アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

徳川家綱 伊達騒動編 六

2021-11-11 10:24:39 | 漫画


茂庭定元(奉行総括)
「領地問題で検分を許さないのは
何故ですかな?」

伊達式部宗倫
「率直に言わせてもらえば、
本藩の意向と申し上げる他ありません」

茂庭定元(奉行総括)
「では、伊達宗勝殿と田村宗良殿、両後見人による
意向となりますな!」

伊達式部宗倫
「左様に御座る」
「安芸殿は本藩の意向に逆らって
意地を張り、
領地問題を引き起こし、
騒ぎ立てております」

茂庭定元(奉行総括)
「儂の考えでは
領地問題は、安芸殿と式部殿で
解決するのが最善じゃと思うぞ」
「兵部殿を仲介するのは何故じゃ?」

伊達式部宗倫
「何を仰いますか」
「本藩は綱宗様の強制隠居により
大変な時期で御座る」
「後見役に一任するのが
最善策に御座る」

茂庭定元(奉行総括)
「しかし」
「領地配分を決めてから
検分をしても意味が無いぞ」
「検分しなければ、正確な知行地配分はできぬぞ」

伊達式部宗倫
「順序が逆だと申されるか?」
「それは、違うぞ!」
「安芸殿は、正確な検分を求めておるが
勝手に新田開発をして
それを自分の領土だと主張するのは
お門違いで御座る」
「開発した土地が自分の物になるのなら」
「皆が勝手に領主を主張するではないか!」

茂庭定元(奉行総括)
「しかしなァ」
「新田開発は中立地帯じゃ」
「領土を奪っておる訳では無いぞ」
「其方は変な理屈を作り
自らを正当化しておるのではないのか?」

伊達式部宗倫
「なァ」
「仙台藩は一門の領土が多すぎると思わんか?」
「本藩は狭い領土で財政難じゃ」
「本藩が弱い藩など
他には有りませんぞ!」

茂庭定元(奉行総括)
「んんゥ」
「あのなァ」
「今回の領地争いに
本藩と一門の権力争いを結び付けてはならん!」
「仙台藩の分裂になったら
それこそ、我らは幕府により改易となりますぞ!」

伊達式部宗倫
「左様か」
「しかしな」
「幕府の後ろ盾は、兵部殿じゃぞ」
「相談役の立花忠茂殿も我らの味方じゃ
現に、兵部殿の嫡子(宗興)殿は大老(酒井忠清)様の
ご息女を貰い受けております」
「幕府の意向は本藩に有利に
働いておりますぞ」

茂庭定元(奉行総括)
「では、如何しても検分はしたくないと申されるか!」

伊達式部宗倫
「いえいえ」
「検分致しますぞ」
「領地配分が決まり次第
検分して正式に知行地、確定に御座る」

茂庭定元(奉行総括)
「しかしなァ」
「何度も同じ事を申すがなァ」
「それでは、順序が逆じゃ!」
「そもそも、誰が領地配分を決定するのじゃ!」

伊達式部宗倫
「領地配分を決定するのは藩主様に決まっておるぞ!」

茂庭定元(奉行総括)
「はァーー」
「亀千代様はまだ幼子じゃ!」
「お主は、分かっておって
儂を揶揄っておるのか!」

伊達式部宗倫
「いえいえ」
「からかうなど、とんでも御座らん」
「藩主様に代わり両後見役に領地配分を決めて頂きましてから
大老様と相談役に認証を受ければ
幕府の意向にたがうことは御座らん」

茂庭定元(奉行総括)
「しかし」
「それでは、一方的すぎるぞ!」
「一門を敵に回すつもりか!」

伊達式部宗倫
「一方的になるか公平な領地配分になるか
決まる前に断定するのは早計で御座る」
「決めてから問題があれば
異議を申し立てればよいのだ」

茂庭定元(奉行総括)
「決めてから異議だと!」
「戯けたことを申すな!」

伊達式部宗倫
「んんゥ」
「少々無礼が過ぎるのではありませんか」
「その無礼は
兵部殿への無礼で御座る」

茂庭定元(奉行総括)
「んんゥ」
「なァ」
「もう一度、考え直して貰えんか!」
「安芸殿は緩衝地帯を新田開発したのじゃ」
「それを、正式な検分もせずに
取り上げるような事をすれば
争いになりますぞ!」

伊達式部宗倫
「これは、可笑しな事を申される」
「領地配分は儂がする事では無い」
「両後見人が公平に領地の配分をすることななる」
「公平に配分するのに
争いなどあるものか!」

茂庭定元(奉行総括)
「公平に領地を決めるのであれば
直ちに新田の検分をする事じゃ」
「検分しないで
公平に配分する事は出来ん!」

伊達式部宗倫
「駄目で御座る」
「検分すれば、安芸殿が検分を誤魔化すかもしれません」
「信用など御座らん」

茂庭定元(奉行総括)
「よし」
「では、儂が立会人になって
監視してやるぞ」
「更には、安芸殿だけではなく
式部殿からも検分すれば宜しい」

伊達式部宗倫
「いや為らん」
「もし、双方の検分に相違があれば大変な事になりますぞ」
「幕府に申し付けておる知行米にも影響がでる」
「幕府に嘘の申告をしていたと思われたら
我らの信用は地に落ちますぞ!」

茂庭定元(奉行総括)
「其方は、始めから相違が出ると決め込んでおるな」
「相違があれば、その原因を見つけて
是正すれば良いのだ」
「間違いを放置するほうが
問題じゃぞ」

伊達式部宗倫
「いやいや」
「間違いなど始めから存在しないのだ」
「ここは、穏便に両後見役に決めて頂くのが
最善で御座る」
「これであれば、
幕府との関係も全て上手くゆく」
「最善策に御座る」

