アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

馬のもの言い事件  堺町馬のかほみせ

2022-03-19 10:50:08 | 番外
当時、
堺町馬のかほみせという町芝居があった。
この芝居を題材にした噺が馬のもの言い事件に発展していくこととなる。


鹿野 武左衛門(しかの ぶざえもん、1649年(慶安2年) - 1699年9月6日(元禄12年8月13日))は、江戸時代前期の落語家。江戸落語の祖、大坂難波の出身とも京の出身とも、本名は安次郎?、江戸に出て堺町や長谷川町で塗師をしていたが、芝居小屋や風呂屋で身振り手振りでおもしろおかしく聴かせる「座敷仕方咄」を始めた。

当時1693年(元禄6年)コレラが流行し1万数千人以上が死亡した、南天と梅干の実が良く効くという風評が広がり、めぐりめぐって鹿野はこの事件に連座して召し捕られ大島に流罪(島流し)になる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

当時、
通説ではコレラの流行があったと考えられているが
これには根拠がある。
それは、その症状である。

コレラの症状
潜伏期間は5日以内。普通は2~3日だが、早ければ数時間である。症状が非常に軽く、1日数回の下痢で数日で回復する場合もあるが、通常、突然腹がごろごろ鳴り、水のような下痢が1日20~30回も起こる。下痢便には塩分が混じる。また、「米のとぎ汁」のような白い便を排泄することもある。腹痛・発熱はなく、むしろ低体温となり、34度台にも下がる。急速に脱水症状が進み、血行障害、血圧低下、頻脈、筋肉の痙攣、虚脱を起こし、死亡する。極度の脱水によって皮膚は乾燥、しわが寄り「洗濯婦の手(指先のしわ)」、「コレラ顔貌」と呼ばれる特有の老人様の顔になる。また、乾燥舌(Dry Tongue)の症状もみられる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

しかし、まさにこの時、
生類憐みの令が発令され、厳しく取り締まりを受けていた事を忘れてはならない。
全ての町民は、新鮮な蛋白源を動物から得る事は出来なくなっていた。
今まで、鳥や魚、貝等、を食していた町民は
生きた食材としても、絞めた食材としても、売る事を禁止されたため
新鮮な食材を手に入れる事は出来なくなったのだ。

    では、何を食していたのか?

御触れは、死んだ動物には及んでいない。
今までは、生きのよい魚を食していた町民であるが、
これからは、病気で死んだ魚を食べることになる。
病気で死んだ魚であれば食してもお咎めはないのだ。
これは、魚に限った事では無いので、馬や牛、鳥も同様に
病気で死んだものを食べる以外ない。
病気で死ぬ原因は、当時知られていなかったのであるから
生きのよい動物を殺して食べるよりも
病気で死んだ動物を食べる方が良いと思ったのであろう。
きっと、コレラと思われる病状は
集団食中毒であったと推測される。

さて、馬のもの言い事件であるが
この事件は江戸町民35万3588人を巻き込む大事件に発展する。
この事件の原因は、筑紫団右衛門と八百屋惣右衛門の虚言にあるとされている。

ただ、隠語が隠されているのだ。

それは、梅である。

水戸黄門の俳句には梅里という別名が使われる。
江戸庶民は口を塞がれているが抵抗を試みたのではないか?
梅に願いを込めて
馬のもの言い事件は発展していったのかもしれない。

当時、梅が大量に売れ価格が急騰している。
庶民の儚い抵抗であったのかもしれない。


コメント
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赤穂事件 吉良上野介の影

2022-03-18 10:43:48 | 漫画

 
             赤穂事件 連名による訴え



堀田正俊(大老)
「其方は、水戸守に仕えておるのか?」

山鹿素行(儒学者)
「拙者は、藤井紋太夫殿の紹介で
水戸守に会う事が許されました」

「水戸学の師である朱舜水先生を失い
幕府の方針を定める学問上の信念が危険に晒されております」

舜水の学問は、朱子学と陽明学の中間にあるとされ、理学・心学を好まず空論に走ることを避け、実理・実行・実用・実効を重んじた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

堀田正俊
「んんゥ」
「其方は、朱子学を否定して、
幕府の方針に馴染まず、
赤穂に、お預けとなった」
「そうじゃな!」

山鹿素行
「左様に御座います」

堀田正俊
「また、江戸に戻って来た理由は何じゃ?」

山鹿素行
「某が朱子学を否定するのは
それが今の時代にそぐわないからで御座います」

「将軍綱吉様は朱子学を信じて
迷信に怯えております」
「怯えて、引き籠っております」
「怯えて、無駄な悪霊退治の儀式に大金を費やしております」

堀田正俊
「上様が引き籠り、
儀式にのめり込む事に問題は無い」
「上様が、政務に口出ししない環境が良いのじゃ」

山鹿素行
「今は、儀式にのめり込んでおりますが
これからは、御触れを連発する事が懸念されます」
「儀式では解決出来ぬと悟れば
命令が下ります」
「命令に効果がなければ
更なる命令が下されます」
「綱吉様の怯えの原因は朱子学なので御座います」

堀田正俊
「水戸守は何と申しておった」

山鹿素行
「はい」
「水戸様は、朱子学の危険性を理解しております」
「朱舜水先生の教えも
朱子学を全面的に推し進めるのではなく
空論を排除する事に重きを置いております」

堀田正俊
「んんゥ」
「水戸守の後ろ盾があれば、検討する価値はありそうだ」

山鹿素行
「はい」
「宜しく、お願い申し上げます」

堀田正俊
「申し願いの書状を持っておるのか」

山鹿素行
「はい」
「某は、一度は幕府から拒否された身ですので、
将軍綱吉様の寵愛を受けております犬千代兄弟の連名書状を
持って参上致しました」

堀田正俊
「何と!」
「赤穂の推薦を取り付けておるのか!」

山鹿素行
「左様に御座います」

堀田正俊
「それから、藤井紋太夫殿の書状を見せよ!」

山鹿素行
「はい、これに御座る」

堀田正俊
「この書状は、儂が預かるぞ」

山鹿素行
「それは、困ります」
「藤井紋太夫殿が水戸様を気使い
変な疑いを持たれぬように
書状は焼き捨てるように
きつく念を押されております」

堀田正俊
「儂は、水戸守の後ろ盾で大老をしておるようなものじゃ」
「儂には、上様(綱吉)の後ろ盾が薄い
水戸守の助けが必要なのじゃ」
「この書状は血判状の代わりじゃ」

山鹿素行
「しかし」
「藤井紋太夫殿と硬く約束を致しました」
「その書状は焼き捨てる必要が御座います」

堀田正俊
「朱子学を排除する事は
上様を否定する事じゃぞ」
「儂一人に責任を負わすつもりか!」

山鹿素行
「しかし」
「それは困ります」


             赤穂事件 徳川綱吉の侍講



木下 順庵 (徳川綱吉の侍講)
「上様は、養生法にて正気を保たれました」

柳沢 吉保 (側用人)
「左様か」
「よかろう!」
「其方には、引き続き侍講の名目を与える」

木下 順庵
「有難き幸せに御座います」

柳沢 吉保
「其方は、水戸学を論破出来ると豪語しておるな」

木下 順庵
「はい」
「完膚無きままに、打ちのめしてご覧に入れましょう」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「同じような儒学に思えるが
何が違うのか?」
「答えてみよ!」

木下 順庵
「はい」
「水戸学は、朱舜水の考えに基づく学問ですが
もう、朱舜水は死にました」
「水戸学も朱舜水と共に死んだので御座います」

柳沢 吉保
「光圀が継承しておるぞ」

木下 順庵
「儒学は、日頃の修行なくして成就する事は為りません」
「水戸学は、俗に染まり権威を失って御座います」

柳沢 吉保
「山鹿素行は如何じゃ?」

木下 順庵
「その者は、大変に危険な人物で御座います」
「決して、幕府に近づけては為りません」

柳沢 吉保
「同じ儒学ではないのか?」

木下 順庵
「その者は、朱子学を否定して
幕府の転覆を目論んでおります」
「始末する事が肝要かと・・」

柳沢 吉保
「其方の勧める古学も
朱子学を否定して、暴君を排除する事を正義としておるぞ」

木下 順庵
「古学は朝廷の暴挙を否定する事を旨とするのに対して
素行の主張は幕府の否定に御座います」
「幕府の権力を否定する事を旨としております」

柳沢 吉保
「左様か!」

木下 順庵
「はい」
「水戸学も怪しいと思いますぞ!」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「光圀は上様の失脚を狙っておるのか?」

木下 順庵
「はい」
「光圀の呪いが上様を苦しめております」
「上様を救うには、光圀を排除する必要が御座います」

柳沢 吉保
「悪霊退治の儀式では、上様を救うことは出来んのか!」

木下 順庵
「人心が及ぼす力は体に及び
身体を蝕むので御座る」
「上様は、異常に怯え、苦しみ、体調を崩しておられる」
「これは全て光圀の怨念の仕業」
「お急ぎ下され」

柳沢 吉保
「如何すればよい!」

木下 順庵
「はい」
「先ずは、仁の心で御座る」
「上様による生類憐みの令を通す事が
絶対に必要な事なので御座います」

柳沢 吉保
「それは、大老が拒否しておる!」
 
 
              
               赤穂事件 朱子学の力



木下 順庵 (江戸幕府の儒官)
「恐れながら申し上げます。大老は専横が過ぎます」
「上様に逆らうことは不忠で御座います」

堀田正俊(大老)
「野良犬の保護を重要と申すか!」

木下 順庵 
「これ、義に御座います」
「堅く正義を守り、自らの利害ではなく
将軍綱吉様の為に尽くすことが忠臣で御座います」

堀田正俊
「其方は儒官として将軍の侍講を務めておるが
幕府の要人は、おのおのの武士道を持っておる」
「幕府を統括する儒官とはいえ
犬の保護を義と申すか!」

木下 順庵
「これ、信に御座います」
「心が清らかに澄みわたっておれば
おのずと、真実は見えて参ります」
「心を見つめ直し
荒々しさを失くし
優しさに目覚めれば
おのずと、朱子学の心意が理解出来るので御座います」

堀田正俊
「朱子学は迷信じゃ!」
「地震や雷が、悪霊の仕業だと申すか!」

木下 順庵 
「これ、智に御座います」
「一切の事象や道理に対して的確な判断を下す為には
心中の惑いを振り払う必要が御座います」
「人心は万物の働きと同化され
人心の腐敗が、災厄を招くので御座いますから
これ、悪霊の仕業と人心は同化され
人心に悪霊が及ばぬ様に
これ、智が御座います」

堀田正俊
「上様は、悪霊払いの儀式にのめり込んでおる」
「もう、迷信を信じるのはやめろ!」

木下 順庵 
「おおおォ」
「何と!」
「朱子学の神髄を蝕む言動!」
「上様に対する謀反!」
「大それた事!」

堀田正俊
「朱子学が迷信だと申す事が、謀反とは、
如何いう了見じゃ!」

木下 順庵 
「朱子学の神髄は深き学問の探求より
いにしえより延々と伝承された真の叡智で御座います」
「その朱子学を迷信と言い
罵る事は、朱子学を信望してやまない上様への
冒瀆にほかならぬ、謀反に御座います」

堀田正俊
「言い掛かり、難癖じゃ!」
「上様に迷信を信じ込ませて
悪霊がいるから退治すると申すのか!」
「悪霊が日光地震を起こしたとでも
申すのか!」

木下 順庵
「ほォ」
「開き直りで御座いますか?」
「では」
「大老は山鹿素行を招き入れたので
御座いますかな?」
 
堀田正俊
「・・・」
「朱子学の都合のよい部分を使い
幕府の儒官となって
幕府の政務に口を挟む皮算用が見て取れる」

木下 順庵 
「これは、これは」
「某、上様の侍講に対して
言っては為らぬ事を申しましたな」
「よいのですかな」
「某は、上様の侍講ですぞ」
「上様の心情は全て手中に御座る」
「大老は、おとなしく
上様の指示に従えばよいのです」
「逆らえば、謀反ですぞ!」

