アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 側室大典侍の板挟み

2022-06-13 10:57:32 | 漫画
           赤穂事件 板挟み



浅野内匠頭
「大老が我らの力になりたいと申しておる」

惣右衛門 (原 元辰)
「そりゃそうじゃ!」
「我らは二度大火で
二度共に大老邸を守ったのじゃ」
「感謝されて当たり前じゃ!」

浅野内匠頭
「いや、いや」
「いやな」
「左様な事ではない」
「儂に直訴させたいのじゃ!」

惣右衛門
「何を直訴為さる?」

浅野内匠頭
「吉良の虐めを訴え出よとの事じゃ」

惣右衛門
「吉良の奴、我らの火消しを妨害した挙句に
責任転嫁してきおった」
「吉良を征伐するのですな!」

浅野内匠頭
「儂は、吉良に構うなと申しておるのぢゃ!」
「吉良は我らが太刀打ち出切る相手ではない」
「吉良を成敗など出来ん!」

惣右衛門
「では、何の手助けで御座る?」

浅野内匠頭
「大老殿は、吉良の虐めから
儂を守りたいと申しておる」

惣右衛門
「何で!」
「何で!お館様が虐められ
大老に守られねば為らんのぢゃ!」
「吉良如き
この儂が、打ち据えてご覧に入れますぞ!」

浅野内匠頭
「儂の申しておる意味が分からんのか!」
「儂はな
吉良には構わず
吉良の攻撃に対しては
大老殿の助けを得る事で対処したいのぢゃ!」

惣右衛門
「何故、大老に助けて貰わねばならん」
「お館様は、儂がお助け致す」
「お館様に危害を及ぼす者は
儂が打ち据えてご覧入れますぞ!」
「それで足りねば簀巻にしてやりますぞ!」

浅野内匠頭
「いや、いや」
「左様な乱暴は為らん」
「大老殿には光長殿と光圀殿がおられる」
「吉良とて、太刀打ち為らん」
「吉良を簀巻などにしてみろ
赤穂は御取り潰し
儂は、打ち首ぢゃ」
「無茶をしては為らん!」

惣右衛門
「内緒でやればよいのぢゃ!」
「見つからないように
警戒して実行する」
「儂に任せて下され!」

浅野内匠頭
「駄目ぢゃ!」
「吉良には構うな!」

惣右衛門
「んんゥ」
「儂は無念ぢゃ!」
「吉良に一泡吹かしてやりたい!」
「お館様は吉良如きに虐められても黙っておって
耐えられなくなれば、
大老に助けを求めるので御座いますか!」
「お館様は赤穂の誇り」
「吉良如きに虐められては為りません!」

浅野内匠頭
「儂も、好き好んで虐められておるのではない」
「大老が助け舟を出すと申されておるのじゃ」
「穏便に済ませるべきではないのか」
「吉良をやっつけても
何も解決などしない」
「状況は悪くなるばかり」
「穏便に済ませてくれ・・」

惣右衛門
「お館様は、武闘派の赤穂藩士を束ねるお方」
「其のお方が、犬の吉良如きを恐れては為りません!」
「吉良に虐められて泣いていては為りません!」
「吉良に虐められて
大老に助けてくれと泣き付いては為りません!」
「お館様が、吉良如きを恐れ
逃げ回っている姿は、嘆かわしい」
「儂は、情けない!」
「惨めじゃ!」

浅野内匠頭
「では、如何すればよいのぢゃ!」

惣右衛門
「決まっております」
「吉良を成敗致します!」


         赤穂事件 吉良家筆頭家老斎藤宮内



斎藤宮内(吉良家筆頭家老)
「惣右衛門が、赤穂五万石を敵に回し
陰湿なる虐めを繰り返す者共と言って、我らを罵り
我らを成敗すると、喚いております」

吉良上野介
「おおォ」
「それでは、我らは上杉十五万石ぢゃ」
「上杉十五万石で返り討ちすると言い返せ!」

斎藤宮内
「しかし、持ち前は六千石で御座る」

吉良上野介
「ぢゃからな
儂は、上野国を手に入れる」
「名門酒井家は我が手中にあるのだぞ」
「赤穂など恐るるに足らん」
「儂の、上様から信頼は
大老をも上回る」
「大老など儂の言いなりぢゃ!」

斎藤宮内
「真に御座るか?」

吉良上野介
「現に、大老は儂に恐れをなして
隠居願いを出して来た」
「光圀にせよ、大老井伊にせよ
光長にせよ、儂に恐れをなして逃げておるのぢゃ!」

斎藤宮内
「では、上杉を乗っ取ったので
次は酒井を乗っ取るのですな」

吉良上野介
「乗っ取るのは簡単ぢゃ」
「上野国は義周が貰い受ける」

斎藤宮内
「しかし、赤穂は武闘派揃いで御座る」
「余り挑発が過ぎれば、
あの者共が暴発しないかと心配になります」

吉良上野介
「上様は、長矩の穢れを恐れておられる」
「赤穂が我らに歯向かえば
赤穂は取り潰しとなる」
「上様も、赤穂の反乱を願っておられる」
「虐めは、上様の御命令」
「赤穂は、袋の鼠ぢゃ!」

斎藤宮内
「しかし、左様な危険を負わずとも
上様が直接に赤穂を処罰すれば良いのでは?」

吉良上野介
「何の罪で?」
「そもそも、上様は気紛れじゃからな
迂闊に処罰などしたら後から訂正されるぞ!」
「上様の行動やお考えは流動的じゃ」
「正反対の結論を出されたら
我らはお終いぢゃぞ」
「結果は赤穂に選ばせる事が最適なのぢゃ」

斎藤宮内
「左様で・・」
「しかし、大老は就任したばかりですが
もう、引退すると・・」
「大老を、如何様に脅したので御座る」

吉良上野介
「大老は犬千代を庇おうとしたのじゃが
犬千代は儂の調教が行き届いておるから
儂を信用しておる」
「赤穂の長矩犬は
儂を主人として崇めておるぞ」
「長矩は、儂の調教で良き犬となった」
「しかし、長矩は痘痕を作り穢れてしまった・・」
「例え良き犬であっても
穢れておれば上様に献上することは出来ない」
「儂はな、無念で残念なのじゃ」
「ただ、大学も良き犬となった」
「儂も上様も、弟の大学犬に期待しておる」