茂庭定元(奉行総括)
「安芸殿は納得しませんぞ!」

伊達式部宗倫
「もうよせ!」
「文句があれば兵部殿に申せ!」








茂庭定元(志田)
「なァ」「甲斐殿」
「お主は、この領地争いを如何見ておる?」

原田宗輔(甲斐)
「これは、本藩にとって
一門の力を弱める絶好の機会で御座るな」

茂庭定元(志田)
「んんゥ」
「では、やはり、兵部殿の策略か?」

原田宗輔(甲斐)
「兵部殿は
野谷地の3分の2を登米領に、
3分の1を涌谷領に振り分ける裁定を下したが
実際は、全部奪い取るつもりじゃ」

茂庭定元(志田)
「全部奪い取ると!」
「それは無茶じゃ!」

原田宗輔(甲斐)
「検分役は全て兵部殿の影響下にある
一門の力を弱体化させて
本藩を優位にする為の策略じゃ」

茂庭定元(志田)
「んんゥ」
「この領地争いは危険じゃぞ!」
「何とかならんのか!」

原田宗輔(甲斐)
「お主は、誰の味方じゃ!」

茂庭定元(志田)
「儂は、兵部殿に恩義があるが・・・
だからと言って
安芸殿を見殺しには出来ん」
「実に困った・・・」

原田宗輔(甲斐)
「実はな、
本藩が強くなければ為らん
切実な理由があるのじゃ」

茂庭定元(志田)
「おおォ」
「何じゃ聞かせてくれ!」

原田宗輔(甲斐)
「それは、本藩が抱えておる
膨大な借款じゃ!」
「今、この借款が膨れ上がり
返済不能に陥っている」
「このまま、一門の権力が大きければ
本藩は先細りになり破産する」
「仙台藩は改易となる」

茂庭定元(志田)
「しかしな」
「本藩の借款と言っても、
一門と共有するものではないのか?」

原田宗輔(甲斐)
「明らかには出来んが
一門と共有出来ない理由があるのじゃ」

茂庭定元(志田)
「んんゥ」
「内輪の事に深入りはせぬが
危うい話じゃのォー」
「しかし、専横じゃ」
「兵部殿は強引過ぎるぞ!」

原田宗輔(甲斐)
「幕府との関係は内密であるから
其方にも知らす訳にはいかん!」
「しかし」
「もし、内情を知りたければ条件がある」

茂庭定元(志田)
「・・・・・・」

原田宗輔(甲斐)
「お主は・・」
「知らぬ方がよいな・・・・」

茂庭定元(志田)
「いや」
「覚悟がない訳では無い」
「だからと言って
恩義ある兵部殿と争いたくは無い」

原田宗輔(甲斐)
「まァ良い」
「兵部殿も奉行など当てにしてはおらん」
「目付に重きを置いておるから
我らが何を申しても
聞く耳など持っておらん」
「兵部殿は一門の弱体化を進めておるのじゃ!」
「そして、兵部殿が、これほど強気でいられるのは
幕府大老(酒井忠清)様の後ろ盾があるからじゃ!」

茂庭定元(志田)
「儂は奥山大学の専横を咎め一旦は失脚した」
「それを救ってくれた兵部殿が
今度は専横となった」
「今度は、兵部殿と争うのか・・・・」

原田宗輔(甲斐)
「儂は、訳あって兵部殿を裏切ることは出来ん」
「しかし、其方は別じゃ」
「奉行総括として、公平な判決をすれば良いと思うぞ」

茂庭定元(志田)
「んんゥ」
「危うい話じゃ・・・」



石川宗弘(一門筆頭)
「刈田郡湯原村と信夫郡茂庭村の境界争いに
幕府の判断を仰ぎたい」

立花忠茂(相談役)
「んんゥ」
「分かった、儂が責任を持って裁決しよう」

石川宗弘(一門筆頭)
「有り難う御座います」
「相談役は隠居なさったと思い
心配しておりました」

立花忠茂(相談役)
「石川家の知行地争いならば
一門筆頭で解決できる筈」
「儂に頼む必要もあるまいに・・・?」

石川宗弘(一門筆頭)
「はい」
「実は、安芸殿、式部殿の領地争いを
幕府の判断で解決して頂きたいのです」

立花忠茂(相談役)
「左様か!」
「よし、儂の判断を示すぞ」
「先ず、式部殿は領地の2/3を取得することにも満足せず
検分の後に4/5が自らの領土となった」
「これは、欲張り過ぎじゃ」