堀田正俊
「野良犬の保護は、其方が自腹を切ってやればよい」

木下 順庵 
「あれあれ」
「大老は、やはり学問が足りませんな」
「修行が足りぬから
真理が見えん」
「全てを金で解決しようと為されておられる」

堀田正俊
「とにかく、生類憐みの令は許さん!」

木下 順庵 
「上様は、苦しんでおられます」
「上様を救う為には
生類憐みの令を発動する以外の良策は御座いませんぞ!」

堀田正俊
「上様を苦しめておるのは
其方が作った迷信や妄想じゃ
悪霊やら災厄を闇雲に使って
上様の心身に悪影響を与えておる」
「馬鹿げた迷信を止める事じゃ!」

木下 順庵 
「ほほーォ」
「主張が山鹿素行にそっくりそのまま」
「同じじゃな」

堀田正俊
「皆が同じ考えを持つのか
それぞれが違う考えを持つのか
学問で決めるべきではないぞ!」

木下 順庵 
「幕府に対抗する者を庇うのですかな?」

堀田正俊
「如何しても儂を謀反者にしたいようじゃな!」

木下 順庵 
「何を仰せですか」
「謀反と為らぬ様に
朱子学を学べば良いのです」
「学問を習得する為には
長い年月が掛かりますが諦めては為りません」
「朱子学は真理で御座いますぞ!」

堀田正俊
「野良犬の保護か!」



            赤穂事件 歴史の闇



稲葉正則(大政参与)
「老中は側用人に従い、
大老を専横と言って批判しておる」
「いよいよ、後が無くなった」

稲葉正休(若年寄)
「左様」
「特に、儒学者の木下順庵は曲者だ」

稲葉正則(大政参与)
「大老が失脚するような事があれば
我らも、ただではおられん」
「一度追放処分を受けた
山鹿素行が水戸守の後ろ盾を受けて
幕府に復帰したそうじゃ」
「先ずは、
素行を取り立てて
順庵を排除せねばならんぞ!」

稲葉正休(若年寄)
「側用人は老中に取り入り
我らの失脚を狙っております」

稲葉正則(大政参与)
「情けない奴らじゃ」
「幕府の体制を改革せねば為らん!」
「側用人の権力を削ぐには
順庵が邪魔じゃ」
「何か良い方法は無いか!」

稲葉正休(若年寄)
「先様(家綱)の偽の遺言が御座る」

稲葉正則(大政参与)
「んんゥ」
「上様の正当性が失われては幕府の危機じゃ」
「偽の遺言は、まだ封印しておく必要がある」

稲葉正休(若年寄)
「某は、大老と反目して老中と共に行動をしておりますから
大村加トを証人として側用人に圧力を加えれば
老中は我らに協力するかも・・」

稲葉正則(大政参与)
「左様か・・」
「大老は孤立しておる」
「独断で政務を取り仕切っておるから
老中の反発を受けておる」
「幕府が体制を保つ為には
老中の協力が不可欠」
「先ずは、大老の孤立を解消する必要があるぞ」
 
稲葉正休(若年寄)
「今、大老は
上様の御触れを拒否出来る程の権力を
持っておりますから
今更、老中を引き入れても
無駄だと申しております」

稲葉正則(大政参与)
「大老が上様を凌ぐ権力を持ち
独断で政務を取り仕切っておれば
老中は存在意味を失う」
「大老は専横を止める必要があるな」

稲葉正休(若年寄)
「では、某が正俊殿と話し合い
老中との協議に応じるように
説得致しましょう」

稲葉正則(大政参与)
「んんゥ」
「今は、幕府の体制が三つに分解されておる
先ずは、我らは老中以下と共闘して
順庵に臨み
順庵の恐ろしい朱子学を捨て去る必要がある」
「順庵は危険じゃ」
「我らには、水戸学が必用じゃ!」

稲葉正休(若年寄)
「順庵を追放できれば
上様を惑わす、悪霊も否定出来ます」
「順庵は朱子学を悪用して
上様を誑かしております」

稲葉正則(大政参与)
「しかし」
「生類憐みの令は厄介じゃぞ」
「順庵は弁が立ち教養があるが、
策略家じゃ」
「上様の弱みを知っておる」
「上様を怨霊を用いて怯えさせ
その、治療と称して安心感を与える」
「治療は、悪霊退治の儀式から始まり
生類憐みの令に至った」
「上様は、もう順庵を信じ込んでおる」
「これは全て順庵の策略じゃ」

稲葉正休(若年寄)
「上様から順庵を取り上げるのは
難しいのでは?」

稲葉正則(大政参与)
「荒療治が必要じゃ!」

稲葉正休(若年寄)
「如何すればよいので?」

稲葉正則(大政参与)
「順庵を・・」

稲葉正休(若年寄)
「順庵に代えて、水戸学を・・」

稲葉正則(大政参与)
「山鹿素行を招き入れる!」

稲葉正休(若年寄)
「んんゥ」
「暴君を排除するのですか?」

稲葉正則(大政参与)
「其方は
誰が暴君だと思う?」

稲葉正休(若年寄)
「大老?」

稲葉正則(大政参与)
「身内を排除して如何する!」

稲葉正休(若年寄)
「今、一番の専横は
将軍の命令が拒否出来る程の権力者大老で御座る」
「山鹿素行を取り入れるのであれば
暴君は大老では有りませんか?」

稲葉正則(大政参与)
「大老は上様の家臣じゃぞ」
「暴君には為り得ん!」



 
            赤穂事件 親子の危機  



戸田忠昌(老中)
「いよいよ、正念場じゃぞ」
「我らの真価が問われておる」

秋元喬知(若年寄)の実父は戸田忠昌 
養父秋元富朝は、甲斐谷村藩の第2代藩主。館林藩秋元家3代。
秋元富朝の娘(戸田忠昌正室) 養子は喬知

秋元喬知
「はい」
「承知しております」

「我らは、館林様の恩恵でこの様に優遇を受けております」
「上様(綱吉)の恩に報いる事が出来ます事は
無上の喜びとなります」
「我らは、上様のこの上ない忠臣となる事が出来ます」

戸田忠昌
「んんゥ」
「良く申した」
「大老は山鹿素行を取り入れ
木下順庵を排除しようと企てている」
「大老の専横は、水戸守の後ろ盾にある」
「そして、光圀は、我らの秘密に気付いた」

秋元喬知
「では、先様(家綱)の偽の遺言を渡した事が
ばれたので・・」

戸田忠昌
「何故だか分からぬが
光圀は偽の遺言を咎める事を躊躇しておる」
「しかし、大老が巨大な権力を持っているのは
上様にうしろめたさが有るからに相違ない」
「このまま大老が権力を握っておれば
上様は怯え続ける事になる」
「上様の精神を安定させ
静養の為に必要なのは
木下順庵の朱子学に基ずく人心の仁にある」
「順庵は仁をもって
生類憐みの令を推奨なされた」
「今、上様を救う方法は
生類憐みの令を発令し、庶民に仁の心を広める事以外はないぞ」

秋元喬知
「大老が決断すれば
偽の遺言が公表され
我らは打ち首、改易は免れません」
「大老が黙っているからと言って
安心は出来ません」

戸田忠昌
「んんゥ」
「上様の御触れを拒否しきれなくなれば
最後の手段として公表される筈」
「もう、時が無いぞ」

秋元喬知
「はい」
「では」
「側用人からの大老を始末せよとの御命令・・」
「如何に・・・?」

戸田忠昌
「我らが直接手を下す事は無策」
「相打ちが良いと思うぞ」

秋元喬知
「では」
「稲葉を仕立てますか」

戸田忠昌
「大老と稲葉を相打ちさせる事が良策」

秋元喬知
「今、老中と大老は反目しておりますから
老中で後片付けをしては・・・」

戸田忠昌
「よし」
「儂は、大久保忠朝に協力を求める」
「お前は、稲葉の覚悟の偽遺言を用意しておけ」
「稲葉は覚悟の討ち死にをしたとな・・」

秋元喬知
「では、阿部正武を加え
作戦を・・」

戸田忠昌
「大老が始末されれば
我らは安泰、上様は安堵なされる」
「側用人からの催促もある」
「これが我らの仕業だと分からぬ様に
綿密に作戦を練らねばならんぞ」

秋元喬知
「お任せ下さい」

戸田忠昌
「それから、大村加トの名刀を用意しておけ」

秋元喬知
「それを使うので・・」

  
              赤穂事件 責任転嫁



将軍綱吉
「大老は誰に切られた・・」

柳沢吉保
「はい、若年寄稲葉に御座います」
「大老と稲葉は
切り合いの末の相打ちに御座います」

将軍綱吉
「儂のせいか?」

柳沢吉保
「上様には責任は御座いません」
「あの者達の喧嘩に御座います」

将軍綱吉
「儂のせいにする者がおるかも知れんぞ・・」
「殺生をしては為らんぞ!」
「順庵が申しておる」
「儂の苦しみは、仁によってのみ癒される」
「いたわりの心根が、儂の苦しみを消し去るのじゃ」
「大老は何で死んだ?」

柳沢吉保
「はい」
「互いに切り合いの喧嘩で御座います」

将軍綱吉
「儂のせいか!」

柳沢吉保
「上様には責任は御座いません」

将軍綱吉
「おい」
「嘘を付くと、真実に背くぞ」
「真実と正しい行いによって
いつくしみは成立するのじゃ」

柳沢吉保
「稲葉正休は、
淀川の治水事業の任から外される事に不満をつのらせ
切りかかり、喧嘩となりました」
「上様の責任は
一切御座いません」

将軍綱吉
「その話は何度も聞いた」
「切合いで共に死んだのか?」

柳沢吉保
「最初に切りかかった稲葉は
老中が切りつけました」
「噂を気にしては為りません」

将軍綱吉
「儂のせいか?」

柳沢吉保
「心配はいりません」
「上様には、静養が必要で御座います」

将軍綱吉
「光圀が怒るぞ・・」

柳沢吉保
「いいえ」
「光圀の力は失われました」
「もう、光圀を恐れる必要は御座いません」

将軍綱吉
「何故じゃ・・」

柳沢吉保
「光圀は大老の後ろ盾となり
生類憐みの令を阻んでおりましたから
大老を失えば、もう力は有りません」
「光圀は無力となりました」

将軍綱吉
「いやいや」
「光圀は色々と儂の弱みを握っておるぞ」
「儂を誅殺しようと企んでおるぞ」
「・・・・・」
「光圀を始末しろ!」

柳沢吉保
「御意」
「光圀を捕らえ、処罰致します」

将軍綱吉
「えェ」
「ちょっと待て」
「捕らえるのか?」

柳沢吉保
「如何致しますか?」

将軍綱吉
「お前が考えろ!」

柳沢吉保
「では」
「今回の事件を光圀のせいにしましょう」

将軍綱吉
「お前に任せる・・」


           赤穂事件 光圀の退却




徳川光圀
「大老と稲葉正休が喧嘩の末
共に殺害されたと・・」

林 鳳岡
「上様は苦しみ、責任転嫁を考えておりますぞ」
 
徳川光圀
「儂の罪とな?」

林 鳳岡 
「大老殺害に使われたのは
大村加トの名刀」
「そして、今は大村加トは水戸の家臣」
「更には、
水戸家老の藤井紋太夫と山鹿素行の結託が
明らかになりましたぞ」