斎藤宮内
「やはり、上様に行動を促して
赤穂の長矩を直接処分させる事が得策だと・・」
「左様であれば、
我らが恨みを買う事も御座いません」

吉良上野介
「何度も申すな!」
「上様は、気紛れなのぢゃ!」
「赤穂は、儂の調教で操ることが出来る
恨みを買っても、たかがしれておる」
「心配は要らん」
「大老も匙を投げた」
「光圀は動かん」
「光長は、新居で孤立」
「赤穂は、返り討ちじゃ」
「心配要らん」

斎藤宮内
「・・・・・」
「もしも、赤穂が襲って来たら
如何致しますか?」

吉良上野介
「返り討ちぢゃ!」

斎藤宮内
「某は?」

吉良上野介
「其方は、逃げても良いぞ」
「儂も、逃げる」
「一緒に逃げよう!」
「逃げてもな
生きておれば巻き返しが為る」
「我らが赤穂に襲われたことが分かれば
上様の怒りが爆発する」
「そうなれば、赤穂は取り潰され改易ぢゃ」
「犬千代も打ち首となる」
「我らは逃げても生きておれば
巻き返しが出来る」
「逃げる事が肝要じゃ」

斎藤宮内
「やはり、赤穂は袋の鼠」
「如何転んでも
我らの手の平の上」
「我らの勝利」

吉良上野介
「左様」

斎藤宮内
「一つお教え下され」
「能の虐めとは、何で御座る?」

吉良上野介
「それは、上様の虐めじゃ」
「上様の得意技ぢゃ!」


            赤穂事件 翁



隆光
「寺社の再建により鬼も鵺(ぬえ)も封印されました」

将軍綱吉
「んんゥ」
「見事であった」
「褒めて使わす」

隆光
「お褒めいただきました事」
「栄春、有難き幸せに御座います」

将軍綱吉
「ところで、鬼や鵺は何処ぞに封印されておる」
「寺社に封印しておっては如来やら
菩薩ゆら観音やら大師が穢れはしないのか!」

隆光
「ご安心下さいませ」
「鬼や鵺は水戸に封印しております」
「光圀は寺社を壊しておりますので
水戸の地には観音ですら敬遠しております」
「鬼や鵺の恰好の住処となっております」

将軍綱吉
「おおォ」
「光圀は呪われておる」
「早く、光圀諸共退治しろ!」

隆光
「はい」
「光圀は、借款で首が回らず
大日本史編纂に多額の資金を注ぎ込んで
飢えた庶民を見殺しにしております」
「必ず、報いが御座います」
「必ずや、光圀は鬼や鵺の餌食になりましょう」

将軍綱吉
「んんゥ」
「失敗は許さん!」
「光圀を始末出来なければ
其方の首は飛ぶぞ」
「覚悟してかかれ」
「これが最後の好機じゃ」
「命を懸けて臨め!」

隆光
「お任せ下さいませ」
「なを、念の為」
「能の演目を変更する事が必要になるかと・・」

将軍綱吉
「翁と決めておる」
「儂は、不老不死の薬を手に入れたかったが叶わなかった」
「翁の演目は
儂の不老長寿の為に演じられる」
「今までの慣例として
正式な番組立の最初に演じるのじゃ」

隆光
「では、能の二番目物に鬼と鵺を仕手としては
如何でしょうか?」

将軍綱吉
「二番演目は負け戦の武士が仕手じゃ」
「負けを重ねても最後に勝てばよい」
「最初から勝っていては演目が興ざめする」

隆光
「三番目物では・・」

将軍綱吉
「三番目物は美人が仕手じゃ」

隆光
「四番では・・」

将軍綱吉
「四番目物は狂う女じゃ」

隆光
「鬼と鵺は最後ですか?」

将軍綱吉
「駄目か!」

隆光
「今回は、変更するのが宜しいかと・・」

将軍綱吉
「何で?」

隆光
「光圀に呪術を掛ける為に御座います」
「せめて、二番演目にしなければ
呪術が効きません」

将軍綱吉
「しかしなァ」
「いきなり変更すると演者が困るぞ!」
「脚本が出鱈目になるぞ!」
「物語のすじが通らねば
それこそ、興ざめじゃ・・」

隆光
「即興が必用で御座います」

将軍綱吉
「失敗したら?」

隆光
「演者の過ちです」



          赤穂事件 光圀の最後



浅野内匠頭
「お呼びで御座いますか・・」

吉良上野介
「おおゥ」
「赤穂殿!」
「良き知らせぢゃ!」
「光圀が死んだぞ!」

浅野内匠頭
「それは、それは」
「光圀は公方様の天敵で御座る」
「いよいよ、赤穂の上様御犬入りが叶います」

吉良上野介
「んんゥ」
「其方の痘痕もすっかり治った」
「上様も、其方の穢れを忘れたようじゃ」
「儂は、其方を献上することに決めた」
「天皇の下向は四月となる
それまでに、御犬の稽古をするのじゃ」
「確りと練習するのじゃぞ」
「御犬のお披露目は上様の念願ぢゃ!」

浅野内匠頭
「能の稽古は?」

吉良上野介
「小鼓観世家当主・観世新九郎父子が追放
観世流が排除され、別流派の宝生流が残ったが
上様の気紛れで流派は混乱しておる」
「よって、儂が指南役として
能の稽古もつける事になった」
「儂は、能も身に付けたのぢゃ!」

浅野内匠頭
「では、早速稽古に取り掛からねば・・」

吉良上野介
「よしよし」
「先ずは、狂女の稽古じゃ」
「其方は、女々しき顔立ち故
女形が良く似合う」
「狂女の役と台詞、そして曲を覚えろ」
「演技は、完璧にこなせ」
「上様は能には厳しいぞ」

浅野内匠頭
「はい」
「・・・・?」
「しかし、御犬の稽古は?」

吉良上野介
「御犬の稽古はない」
「御犬お披露目は、饗応の式典の後で四月末日の予定」
「能会が終わり、最後の余興でお披露目じゃ」
「御犬のお披露目は即興で御座る」

浅野内匠頭
「何をすれば宜しいので御座いますか?」

吉良上野介
「その場の雰囲気で変わる」
「上様は、気紛れじゃ」
「御犬のお披露目式は
今まで封印されてきた禁忌式典なのじゃぞ」
「光圀が死んだから解禁された」
「上様は、この御犬のお披露目を
何よりも楽しみにして待っておった」
「失敗は許されぬぞ!」

