゃ」
「許せ!」

伊達宗勝
「おい」
「お主が道の真ん中におると
儂は、横の溝に落ちそうじゃ」
「もっと隅に寄れ」

奥山常辰
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「肩やら鞘やらが当たっても
問題じゃ!」

伊達宗勝
「大学!」
「調子に乗るなよ」
「儂には老中首座忠清様が後ろ盾じゃ」

奥山常辰
「兵部殿!」
「そのような心配は無用じゃ」
「立花忠茂様のもとには、天下の伊豆守様がおられる」
「現に、立花様がお抱えの田村宗良が第一の後見人に指名されておる」
「新参者の忠清殿の出る幕ではないぞ!」

伊達宗勝
「あのなァ・・・」
「お主に仙台藩を委ねてはおらんぞ」
「儂は、藩主の後見ぞ!」
「見くびってもらっては困る」

奥山常辰
「おおォ」
「そうじやのォー」
「じゃがな」
「第一人者は田村宗良様じゃ」
「兵部殿!」
「後見を一人に絞っては如何じゃ」
「二人もおっては
問題じゃぞ!」

伊達宗勝
「おい!大学」
「大きな声を出すな」
「周りに聞こえるではないか・・・」

奥山常辰
「がっははは」
「わりィーな」
「地声じゃ」


伊達宗勝
「大学!」
「お主は何の目的で田村宗良に近づいておる」
「お主には藩主になる資格はないぞ」

奥山常辰
「儂はなァ、田村宗良殿が藩主となるのを助けておる」
「本藩を宗良殿に任せて
仙台藩を統合して大きくするのじゃ!」

伊達宗勝
「むむゥ」
「田村宗良に仙台藩を纏める事など出来はせん!」
「とんだ見当違いじゃな」

奥山常辰
「あのなァ」
「田村宗良には伊豆守様がついておるのじゃぞ!」
「幕府の命令ではないか!」
「兵部殿は上意に逆らうつもりかな!」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「忠清様は首座ですぞ」
「上意は言い過ぎじゃ」
「儂はな首座様のご加護にあるのじゃ!」

奥山常辰
「まッ」
「せいぜい、虚勢を張っておれ」
「ほら」
「刀の鞘が当たるぞ」
「もっと隅に避けてくれ!」

伊達宗勝
「お主こそ」
「避ければ良いじゃろーが」
「これ以上隅に行けば塀にぶつかるぞ」

奥山常辰
「儂とて、これ以上避ければ
溝に落ちるぞ」

伊達宗勝
「むむむゥ」

奥山常辰
「よいよい」
「ではな」
「儂が溝に入ってやる!」

伊達宗勝
「おィ」
「もうよい」
「儂が塀に張り付いてやる!」

奥山常辰
「いいや」
「兵部殿は道の真ん中を
お通りください」
「儂が溝に落ちて
おりますぞ!」

伊達宗勝
「おいおい」
「大きな声を出すな!」
「喧嘩しておると思われるではないか・・・・」

奥山常辰
「おおォー」
「地声じゃ!」
「許せ!」

伊達宗勝
「ううゥ」
「ふざけた奴じゃ」

奥山常辰
「兵部殿」
「何か申されましたかな?」

伊達宗勝
「もうよい・・・」

奥山常辰
「がッはははははーーー」

伊達宗勝
「アホめ・・・」

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