徳川光圀
「上様と、直接 話をせねば為らんな」

林 鳳岡
「上様は、側用人と順庵以外近づけません」
 
徳川光圀
「其方も、会えんのか?」

林 鳳岡
「完全に引き籠っておられます」
 
徳川光圀
「承知した」
「儂は、隠居の申し出をして
一旦水戸に帰る事にする」

林 鳳岡 
「英断に御座います」

徳川光圀
「確認じゃが
切りかかった稲葉は誰に殺害されたのじゃ?」

林 鳳岡 
「はい」
「老中三名に御座います」

徳川光圀
「稲葉は大老と共に
生類憐みの令を阻止しておった」
「大老を切り殺す動機が無いぞ」

林 鳳岡 
「稲葉殿は
大坂の淀川の治水事業に関する意見対で
大老を憎んでおりました」

徳川光圀
「大坂の事業は間接的に関わっておった
江戸にて関与は難しい
意見対立はこじつけじゃぞ」

林 鳳岡 
「左様で御座います」
「これは、全て上様の指示で御座います」

徳川光圀
「んんゥ」
「もう、生類憐みの令は阻止出来んのか・・」

林 鳳岡 
「出来ません」

徳川光圀
「儂が江戸に居座れば如何なる?」

林 鳳岡 
「大変に危険で御座います」
  
             赤穂事件 お目こぼし




安藤重博(奏者番)
「光圀が逃げました」

戸田忠昌(老中)
「んんゥ」
「所詮、我らが太刀打ち出来る相手ではない」
「逃げてくれて良かったぞ」

安藤重博
「では、光圀の事は、ほっておけば宜しいので?」

戸田忠昌
「大老と稲葉を同時に潰せたから
もう、光圀には対処出来ん」
「上様に対抗する事は出来ん」
「だから逃げたのじゃ」

安藤重博
「上様は、生類憐みの令が発令され
事の他、お喜びの事」
「気持ちが晴れて
健やかに為られました」
「仁の心が、病を消し去ったと申しております」

戸田忠昌
「んんゥ」
「生類憐みの令が上様を救ったのじゃ」

安藤重博
「上様は、犬や猫、鳥を憐れむように申しております」

「鳥を撃っては為らぬ」
「犬や猫をつないでは為らぬ」

「これで、上様は救われたので御座いますか?」

戸田忠昌
「いやいや、左様」
「将軍の列に犬や猫が横切ってもかまわんと申され」
「犬や猫はつないでは為らんと申された」

安藤重博
「将軍の列を横切る犬や猫を切り捨てた者が
処罰されたとか?」

戸田忠昌
「少々、やり過ぎじゃな」

安藤重博
「左様」

戸田忠昌
「ところで、赤穂の犬千代兄弟の事
指南の吉良は如何しておる?」

安藤重博
「はい」
「今は、あの者は江戸に帰っております」
「上様は、元気になられ
あの者に一層の活躍を期待なされました」
「あの者は指南役として
大きな力を付けております」

戸田忠昌
「左様か」
「それで、其方が赤穂に赴くのか?」

安藤重博
「左様」
「上様は、赤穂の犬千代兄弟を寵愛為されております」
「某は、岡山にて監視役を命じられております」

戸田忠昌
「んんゥ」
「そういえば、岡山の松山藩第3代藩主水谷勝美が無嗣子ゆえ
末期養子・水谷勝晴をとったが遺領が許されないようじゃな」

安藤重博
「岡山藩は酒井忠清を庇ったとして
御取り潰しの候補となつておる」
「遺領が許されぬのは其の為じゃ」

戸田忠昌
「浅野は拡大して
領地を拡大しておる」

安藤重博
「岡山は、いずれ浅野の領地となりましょう」

戸田忠昌
「おい」
「其方が、岡山を取れば良いではないか」

安藤重博
「如何にして?」

戸田忠昌
「先ずは、岡山の松山藩じゃ」

           赤穂事件 綱吉体制の始まり



木下 順庵 (綱吉付の儒学者)
「これからは、邪魔する者もおらんから
上様は、心が休まる筈」
「仁による、良い世の中になりますぞ」

林 鳳岡 (幕府の儒学者)
「不正を働く代官は全て追放し
市中の傾奇者もなくなり
庶民は上様の功績を大いに称えております」
 
木下 順庵 
「ただ、これらの功績が上様では無く
大老の実力だったと申す者がおる」
「上様は、酷く憂いておられる」
「上様は、仁の心を広く庶民に浸透させよと申された」

林 鳳岡 
「少々、心配が御座います」
    
木下 順庵 
「仁の心根じゃ!」
「上様は学問好きじゃぞ」
「良く学び精進しておられる」
「何も心配は御座らん」

林 鳳岡 
「少々、神経質な面が御座います」
「上様は、呪いや祟りに怯えておられたが
生類憐みの令が発令出来た事で
落ち着きました」
「ただ、今度は、神経質な面が支障となっておられます」
 
木下 順庵 
「上様の衰弱を治したのは
この儂の静養法のお蔭じゃ」
「儂の治療法が上様には一番良いのじゃ」

林 鳳岡 
「上様は、呪いや祟りを気にされておられたが
今度は、穢れに対して異常なほどに神経質でおられる」

木下 順庵
「これ、全て朱子学の教えじゃ」
「其方は、穢れを受け入れるつもりか!」
 
林 鳳岡 
「上様は、顔に血の付いている小姓に激怒なされ
島流しにしました」 

木下 順庵 
「あれは、顔に吸い付いた蚊を叩き潰したからじゃ」
「蚊の命を憂いたのじゃ」

林 鳳岡 
「上様は、血の穢れを極度に嫌い
鼻血、痔、月経、から針灸に至る
様々な血を受け入れる事は出来ません」
「潔癖症となっておられます」
    
木下 順庵 
「血が穢れの象徴となるは
我が朱子学の教え」
「何も気にする事では御座らん」

林 鳳岡 
「しかし、擦り傷一つで血が出るたびに
島流しは酷う御座います」
 
木下 順庵
「良く拭い、手ぬぐいを巻き付け
血を見せぬ事が肝要」
「我が朱子学は
上様の圧倒的な支持を得ておる」
「庶民に対しては広く朱子学に則る生活を推し進め
仁の心を持って安らかで豊かな生活をする様に規制する事が
我が教えなのじゃ」
 
林 鳳岡 
「少し、やり過ぎだと思いませんか?」

木下 順庵 
「上様の偉業は
儂の教えからくるのじゃぞ」
「其方の役割は、終わった」
「大老、光圀が去り
朱子学を妨げる者は処罰され
追放される」
「山鹿素行も死んだ」

林 鳳岡 
「何故で御座いますか?」
 
木下 順庵
「幕府の暴君を批判したからじゃ!」
 
林 鳳岡 
「大老を暴君として
批判したのですか?」
    
木下 順庵
「いいや」
「上様を批判した謀反人が
山鹿素行じゃ」
「この調べは
水戸の家老にも及んでおる
光圀も謀反となるぞ!」
 
林 鳳岡 
「今まで大老が担っておりました政務は
水戸守の後ろ盾あってのもの」
「上様は、今までの体制を一新して
独裁体制を目指していると思います」
 
木下 順庵
「上様は、将軍じゃぞ」
「独裁で問題は無い」
「上様に逆らう者は謀反じゃ」
「其方も、気を付ける事じゃ」
 
林 鳳岡 
「先様(家綱)は、御触れは出しませんでした」
「先様は、殉死、切腹、島流しを命じる事は有りませんでした」
「しかし、上様は容赦なく無慈悲な命令を出しておられる」
「この状況を変えることが出来るのは
其方では有りませんか?」

木下 順庵
「其方は、勉強不足じゃ」
「もっと学べ!」       


            赤穂事件 過ちは改める



将軍綱吉
「柳沢を儂の学問の弟子にする」

柳沢吉保
「はい」
「某は、上様の弟子で御座います」

将軍綱吉
「光圀は多くの過ちを犯した」
「しかし」

「過ちては改むるに憚ること勿れ」

「光圀は、体裁や対面などにとらわれず
過ちを正せばよい」

柳沢吉保
「はい」
「光圀に過ちを正すように申し付けます」

将軍綱吉
「光圀の過ちは何じゃ!」

柳沢吉保
「はい」
「上様が習得した朱子学を批判した事で御座います」

将軍綱吉
「具体的に申せ!」

柳沢吉保
「はい」
「上様が信仰する悪霊払いに参加しない事」
「上様に日光詣を強要する事」
「これらは、行き過ぎた過ちで御座います」

将軍綱吉
「違う!」
「藤井紋太夫じゃ!」

柳沢吉保
「はい」
「大老の屋敷から
水戸家老藤井紋太夫の覚書が見つかりました」
「山鹿素行と結託して
謀反を企んでおりました」

将軍綱吉
「んんゥ」
「光圀も共犯じゃ!」

柳沢吉保
「大老は光圀と結託して
幕府を牛耳る事を目論み
将軍を飾り物にして
権力を奪い取る事を考えていた」
「これは上様に対する謀反で御座います」

将軍綱吉
「儂は、光圀に大きな弱みを握られておる」
「しかし、儂を蔑ろにして
儂から権力を奪い
大老の傀儡とする企てが明らかになった」

柳沢吉保
「過ちては改むるに憚ること勿れ」と光圀に申し付け
藤井紋太夫を呼びつけ光圀に釈明させます」

将軍綱吉
「これは、光圀の弱みとなる」
「儂は、もう、光圀に叱られる事も無い」

柳沢吉保
「御意」
「逆に、上様が光圀を呼びつけ叱ってやれば宜しいかと・・」

将軍綱吉
「余は、酒井忠清、大老堀田正俊、そして、
光圀から大きな圧力を受けて
精神がおかしくなった」
「今、余の行いに干渉するのは
光圀一人だけになった」
「光圀にも余が苦しんだ同じ苦痛を
味わってもらう」
「光圀を追い詰めて、余に屈服させよ!」

柳沢吉保
「御意」

将軍綱吉
「藤井紋太夫の覚書を添えて
光圀に過ちては改むるに憚ること勿れと申しつけよ!」

柳沢吉保
「御意」

将軍綱吉
「あっははは」
「先ずは、良識を身に付ける事じゃ」
「これは、民の上に立つ者には不可欠である」
「良識があるからといって
褒められることはないかもしれんが
良識があれば賢人達に認められる」
「賢人の知恵は成功への大きな道しるべとなる」

柳沢吉保
「賢人は順庵殿で御座いますか」

将軍綱吉
「順庵は学問の師
儒学者を集め学問を究めるのじゃ」
「光圀を論破せよ!」

柳沢吉保
「御意」





            赤穂事件 隠居許可願い




佐々 宗淳 (儒学者)
「将軍より、願い届が御座います」

徳川光圀
「物も言いようじゃな」」
「それは、命令じゃ!」
「儂が水戸に逃げておるから
江戸に引き戻そうとしておるのじゃ!」

佐々 宗淳
「如何致しますか?」

徳川光圀
「儂の隠居願いが許された後に
江戸に赴く」

佐々 宗淳
「承知致しました」

徳川光圀
「代わりに、犬の毛皮を送ってやれ!」

佐々 宗淳
「承知致しました」

徳川光圀
「儂は、その様な事に構ってはおれん」
「それよりも、那須記は興味深い
其方は、那須記にある那須国造を調査せよ」
「湯津上村に古い碑があるという」
「この碑は、那須国造の墓ではあるまいか?」
「古墳を発掘すれば、歴史の事実を知ることが出来る」
「今の朱子学は迷信と思い込みで
儒学者は、己の都合で
歴史や解釈を作り替えておる」
「事実を知る為には
発掘して、石碑に書かれている事を分析する事が必用なのじゃ」