浅野内匠頭
「はい」
「・・・・しかし」
「何をしたら良いのか・・」
「不安で御座る・・」

吉良上野介
「儂が今まで教えて来た事を実践するのじゃ!」
「確りと、犬になり
犬として、上様に仕えるのぢゃ!」

浅野内匠頭
「はい」
「犬として忠犬として
上様に寵愛されたく思います」
「今までの指南を肝に銘じて
忠犬となり
御犬の式典に臨みたいと思います」

吉良上野介
「んんゥ」
「其方は、最初のお披露目犬じゃ」
「余興には上様がお招きした天皇も同席なされる」
「公家と幕府の重鎮が一堂に会する盛大な儀式なのだぞ」
「この儀式は、上様の念願であった」
「そして、上様の念願を叶えるのは赤穂殿ぢゃ!」

浅野内匠頭
「はい」
「必ずや、犬となり
上様の期待に応えたく
邁進していく所存」
「今までのご指導に感謝申し上げます」

吉良上野介
「よしよし」
「良き犬となった」
「忠犬、犬千代の誕生ぢゃ!」

浅野内匠頭
「はい」
「忠犬、犬千代に御座います」

吉良上野介
「では、先に狂女の舞を練習するぞ」
「其方は女形が良く似合う」
「赤穂の荒くれとは大違いじゃな」

浅野内匠頭
「はい」
「赤穂藩士は武闘派で御座る」
「某の弱さは、
あの者達には理解出来ません」

吉良上野介
「よいよい」
「弱くても良い」
「忠実なる犬であればよいのぢゃ!」
「儂の調教で良き忠犬となった」
「其方は、良き忠犬ぢゃ!」

浅野内匠頭
「有難き幸せに御座います」

吉良上野介
「んんぅ」
「儂が其方の飼い主じゃ」
「飼い主には逆らうなよ」


          赤穂事件 忠臣安兵衛



堀部安兵衛
「何だと!」
「お館様が犬になると申しておるのか!」

原惣右衛門元辰
「儂しゃァー情けねェーよ」
「犬にならぬように」
「お館様には何度も忠告したんぜすぜ!」
「吉良の陰謀ぢゃ!」
「吉良に騙されておる・・」

堀部安兵衛
「吉良がお館様を誑かしておるのか!」
「もっと強く止める事が出来んのか!」
「何故、自ら進んで犬になりたいと申す!」

原惣右衛門元辰
「何でも、次の饗応の余興で
下向の公卿を交えて慰みものになるそうぢゃ!」

堀部安兵衛
「何故、吉良を討たなかった!」
「吉良を野放しにしては為らんぞ!」
「今からでもよい、御止めしなければ!」

原惣右衛門元辰
「儂は、家老大石内蔵助殿にも忠告しておったのだぞ」
「お館様に忠義する事を確認したのぢゃ」
「儂は、殉死覚悟でお止めしたのぢゃぞ!」
「それが、あっさり裏切られた」
「お館様は、武士の誇りを失ったようぢゃ・・」

堀部安兵衛
「馬鹿を申すな」
「お館様の御考えを確認したのか?」

原惣右衛門元辰
「お館様は、弱いそうじゃ・・」
「儂らのように強くないから
吉良には逆らえぬと申された・・」

堀部安兵衛
「何で!左様な・・」
「儂らがお館様を守るのだ」
「お館様に、弱音を吐かせてはならぬ」
「赤穂の誇りを傷付けてはならぬ」

原惣右衛門元辰
「最近は、吉良と一緒に能の稽古をしておる」
「あれほど、虐められておったのが嘘のように
師匠と仰ぎ
教えを受けておる」
何とも、情けない・・」

堀部安兵衛
「吉良は、能も教えるのか?」

原惣右衛門元辰
「指南役は名ばかり」
「裏では色々と悪だくみを働いておる」
「お館様は、吉良に騙され
使い捨てにされる」
「赤穂に災難が訪れるぞ!」

堀部安兵衛
「んんゥ」
「何とかして、御止めせねば・・」

原惣右衛門元辰
「思いの外、吉良はしぶとくのさばっておる」
「お館様は、吉良には敵わぬと申して諦めておられる」

堀部安兵衛
「んんゥ」
「では、我ら藩士が集まって説得してみよう」
「吉良ごときの犬になっては
赤穂の面汚しとなる」
「お館様の不名誉は
赤穂の没落に繋がる」
「吉良は、断じて許さん!」

原惣右衛門元辰
「よし」
「藩士に号令するぞ!」

           赤穂事件 聖旨・院旨



その頃、吉良は幕府の命で上京していた。
 
吉良上野介
「今回の聖旨下賜には天皇のお招きを頂きたい」
「また、院使下賜には霊元上皇に直接下向賜りたい」

柳原 資廉 (公卿)
「慣例に従うのであれば
天皇、上皇が下向することはありゃません」
「慣例通り麻呂が天皇の聖旨下賜を持ち
江戸に下向する以外はごじゃりません」

吉良上野介
「今回の饗応は特別なのじゃ」
「是非、天皇・上皇にお越し頂きたい」

柳原 資廉
「無理でごじゃる」

吉良上野介
「饗応では能が披露されるぞ」
「上様が聖旨・院旨を受け
奉答儀式を厳かに執り行う」
「それからが、お楽しみの余興ぢゃぞ!」
「是非、天皇・上皇にお越し頂きたい」

柳原 資廉
「お楽しみでごじゃいますか?」

吉良上野介
「左様」
「能は前半のお楽しみ」
「余興は、今まで封印されていた秘密の儀式ぢゃぞ!」
「御馳走をとりながらの余興は格別で御座いますぞ!」
「今回の饗応は、豪華絢爛ぢゃぞ!」

柳原 資廉
「左様にごぢゃるか!」
「では」
「中御門資熙に働き掛けてみるかのォ」

吉良上野介
「いいや、宗子様になされ」

柳原 資廉
「左様にごぢゃるか?」
「しかし、天皇の御意志も確認せねば・・」

吉良上野介
「宗子様が決めれば宜しいのぢゃ」

柳原 資廉
「あのォ~」
「御楽しもの余興とは何をするのぢゃ」

吉良上野介
「御犬のお披露目ぢゃ!」

柳原 資廉
「御犬?」
「それが楽しいのか?」
「それが、豪華絢爛なのか?」
「天皇・上皇を招く意味はなんじゃ?」

吉良上野介
「将軍が封印されていたお遊びを解禁したのぢゃぞ」
「今までの鬱憤を晴らすために
盛大なる儀式が行われる」
「莫大なる資金が投入され
前代未聞の余興となる」
「見逃す手立ては御座らん」