石川宗弘(一門筆頭)
「はい」
「あまりにも不公平に御座います」

立花忠茂(相談役)
「其方は、公平な領地配分を幕府に依頼したいのであろォーな」

石川宗弘(一門筆頭)
「いは」
「これは、一門にとっては死活問題です」
「全てを奪われてしまいます」

立花忠茂(相談役)
「しかしな」
「本藩も又、死活問題なのじゃ」

石川宗弘(一門筆頭)
「んんゥ」
「申されておる意味が分かりません?」

立花忠茂(相談役)
「儂は、今、本藩と一門、
何方の肩入れも無い」
「完全に対等の立場で話をしている」

石川宗弘(一門筆頭)
「はい」
「承知しております」

立花忠茂(相談役)
「では、聞こう」
「一門は、本藩が抱える借款を共有しないと申される」
「何故じゃ?」

石川宗弘(一門筆頭)
「それは、強制隠居の先様が放蕩三昧で作った借款ですぞ!」
「全責任は本藩にある!」

立花忠茂(相談役)
「んんゥ」
「儂の話を聞く前に約束して欲しい」

石川宗弘(一門筆頭)
「何で御座いますか?」

立花忠茂(相談役)
「此処で、聞いた話は口外不要にて
誰にも話してはならん!」
「約束できるか!」

石川宗弘(一門筆頭)
「はい」
「決して、他の者に話はしません」
「信用して下さいませ!」

立花忠茂(相談役)
「本藩の作った借款は伊達政宗公の威光を高めるために使われたのじゃ」
「綱宗様の作った借款ではないぞ」

石川宗弘(一門筆頭)
「では、兵部殿が嘘を付いておるのですか?」

立花忠茂(相談役)
「左様」
「全てはまやかしじゃ」

石川宗弘(一門筆頭)
「すると、借款は共有すべきと・・・」

立花忠茂(相談役)
「そうじゃ」
「本来、借款は本藩と一門で共有すべきもの」
「その借款を本藩が全て背負っておる」

石川宗弘(一門筆頭)
「しかし、借款を共有する事と
理不尽な領地配分をごちゃ混ぜにされては
話がおかしな方向に進み
収拾がつかなくなりますぞ」

立花忠茂(相談役)
「んんゥ」
「左様じゃ」
「この一見理不尽に見える領地配分は
双方の死活問題なのじゃ」
「幕府が簡単に関与して
公平に裁定することは出来ん」

石川宗弘(一門筆頭)
「んんゥ」
「では、その借款を精査して
公表すべきでは有りませんか?」

立花忠茂(相談役)
「借款を一門に肩代わりさせる事が出来ない
理由が本藩には有ると思うぞ」
「だから、強硬に領土を拡大して
権力を握ろうとしておるのじゃ」

石川宗弘(一門筆頭)
「如何すれば良いのですか!」

立花忠茂(相談役)
「奥山大学の復権が必要じゃが
もう、遅い」
「伊豆守様がお亡くなりになり
権力の掌握は出来なくなった」
「もう、手遅れじゃ」

石川宗弘(一門筆頭)
「手遅れ?」

立花忠茂(相談役)
「んんゥ」



立花忠茂
「儂は隠居しておるのに
来客が多い」
「奥山大学も失脚しておるのに
如何したものか・・・」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「この大切な時に
隠居はありませんぞ!」
「領地争いの仲裁は無理じゃ」
「相談役は、あくまでも中立の立場で
御座いますか?」

立花忠茂
「如何しろと申される!」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「儂は、式部殿が仲裁を聞き入れないことが
原因だと思っておったが
実は、兵部殿が裏で手を回しておった」
「もう、穏便に解決する事は出来ん」

立花忠茂
「其方は、兵部殿と協力しておったのではないのか?」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「同じ一門同士じゃ
協力もするが、
どうも、様子がおかしい」
「兵部殿は一門を潰すつもりじゃ!」

立花忠茂
「んんゥ」
「今は、兵部殿が大きな権力を握っておる」
「しかし」
「強引過ぎたのォ」
「力ずくで領地の拡大をしておれば
争いになる」
「其方は、この不毛な争いに巻き込まれたいのか?」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「今は、安芸殿、式部殿の領地争いじゃが
今に、我らの領土も狙われる
その時になったら、
もう、遅いではありませんか!」

立花忠茂
「いかに兵部殿が権力を持っていようが
一門が協力しておれば敵うまい」
「今、単独で争えば
兵部殿の戦略に嵌るのではないかな?」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「同じ一門と言っても
兵部殿は本藩に近い、
我らとは協力できぬ間柄じゃ」
「兵部殿は我ら一門が協力し合い
対抗するのが怖い筈」

立花忠茂
「なァ」
「其方は、第3代藩主・綱宗の隠居願の筆頭に署名して
本藩主君を追い出したのじゃぞ」
「そして、今、
君主に代わり後見役の兵部殿が
権力を握っておる」
「責任は感じないか?」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「それは、致し方なく、止むを得ない事」
「責任は有りますが
君主が放蕩三昧では仙台藩が
破産してしまいます」

立花忠茂
「では、今度は
専横の伊達兵部後見役を失脚に追い込めば
良いではないか!」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「戦へ!と申されるので?」

立花忠茂
「意志を貫くならば
誠を貫くならば
戦って討ち死にすれば良い」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「・・・・・・」

立花忠茂
「どうやら、その志はなさそうじゃな」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「いいえ」
「岩出山伊達一門だけでは無理です」
「相談役のお力が必要です」

立花忠茂
「其方は、儂が推し進めておった
田村宗良後見役の政権で奥山大学が
失脚した時には何もしなかったな」
「今度は、助けてくれとは
虫が良すぎるぞ」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「・・・・・・」
「儂は、一門を守りたいのです」
「このまま、兵部殿に滅ぼされる訳には参りません」

立花忠茂
「左様か!」
「では、其方は大人しくしておることじゃ」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「何もしないので・・・・」

立花忠茂
「兵部は強引すぎる」
「きっと、大老(酒井忠清)が守ってくれると
思っておるのじゃろーが
甘い考えじゃ」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「大老は当てにならぬと・・・・」

立花忠茂
「左様」
「大老は兵部が不要になれば切り捨てる」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「何故ですか」
「兵部殿の嫡子は大老の姫君をもらい受けております」
「大老が兵部を見捨てますか!」

立花忠茂
「姫君は公卿の養女」
「面識はない」
「形式的な結婚でしかない」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「分かりました」
「仰せの通り、儂ら一門は成り行きを
大人しく見守ろうと思います」

立花忠茂
「んんゥ」
「それが良い」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「しかし、兵部殿が一門の取り潰しにかかれば
また、参上して御協力を、お願い申し上げますぞ」

立花忠茂
「それは無い」
「安心しておれ・・・」

伊達宗敏(岩出山伊達一門)
「安芸殿が心配じゃ・・・・」



立花忠茂
「安芸殿のお出ましですな・・・」
「儂は隠居の身」
「其方の力にはなれんぞ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「はい」
「承知しております」

「儂は、仙台藩の現状を幕府に訴える決意を固めましたので
ご報告に参りました」

立花忠茂
「左様か」
「では、覚悟を決めたのじゃな!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「はい」
「涌谷伊達家の決意で御座います」

立花忠茂
「んんゥ」
「左様か」
「では、確認をしておかねば為らんぞ」
「先ず、兵部殿には大老が付いておるから
お主にとって有利な事は何もない事」
「たとえ、其方の主張が認められたとしても
お主は、兵部と共に裁きを受ける事」
「更には、仙台藩のお取り潰しも
考えられる事」
「以上三点じゃ!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「では、何一つ良い事は無いと・・・?」