佐々 宗淳
「では、石碑を掘り返して調査する事をお許し下さい」

徳川光圀
「んんゥ」
「湯津上村は藩領でなく旗本知行地であるから
調査は慎重にする事」
「調査した後は、碑を修繕して鞘堂を建てよ!」

佐々 宗淳
「承知致しました」
「・・・・」

徳川光圀
「如何した?」

佐々 宗淳
「はい、主殿の隠居は早すぎるのでは御座いませんか」

徳川光圀
「水戸は、兄君の養嗣子(綱條)が継ぐ
儂は、もう口出しする事はない」

佐々 宗淳
「水戸の家臣が 憂えております」

徳川光圀
「誰も、年を取るのじゃ」
「儂には、時がない」
「早く、大日本史を完成させねばならん」
「隠居は、其の為」

佐々 宗淳
「左様で御座いますか・・」




              赤穂事件 毛皮の贈り物



桂昌院(綱吉の生母)
「健やかになっておったが
また、震えておるのか・・」
「もう、怯えなくても母が付いております」
「さァ」
「母に甘えなさい」

将軍綱吉
「光圀が犬の亡骸を送ってきた」
「汚らわしい」

桂昌院
「犬の毛皮は毬にもなっております」
「穢れてはおりませんよ」

将軍綱吉
「儂が光圀を呼びつけたから
仕返しされたんじゃ」

桂昌院
「はいはい」
「もう、嫌な事は忘れなさい」
「やられて、怯えていないで
やり返してやりなされ」

将軍綱吉
「んン」
「やり返すのですか?」

桂昌院
「そうです」
「光圀殿は生類憐みの令を批判して
犬の毛皮を送って来たのですから
お前が震えて怯えるのを見越しての事ですよ」
「逆に開き直り
もっと過激に生類を憐れむのです」

将軍綱吉
「ううゥ・・」
「また、光圀が怒る・・」

桂昌院
「もう、お前に逆らえる者などおりわせん」
「もっと、自信を持つのじゃ」
「お前のお蔭で
母は、誰からも慕われる存在になれたのですよ」
「もっと、自信を持ちなさい」

将軍綱吉
「んんゥ」
「分かったよ」
「よし」
「過激に、仁を広める事にする」

桂昌院
「そうです」
「生類憐みの令を世に広め為され」

「ところで」
「お前は」
「母が病に倒れたら捨てるか!」

将軍綱吉
「おかあたまァァ」
「何を言い出すのかと思ったら、いきなり
捨てる訳がありませんよォ」
「珍は、おかあたまが死んだら生きてはいけまてん」

桂昌院
「よしよし」
「では、人宿の犬猫が病に倒れたら捨てるか!」

将軍綱吉
「いいえ」
「人宿の犬猫が病になったからといって
捨てては為りません。
その生類を捨てた者を厳しく罰することにします」

桂昌院
「牛馬宿の生類が病に為ったら捨てるか!」

将軍綱吉
「いいえ、捨てません!」
「今日、各所に布達を申し付け
「生きている生類を捨てた者を
厳しく処罰することを通達して
徹底した生類憐みの令とします」

桂昌院
「よしよし」
「如何じゃ!
母の甘言で、お前は健やかに為ったではないのか」
「これは、母のお前に対しての仁じゃぞ」

将軍綱吉
「おかあたまァ」
「珍は、おかあたまに救われまちた」
「うううゥ」

桂昌院
「よしよし」
「もう、何も怯える事などありません」
「母が、お前を守ってやります」

将軍綱吉
「おかあたまァーー」
「うううううゥ」

桂昌院
「よしよし」




           赤穂事件 強権政策





天野五郎太夫正勝(江戸幕府の台所頭)
「これはこれは、大政参与様」
「今回は、直々に台所頭に御足労賜り
感謝致します」

稲葉正則(隠居)
「其方、台所頭であるから
責任を奉公人に押し付ければ良いではないか!」

天野五郎太夫正勝
「いえいえ」
「猫が夜間に悪戯をして
誤って井戸に落ちただけで御座います」
「某が、全ての責任を負う事に致しました」

稲葉正則
「儂は、もう隠居の身じゃ」
「其方を助ける事は出来んぞ!」

天野五郎太夫正勝
「猫が落ちた井戸は使用禁止としております」
「台所に支障は御座いません」
「適切に対処しましたので
大した処罰にはならないかと・・・」

稲葉正則
「お主、知らんのか!」
「生類憐みの令が出ておるのじゃぞ!」
「悪い事は言わん」
「奉公人に罪を押し付けよ!」

天野五郎太夫正勝
「いえいえ」
「この様な些細な事」
「もしも奉公人に罪を着せれば
奉公人は牢に入れられ大変なお叱りを受ける事になります」
「某は、江戸幕府の台所頭で御座いますから
きっと、大した処罰は御座いません」

稲葉正則
「んんゥ」
「其方は、何で水戸守が自領地に帰ったか知らんのか!」
「儂が、大政参与を投げ出して
隠居した理由を知らんのか!」
「大老(堀田正俊)が殺害された理由を知らんのか!」

天野五郎太夫正勝
「某は、上様の政策に口を挟む立場では御座いません」
「きっと、上様はお許し下さります」

稲葉正則
「では、助言する」
「其方は、水戸守に助けを求める事じゃ」
「水戸に使いを出して
この困窮を伝えるのじゃ」

天野五郎太夫正勝
「たかが、猫が井戸に落ちただけの事です」
「水戸守に使いなど出せば
笑われてしまいます」
「そのように大袈裟に騒がずとも宜しいかと・・・」

稲葉正則
「しかしな」
「儂は、其方の身が心配なのじゃ」
「上様は、犬猫の命の方が
其方の命よりも大切だと思っておるように感じる・・」

天野五郎太夫正勝
「まさか!」
「上様は、仁を貴ぶ事を推奨為されております」
「仁は人を貴ぶ事」
「猫と人を比べ
猫が人の上に立つ道理は御座いません」

稲葉正則
「上様は、生類憐みの令を発令為された」
「この法令は
犬や猫、牛や馬の事を憐れむようにとの定めであって
人を慈しむ事では無いぞ」
「上様の心意を図り
身の安全を考えよ!」

天野五郎太夫正勝
「では、如何すれば宜しいので・・」

稲葉正則
「やはり、水戸守に助けを求めるのじゃ!」

天野五郎太夫正勝
「某には、伝手が御座いません」

稲葉正則
「んんゥ」
「よし、では」
「水戸家老藤井紋太夫に助けを求めよ」

天野五郎太夫正勝
「水戸守に迷惑を掛けませんか?」

稲葉正則
「迷惑をかけるが
其方を助ける為には、これしかない」
「生類憐みの令は天下の悪法じゃぞ!」

天野五郎太夫正勝
「んんゥ」
「このように大袈裟になるのであれば
内緒で猫を始末すれば良かったかな?」

稲葉正則
「猫が死んだ井戸水を上様に使えば
其方は、打ち首、お家は断絶
其方の判断は間違ってはおらん」

天野五郎太夫正勝
「・・・・・」
「某は、如何為るのじゃ?」

稲葉正則
「儂が聞いた話では」
「其方は、島流しの刑罰となる」
「儂は、其方が島流しに合うことを阻止したい」

            赤穂事件 濡れ衣



稲葉正則
「京都所司代」
「老中に昇格間地かのおり
犬を切り殺したとあれば
ただではおれんぞ!」

土屋政直
「何を仰せですか?」
「たかが犬を切り殺したところで
大袈裟な・・」

稲葉正則
「誰が切った?」

土屋政直
「某、京より江戸屋敷に移ったばかり
老中に昇格が決まっておりますからな
そんなおり、儂に吠え掛かる野良犬がおった」
「老中に登るおり
野良犬に吠えられるのは縁起が悪い
思わず、剣を抜いておった」

稲葉正則
「其方が切ったのか!」

土屋政直
「左様」
「某が切り捨てた」
「犬如きで大騒ぎするな」

稲葉正則
「いや、上様は本気で処罰しておるぞ!」

土屋政直
「誰か処罰されたのか?」

稲葉正則
「台所頭が八丈島送りの刑となった」
「それから、犬を保護するように申された」
最初は老中の提言で行方知れずの犬は
放置しておったが」
「直ぐに、御触れが変更され
犬がいなくなったら徹底的に探すようにとの事」
「もし、犬を切り殺した事が発覚すれば
遠島などでは済みませんぞ」

土屋政直
「まさか、儂を打ち首にはせんぞ」

稲葉正則
「台所頭には過失はなかった」
「事故で猫が死んだ責任を負って
島送りになったのじゃぞ」

土屋政直
「切ったのではないのか!」
「んんゥ」
「如何したものか?」

稲葉正則
「責任転嫁する以外に
其方が助かる道は御座らん」

土屋政直
「んんゥ」
「小者奉公人に濡れ衣を着せるか」

稲葉正則
「小者は剣を持参しておりませんぞ」

土屋政直
「では」
「中間奉公を身代わりにしよう」

「しかし」
「老中就任間際に、この様な問題が生じるのは
先々、不安じゃぞ」

稲葉正則
「これは、序章に過ぎませんぞ」
「其方の老中就任を喜んでよいものやら」

土屋政直
「おいおい」
「嫌な事を申すな」
「其方は、大政参与ではないか・・」

稲葉正則
「儂は、早々に隠居した」
「それから、水戸守も隠居願いをだしておるぞ!」

土屋政直
「おおォ」
「今、儂は悪寒が走ったぞ」
「そんなに、酷い状況なのか?」
 
稲葉正則
「んんゥ」
「先ずは、帥の仲間奉公人が罪に問われぬように
水戸守から助言を受ける事じゃ」
「藤井紋太夫を頼る事じゃ」

土屋政直
「んんゥ」
「幕府老中は何をしておる!」
「幕府は無力か!」

稲葉正則
「もう、幕府に権力は御座らん」
「権力は将軍綱吉様が独占している状況」
「老中は何の助けにもなりませんぞ!」

土屋政直
「ますます、おかしげになっておるわ」
「これは、全て上様の意思なのか?」

稲葉正則
「上様は、学問好き」
「特に、朱子学を好まれ
順庵を信じ込んでおられる」
「順庵の思惑で幕府は踊らされておる」
「仁の心根と言っておるが
実際は、全くの逆であり
順庵に都合のよい政策の為に
上様は利用されているのじゃ」

土屋政直
「儒学者が毒を撒いておるのか・・」

             赤穂事件 吉良上野介の影



土屋政直
「其方のお蔭で、
儂の身代わりとなった仲間奉公人は開放された」
「感謝致す」

藤井紋太夫(水戸家老)
「某の力では御座らん」
「我が主殿の影響に御座る」

土屋政直
「ただ、又しても犬を切りつけてしまった」

藤井紋太夫
「何と、又に御座いますか?」

土屋政直
「困った・・」
「何とも、忝い」

藤井紋太夫
「少し、変で御座る」
「状況を詳しく教えて頂きたい」

土屋政直
「実は、儂を襲った犬は訓練されておった」
「犬は、七から八匹」
「警護の者を 撥ね除けて
儂に狙いを付けて襲い掛かって来た」

藤井紋太夫
「では、調教された犬を使い
嗾けた者がおると・・」

土屋政直
「左様」
「二度目となれば
言い逃れは出来んな・・」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「苦肉の策じゃ」
「大和守に身代わりになって頂きたい」

土屋政直
「もう駄目じゃ・・」
「息子(土屋昭直)を身代わりになど考えたくもない」

藤井紋太夫
「いいえ」
「大和守は大した罪には問われません」
「大和守の家来に身代わりに為ってもらいます」
「身代わりの家来は江戸から追放処分で収まりますぞ」
「儂にお任せ下さい」

土屋政直
「済まんな・・」
「京より登って来て
少々有頂天になっておった」
「前途多難じゃな・・」
「しかし」
「儂を襲うのは誰じゃ?」

藤井紋太夫
「今、幕府は大老を失い
権力闘争が激しくなっております」
「新参者を快く思わない輩は
沢山おりますぞ」

土屋政直
「おおォ」
「詳しく教えてくれ」

藤井紋太夫
「儂は、幕府に精通してはおらんが
内部の情報は、火消し大名に聞く事じゃな」
「浅野内匠頭は火消し大名として
名を馳せておる」

土屋政直
「なるほど」
「敵の事が分からねば
対処も出来んな」
「しかし」
「生類憐みの令は難儀じゃぞ・・」

藤井紋太夫
「左様」
「魚鳥類を生きたまま食用として売ることが禁止された」

土屋政直
「絞めてから売れと・・」

藤井紋太夫
「皆が同じように考えたから
今度は、追加の御触れが出た」
「御触れが出て急に鳥を絞め殺すのはいけない。生きた魚、生いけすの魚、貝類のほか鯉、鮒、海老など生きたものの商売は禁止になった」