柳原 資廉
「幕府は資金が豊富ぢゃのォ~」


          赤穂事件 林 鳳岡の懸念



林 鳳岡 (儒学者)
「光圀の死は
隆光の呪術によるものでは御座いません」
「光圀は因果応報で死んだので御座います」

将軍綱吉
「其方の兵法は駄目であった」
「隆光は儂との約束を果たして
光圀を呪術で誅殺したのだ!」
「其方の負けじゃぞ!」

林 鳳岡
「もしも、隆光が呪術で光圀を誅殺したとすれば
災いが跳ね返って参ります」
「お気を付け下さい」

将軍綱吉
「隆光も帥と同じ事を申しておった」
「其方が儂の身代わりとなり
死ね!」

林 鳳岡
「残念ですが、わたしは呪術使いでは御座いませんので
身代わりには成れません」
「もしも、災いが跳ね返ってくれば
天地を揺るがし、山が火を噴き
飢饉が蔓延して疫病が蔓延する大厄災が幕府に襲い掛かります」
 
将軍綱吉
「馬鹿を申すな」
「光圀一人に大袈裟ぢゃぞ」

林 鳳岡
「いいえ」
「光圀が引き起こすのでは御座いません」
「隆光です!」
「隆光の呪術は恐ろしい大災厄を引き起こす事になります」

将軍綱吉
「では、如何すればよいのじゃ?」

林 鳳岡
「 先の大老堀田正俊は公方様の教えを実行して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
代官等は率先して身を慎み、職務をよく理解し、年貢の収納に努め、下役に任せきりにせず、自らが先に立って職務に精励することが肝要である。
不正を正し、不埒な代官は一掃されたのです」
「 また、次の大老井伊直興は公方様の教えを踏まえて
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
為政者たる武士が民衆の姿を描いた絵を見て民の苦労を思い起こし、自らの政治姿勢を正すのを目的とした鑑戒画がしばしば描かれた。将軍自らが、帝王学の課題として鑑戒画を学んでいた。
民の苦労を思い起こし政治姿勢を正したので御座います」
「そして」
「今は、公方様の教えを実行する大老が不在で御座います」
「両名に勝るとも劣らない優秀なる者を起用為さる事が肝要」

将軍綱吉
「大老ならば柳沢が適任じゃぞ」

林 鳳岡
「左様で御座いますか・・」
「では」
「柳沢殿が身代わりとなれば、幕府を救う事が出来ます」

将軍綱吉
「柳沢を身代わりにしては為らん」
「他の方法を考えよ!」
「如何すれば良い?」

林 鳳岡
「では、御犬遊びを慎む事で御座る」

将軍綱吉
「御犬遊びは駄目か?」

林 鳳岡
「はい」
「御犬遊びは必ず因果応報を招き入れ
幕府はおろか天地が揺らぎ
山は火を噴き、飢饉と疫病が蔓延致します」

将軍綱吉
「大袈裟ぢゃな・・」


          赤穂事件 畳替え



浅野内匠頭
「白書院の畳を新しく交換する事をお許し下さい」

阿部 正武
「老中以下帝鑑の間に控えております故」
「畳替えは遠慮下され」

浅野内匠頭
「直ぐにとは申しませんので
都合の良い時をお教え下され」

阿部 正武
「んんゥ」
「あのなァ」
「白書院は公式の行事に使われるが
通常は、我ら老中の控室なんじゃ」
「いちいち畳替えなどせんでもよいではないか」
「今は、冬じゃぞ」
「寒くて敵わん」
「畳替えで
我らを中庭に追い出すつもりですかな・・」

浅野内匠頭
「では、畳替えの最中は
老中一同様は我らの柳の間にて
お寛ぎ下さいませ」

阿部 正武
「其方は、知らんのか!」
「江戸城の部屋割は変更出来んのじゃぞ」
「我ら譜代は帝鑑の間なんじゃ!」

浅野内匠頭
「では」
「畳を交換する間
江戸屋敷に一旦戻られては如何かと・・」

阿部 正武
「駄目じゃ!」
「白書院には大老格の柳沢殿が参る」
「我らが留守をする訳にはいかぬ」
「だからな、いかんぞ!」
「もっと、暖かい時期に畳替えをしておくれ」

浅野内匠頭
「しかし、饗応の準備で畳替えが必用で御座る」
「寒いで御座いましょうが
暫くの我慢も必要かと・・」

阿部 正武
「んんゥ」
「黒書院には中央に暖炉がある」
「年始の儀式は黒書院がよいと思うが・・」

浅野内匠頭
「黒書院の畳替えで御座いますか?」

阿部 正武
「左様」
「年始は黒書院にかぎる」
「なぁ」
「其方も、そう思わんか・・」

浅野内匠頭
「では、黒書院の畳替えのお許しを頂きたい」

阿部 正武
「んんゥ」
「柳沢殿に報告しておくから
暫く待っておれ」
「その間に大広間の畳替えをしては如何じゃ」

浅野内匠頭
「いえいえ」
「それは、為りません」
「書院の畳替えを先行する事が習え」
「先に、大広間に手を付けられません」

阿部 正武
「んんゥ」
「指南役の吉良殿は何と申しておる?」

浅野内匠頭
「はい」
「吉良殿は、只今、上京しております」

阿部 正武
「難儀じゃのォ」
「指南役が不在では
何も出来んぞ」

浅野内匠頭
「いいえ」
「某が代行致しますので
協力をお願い致します」

阿部 正武
「兎に角、書院の畳は傷んではおらんから
交換までする必要は無いぞ!」

浅野内匠頭
「左様で御座いますか・・?」
「しかし・・」

阿部 正武
「其方、書院と大広間の畳を全部交換するつもりか?」
「大広間で四百程あるか?」

浅野内匠頭
「はて、慣例では?」
「急がねば、饗応に間に合いません」

阿部 正武
「兎に角、吉良に相談してくれ」


       赤穂事件 高家指南役 畠山 基玄



畠山 基玄 (高家指南役)
「何故、畳替えを拒否為さる」

阿部 正武
「白書院は老中と柳沢殿の綱渡しの場」
「畳替えは暖かき時期にすることが決まりに御座る」
「上様も同意為されておる」

畠山 基玄
「いやいや」
「今回は特別ぢゃぞ」
「年始から畳替えが必用なのぢゃ!」

阿部 正武
「如何に特別なのぢゃ!」
「慣例では、い草の収穫期に畳を交換する事になっておるぞ」

畠山 基玄
「んんゥ」
「しかしなァ」
「仙台殿は黒書院の畳替えを始めておるぞ」

阿部 正武
「おおォ」
「それは良い」
「今回の饗応は
黒書院で済ませるべきぢゃ!」
「幕府の財政は逼迫しておる」
「無駄な出費は省きたいのじゃ」

畠山 基玄
「勅使饗応役の赤穂殿と仙台殿が負担するのが慣例であるから
幕府の負担は少ない筈じゃ」

阿部 正武
「諸藩で飢饉が起こり
幕府の援助も限界に達したおる」
「それから、儂、個人も困っておるのじゃ」
「江戸市中の捨て子が減ったと喜んでおるが
全て、儂が面倒を見ておるのじゃぞ」
「難儀じゃ」
「其方も、捨て子の面倒を見てくれ!」