立花忠茂
「いや」
「其方が決死の覚悟を持って
幕府に訴え出れば、
兵部殿とて、持ち堪えることは出来ん」
「而して、其方は命を落とす事になる」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「んんゥ」
「儂の命を引き換えにして
涌谷伊達家を守れと・・・・」

立花忠茂(相談役)
「それ程の覚悟が御有りか!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「儂がその覚悟を決めれば
相談役も力になってくれますか!」

立花忠茂
「出来る限りの事はやるぞ」
「儂も、仙台藩を御取り潰しなどには
したくないからな」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「では、実力者として田村宗良殿の
お力を頂きたい」

立花忠茂
「田村宗良殿は其方の味方には為らんと思うぞ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「では、誰か他の証言者が必要で御座る」

立花忠茂
「藩奉行の志摩に協力するように
申しつけよう」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「志摩殿は我らの味方となりますか?」

立花忠茂
「それは、分からん」
「しかし、志摩殿は奉行として
公平な立場を貫いておる」
「中立な立場じゃ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「兵部殿は奉行を退けております」
「今では、奉行は肩書だけとなっており
兵部直属の目付衆が仕切っております」

立花忠茂
「それは、儂も承知しておる」
「じゃがな、その目付が幅を利かせておるのは
仙台藩内だけじゃ」
「幕府との連絡役は奉行の仕事」
「目付衆に出番はないぞ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「儂が命懸けで願い出るということは」
「我らに味方する奉行も又
同様の覚悟が必要で御座る」

立花忠茂
「左様」
「其方に味方するには命懸けの覚悟が必要」
「しかし、兵部殿に味方する奉行も又
命懸けじゃ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「お願いが御座います」
「相談役が江戸に向かい
事前に
我らの主張を願い出ては頂けませんか?」

立花忠茂
「何を申すかと思えば・・・」
「儂は、中立な立場
其方の敵かもしれんぞ!」
「実際、儂は、仙台藩の為には
本藩が強くあらねば為らんと思っておる」
「一門にも問題があるぞ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「んんゥ」
「儂らの落ち度とは如何な事?」

立花忠茂
「先ず、本藩が抱えておる借款を一門も共有する事じゃな」
「共有が出来ぬのならば、
領地を奪われて資産は強制的に本藩のものとなるぞ」
「もし、何もしなければ本藩は破産する」
「本藩が破産すれば
いずれ、一門に借款は受け継がれる
同じ事じゃ」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「借款は先の伊達綱宗様が放蕩三昧で作ったもの」
「一門が立て替えるのは筋違い
他の一門は誰も賛同致しません」

立花忠茂
「左様か」
「では、其方は儂の協力を期待しては為らんな」
「儂としても、安芸殿の苦渋は承知しておる」
「しかしな、仙台藩としては
片方の肩入れは出来んのじゃ!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「んんゥ」
「分かりました」
「覚悟を決めました!」
「仙台藩の状況を包み隠さず
幕府に報告して
裁定を大老(酒井忠清)様に託すことにします」

立花忠茂
「左様か」
「武士の意地を見せてやれ!」
「生きて帰れよ!」
「決死の覚悟は良いが
無駄死にはするな!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「はい」
「もしも、儂が帰らぬ時は
相談役に
涌谷伊達家の事をお願い致したい!」

立花忠茂
「んんゥ」
「承知した」
「涌谷伊達家の安泰は約束する」
「それでは」
「責任は全て其方一人で背負うのじゃな!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「はい」
「儂、一人が責任を取る事」
「覚悟を決めました」

立花忠茂
「よくぞ申された」
「其方は、真の武士じゃ」
「誉れ高い武士じゃ!」

伊達宗重(涌谷伊達家)
「はい」
「では」
「後の事
宜しくお願い致します」




将軍家綱
「おおォ」
「其方が式部殿か!」
「儂は、仙台の情勢が気になっておるぞ!」

伊達宗倫
ーーーーーー畏まるーーーーーーー

伊達宗倫
「藩主伊達綱村の殿上元服への御礼に参りました」

将軍家綱
「おおォ」
「綱村殿じゃな」
「綱の字を引き継ぐ
良き藩主となるように期待しておるぞ!」

伊達宗倫
「はい」
「名前に恥じぬよう精進し
仙台藩の礎となりましょう!」

将軍家綱
「仙台藩の領民は安堵にしておるかな」

伊達宗倫
「はい」
「将軍様の御加護のお蔭と
感謝致しております」

将軍家綱
「おおォ」
「仙台藩はお家騒動から
立ち直ったか!」
「争いはいかんぞ」
「皆で相談して仲良く暮らすことじゃ!」

伊達宗倫
「勿体なき、有難きお言葉、
恐れ多き事に御座います」

将軍家綱
「なァ」
「式部殿」
「儂はなァ」
「先の藩主綱宗殿に会ってみたいのじゃが
其方が連れて来てくれんか?」

伊達宗倫
「はい」
「将軍様の御命令とあらば
喜んで連れて参ります」

将軍家綱
「おおォ」
「左様か!」
「本当に連れて来てくれるのじゃな!」
「綱宗殿に会えば真相が分かるかもしれん」

伊達宗倫
「お恥ずかしい事で御座います」
「先の藩主綱宗は放蕩三昧で強制謹慎の身
で御座いました」
「将軍様が手を差し伸べてくれる事が
先の藩主綱宗にとって、又は仙台藩にとって
大きな立ち直りの切っ掛けとなりましょう」