土屋政直
「生きたままでも、絞めても駄目と申される・・」
「では、上様は菜食を徹底せよと申されるのか?」

藤井紋太夫
「あっはは」
「上様は、何でも召し上がる」

土屋政直
「一体全体如何なってるんだ?」

藤井紋太夫
「この訳の分からん御触れを利用して
犬を嗾け、嫌がらせをしている輩がおるぞ」
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赤穂事件 朱子学排除連名

2022-03-03 11:22:12 | 漫画
 

稲葉正休(若年寄)
「大層な剣幕、・・何用で御座いますか?」

堀田正俊(大老)
「ああ」
「其方に騙された・・」

稲葉正休(若年寄)
「いきなり、何ですか!」
「某が、何を騙したと仰せですか?」

堀田正俊
「其方が、先様から預かったとする遺言は偽物じゃな!」

稲葉正休
「某は、先様の将軍近習で御座ったゆえ
いざという時に混乱を避けるために、預かっておりました遺言状
何を根拠に左様な疑いを持たれる?」

堀田正俊
「証人がおる」
「その、偽の書状を書いた本人がおるのじゃぞ」

稲葉正休
「んんゥ」
「・・・・・・」

堀田正俊
「観念しろ」
「覚悟を決めて、諦めろ・・」

稲葉正休
「その、証人の名は・・?」

堀田正俊
「匠の大村加トじゃ」

稲葉正休
「大村加トが名乗り出たので御座いますか?」

堀田正俊
「やはり、そうか!」
「其方は、偽の遺言が大村加トが代筆した事を知っておったな!」

稲葉正休
「んんゥ」
「某を処罰する御積りか!」

堀田正俊
「いや」
「其方を裁く事は無い」
「ただ、条件があるぞ」
「上様は、引き籠りが激し過ぎる」
「引き籠って、多くの無茶な御触れを出そうとしているのじゃ」
「幕府の安泰を考えれば、上様の失脚は避けたいが
かといって、自滅の道を選ぶ訳には参らん」
「其方は、将軍である上様の正当性に懸念は無いのか?」

稲葉正休
「分かりました」
「某は、上様の暴走を食い止めて
幕府の安泰に努めようと思います」
「其の為に、上様の権力を削ぐ事を目的として
偽の遺言を利用しようと思います」

堀田正俊
「よくぞ申した」
「・・・・んんゥ」
「ところで、上様は何故に犬の保護に熱心なのであろうか?」

稲葉正休
「よくは存じ上げませんが、
話によれば、何やら怪しげな儀式を隠れてしておりまして、
御犬は、上様の守り神との事」
「御犬を粗末に扱えば祟りがあると信じております」
「きっと、柳沢の知恵で御座いましょう・・」

堀田正俊
「左様か・・」
「では、困った事が起きたぞ」

稲葉正休
「何で御座る?」

堀田正俊
「んんゥ」
「地震じゃ!」
「儂は、お犬の保護を許可しなかったが
運悪く、地震が起きてしまった」

日光地震(にっこうじしん)は、1683年6月17日 - 10月20日(天和3年5月23日 - 9月1日)に、栃木県北部の日光付近で発生した群発地震である。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)


稲葉正休
「そういえば・・」
「日光は主祭神が徳川家康公、相殿に豊臣秀吉公・源頼朝卿」
「この地震は厄介ですな・・」

堀田正俊
「上様が心配じゃ・・」

稲葉正休
「では、御犬の保護を認めますか?」

堀田正俊
「それは、為らん!」

稲葉正休
「しかし、日光の地震は起こる時期が悪すぎました」
「一旦、上様に妥協する事が得策で御座います」

堀田正俊
「んんゥ」
「しかし、江戸市中の野良犬を保護するとなれば
大事じゃぞ」
「幕府は金欠じゃ」
「絶対に無理じゃ!」

稲葉正休
「上様がお怒りになりますぞ!」

堀田正俊
「その時には、偽の書状を提示して将軍としての正当性を問う!」



              赤穂事件 大石内蔵助参上 



 この年の6月23日(8月15日)にはじめて所領の赤穂に入り、大石良雄以下国許の家臣達と対面した。以降、参勤交代で1年交代に江戸と赤穂を行き来する。
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大石内蔵助
「主殿」
「お帰りなさいませ」

浅野内匠頭
「大石良重(大石内蔵助の大叔父)殿を連れ帰る事が出来なかった
済まぬ事・・」

大石内蔵助
「大叔父は如何なさったので御座いますか?」

浅野内匠頭
「饗応で過労があったのじゃ」
「健勝で御座ったのに」
「赤穂の損失じゃ・・」

大石内蔵助
「指南役の吉良上野介が、いちゃもんを付けておったと聞きましたが?」

浅野内匠頭
「江戸屋敷に毎日来ては菓子折りを置いていった」

大石内蔵助
「菓子・・」

浅野内匠頭
「大叔父殿は要らぬと申しておったがな・・」
「遠慮するなと言って置いていったそうじゃ・・」

大石内蔵助
「吉良上野介が何か知っているかも知れません・・」
「何か心当たりは御座いませんか?」

浅野内匠頭
「指南役は名ばかりで
仕事は何もせず、いちゃもんを付ける事で
必要経費を着服していたそうじゃ」

大石内蔵助
「しかし、何故、左様なケチが
菓子折りを持って来たのか?」
「毎日、菓子折りを持って挨拶に来ておったのか?」

浅野内匠頭
「大叔父殿は菰野藩主・土方雄豊殿との連名で
数々の悪行を幕府に報告すると申して、吉良を脅しておった」
「吉良は、赤穂を恐れておったと思うぞ」

大石内蔵助
「吉良上野介か・・」
「その者、如何なる顔をしておりますか!」

浅野内匠頭
「嫌な顔じゃ」

大石内蔵助
「如何様に嫌な顔で御座る」

浅野内匠頭
「そうよのォ」
「色々と悪事をしておるような顔じゃ」

大石内蔵助
「某が江戸に御供する時には
吉良上野介など、この棒で打ち据えてご覧致しますぞ!」

浅野内匠頭
「おおおォ」
「頼もしいのぉ」
「上野介がヒイヒイと泣き叫ぶ声が聞こえそうじゃ」
「愉快、愉快」

大石内蔵助
「主殿を辱める事は絶対に許しません!」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「頼りにしておるぞ!」
 
 

           赤穂事件 大老排除計画




稲葉 正休 (若年寄)
「大老(堀田正俊)は、江戸市中の犬の保護には反対で御座る」

牧野 成貞 (綱吉の側用人)
「其方も反対しておるのかな?」

稲葉 正休
「幕府の方針で御座る」

牧野 成貞
「日光地震で上様がお怒りじゃ!」
「江戸市中の犬の保護が出来ぬから地が揺れたと申しておる」

稲葉 正休
「お咎めが御座いますか?」

牧野 成貞
「処罰は免れまいな!」

稲葉 正休
「江戸市中には捨て子も絶えません
捨て子を捨て置き、犬を庇うのは如何なものか?」

牧野 成貞
「上様は、徳川将軍家の世嗣の長男(徳川 徳松)を亡くしたのじゃ」
「御犬の祟りじゃと申しておる」

稲葉 正休
「んんゥ」
「世嗣を亡くし、直ぐに日光地震・・」

牧野 成貞
「上様の苦悩が如何許りか、ご察し下され!」

稲葉 正休
「しかし、犬の保護とは関係ありませんぞ!」

牧野 成貞
「其方は、大村加トに期待しておるのか!」

稲葉 正休
「んんゥ」
「何の事・・」

牧野 成貞
「その者は、もう証人にはなれんぞ・・」

稲葉 正休
「・・・・」

牧野 成貞
「上様は、大老を始末せよと申された」

稲葉 正休
「大老を・・」

牧野 成貞
「大老を庇った者も同罪じゃ!」

稲葉 正休
「・・・・」

天和3年(1683年)、水害に悩まされていた淀川に赴き、河村瑞賢の随伴による視察を行い「淀川治水策」をまとめる。治水費用として4万両の費用を計上するが、不審に感じた堀田正俊が別途、随行した瑞賢に問いただした所「半額の2万両でも可能」との意見を得た事から、正休は淀川の治水事業の任から外される事となる。
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牧野 成貞
「大老は其方を蔑ろにしておるぞ」

稲葉 正休
「・・・・」

牧野 成貞
「上様に忠義を示せ!」

稲葉 正休
「如何せよと?」

牧野 成貞
「上様は、大老を始末せよと申されておる!」


           赤穂事件 京都所司代補任の頃



戸田忠昌 (老中)
「吉良殿の指南役は不適格との事」
「上様は承知下さいましたかな?」

牧野成貞 (徳川綱吉の側用人)
「指南役は赤穂の浅野長矩に施す事が役目に御座る」
「不適格は御座いません」

戸田忠昌
「大老は吉良上野介をお役目御免に処する事を
承知なされておりますぞ」

牧野成貞
「吉良上野介殿に、ご不満が御座いますか?」

戸田忠昌
「連名の報告書が出ておる」
「指南役は、職務を乱用して経費を着服しておるのだ」

牧野成貞
「指南料は当然の事」
「着服は言い掛かりじゃ」

戸田忠昌
「儂が京都所司代補任の頃じゃが、
京の都は腐敗と堕落で大いに荒廃していた」
丁度その頃、吉良上野介は京の公卿と幕府の連絡係を解任された」
「その後、京の贅沢三昧は改善され」
「京都の庶民は立ち直り、財政も改善された」
「吉良上野介は指南役には適さんぞ!」

牧野成貞
「上様は、嫡男を亡くされ」
「日光地震で心労が重なっております」
「これ以上、変な言い掛かりは
御遠慮頂きたい」
「それよりも、赤穂の浅野長矩を江戸に戻し
吉良上野介の指南を受けさせる事が重要」

戸田忠昌
「全ては、幕府で決定した事」
「吉良上野介は、お役御免に致しますぞ!」

牧野成貞
「駄目じゃ!」
「上様は、大変なお怒り御座る」
「嫡男の事、日光地震は全てお犬の祟りと申しておる」
「江戸市中の犬の保護を拒否した幕府重鎮は責任を負わされるぞ!」