畠山 基玄
「それは、お家の伝統で御座いましょう」
「捨て子の面倒を見るのは伝統になっておる」
「某には、無理で御座る」

阿部 正武
「しかし、仙台でも飢饉が起こっておるというに
饗応役で多額の出費をすれば
状況は悪化するであろうに・・」
「仙台殿は如何するつもりじゃ・・」

畠山 基玄
「仙台殿は赤穂殿に対抗意識を強く持っておりますから
金に糸目は付けませんぞ」
「そのために、領民を苦しませておる・・」
「しかしな」
「儂は、口出しが過ぎて上様からお叱りを受けた身じゃ」
「吉良殿が全てを決めておる」
「儂には何も権限がないのじゃ」
「難儀じゃぞ・・」

阿部 正武
「吉良殿は上京して留守じゃ」
「代行は赤穂殿が引き受けておるという」
「しかし」
「高家指南役が代行するのが筋だと思うが・・」

畠山 基玄
「あっはは」
「儂は、上様から嫌われておる」
「お目通りも叶わぬ」
「上様の御意志が分からねば
指南など出来はせんぞ・・」

阿部 正武
「しかし」
「指南役が指南が出来ぬのに
赤穂殿に代行させるのは如何なものか・・」

畠山 基玄
「だから、其方の協力が必要なのじゃ」
「今回は、白書院の畳替えの許しを与える必要が御座る」
「急がねば、畳替えが間に合わぬぞ」
「い草の収穫期は夏なのに
冬に畳替えをするのじゃぞ」
「急がねば間に合わぬぞ!」

阿部 正武
「んんゥ」
「やはり、吉良殿が帰ってから決めたい」
「幕府は財政難じゃ」

畠山 基玄
「仙台殿は畳替えを許され
赤穂殿は足止めにされておる」
「仙台殿と赤穂殿は絶縁関係にあるのじゃぞ」
「赤穂殿を困らせたいのか!」

阿部 正武
「あっはは」
「全て、吉良殿の指図じゃ」
「吉良殿は、老中に号令して
赤穂を虐めるように仕向けておるのだ」

畠山 基玄
「ちょと、お待ち下され」
「吉良殿が赤穂を虐めろと・・」
「今回の饗応が失敗すれば
吉良殿の責任問題じゃぞ」
「自分で自らの首を絞めておる」
「解せぬ!」

阿部 正武
「其方には、分からぬのか・・」
「だから、其方は上様から嫌われたのじゃぞ」
「だから、吉良殿は上様から寵愛を受けておるのじゃ」
「今、吉良殿に逆らえる者は誰もおらん」
「大老格の柳沢殿も吉良殿に逆らう事は出来ん」
「全ての決まり事は吉良殿に託されておる」

畠山 基玄
「何故、赤穂殿を虐める必要が御座る?」

阿部 正武
「儂は、虐めたくはない」
「ただ、吉良殿の指示に従っておるだけじゃ・・」
「指示に逆らえば
たとえ老中でも失脚する羽目になる」
「実際、最近の大老は三代続けて失脚しておる」

畠山 基玄
「それは、吉良殿の責任ではないと・・」

阿部 正武
「其方は、知らんのか」
「だから、其方は上様から敬遠されたのじゃぞ・・」


        赤穂事件 小石君 の戒め



鷹司 信子
「大層な喜び方でありゃんす事」
「はたして、嬉しい事で御座いますか?」

将軍綱吉
「なァ・」
「何を怒っておるのじゃ」
「儂は、嬉しそうにしておるのか?」

鷹司 信子
「光圀殿は其方を将軍に推薦して下さったお方でありんす」
「そのお方を始末するなどと・・」
「なんという、非道じゃ・・」

将軍綱吉
「やはり、怒っておる・・」
「なァ」
「機嫌を直せ」
「お前が怒ると
大奥が混乱する」
「儂は、居場所がなくなるぞ・・」

鷹司 信子
「白書院に行って
政を為され!」

将軍綱吉
「あそこはなァ」
「寒い」
「そしてなァ」
「老中の溜まり場じゃぞ」
「連絡役は柳沢に頼んでおる」
「儂は、黒書院で囲炉裏にあたっておる方がよい」
「其方も、黒書院に参れ」

鷹司 信子
「貴方様は天皇、上皇様を
江戸に下向させようと
為さりましてありゃんすか!」

将軍綱吉
「えェ・」
「誰から聞いたのか!」
「駄目か?」

鷹司 信子
「天皇、上皇様は将軍に権力を与えなさるお方」
「先ずは、敬意を表す事でありゃんす」
「権威ある天皇、上皇様を
下向させるなど以ての外」
「先ずは、貴方様が
上京して、ご挨拶為さいませ!」

将軍綱吉
「儂が、上京するのか?」

鷹司 信子
「上京が出来ぬのでありゃんすば
下向はお改め下さいませ」

将軍綱吉
「なのなァ」
「儂は、将軍じゃぞ」
「何で、儂が先に挨拶に赴かねば為らん!」
「儂は、権威も手に入れたいのじゃ!」
「其の為には
天皇、上皇を下向させ
儂に挨拶をさせる必要があるのぢゃ!」
「能を堪能して」
「厳粛なる儀式で圧倒し」
「それから、お楽しみの余興じゃぞ!」

鷹司 信子
「ふン」
「御犬遊びとは何でありゃしゃんす!」

将軍綱吉
「儂は、将軍じゃぞ!」
「儂は、何でも思いのままに出来る」
「しかしな」
「家来の忠義は推し量る事は出来ん」
「だからな」
「儂は、犬に為った者しか信用しないのじゃ!」