将軍家綱
「んんゥ」
「左様か!」
「綱村殿と綱宗殿
何方も良い名前じゃ」
「綱宗殿に会える日が楽しみじゃ!」

伊達宗倫
「はい」
「将軍様の期待が大きい事を伝えれば
先の綱宗藩主も改心するものと思います」

将軍家綱
「綱村殿は元服したとはいえ
まだ、政権を握るには幼過ぎると思うが
後見役は如何しておる?」

伊達宗倫
「はい」
「伊達宗勝と田村宗良、両名が後見役を務めております」

将軍家綱
「おおォ」
「兵部と田村殿じゃな」
「ところで、二人の後見役は仲違いなど無いか?」

伊達宗倫
「はい。御座いません」
「田村宗良は大人しくしておりますので
主だっては、兵部が仙台藩を支えております」

将軍家綱
「んんゥ」
「左様か」
「兵部殿か!」
「少し前には、大学殿が支えておると聞いておったが」
「大学殿は如何しておる?」

伊達宗倫
「はい」
「大学は兵部に政権を渡して
退いております」

将軍家綱
「おおォ」
「大学殿は失脚か!」

伊達宗倫
「・・・・・・」
「詳しい事は分かりませんが
伊豆守様がお亡くなりになり
身を引いたようで御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「少し様子が見えてきたのォ」
「お主!」
「兵部殿を如何思う!」

伊達宗倫
「・・・・・・・」
「良き後見役だと思っております」

将軍家綱
「では」
「大学殿は如何じゃ?」

伊達宗倫
「はい」
「兵部と大学は仙台藩の為に
貢献し、立て直しに尽力した
良き家臣で御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「藩主が謹慎しておれば
家臣が頑張らねばならんな」
「しかし」
「もう、十分じゃ!」
「綱村殿も元服しておる」
「そろそろ綱宗殿の謹慎も解いて
本来の政権に戻すことが肝要じゃと思うぞ!」

伊達宗倫
「はい」
「将軍様の御命令とあれば
喜んで従う所存で御座います」

将軍家綱
「よしよし」
「んんゥ」
「では、早く綱宗殿を連れて参れ!」
「よいな!」

伊達宗倫
「はい」
「先の藩主の謹慎を解き
将軍の命令に従い江戸に連れて参ります」

将軍家綱
「よし」
「其方は、儂の良き友人じゃ!」
「これから、駕籠に乗り
江戸市中を散策しようか!」
「それとも、馬で駆け回るか?」

伊達宗倫
「はい」
「喜んで御供致します」

将軍家綱
「さァ」
「参ろうぞ!」



酒井忠清
「上様!」
「又もや、勝手な行動を為さりますか!」

将軍家綱
「んんゥ」
「?」
「何じゃ?」

酒井忠清
「式部殿と江戸市中を遊びまわっておりましたな!」

将軍家綱
「ああ」
「そのことか、良いではないか・・・」
「滅多に無い事じゃ」
「大目に見よ」

酒井忠清
「式部殿と何を話された?」

将軍家綱
「んゥ」
「おおォ」
「藩主の綱村殿の元服を祝っておった」

酒井忠清
「他には!」

将軍家綱
「其方に、話すと面倒じゃ・・・」

酒井忠清
「いいえ、重要な事です
お話し下さい!」

将軍家綱
「あッ」
「思い出したぞ!」
「堀田上野介(正信)殿を呼び寄せる事
申し付けておったが
何時まで経っても上野介が参らん!」
「儂の命令が聞けんのか!」

酒井忠清
「あの者は、佐倉へ無断帰城した罪により
所領地を没収の上で謹慎中じゃ!」
「無理を申したはならんぞ!」

将軍家綱
「もう、許してやれ!」
「謹慎が長すぎぞ」
「江戸に呼び寄せて
儂が召し抱える!」

酒井忠清
「いいえ」
「為りません!」
「正信に代わり三男の正俊殿が奏者番となっており
若年寄りになる手筈」
「正信が江戸に登る事は
禁じられておりますぞ!」

将軍家綱
「儂が命じておるのじゃ!」
「言う事を聞け!」

酒井忠清
「上様!」
「話をはぐらかしては為りませんぞ!」
「上様は、式部殿と何を話された!」
「お話し下さい!」

将軍家綱
「知らんな」
「話したく無いぞ」

酒井忠清
「式部殿は死にましたぞ!」

将軍家綱
「ええェーー」
「何で?」
「嘘じゃ・・・・」

酒井忠清
「いいえ」
「嘘では御座らん!」
「式部殿と上様の密談が
原因ですぞ!」

将軍家綱
「儂のせいか?」

酒井忠清
「さあ」
「何を話したのか、お話し下され」

将軍家綱
「あのなァ」
「ちょっとだけ」
「綱宗殿の話をしたぞ・・・」

酒井忠清
「その、ちょっとをお話し下され」

将軍家綱
「あのな」
「強制隠居は辛かろうなァーー」
「等と話したぞ・・・」

酒井忠清
「んんゥ」
「儂に隠し事は為りませんぞ!」
「上様!」
「確かと申し付けましたぞ!」

将軍家綱
「んんゥ」
「その様に、怒るでは無い」
「儂は、将軍ぞ・・・」

酒井忠清
「はい」
「将軍たるもの
迂闊な行動は慎む事」
「市中を遊びまわるなど
言語道断、もってのほか」
「分かりますな!」

将軍家綱
「そうか」
「もうよい」
「余は疲れた・・・」

酒井忠清
「上様!」
「上様はいつも
その様に、お逃げになる
変な癖が御座います」
「疲れたなどと
申しては為りませんぞ!」

将軍家綱
「だってな」
「本当に疲れたのじゃ・・・」
「もう、良いではないか」
「休ませておくれ・・・」

酒井忠清
「全く、将軍たるもの
全身全霊をもって精神の限り
精進するものですぞ」
「反省為さい!」

将軍家綱
「んんゥ」
「其方が代わりにやれ・・・」



柴田朝意(外記)
「なァ」
「甲斐殿・・」
「和解せんか・・」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「条件は?」

柴田朝意(外記)
「席次問題で詫びて貰えば良い」

原田宗輔(甲斐)
「儂は、今まで詫び続けておるぞ」

柴田朝意(外記)
「けじめを付けるのじゃ」

原田宗輔(甲斐)
「しかしなァ」
「席順が不満なのは分かるが
言葉で詫びて納得出来ないのでは
如何しようもないぞ」

柴田朝意(外記)
「其方が奉行から退けば良い!」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「和解などと申すが」
「それは、和解などではない追放処分じゃ!」
「一方的過ぎる!」