戸田忠昌
「幕府は、資金が枯渇しております」
「もう、悪霊払いの儀式はお止め下さい」
「日光地震の復興資金も必要で御座る」

牧野成貞
「駄目じゃ!」
「御犬の祟りを鎮める為には
悪霊払いをする事が重要だと上様が申しておる」
「御犬を邪険に扱う大老を始末せよとの命令じゃ!」

戸田忠昌
「・・・・」
「大老を処罰・・」

牧野成貞
「大老を庇う者も容赦なく切り捨てられる」

戸田忠昌
「・・・・・」
「御犬を保護すれば
上様の怒りは収まるので・・」

牧野成貞
「もう、遅いぞ!」
「大老は御犬の祟りで・・・」

戸田忠昌
「大老を庇えば・・・」

牧野成貞
「よく考えよ!」
「上様に逆らって、生き残れる者はおらん」
「無駄な抵抗じゃぞ」

戸田忠昌
「んんぅ」
「水戸守は許しませんぞ!」

牧野成貞
「いずれ、光圀も始末する」

戸田忠昌
「なんと!」
「恐れ多き事!」

牧野成貞
「其方は、利口者じゃ」
「上様の権力は絶対じゃぞ」
「逆らってはならん」

戸田忠昌
「御犬のために
大老や幕臣、水戸守を処罰すると申すか!」

牧野成貞
「左様」
「其方は、長生きしたいか!」

戸田忠昌
「んんゥ」
「如何すれば宜い」






           赤穂事件 阿部忠秋の遺産



阿部正武(老中)
「実際、難儀じゃぞ」
「如何したものか・・」

牧野成貞(綱吉の側用人)
「上様は、生類憐みの令を出す事を検討しております」

阿部正武
「御犬の事か?」

牧野成貞
「保護する対象は、捨て子や病人、高齢者で御座る」

阿部正武
「それならば、大いに助かる」

牧野成貞
「では、老中武蔵忍守は合意為さいませ!」

阿部正武
「我が屋敷には、多くの捨て子がおる」
「これは、祖父(阿部忠秋)様の遺産じゃ」
「もう、限界なんじゃ」
「捨て子の保護は幕府でやって欲しい」

牧野成貞
「幕府は大老が仕切っておりますが・・」

阿部正武
「大老は御犬保護を拒否したのだ」
「捨て子は拒否しておらんと思うぞ」

牧野成貞
「いいえ」
「大老は、捨て子や病人、高齢者を見捨てろと申しておりますぞ」

阿部正武
「それは、変じゃ・・」
「御犬保護を拒否したと聞いておるぞ!」

牧野成貞
「同じで御座る」
「捨て子や病人、高齢者を保護したくないから
御犬を引き合いに出して拒否しているので御座る」
「其方は、我らの計画に合意為さいませ!」

阿部正武
「正直、もう限界なんじゃ!」
「捨て子を養う余裕が無いのじゃ・・」

牧野成貞
「助けますぞ!」
「その代わり、我らに協力なさいませ」

阿部正武
「何をすればよい?」

牧野成貞
「先ず、我らの計画を妨害する者共を
始末する必要が御座います」

阿部正武
「乱暴は為らんぞ!」

牧野成貞
「いえいえ」
「話しても諭しても、
言う事を聞かぬ愚か者は始末する以外ありません」

阿部正武
「・・・」
「大老を処罰するのか?」

牧野成貞
「上様は、嫡男を喪い、日光地震を大権現様の警告と恐れ
自念の責に押し潰されそうになっておられます」
「上様は、生類憐みの令で自らを慰めようと為さっておられる」
「これは、我らの計画で御座る」

阿部正武
「大老に、直接 ご忠告為さいませ!」

牧野成貞
「大老は、再三の忠告に耳を貸さず
上様の命令に逆らい、独断で幕府を動かしておりますぞ」

阿部正武
「計画とは?」

牧野成貞
「邪魔者を一掃する事で御座る!」



            赤穂事件 決定的な証拠



徳川光圀(水戸藩主)
「大老(堀田正俊)を引き立て、綱吉の権力を封じる!」
「其の為には、綱吉の将軍としての正当性を訴却する事が重要」
「先様(徳川家綱)の遺言が偽物だとする
決定的な証拠と証人を示す必要が出て来た」

大村加ト(光圀の侍医、御伽衆、進物番)
「はい、覚悟は決めて御座います」
「あの遺言は、某の作製した偽物で御座る」
「綱吉様の、将軍就任は訴却されねばなりません」

稲葉正則(大政参与)
「水戸守に従います」
「大老や幕府の重鎮を纏め上げれば
将軍の無謀な政策に対抗することが可能で御座る」

徳川光圀
「んんゥ」
「加ト殿!」
「心配は要らん!」
「其方には、常に護衛を付けておる」
「怪しい者は近づく事も出来ん」
「大切な証人じゃ!」
「身の安全は保障するぞ!」

大村加ト
「はい」
「某の命は、お預け致す」
「一度は、死んだ身」
「助けて頂いた主殿の為に、命を捧げますぞ!」

稲葉正則
「某も、最大限に協力致しますぞ」
「生類憐みの令は、断固として阻止する必要が御座る」

徳川光圀
「強力な証拠と証人があり「
「幕府の重鎮の協力があれば
生類憐みの令は阻止できる」
「この悪法を許しては為らんぞ!」

大村加ト
「はい」
「断固として、拒否致しましょう!」

稲葉正則
「左様じゃ!」

徳川光圀
「何度も申すが、
大老(堀田正俊)は儂の考えに同意しておる」
「綱吉を封じ込めなければ
幕府は大きな災厄に見舞われる」
「一旦、綱吉の暴走を許せば
もう、後戻りは出来んと思え」
「よいな!」

大村加ト
「松平光長様の協力も必要では御座いませんか!」

稲葉正則
「左様!」
「大老は、期限付きの大名家預け入れ処分としたのじゃ」
「名誉回復の上、復帰させる事が肝要で御座る」

徳川光圀
「んんゥ」
「有力大名の同意も必要じゃ」
「大老と相談して、光長殿を復帰させよう」

大村加ト
「いよいよ」
「主殿の時代で御座います・・」

稲葉正則
「左様」
「偽りの将軍は、不要で御座る」

徳川光圀
「そうはいかん」
「儂は、将軍の失脚を望んではおらんぞ」
「将軍を封じ込めれば、それが一番良いのじゃ」
「幕府を解体しては為らん!」
「幕府の政務は、幕臣がするのが良い」
「綱吉を権力を持たない、名ばかりの将軍として
祭り上げればよいのじゃ」

大村加ト
「はい」
「左様に御座います」

稲葉正則
「水戸守には先様から奉じられた
将軍への戒めの書状も御座る」
「その上、正当性を否定する偽の遺言が証明されれば
将軍の権力は地に落ちますぞ」

徳川光圀
「んんゥ」
「しかし、あまり落とし過ぎるのも拙い」
「程よく、陥れるのじゃ」

大村加ト
「なるほど」
「左様に御座います」

稲葉正則
「良いお考えと思いますぞ!」





大久保忠朝(老中首座)
「上様の命令に背き、
幕府で専横を繰り返す大老に対して如何致すべきか」

阿部正武(老中)
「幕府の政策は我ら老中で決めることが慣例で御座る」

戸田忠昌(老中)
「んんゥ」
「しかし、生類憐みの令は如何なものか?」

大久保忠朝
「三河田原守」
「我らは、善人の良将と呼ばれております」
「生類を憐れむは、善人の良将として当然の事」
「これは、上様の御命令ですぞ!」

阿部正武
「左様」
「これは、捨て子を幕府の責任で保護する事を意味しておる」
「病人ゃ老人も同様じゃ」
「弱きを助け、庶民の暮らしに安心を齎す」
「大老は、専横により私腹を肥やし、庶民を苦しめておる」

戸田忠昌
「武蔵忍守」
「上様は、悪霊を恐れ
御犬の祟りを信じておりますぞ」
「必ずしも、捨て子の保護をするとは・・」

大久保忠朝
「三河田原守」
「我らは、良将ですぞ」
「上様に背き、大老の専横に加担するのは善人の行いか?」

阿部正武
「左様」
「我らが、領民に慕われておるのは
領民の要望に応えているからじゃ」
「上様も、同様にお考えじゃぞ」

戸田忠昌
「蔵人(牧野成貞)(綱吉の側用人)の企てを聞いた」

大久保忠朝
「蔵人殿は将軍の側用人じゃ」
「将軍は引き籠って御座る」
「我らが、将軍の命令を受けるには
蔵人殿を通さねば為らん!」
「蔵人殿に企てがあれば
上様の企てとなる」
「上様の企てとは何じゃ!」

阿部正武
「企てなどと申すではない」
「我らは、善人の忠臣であれば良い」
「上様の命令に背くのは
謀反人のする事」
「不忠に御座る」

戸田忠昌
「んんゥ」
「左様か?」
「儂も、其方も同様に
まだ、老中に引き立てられて間もない身」
「幕府の政務に携わっておるが
大老が全てを決めておる」
「一度、大老を交えて政務の有り方を考え直す必要が御座る」

大久保忠朝
「何度も申すが
政務は老中の仕事じゃ」
「大老は臨時に対応することが慣例となっておる」
「これは、大老の専横じゃ!」

阿部正武
「ここは、首座殿(大久保忠朝)の顔を立てては如何じゃ」

戸田忠昌
「左様じゃな」
「其方と儂は、新参者じゃ」
「首座殿の意見を尊重するのが良さそうじゃ・・」

大久保忠朝
「よし」
「では、上様の御命令に従わぬ大老の始末をせねばならんぞ」

阿部正武
「大老を強制隠居させますか?」

戸田忠昌
「しかし、上様は大老を命の恩人として
厚く信頼を寄せておりますぞ」

大久保忠朝
「いやいや」
「それは、過去の事」
「今は、違う」
「上様が、大老を始末せよと申されておる」

阿部正武
「左様」

戸田忠昌
「やはり、これは陰謀で御座る」

大久保忠朝
「不忠の大老を誅殺することが
上様の望みじゃ」

阿部正武
「左様」

戸田忠昌
「んんゥ」


              赤穂事件 決裂



戸田忠昌(老中)
「儂は、年は食っとるが新参者者」
「老中としては、頼りないかもしれん」
「今回は、若年寄との話し合いに立ち会うことに致した」
「宜しいかな?」

堀田正俊(大老)
「おおォ」
「立会人を交えて、話し合いですな」
「何を話しますかな?」

稲葉正休(若年寄り)
「率直に申し上げれば
大老は専横となっております」
「上様の御命令を拒絶してはなりません」
「老中は協議の上で大老を罷免しようとしております」

戸田忠昌
「話のように、老中で協議致しましたぞ」

堀田正俊
「協議をしたのか?」
「しかしな」
「上様の御命令は、野良犬の保護じゃぞ!」
「最近、上様が悪霊退治の儀式を頻繁に行っておる事もあり
幕府の御金蔵は乏しい」
「上様の命令とは申すが
実際は、側用人が仲立ちしておるのじゃ」
「老中の主張は通らんぞ!」

稲葉正休
「いいえ」
「今回の話し合いは、
某の立場を理解して頂く為に開いたので御座る」

戸田忠昌
「若年寄は、側用人から遺言を手渡されたと申しておる」
「そして、大老は、その遺言は偽物と申されたそうじゃな」

堀田正俊
「んんゥ」
「牧野蔵人(牧野成貞)か?」

稲葉正休
「上様が引き籠っておられるので
側用人の権力は想像以上に大きくなっております」
「某が受け取った遺言が偽物だという主張を撤回して頂きたい」

戸田忠昌
「もし、撤回できなければ
大老は処罰されますぞ!」

堀田正俊
「やはり、側用人の陰謀か!」
「逆に、牧野蔵人を処罰してやれば良いではないか」
「実はな、偽物の証拠はあるのだ」
「その偽物を作成した証人である
大村加トが証言する手筈となっている」
「偽の遺言で将軍となった綱吉様は
将軍としての正当性が損なわれる事になりますぞ」

稲葉正休
「んんゥ」
「それは自惚か・・それとも」
「上様に謀反か・・」
「大変な過ちですぞ!」

戸田忠昌
「左様な事を口が裂けても申すべきでは御座いませんぞ!」
「さあ」
「儂は、今の話は聞かなかった事に致す」
「なァ」
「悪い事は言わん」
「謀反を改めよ!」

堀田正俊
「謀反は上様じゃ!」
「其方達は悔しくは無いのか」
「我らは、幕府の為に真剣に働いておる」
「しかし、実権は蔵人を始めとする側用人が握っておるのじゃぞ」
「側用人は上様の後ろ盾で専横となっておる」
「この状態は改めねば為らん」

稲葉正休
「いやいや」
「話をはぐらかしては為らん」
「其方は、謀反を働きながら
その責任を側用人に責任転嫁しておるぞ」
「なァ」
「考えを改めて、我らと協力しろ」
「それが、其方の為じゃぞ!」