鷹司 信子
「御犬遊びで家臣を犬のようにあしらう」
「光圀殿がきつく戒めた事でありゃしゃんす」
「戒めをお破りになりますのか!」

将軍綱吉
「儂は、将軍じゃぞ!」
「お前にとやかく言われる筋合いは無い」

鷹司 信子
「わらはに、乱暴な言葉は許しません」
「わらはの格式をお忘れか!」

将軍綱吉
「・・・・」
「また、怒る・・・」

鷹司 信子
「怒られたくなければ
真っ当なる政を為さいませ!」

将軍綱吉
「やっておるぞ・・」


          赤穂事件 嫁と姑の関係



桂昌院
「生意気な嫁御じゃのォ」
「折檻せねば為らん」

将軍綱吉
「えェ」
「止めて・・」
「大奥が戦場になる」
「折檻は駄目だよ」

桂昌院
「母が白山御殿に住んでいた頃、
京の五摂家鷹司家より信子を御簾中した」
「天皇・上皇との近縁から
其方の大いなる後ろ盾となった」
「しかし、今や、その高い家柄が災いしておる」
「折檻ぢゃ!」

将軍綱吉
「駄目じゃ・・」
「儂の居場所がなくなる」
「大奥を混乱させては駄目じゃ・・」

桂昌院
「やられたら、やり返すのです」
「二倍にしてやり返しなさい!」
「母はな、家光公側室だった順性院と対立し、折檻を受けましたぞ」
「今度は、母が小石君を折檻します」
「許しません!」

将軍綱吉
「あの者は、別に悪さを働いた訳ではないから
折檻の理由が無いと思うが・・」

桂昌院
「理由など、こじつければよいのです」
「女の争いは、ジメジメとした陰湿なものなのです」
「負けて泣いておっては、虐められるばかり」
「女の闘いは、凄まじいのです」
「容赦はありません」

将軍綱吉
「母たま・・」
「ちんは、如何したら良いのでしょうか・・」

桂昌院
「お前は、母の味方か?
それとも、小石君を庇うのか!」
「選び為され!」

将軍綱吉
「母たま・・」
「ちんは、母たまに守られております」
「見捨てないで下さい」

桂昌院
「よし」
「では、折檻ぢゃ!」
「強く折檻する故
悲鳴が聞こえるかもしれんが、耳を塞いでいなさい」
「・・・・」
「・・」
「しかし」
「折檻すれば、恨みを買う事になりますな・・」
「如何したものか・・」
「そうぢゃ!」
「お前に、協力して欲しい」
「お前は、母の味方ぢゃろ!」

将軍綱吉
「なァ・・何をするの?」

桂昌院
「あの者に、重大な罪を被せる」

将軍綱吉
「うェ」
「駄目だよ・・」
「小石君は怖いよ・・」
「ちんには、無理です・・」

桂昌院
「お前は、黙っていなさい」
「全ては母が計画して実行します」
「母の言う通りにするのです」
「お前は、何もする必要はありません」
「ただ、母の言う通りに命令すれば良いのです」
「何もする必要はありません」

将軍綱吉
「ちんは、何もしなくてもよいのか・・」
「それならば、よいぞ・・」
「ところで」
「如何な計画なの?」
「誰を使うのですか?」
「教えて下さいませ」

桂昌院
「よしよし」
「少しだけ、教えておく」
「これより、小石君は大きな過ちを犯すことになる」
「小石君が災いをすり抜けても
大奥には公卿の娘が大勢送り込まれておる
誰かが、重大な過ちを犯す」
「母は、それを咎め
小石君を折檻するのです」
「お前には、母の計画を伝えるが
何もしなくてよい」
「お前は、ただ、家来に命令すればよい」
「全ては、家来が身代わりとなる」
「そして、小石君は失脚する」

将軍綱吉
「・・・・・・」
「そんなに・・」
「手加減して欲しいけど・・」

桂昌院
「母と順性院との対立は、凄まじいのもでしたよ」

将軍綱吉
「もう・・止めようよ・・」

桂昌院
「最初は、小言の応酬」

将軍綱吉
「・・・・」

桂昌院
「それから、殴り合い」

将軍綱吉
「えェ・・・・」

桂昌院
「それから、糞の投げ合い」

将軍綱吉
「うェ・・・」

桂昌院
「それから、毒饅頭」

将軍綱吉
「やりすぎ・・では・・」

桂昌院
「それから、

将軍綱吉
「もう、止めて!」

桂昌院
「女の戦いは、陰湿で恐ろしいものですよ」
「お前には、耐えられません!」

将軍綱吉
「うェ・・」




          赤穂事件 綱吉の気紛れ



吉良上野介は京より江戸に戻った。

将軍綱吉
「変な夢を見たのだ」
「儂の顔に痘痕が出来る夢を見た」
「気持ちが悪いぞ・・」

吉良上野介
「痘痕は疫病の現れを暗示しております」
「各地で飢饉や疫病が猛威を振るっておりますから
その事で御座いましょう」

将軍綱吉
「実に汚らわしい夢であった」
「儂は、痘痕で赤穂を思い出したぞ!」
「穢れは許されん!」

吉良上野介
「では、御犬遊びは中止為さいませ」
「他の余興を用意致します」

将軍綱吉
「んんゥ」
「母上から、赤穂を利用したいとの申し入れがある」
「母君は、 信子を折檻したいと考えておってな
信子を貶める計略が必用なのじゃ」
「其の為に利用できる者として、赤穂の犬千代が目に留まった」