柴田朝意(外記)
「では」
「和解は無しか?」

原田宗輔(甲斐)
「幕府の目付をもてなす為に準備した宴会の場
席順は幕府目付との折り合いで決めた」
「古内重定、伊東重門は経験不足じゃ」
「席順は幕府目付を接待することが目的」
「変な推測は止めて頂きたい」

柴田朝意(外記)
「実はな」
「安芸殿が幕府へ願い出る事を決意した」

原田宗輔(甲斐)
「ふんゥ」
「お主は、正気か!」
「こんな、席順の問題を大げさにするな!」

柴田朝意(外記)
「安芸殿の訴えは領地問題」
「しかし」
「この席次問題も取り上げようと思っておる」

原田宗輔(甲斐)
「いい加減にしろ!」
「何のつもりじゃ!」
「お主、儂を脅しておるのか?」

柴田朝意(外記)
「いや、脅してなどおらん!」
「和解じゃぞ!」

原田宗輔(甲斐)
「儂は、領地争いを止めるように
尽力しておる
過ぎた事を持ち出して
面倒事を増やすのは止めて頂きたい」

柴田朝意(外記)
「いやいや」
「この席次問題は過ぎ去った話では無いぞ」
「この席次問題を真っ先に批判した伊東重孝殿が
幕府の目に留まり気骨ある武将として
大いに褒めた称えられておる」
「将軍家綱様が側近におきたいと申しておった程じゃ」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「儂の進退は後にせよ」
「今は、この仙台藩の危機なのじゃぞ」
「一番の問題は領地争いじゃ!」
「席次問題を持ち出すな!」

柴田朝意(外記)
「それは、甲斐殿の意向に寄りますぞ」
「其方は、兵部殿の悪事を見過ごしておられる」
「何か、兵部殿に弱みでも握られておりますかな・・・」

原田宗輔(甲斐)
「其方には分からぬであろうが
儂は伊豆守様から今の大老(酒井忠清)様まで
仙台藩との橋渡し役をして来たのじゃぞ」
「伊豆守様が存命中には
兵部殿は大人しくしておった
しかし、お亡くなりになり大老様が兵部殿の
後ろ盾となったことで
状況は大きく変わった」
「兵部殿には幕府の後ろ盾がある」
「儂は、幕府との橋渡し役として
仙台藩の為に尽くしておる」
「誤解するな!」

柴田朝意(外記)
「では、幕府と如何様な取引をしておる!」
「申してみよ!」

原田宗輔(甲斐)
「それは、申す訳にはいかん!」

柴田朝意(外記)
「その様な秘密事を裏でこそこそとしておるのか・・」
「不信が募るばかりじゃ」
「信用がならん!」

原田宗輔(甲斐)
「幕府との橋渡し役は絶対に必要ですぞ」
「幕府目付の接待も、その一環」
「何も知らぬ者が、とやかく言う資格は御座らん!」

柴田朝意(外記)
「儂は、近く江戸に赴く」
「幕府の要人に呼ばれておるのじゃ」
「お主は、呼ばれておるのか?」

原田宗輔(甲斐)
「何も、教える訳にはいかん」
「儂には、重大な任務がある」
「公には出来ん重大な任務じゃ」
「分かって欲しい・・・」

柴田朝意(外記)
「左様か」
「残念じゃが
儂は一番乗りで江戸に行く」
「お主は、まだ呼ばれてはおらん」
「幕府の要人は儂を信用しておるぞ」
「其方は、用済みでは無いのか」

原田宗輔(甲斐)
「大老様は、儂を引き立てて下さる」
「其方では無い」
「幕府の権力は大老様にある」
「大勢は我らにある」

柴田朝意(外記)
「今からでも遅くはない和解しよう!」

原田宗輔(甲斐)
「左様」
「和解したいものじゃ!」

柴田朝意(外記)
「では、江戸で待っておるぞ!」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「後から参るぞ!」