戸田忠昌
「大老は一人で孤立しておりますぞ」
「老中を敵に回してはなりません」
「皆と協力して対処することが最善で御座る」

堀田正俊
「孤立などしてはおらん」
「儂に協力する仲間は多いぞ」
「上様が引き籠っておられても良いではないか」
「ただ、上様が好き勝手に御触れを出し
それを無条件に受け入れておっては
老中など不要となってしまいますぞ!」
「上様の御触れを垂れ流してはなりませんぞ!」

稲葉正休
「ええェ」
「何と!」
「恐れを知らん不届き者!」
「上様を愚弄なさるつもりか!」
「其方の仲間、ひっくるめて処罰されるぞ!」

戸田忠昌
「おおォ」
「左様」
「言葉を慎みなされ・・」
「なァ」
「訂正なさいませ・・」

堀田正俊
「どうやら、話し合いは決裂したようじゃな」

稲葉正休
「決裂したのではないぞ!」
「大老が決裂させたのじゃ!」

戸田忠昌
「ああァ」
「大老!」
「謀反ですぞ!」

堀田正俊
「上様の謀反じゃ!」

稲葉正休
「もう、話し合いは無駄じゃ」


             赤穂事件 忠臣藤井紋太夫



徳川光圀(水戸藩主)
「其方の働きは分かっておるか」

藤井紋太夫(水戸家老)
「承知しております」
「大老(堀田正俊)の後ろ盾となっておられる
主殿を支える事で御座る」

徳川光圀
「大老が政務にあたっておれば
幕府は安泰じゃが
綱吉が幕府の方針に口出しをすれば
大きな災厄となるぞ」
「儂が、水戸に帰らず
江戸を住処にしているのは
大老を支える為じゃ」
「よいな!」

藤井紋太夫
「お願いが御座います・・」

徳川光圀
「もう宜いぞ・・聞き等無い・・」

藤井紋太夫
「頼常(光国の長子)様の下向は、お許し下さい」

徳川光圀
「柳沢吉保は影の実力者となった」
「頼常の下向は柳沢に取り入りたい為じゃ」
「頼常自らの意思じゃぞ!」
「我らの干渉する事では無い」

藤井紋太夫
「しかし」
「水戸家老一同、
この様な辱めを耐える事が出来ません」

徳川光圀
「これ以上申すな!」

藤井紋太夫
「失礼致しました・・」

徳川光圀
「頼常は高松藩主、主君は綱吉じゃ!」
「己の意思で、下向する者を
咎める事は出来ん!」

藤井紋太夫
「大老(堀田正俊)が幕府を取り仕切っておれば
柳沢を恐れる事は御座いません」

徳川光圀
「儂は、柳沢を恐れているのではない」
「幕府の崩壊を恐れているのじゃ!」
「儂には、将軍の正当性を問う偽の遺言と、
それを証明する証拠、証人を抱えておる」
「更には、先様(家綱)の戒めの書状も持っておるのじゃ」
「綱吉の不安は、いかばかりか・・」
「綱吉の不安を煽っては為らん」
「綱吉には、
おとなしくしてもらう事が一番宜いのじゃ」

藤井紋太夫
「恐れ入りました・・」

徳川光圀
「今のこの体制を維持する為には
柳沢の働きも重要なのじゃ」
「変な動きで、
館林を刺激しては為らん」

藤井紋太夫
「承知致しました」

徳川光圀
「大政参与、大老は我らの方針に従い
幕府の政務にあたっておるが
老中以下の思惑は分からん」
「老中は新参者もおるから
我らの意向を誤解無きように伝えておく必要がある」

藤井紋太夫
「大久保忠朝は、唯一の古参で御座います」
「戸田忠昌と阿部正武は新参で御座る」
「大久保忠朝を取り込むことが重要で御座います」

徳川光圀
「いや」
「大久保忠朝は駄目じゃ」
「戸田忠昌と阿部正武は新参じゃが、見所が有る」

藤井紋太夫
「しかし」
「大久保忠朝は老中首座の古参」
「首座に逆らうことは
新参には敵いません」
「首座を引き入れることが重要だと思います」

徳川光圀
「左様か・・」
「其方に任せる」

藤井紋太夫
「はい」
「命に代えて、首座を説得致します」

徳川光圀
「気を付けろよ!」
「言っておくが
大久保忠朝は館林の犬かもしれんぞ」
「あ奴は、信用為らん!」

藤井紋太夫
「はい」
「お任せ下さい」

              

            赤穂事件 大久保忠朝の権力




大久保忠朝(老中首座)
「今の状況は、側用人が上様の御命令を言い渡す事により
幕府の権力は、上様から直接話が聞ける立場に有る牧野成貞殿に移った」
「この状況では、我ら老中の政務は成り立たない事になる」
「某は首座として、幕府の政務を統轄して実行する立場じゃ」
「ある意味、幕府の最高決定機関の長である」

堀田正俊(大老)
「上様の御命令は拒否しましたぞ!」
「其方は、何を考えておる?」

大久保忠朝
「上様を蔑ろにしては為りません!」

藤井紋太夫(水戸家老)
「いやいや」
「今回、皆様に御足労賜ったのは
その事で、お願いが有るからで御座る」
「大老に大きな負担が掛かっております故
首座殿にも協力を賜りたく参上致した次第」
「何卒、ご理解の程、宜しくお願い申し上げる」

大久保忠朝
「んんゥ」
「では、確認じゃ!」
「水戸家老は何故に幕府の方針に首を挟む!」
「申して見よ!」

藤井紋太夫(水戸家老)
「いやいや」
「我が主殿(徳川光圀)は将軍綱吉様を推薦しました」
「そして、大老の助けで
目出度く、上様は将軍と成られたので御座る」
「始めから、関わりが御座る」
「無関係ではありません」

稲葉 正休 (若年寄)
「水戸家老! 首座は
何か探りに来たのかと申されておるのです」

藤井紋太夫
「いやいや」
「探りなどと・・」
「主殿が心配しておる故」
「我らも力になれればと思っております」
「ご理解下さいませ・・」

堀田正俊(大老)
「首座は儂を専横と呼び批判しておる」
「上様の御触れを垂れ流すのが良いのか?」

大久保忠朝
「垂れ流す!と申すか!」
「大老は上様を愚弄しておる!」

藤井紋太夫
「首座殿」
「そのように、頑固になっては為りません
ここは、穏便に話し合いを致しましょう」

大久保忠朝
「水戸殿は上様の正当性を疑っておられるが
幕府の転覆を狙っておるのか!」

藤井紋太夫
「何を申される!」
「変な推測を為さらぬように」
「我が主殿は、上様を推挙為されたので御座いますぞ!」
「幕府の安定を何よりも望まれております」

稲葉 正休 (若年寄)
「幕府の安定を望んでおるのならば
上様の将軍としての正当性を疑う理由は何で御座る?」

堀田正俊
「正休、いい加減にしろ」
「水戸守に無礼は許さんぞ!」

大久保忠朝
「いいや」
「これは、肝心要、極めて大切な事で御座る」
「水戸守の心意を知らねば
協力など出来んぞ!」
 
堀田正俊
「やめろ!」

藤井紋太夫
「主殿(光圀)のお考えは
幕府の安定で御座る!」
「それ以外は、御座らん」

稲葉 正休
「いやいや」
「安定を何よりも望まれておられるのであれば
将軍の正当性を問う必要が御座らん」
「やはり、何かを隠しておられる」
「我らの協力が欲しければ隠し立ては為らん」

大久保忠朝
「さあ」
「本心を申してみよ!」

堀田正俊
「おい!」
「止めろと申しておるぞ!」

藤井紋太夫
「協力してもらえる事が約束出来ますか?」
「老中で揃い踏みで確約できますか?」
「ここで、大老と我が主殿に誓いますか!」

大久保忠朝
「本心を聞いてからに致す!」
「さァ」
「申せ!」

藤井紋太夫
「これは、儂の本心じゃ!」
「主殿とは関係は無いぞ!」
「それでも宜いか!」

大久保忠朝
「聞いてから決める」

藤井紋太夫
「主殿を巻き込むな!」
「約束できるか!」

大久保忠朝
「無論」

藤井紋太夫
「儂の持論じゃ」
「上様は野良犬の保護を捨て子の保護に先立って命令された」
「この様な命令を、そのまま受け入れる事は無策」
「二度と、この様な事に為らぬ様に
上様の正当性を疑い、
大老の負担を軽減する為に、
老中も団結して頂きたい」
「左様な、お願いで御座る」

大久保忠朝
「要するに、上様は無用との事ですな!」

藤井紋太夫
「お お待ち下さい」
「左様に申せば
何もかも、ぶち壊しではありませんか?」
「無用とは何で御座る」
「某は、左様な意味で申しては御座いません!」

大久保忠朝
「それが、水戸守の心意か!」

藤井紋太夫
「我が主殿のお考えでは御座らん」
「某の本心じゃ!」









               赤穂事件 混迷



綱吉
「犬!」

柳沢吉保
「はい」
「此処に」

綱吉
「犬が喋るな!」

柳沢吉保
「ワン」

綱吉
「儂の出した御触れが無視されておるぞ!」

柳沢吉保
「大老が拒否致しました」

綱吉
「大老を始末せよ!」

柳沢吉保
「御意」

綱吉
「あッ」
「光圀が怒るか?」

柳沢吉保
「おそらく、反撃が御座います」

綱吉
「ちょっと待て」

柳沢吉保
「はい」

綱吉
「何か良い考えはないか?」

柳沢吉保
「我らにお任せ下さい」

綱吉
「よし」
「其方に任せる」
「光圀も始末せよ!」

柳沢吉保
「反撃が御座います
我らは大きな打撃を受けますが
強行致しますか?」

綱吉
「いや」
「光圀は後じゃ」
「大老を始末せよ」

柳沢吉保
「御意」

綱吉
「あッ」
「藤井紋太夫を始末せよ!」

柳沢
「御意」

綱吉
「光圀が怒るか?」

柳沢
「おそらく・・」

綱吉
「何か良い考えは無いのか?」

柳沢吉保
「では、藤井紋太夫を追放致しましょう」

綱吉
「よし」
「島に流せ!」
「いや」
「光圀が怒るか?」

柳沢
「おそらく・・」

綱吉
「何か良い考えはないか?」

柳沢吉保
「御座います」
「藤井紋太夫は郷土米子に追放するのです」
「そうすれば、郷土への帰郷となりますので
光圀の干渉は避けられます」

綱吉
「其方に任せる」
「アッ」
「子犬の躾けは如何なっておる」

柳沢吉保
「浅野長矩は赤穂に帰りました」

綱吉
「躾が出来んではないか!」

柳沢吉保
「では」
「吉良上野介を赤穂に向かわせましょう」

綱吉
「あッ」
「池田は犬じゃったな」
「池田と吉良で躾よ!」

柳沢吉保
「御意」



            赤穂事件 徳川家康の外曾孫  



藤井紋太夫
「帰郷の挨拶に参りました」

池田 光仲
「おお」
「水戸殿は達者かな」

藤井紋太夫
「はい」
「我が主殿は健勝に御座います」

池田 光仲
「ところで、儂は変な事を言われておるぞ」
「儂の事を犬と申す者がおる」
「儂は犬か?」

藤井紋太夫
「いいえ」
「それは、岡山守の事で御座る」

池田 光仲
「あれ(池田綱政)は犬なのか?」

藤井紋太夫
「頻繁に側用人に下向し
媚び諂い、情けない有様」
「我が主殿の嫡男(松平頼常)も同様に御座る」

池田 光仲
「儂の息子(池田綱清)は
先様(家綱)の偏諱を受けて綱清に改名したが
その当時の大老(酒井忠清)からも偏諱を受けておる」
「今になって、改名も難しい」
「難儀じゃ」