吉良上野介
「左様で御座いますか」
「では、上野介にお任せ下さい」

将軍綱吉
「今回の饗応において
天皇・上皇を下向させて
儂に挨拶させたかったが
信子の権威が邪魔をする」
「母君は、公卿の権威を訝っておられる」

吉良上野介
「はい」
「公卿の力を削がなければ
幕府の安泰は御座いません」

将軍綱吉
「右衛門佐局には知られぬように致せよ」

吉良上野介
「赤穂を如何に致しますか?」

将軍綱吉
「信子は赤穂を気に留めておるようじゃ」
「浅野長矩が好みなのであろう」

吉良上野介
「御台所様が・・」
「では、赤穂を問い詰めてやりましょう!」

将軍綱吉
「いや」
「問い詰めては為らん」
「大奥に呼びつけて
信子と二人にせよ」

吉良上野介
「宜しいので・・?」

将軍綱吉
「それが、計略じゃ」
「浅野長矩は大奥の女に評判の色男
間違いを起こせばよい」

吉良上野介
「では」
「御台所様と浅野長矩を結び付けて
罪に問うので御座いますか?」

将軍綱吉
「罪に問うのは、公卿の者だけじゃ」
「公卿の力を削ぐことが目的であるぞ」

吉良上野介
「では」
「右衛門佐局の影響下にある者には
手出しせぬように致します」

将軍綱吉
「全ては母君の計画じゃ」
「儂は、それを伝えるだけの事」
「儂は、一切なにも知らん!」

吉良上野介
「はい」
「全ては、この上野介一人の責任で御座います」

将軍綱吉
「必ず、成功させろ!」

吉良上野介
「はい」
「お任せ下さい」

将軍綱吉
「失敗するな!」

吉良上野介
「御意に御座います」


         赤穂事件 浅野内匠頭の黄金期



浅野内匠頭
「白書院の畳替えで力添え頂きました事
感謝申し上げます」

吉良上野介
「んんゥ」
「老中は儂の許可がなければ
何も出来んのじゃ」
「老中を恨むでは無いぞ」

浅野内匠頭
「左様に、承知致しております」
「料理の事で
確認したいので御座いますが
生類憐れみの令により
肉や魚、海老や貝等の料理は
避けるべきかと・・
如何致せば宜しいかと・・」

吉良上野介
「上様は、何でも召し上がる」
「気にすることは何も御座らん御座らん」
「最高の料理で持て成せば宜しい」

浅野内匠頭
「承知致しました」

吉良上野介
「ところで、其方は最近、男前が増したな」
「姫たちが其方に恋い焦がれておるぞ」
「遠目に見ても色男が滲み出ておるぞ」

浅野内匠頭
「はい」
「最近、江戸市中で評判になっておりますが
某は妻持ち、返って迷惑で御座る・・」

吉良上野介
「いやいや」
「大奥の姫じゃぞ」
「其方の噂で持ち切りじゃ・・」

浅野内匠頭
「それは、大変に困った事で御座る」
「上様がお怒り為さらねば良いのですが・・」

吉良上野介
「いやいや」
「上様もお悦びじゃ」
「上様は、其方がお気に入りなのじゃ」
「何も心配はいらん」

浅野内匠頭
「左様で御座いますか・・」
「では、饗応後の余興の件は・・」

吉良上野介
「ああぁ」
「御犬のお披露目式じゃな・・」
「残念じゃが
上様は、御犬遊びを延期為された」
「だから、其方を献上するのも先送りとなった」
「残念じゃな・・」

浅野内匠頭
「いいえ」
「御犬になる事は、赤穂の藩士が許さぬと申しておる故
延期は朗報に御座います」

吉良上野介
「左様か・・」
「しかし、いずれ献上式があるから
それまでに
赤穂藩士を説得する事じゃぞ」

浅野内匠頭
「はい」
「心使い感謝申し上げます」

吉良上野介
「ああァ・・そうじゃ」
「料理の事で
御台所様が其方に相談があるとの
申し入れが届いておる」

浅野内匠頭
「某に・・・?」

吉良上野介
「左様」
「最高の料理で勅使・院使を持て成したいとの事」
「確りと打ち合わせして
満足のいく最高の饗応と為されよ」

浅野内匠頭
「打ち合わせは、御指南にお任せしたい」

吉良上野介
「其方を御指名じゃ!」


         赤穂事件 北の丸殿



大典侍 (徳川綱吉の側室)
「マァ」
「誰?」
「御台所様に会いに来たの?」

浅野内匠頭
「はい」
「此処で饗応の食事に関しての相談を承る運びに御座います」

大典侍
「御台所様は、此処、北の丸の新御殿にわらはを住まわせるとの事で御座いました」
「だけどね、まだ此処の事は内緒なのよ・・」
「困ったわ・・」

浅野内匠頭
「では」
「御台所様をお呼び下さいませんか?」

大典侍
「此処で会う約束ならば
待っていましょう」
「御台所様を呼びつけては為りません!」

浅野内匠頭
「はい」
「お待ち致します」

大典侍
「もしや、貴方は赤穂殿では御座いませんの?」

浅野内匠頭
「はい」
「某、赤穂藩主の浅野長矩と申す者」
「大奥には立ち入り出来ぬものと承知しておりました」

大典侍
「いいえ」
「此処は、別邸の新御殿ですから大奥では御座いませんのよ・・」
「将軍も此処に来ることは御座いません」

浅野内匠頭
「左様で御座いましたか」
「本来は指南役の吉良殿が参れば宜しいのですが
御台所様から拙者を指名為されたそうで
断る事も出来ません」
「大人しく、此処で、お待ち致します」