鷹司信子(小石君)
「んんーン」
「わらはの妹は天皇の后になりありゃされたなァ」

徳川綱吉
「   ・・     !」

小石君
「妹が天皇の后でありゃされたのに
姉は惨めやのォー」

徳川綱吉
「伏見宮は崇光天皇、南北朝時代」
「北朝第三天皇」

小石君
「何でありゃますか?」
「遠い昔の話は分かりャんよ」

徳川綱吉
「其方の身分は申し分無い」

小石君
「そうよ」
「わらはは、高貴なんに」
「其方は、何よ?」
「情けないわね」

徳川綱吉
「将軍家綱の后は伏見宮じゃ」

小石君
「わらはは、早よォーに
将軍の后になりとうありゃます」

徳川綱吉
「後西天皇は信綱(伊豆守)が死んで直ぐに
退位した」

小石君
「何を独り言・・・」

徳川綱吉
「皇族を操っておるのは忠清!」

小石君
「ねェ」
「将軍の后(浅宮顕子)様は御病気なの?」

徳川綱吉
「其方の方が高貴じゃ!」

小石君
「ねェ」
「話が変よ」
「話が噛み合わないわよ」
「ねェ」

徳川綱吉
「其方、その身分を使って
奥に使者を放て!」

小石君
「何よそれ」
「使者って何にあらゃんす?」

徳川綱吉
「刺客じゃ」

小石君
「何よ・・・」
「何を言ってるの?」

徳川綱吉
「其方は、天皇の后を妹に持つ
格式じゃ、その格式は伏見宮の比では無い」
「お前は、奥を支配出来る」

小石君
「馬鹿を言って有りャます」
「わらはが、大奥に入るのは
其方が将軍に成った時」
「変な事を言ってありゃますのォー」

徳川綱吉
「お前の、御付きを大奥に忍ばせれば良い」
「後の事は、儂がやる」

小石君
「なァ」
「変な話はおしまいになさって
何か楽しい事を致しとう御じゃります」

徳川綱吉
「ふん」

小石君
「何よ・・・」

徳川綱吉
「つまらん」

小石君
「わらはは、不幸じゃ」

徳川綱吉
「後西天皇の第二皇子有栖川宮幸仁親王の事を
教えろ」

小石君
「楽しいお方よ」
「あんたとは、正反対!」

徳川綱吉
「ひ弱な凡じゃの」

小石君
「賢い、勤勉なお方ですわ」

徳川綱吉
「歌でも詠んで遊んでおるのか」

小石君
「それで、良いでありゃます」
「あなたは、真、つまらぬお方」



板倉重矩
ーーーーー畏まるーーーーー

将軍家綱
「老中復帰で、慌ただしいが許してくれ」

板倉重矩
「何を、仰せで御座いますか」
「老中への復帰が叶ったのは
上様の御蔭で御座います」
「重矩、深く痛み入り感謝申し上げます」

将軍家綱
「んんゥ」
「ところで、調べは付いたか?」

板倉重矩
「伊達宗勝、伊達宗重、両人の主張が全く
違っております」
「証言は食い違ったまま
全く進展は御座いません」

将軍家綱
「困ったのォー」
「なァ」
「儂も、其方の屋敷に行って見ようと思うが
駄目か?」

板倉重矩
「今は、審問中ですから
上様は御遠慮願えませんか?」
「審問の最中に上様がお越しになると
公平な審問に支障が御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「でもな」
「儂も参加したいぞ」

板倉重矩
「では」
「審問の状況を逐次お知らせに参ります」
「上様はそれをお待ち下さいませ」

将軍家綱
「左様か・・」
「ところで、京の様子は如何であった?」

板倉重矩
「はい」
「京都の庶民の贅沢を規制して、
それを正して参りました」

将軍家綱
「ほォー」
「あっさり、片付いたのじゃのォー」
「やはり、吉良上野介は役不足じゃったか?」

板倉重矩
「いいえ」「左様な事は・・・」
「上野介殿には申し訳なく思っております」
「幕府と朝廷の交渉経路が新しく変更に為り
上野介殿はお役御免となり締め出されてしまいました」
「申し訳ございません」

将軍家綱
「左様か・・・」
「まァ」
「あの者には、他にも指南役として
祭事、行事に活躍の場は用意しよう」
「其方が心配する事もあるまい」

板倉重矩
「上様の心遣いに感謝申し上げます」

将軍家綱
「んんゥ」
「伊達騒動じゃがな」
「このまま、膠着状態が続くと困るな・・・」

板倉重矩
「はい」
「こちらで、手に負えぬ場合は
大老(酒井忠清)殿に裁決を委ねる事になります」

将軍家綱
「えェ?」
「忠清!」
「そんな、運びになってるの?」

板倉重矩
「はい」
「大老に判決が委ねられ
決定致します」

将軍家綱
「あのなァ」
「忠清は駄目じゃ」
「あれは、まともな判決などしないぞ!」

板倉重矩
「・・・・・」
「大老が決定権を持っております」

将軍家綱
「あッ」
「そうじゃ!」
「忠清に判決させる前に
儂が判決する!」
「忠清には知らせるな!」

板倉重矩
「上様!」
「順番が御座います」
「老中で解決出来ぬ事例は
大老が判決し、その判決結果は
上様に報告が上がり承認される事」
「変更は難しいと・・・・」

将軍家綱
「儂は、何も出来んではないか・・・」

板倉重矩
「大老を信頼なさいませ」

将軍家綱
「んんゥ」
「信綱の方が良かったのォーー」
「忠清かァーーー」

板倉重矩
「上様には多くの忠臣が付いております」
「大老も又、上様の忠臣で御座います」
「ご信頼下さいませ」

将軍家綱
「もォーーー」
「何でじゃ!」
「其方は、忠清と対立しておると聞いたぞ」
「何で忠清を庇うのじゃーーーー」

板倉重矩
「大老の落ち度は咎めます」
「しかし、良い行いは御座います」
「全てを否定することはありません」

将軍家綱
「左様か・・・」
「では、大老に任せる事が無いように
老中で判決が出ることを期待しておる」
「大老に任せては為らんぞ!」

板倉重矩
「では」
「逐次、ご報告に参ります」

将軍家綱
「良い、結果を待っておる」

板倉重矩
ーーーー畏まるーーーーー



徳川綱吉
「おい!」
「家綱!」
「話がある!」

徳川家綱
「おォォ」
「・・・・・・」
「何じゃ?」

徳川綱吉
「おい!」
「伏見宮と鷹司 は格式が違うぞ!」
「天皇の后は鷹司教平{のりひら )の子
房子(霊元天皇中宮)じゃ!」

徳川家綱
「左様か・・・」

徳川綱吉
「其方は伏見宮
儂の御台所は鷹司教平の子
信子じゃ!」

徳川家綱
「んんゥ」
「何の話?」
「何じゃ?」

徳川綱吉
「何じゃと!」
「儂を怒らせるきか!」
「ド阿呆がァーー」

徳川家綱
「其方の顔は
近くで見ると凄い迫力じゃのォ」
「最近、凄まじいくなってきたぞ」

徳川綱吉
「おい!」
「家綱!」

徳川家綱
「何を怒っておる」
「何じゃ?」
「何が言いたいのか
儂にも分かるように教えてくれ・・・?」

徳川綱吉
「早く!儂に将軍の位を譲れ!」

徳川家綱
「それは、無理じゃ」
「老中が許さん」
「大老が許さん」
「御三家が許さん」
「家臣が許さん」
「庶民が許さん」
「だから、諦めろ!」

徳川綱吉
「お前が、一言
将軍の位を、綱吉に譲ると宣言すれば良い」
「簡単ではないか!」
「早く宣言しろ!」
「ほら!」

徳川家綱
「其方は、言いだすと限りなく
同じ事を繰り返す癖があるぞ」
「もう、大概にせよ」
「ほどほどにする事は
肝要じゃぞ」

徳川綱吉
「お前は、最近、仙台藩の動きに
関心があるようじゃから教えてやる」

「忠清は、朝廷を操っておるぞ!」
「後西天皇と伊達綱宗は従兄じゃ!」
「忠清の権力で
伊達綱宗は強制隠居!」
「後西天皇は退位じゃ!」
「お前も、甘えた考えを持っておれば
失脚させられるぞ!」
「甘ったれが!」