藤井紋太夫
「上様(綱吉)は忠清殿を恐れ、
忠清殿を庇った者を標的にしております」

「これも、今の時代と諦めて、お家の安泰を第一に考えれば
犬呼ばわりも耐えねば為らぬと主殿は申しております」

池田 光仲
「水戸殿が屈辱に耐えておられるのに
我らが不満を持ってはならんな」

藤井紋太夫
「はい」
「・・・・ただ」
「赤穂の如き、武士道も必要だと・・」

池田 光仲
「んんゥ」
赤穂の領地は、(1645年)3月15日、池田輝興は突如発狂し、正室の亀子姫をはじめ、侍女数人を斬殺する事件を起こしたため、3月20日に改易された
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「陰謀じゃ」
「赤穂領は浅野に奪われた」

藤井紋太夫
「今、池田領地は浅野に東西(赤穂と広島)に挟まれ
身動きが取れなくなっておりますな」

池田 光仲
「儂は、もう年じゃ」
「そろそろ隠居も考えておるが
世継は病弱」
「如何したものか?」

藤井紋太夫
「米子領主(荒尾成重)も御座いますぞ」
「米子は郷里で御座る」

池田 光仲
「左様」
「水戸殿の力添えが必用じゃ」

藤井紋太夫
「ところで、
赤穂守(浅野内匠頭)を、この地に招き入れる計画があると
指南役(吉良上野介)から聞きましたが」
「如何なる計画か、存じておられますか?」

池田 光仲
「んんゥ」
「赤穂は奪われた領地
その地の領主を招き入れ
接待せよと申すか!」

藤井紋太夫
「これは、また
何かの陰謀かも知れませんぞ・・」

池田 光仲
「しかし」
「岡山守池田綱政は犬となった」
「我らだけで
如何対処すればよいのじゃ・・」

藤井紋太夫
「一度、岡山守と
じっくりと話し合いの場を設けましょう!」

池田 光仲
「あ奴は、情けない奴じゃ」

藤井紋太夫
「我が主殿も協力する筈」
「我ら米子領も味方で御座る」

池田 光仲
「如何なる陰謀じゃ」 


                赤穂事件 友好 




吉良上野介 (高家旗本 高家肝煎)
「赤穂守を共に指南せよとの指示じゃ」
「岡山藩にて宴席を用意するように
お願い致す」

池田綱政(岡山藩主)
「はい」
「謹んでお受け致します」

吉良上野介
「あくまでも、赤穂守を指南する事で御座る」
「これは、大変に重要な任務と心得よ!」

池田綱政(岡山藩主)
「はい」
「我らは、何をすれば宜しいので御座る」

吉良上野介
「この重要な指南に掛かる経費を負担する事じゃ」

池田綱政(岡山藩主)
「はい」
「ところで、如何なる指南を為さいますか?」

吉良上野介
「上様は、朱子学の主を仰いでおられたが
朱子学は、上様には有害な学問であるとの見解じゃ」
「朱子学に於いて、万物天地の動きは人心の表れと為す」
「この朱子学の教えは
上様の心身に悪い影響を与えておる」
「上様は極度に恐れ
引き籠り、全ての災いを祟りとして遠ざけておられる」
「生類憐みの令は、天地の怒りを鎮める為の儀式の一環なのじゃ」

池田綱政(岡山藩主)
「はい」
「それは、山鹿素行殿も申されておりました」

吉良上野介
「その者は、儂と親密じゃぞ」
「儂とは、同じ考えを共有している」
「其方も、同士となるか!」

池田綱政(岡山藩主)
「あぁ・」
「ところで、赤穂守に如何なる指南をするので御座る?」

吉良上野介
「上様は、天変地異を極度に恐れ、
それが人心の表れだと信じておられる」
「日光地震は将軍の地位を揺るがす
謀反の兆候だと申しておる」
「上様は、其方のような
媚び諂う、犬を育成したいのじゃ」

池田綱政(岡山藩主)
「はい」
「某は、犬で御座る」

吉良上野介
「おおおォ」
「良く申された」
「其方のような犬を
上様は望まれておる」

池田綱政(岡山藩主)
「では」
「赤穂守を犬にしたいので御座いますか?」

吉良上野介
「左様」
「しかし、犬にすると言えば
反発されるからな」
「だから、この事は内緒で指南と申しておるのじゃ」
「実際は、犬の躾けじゃ!」

池田綱政(岡山藩主)
「浅野家は武闘派で御座います」
「武士道が御座いますから
簡単に犬にはなりませんぞ!」

吉良上野介
「ほォ」
「其方は、簡単に犬になれたのじゃな?」
「其方には、武士道は無いのか?」

池田綱政(岡山藩主)
「某は、馬鹿で御座る」
「犬にでも、何でも為りますぞ」

吉良上野介
「おおォ」
「良い心掛けじゃ」
「共に、浅野長矩を犬にする事を
使命と致しましょう」

池田綱政(岡山藩主)
「ところで、一体何をすれば良いのか?」
「ご指南下され」

吉良上野介
「浅野長矩は子犬のうちに
躾ける事が肝要じゃ」
「成犬になっては
犬の振りをするからな」
「出来るだけ早く躾けるのじゃ!」

池田綱政(岡山藩主)
「某は、馬鹿で御座る」
「犬の躾は、指南役には敵いません」
「いやはや、如何したらよいものやら??」

吉良上野介
「何も、心配は要らん」
「儂は、犬の躾に慣れておる」
「儂に任せろ」

池田綱政(岡山藩主)
「そうして下されば助かります」

吉良上野介
「但し、必要な経費は其方が負担するのじゃぞ!」

池田綱政(岡山藩主)
「あァ・・はい」
「では、経費は家老に相談して
出来る範囲で協力致します」

吉良上野介
「おい」
「経費も出さん
躾も出来ん
其方は、何をするのじゃ!」

池田綱政(岡山藩主)
「あああァ」
「では」
「弟と山鹿素行殿と相談して対処致します」

吉良上野介
「んんゥ」
「其方は藩主じゃ」
「其方が決定すれば良いではないか」

池田綱政(岡山藩主)
「某は、弟と相談しなければ
決められないので御座る」

吉良上野介
「まァ宜しい」
「金さえ負担すれば
それでよい」

池田綱政(岡山藩主)
「はァ・・」




  
           赤穂事件 儒学、軍学者 山鹿 素行



山鹿 素行 (播磨国赤穂藩へお預けの身)
「指南役(吉良)が接待を用意しておりますが
御気を付け下され」

浅野内匠頭 (播磨国赤穂藩主)
「また、吉良か?」
「何故、我らに付き纏うのじゃ!」

山鹿 素行 
「赤穂守は将軍綱吉様から特別な寵愛を受けております」
「その接待を指南するのが
吉良殿だとお考え下され」

浅野内匠頭
「其方は、吉良と親密なのか?」

山鹿 素行
「はい、某は指南役と交流が御座います」 

浅野内匠頭
「儂は、吉良は好かんぞ!」

山鹿 素行
「吉良殿は
将軍綱吉様から信頼されております指南役で御座います」 
「好き嫌いで済む問題では御座いません」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「其方は、幕府で軍学を学んでおったそうじゃが
何故、この地(赤穂)に預かりの身になっておる?」

山鹿 素行 
「某は、儒学者でも御座いますが
朱子学の危険性を知り、朱子学を批判しました」
「幕府は、朱子学を進めたいこともあり
某の考えは受け入れられない事となりました」

浅野内匠頭
「朱子学は危険なのか?」

山鹿 素行 
「朱子学は使いようによれば良い学問で御座るが
使い道を誤れば大きな災いと為り得るのです」

浅野内匠頭
「では」
「幕府は、使い道を誤っておるのか?」

山鹿 素行 
「いいえ」
「将軍綱吉様が
朱子学を信じ込んでいる事が問題で御座います」

浅野内匠頭
「幕府は、武道よりも学問が重要と申しておる」
「朱子学も、その一環じゃぞ!」

山鹿 素行 
「はい」
「実は、朱子学は自然の摂理は人心によって影響を受け
全ての自然の摂理は人の心の表れと考えるので御座います」
「逆もまた然り」
「自然災害は人心の荒廃から齎され」
「災害は、良からぬ事の兆し」
「災害が起こった時には、
幕府を脅かす
謀反を企む者が現れた兆候として
認識されたので御座います」

浅野内匠頭
「左様か?」
「何が問題なんじゃ?」

山鹿 素行
「日光地震は
将軍綱吉様に大きな衝撃を与えたので御座います」
「綱吉様は
日光東照宮が大きな地震に見舞われたのは
徳川家康大権現様のお怒りと信じております」
「そして、その怒りの矛先は
謀反者に向かったので御座る」

浅野内匠頭
「左様か・・」
「確かに、朱子学は恐ろしいな」

山鹿 素行 
「今回の吉良殿による接待は、お断りなさいませ」

浅野内匠頭
「おおォ」
「断ってもよいのか?」

山鹿 素行 
「儂の方から、吉良殿に話を付けましょう」

浅野内匠頭
「それは、助かる」
「儂は、吉良とは会いたくない」

山鹿 素行
「会わぬ方が身の為と存じ上げます」
 
浅野内匠頭
「身の為?」
「嫌な事を申すな・・」 

            赤穂事件 朱子学排除連名




藤井紋太夫(水戸家老)
「其方は、赤穂にお預けの身
某は、帰郷を申し渡され、江戸に近づけん訳じゃな」

山鹿素行(儒学者)
「ただ、連名があれば
幕府に申し入れが可能かと・・」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「赤穂は将軍の肝煎だから
浅野内匠頭との連名は有効じゃ」

山鹿素行
「では、犬千代兄弟の連名と致しましょう」

藤井紋太夫
「しかし、最近は幼名や改名に犬の字を貰い受ける事が多いな」 

山鹿素行
「はい」
「これは、水戸守の妹君が大姫から犬姫に改名した事が大きいかと」

藤井紋太夫
「これだけ、流行れば
媚び諂いも、辱めとは為らんな」
「武士道は廃れる一方じゃ」
「情けない」

山鹿素行
「時代が変わったように見えますが
全ては朱子学が原因で御座る」
「幕府から朱子学を排除して
正常な世の中に戻す必要が御座います」

藤井紋太夫
「我が主殿(光圀)は、江戸で孤立しておる」
「儂は、帰郷命令で動きがとれん
其方は、連名書を持って江戸に行き
主殿の様子を儂に伝えて欲しい」
  
山鹿素行
「はい」
「では、水戸家臣と連絡が取れるように
手筈して頂きたい」

藤井紋太夫
「んんゥ」「しかし」
「儂が、滅多な事をすれば
我が主殿の窮地を招く事に為り兼ねん」
「如何すればよい?」

山鹿素行
「では、水戸守と連絡出が取れるように
書状を頂きたい」

藤井紋太夫
「もしもの時は?」
 
山鹿素行
「心配無用に御座る」
「危険があれば書状は焼き捨てます」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「書状を持たせるのは、待ってくれ・・」

山鹿素行
「某は、赤穂兄弟の連名書を持ち
命懸けで江戸に行くのですぞ!」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「分かっておる」
「兎に角、主殿に迷惑を掛けぬと誓ってくれ!」

山鹿素行
「無論」
「水戸守を失えば、幕府は終わりで御座る」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「分かった」
「書状は、後で必ず焼き捨てるのじゃぞ!」

山鹿素行
「水戸守は孤立などしておりません」
「大老、大政参与、幕臣は水戸守と共にあります」
「孤立しているのは、将軍綱吉様で御座る」

藤井紋太夫
「おいおい」
「将軍様に孤立などと申しては為らん」
「江戸に行ったら、言動に気を付けねば・・・」
 
山鹿素行
「無論、分かっております」
「某も、無暗に命を投げ出すつもりは御座らん」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「幕府は、分裂しておるな・・」

山鹿素行
「はい」
「将軍が権力を持てば
世は、破滅に向かうでしょう」

藤井紋太夫 
「如何したものか?」          
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