大典侍
「そうなのね ♪」
「・・・・・・ ♪」

浅野内匠頭
「・・・・・・・」

大典侍
「赤穂様は、お美しい・・」

浅野内匠頭
「あっはは」
「貴方様程では御座いませんよ・・」

大典侍
「まァ ♪」
「・・・・・・・」

浅野内匠頭
「・・・・・・・」

大典侍
「わらはは、もう、お役御免ね・・」
「此処は、用済みの側室を捨てる場所・・」
「寂しいわ・・」

浅野内匠頭
「上様は、斯様な立派な御殿を、新築されたのです
左様な事は決して御座いません・・」

大典侍
「わらはは、寂しい・・」
「此処は、姥捨て御殿よ・・」

浅野内匠頭
「いいえ」
「貴方様は、お美しい・・」
「きっと、上様もお見えになられますぞ・・」

大典侍
「・・・・・」
「嘘」
「此処には、殿方は参られん・・」
「捨てられた姥の墓場じゃ・・」

浅野内匠頭
「・・・・・」

大典侍
「・・・・・」

浅野内匠頭
「御台所様は忙しいので御座いましょう・・」
「某、出直して参ります」

大典侍
「まァ」
「わらはの小言がお気に召されぬかえ・・」
「わらはは、其方に嫌われたのかえ・・」

浅野内匠頭
「いいえ」
「決して左様な・・」
「・・・・・・」

大典侍
「・・・・・・」

浅野内匠頭
「・・・・・」
「上様は、肉や魚、海老や貝などをお召し上がりになるのですか?」

大典侍
「わらはは、知らんのじゃ・・」

浅野内匠頭
「上様は、好き嫌いが御座いますか?」

大典侍
「知らん・・」

浅野内匠頭
「やはり、出直して参ります」

           
          赤穂事件 すれ違い



大典侍 (綱吉の側室」
「先ほど、お帰りになりました」

鷹司 信子 (綱吉の正室)
「此処なら、目立たぬ密会が出来ると思うたが
離れの御殿は、返って不便じゃな」

大典侍
「密会?」

鷹司 信子
「お前には、関係ない事」
「この事は、秘密じゃぞ!」
「口が裂けても、他言致すな!」
「よいな!」

大典侍
「はい、秘密で御座いますね」
「畏まりました」

鷹司 信子
「お前!」
「赤穂の君と仲良くなったのか?」

大典侍
「仲良く?」
「少し、お話をしただけでありんす」

鷹司 信子
「あの者と仲良くなっては為らんぞ!」
「よいな!」

大典侍
「はい、これからは無視致します」

鷹司 信子
「お前は、嫌われ役をするのじゃぞ!」
「お前は、わらはの引き立て役となるのじゃぞ!」

大典侍
「はい」
「わらはは、御台所様の引き立て役でありんす」

鷹司 信子
「んんゥ」
「此処は、寂しき建屋じゃな」
「人の住む場所ではないのォ・・」
「此処、北の丸の新御殿は墓場のようじゃ・・」

大典侍
「わらはは、用無しとなりました」
「わらはは、此処、北の丸の新御に捨てられました」

鷹司 信子
「ふン」
「情けない!」
「泣き言ばかり!」
「其方、わらはの役には立たぬのか?」

大典侍
「大典侍は、お役に立てますか?」
「如何すれば宜しいですか?」

鷹司 信子
「其方は、とめと呼ばれ
玉に仕えておったな」

大典侍
「はい」
「桂昌院(将軍生母)様の女中として仕えておりました」

鷹司 信子
「わらはは、玉と熾烈な争い繰り返しておる」
「其方は、玉とわらはの何方の味方じゃ!」

大典侍
「はい」
「御台所様の味方でごじゃります」

鷹司 信子
「そうか」
「わらはの味方が!」
「では」
「玉を返り討ちにするぞ!」
「其方が、証言するのじゃ!」
「よいな」

大典侍
「何を証言するのでごじゃりますの?」

鷹司 信子
「赤穂の君の事」
「あの者が、わらはに会いに来た事を利用する」
「其方は、赤穂の君から
玉との関わりを聞き出すのじゃ!」
「玉の差し金で
赤穂の君が、わらはに会いに来たのだと証言すればよいぞ」
「玉を返り討ちにするのじゃ!」

大典侍
「何と!恐ろしい事・・」
「わらはには無理でごじゃります」
「お許し下さい」

鷹司 信子
「駄目じゃ!」
「其方の証言が得られれば
わらはは、大手を振って
赤穂の君と密会出来る」
「わらはが、懐妊すれば
その御子は、目出度く正当なる嫡男」
「次期将軍となる」

大典侍
「わらはは・・」
「如何すれば宜しいので・・」

鷹司 信子
「其方は、わらはの味方」
「しかし」
「裏切れば命はありませんよ」
「決して、裏切ってはなりません」
「よいな!」

大典侍
「はい」
「絶対に裏切るような真似は致しません」
「絶対に、誓って絶対に・・」

鷹司 信子
「全ては、嫡男を得る為」
「全ては、天皇の為じゃ!」

大典侍
「右衛門佐局様には・・」

鷹司 信子
「当然、承知の事」
「玉を排除することが
わらはと右衛門佐局の悲願」
「玉は、害悪じゃ!」

大典侍
「恐れ多き事・・」

鷹司 信子
「怯んではならんぞ!」

 
           赤穂事件 側室大典侍の板挟み



大典侍
「桂昌院様・・」
「よくお越し下さいました」

桂昌院
「此処、北の丸の新御殿は其方の為に建てたのじゃ」
「この恩を忘れてはならんぞ・・」

大典侍
「はい」
「わらはの為に、斯様な立派な御殿を勿体無うごじゃります」
「わらはは、此処で余生を過ごして参ります」

桂昌院
「小石は、赤穂に会ったか?」

大典侍
「御台所(小石君)様は、
赤穂の君には、お会いしておりません」

桂昌院
「何故ぢゃ!」

大典侍
「赤穂の君が、出直すと申され」
「お帰りになりました」

桂昌院
「其方はわしを桂昌院と呼ぶが
わしは、其方の母じゃぞ」
「なァ、
わしは、其方にとって
母のような存在ではないのか?」

大典侍
「はい、母君様、」
「母として、お慕い致しております」
「そして、感謝致しております」

桂昌院
「小石は、
わしのことを、玉と呼ぶ」
「わしは、あの者を石と呼ぼうか・・」

大典侍
「・・・・」

桂昌院
「其方は、母である桂昌院と
生意気な御台所
どちらの味方ぢゃ!」

大典侍
「はい」
「大典侍は、母君様の味方でごじゃります」

桂昌院
「そうか」
「なァ、かわいい娘よ」
「お前は、わしの味方と申したことに
偽りは無いであろうな」
「もしも、裏切るようなことがあれば
可愛さ余って憎さはなんとやら
お前は、早死にすることになる」

大典侍
「・・・・」
「はい」
「お慕い致しております」
「決して、裏切るようなまねは致しません」

桂昌院
「わしは、小石君を折檻することにした」
「あれは、将軍に盾突く生意気な嫁御となった」
「武家よりも公卿の血筋じゃ」
「本来は、水と油」
「馴染めはせんのじゃ・・」

大典侍
「はい」

桂昌院
「折檻とは過ちを厳しく叱りつける事じゃ」
「これより、小石は大きな過ちを犯す」
「小石は赤穂と密会するのじゃ」
「そして、過ちを犯す」
「わしは、小石の罪を厳しく叱りつけ
折檻ぢゃ!」
「わしも、側室の頃には
折檻を受けて来たぞ」
「今度は、わしが折檻するのぢゃ!」

大典侍
「はい」

桂昌院
「よいな」
「赤穂と小石は過ちを犯す」
「其方は、その証言をするのじゃぞ!」
「これで、公卿の力は削がれ
武家が権威と権力を独占出来る」
「公卿を排除出来る」

大典侍
「はい」
「一つ、提案がごじゃります」

桂昌院
「何じゃ?」

大典侍
「母君様!
母君様が、従一位の官位を賜れば
如何でごじゃりますか?」

桂昌院
「わしが、官位を受けるのか・・」
「そうよのォ・・」
「それも、悪くない・・」
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