徳川家綱
「忠清にその様な力は無い」
「あの者は駄目じゃ」
「仙台藩の事は
其方よりも儂の方が良く知っておるぞ」
「儂の采配を見ておれ」

徳川綱吉
「まだ、そのような甘えったれた事を言うか!ド阿呆!」
「お前は、忠清を舐めている」
「忠清の言いなりのひよっ子じゃぞ!貴様は!」

徳川家綱
「んんゥ」
「其方の迫力は凄まじいのォ」
「お主ならば、あの忠清も黙らせる事が出来るぞ」

徳川綱吉
「お前は、将軍に向いて無い」
「今に、忠清が権力を握り
幕府を奪い取るぞ!」

徳川家綱
「それは、無理じゃ」
「無理、無理」
「忠清なんぞに何が出来る」

徳川綱吉
「忠清は、朝廷を支配して
将軍をすり替えようと目論んでおる」

徳川家綱
「如何やって?」

徳川綱吉
「有栖川宮家の幸仁親王を徳川将軍に
する為、画策しておる!」

徳川家綱
「左様か」

徳川綱吉
「おい!」
「何とかしろ!」
「ド馬鹿野郎!」

徳川家綱
「話は、それだけか?む」

徳川綱吉
「おい!」
「儂を本気で怒らせるなよ」
「後悔するぞ」
「お前は一生後悔するぞ」
「いいか、
早く儂に将軍の位を渡せ」
「早く渡せ!」
「ほら!」
「ぐずぐずするな!」
「ほら!」

徳川家綱
「済まんが、もう帰れ」
「お主は、凄く鬱陶しいぞ」

徳川綱吉
「なんじゃとォォォォーーーーー」
「おらァーーー」
「貴様など
何時でも始末出来るぞ」
「覚えておれ!」

徳川家綱
「・・・・・・」
「お主・・」
「凄い顔じゃぞ」

徳川綱吉
「うるせェー」
「生まれつきじゃ」

徳川家綱
「その様に興奮するな・・」
「為るようにしか為らん」



稲葉正則
「甲斐殿、ご苦労であった」
「宗重(安芸)はねじ伏せたか」

原田宗助
「式部殿は病死に御座います」
「安芸殿は我らの説得にも応じる気配は御座いません」

稲葉正則
「では、安芸も病死してもらわねばならんな・・・」

原田宗助
「それは、無理で御座います」
「老中様の屋敷で審問が続けられております」
「我らが何か不穏な動きを見せれば
直ぐに見つかってしまいます」

稲葉正則
「審問?」
「ねじ伏せよ!」

原田宗助
「それは、・・・老中(板倉重矩)様の屋敷で公平な審問を
執り行っておりますので
強権に対処することは出来かねます」

稲葉正則
「公平だと!」
「誰の指図で申しておる!」
「重矩か!」

原田宗助
「・・・・・・・」

稲葉正則
「大老は短気なお方」
「その大老が何か月も待っておられる」
「我慢の限界じゃぞ!」

原田宗助
「はい」
「必ず、安芸殿をねじ伏せて
ご覧に入れます!」
「今、暫しの御猶予を!」

稲葉正則
「よし」
「では、期限を設けよう」
「三月二十七日までに、始末せよ!」

原田宗助
「首座様・・・」
「それは、とても無理な事で・・・御座います」
「今、審問中の奉行の大勢は安芸殿に
傾いております」
「そのような、短期間に情勢を
ひっくり返すことは出来ません」

稲葉正則
「出来ないじゃと!」
「やれ!」
「死に物狂いでやれ!」

原田宗助
「では、大老様のご支援を賜りたい」

稲葉正則
「三月二十七日に大老邸で決着致すが」
「大老は審議することは無い」
「決着を付けるために
大老邸に集まる」
「審議は無い」

原田宗助
「審議を為さらぬと!」
「何故ですか?」

稲葉正則
「安芸の主張は通さん!」
「幕府と仙台藩の密約を守れ!」

原田宗助
「安芸殿の願い届を聞き入れず
無視為さるので御座いますか?」

稲葉正則
「大老を困らせては為らんぞ」
「大老邸には集まるが
審議は為らん」
「幕府と仙台藩の密約は
朝廷とも関わるのだ」
「絶対に守れ!」

原田宗助
「やはり、儂には役不足で御座る」
「何卒、大老様に、ご決断賜りたいと存じ上げます」

稲葉正則
「お主は、伊豆守より賄賂を貰っておったな!」

原田宗助
「いいえ」
「儂は、賄賂など貰ってはおりません」

稲葉正則
「いいや、帳簿に記載されておる」

原田宗助
「お待ち下さい」
「賄賂を帳簿に記載するのは
変に御座います」
「何かの間違いでは?」

稲葉正則
「其方、御奉公代を貰い受けたであろう!」

原田宗助
「はい」
「伊豆守様より労いを頂きました」

稲葉正則
「ほれ」
「賄賂を受け取っておる」
「自白じゃな」

原田宗助
「恐れながら、
そのような、賄賂は一切受け取ってはおりません」
「御許し下さい」

稲葉正則
「お主は、地獄の一丁目に足を踏み入れておる」
「逃げられはせん!」

原田宗助
「儂は、秘密を知り過ぎておると・・・」

稲葉正則
「いやいや」
「其方を信用しておるから申しておる」
「幕府と其方は一心同体じゃ」
「しかし、裏切れば破滅が待っておる」
「必ず、やり遂げよ!」

原田宗助
「大老様の援助を賜りたい」

稲葉正則
「其方の、志、次第じゃ!」


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