アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 家光編(解説) 3

2020-01-31 09:14:16 | 歴史解説
物語は1639年 徳川家光の時代である。

少し前の1634年に弟の徳川忠長は幕命により高崎の大信寺において自刃したとある。
家光が政権を取り幕府を治めていた前半は、
徳川忠長寄りの旧勢力への不信感が拭えず、
絶えず警戒していなければならなかったと思う。
しかし、実際は旧勢力には大きな力は無く、
家光の懸念は無くなりつつあったのだ。
その過程で、家光を戒めていた旧家臣を遠ざけて
自らの世話をする小姓六人衆に政務を委ねる体質が表面化してきたようだ。
そして、この過程で、青山幸成をはじめ多くの家臣が蟄居させられたのだ。
家光は旧勢力と将軍を戒める家臣の区別をする余裕はなく、
その全てを排除したのだ。
そして、物語は今1639年である。

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 四

2020-01-30 16:46:37 | 漫画



松平正綱は松平信綱の養父であった。
信綱は将軍家光の小姓から異例の出世をして、
今では、諸大老を凌ぐ大きな権限を持ち、
将軍の左腕として、絶大なる信頼を勝ち取っていた。

松平正綱
「これ、信綱殿お待ちくだされ」

「これ、お話ししたき事が御座いますぞ」

「これ、信綱どの」

「これ、・・・」

松平信綱
「何で御座いますか?」

松平正綱
「聞こえておるのなら、
早うに返事をなされよ・・・」

松平信綱
「ん・・・」

松平正信
「あのな、淀屋お取り潰しの件は
上様直々のご指図に御座いますぞ」
「其方も知っておった筈じゃ」
「これ、返事をせんか」

松平信綱
「信綱の知らぬことですぞ」
「何度も同じことを聞くものでは御座らん」
「父上ももうろくなさいましたな」

松平正綱
「なんじゃ その口の利き方は
儂の事をもうろく爺と呼ぶのか!」

松平信綱
「いやいや、失敬仕った」
「あまりにしつこいものでな
あのなぁ その件は土井利勝が独断じゃて」
「上様は酷くご立腹で御座ってな」
「儂も困っておる」

松平正綱
「いやいや、そうでは御座らん」
「淀屋のお取り潰しは上様直々にござるぞ」

松平信綱
「ではなにか?」
「上様に責任があると申されるのか?」
「どうじゃ」
「父上に上様に責任があると言えるのかのぉ」

松平正綱
「なんという、口の利き方じゃ」
「恐ろしき子に育ったものじゃ」

松平信綱
「儂は上様に育てられたでなぁ」
「父上はただの養父じゃ」

松平正綱
「お前は、最初から騙すつもりであったか?」

松平信綱
「はははははは・・・・・」
「土井利勝、酒井忠明、井伊直孝、そして、お主」
「アホぞろいじゃ」
「はははははははは・・・・・」








寛永16年11月21日
松平定綱は松平信綱と井伊直孝の間で繰り広げられている
権力抗争に巻き込まれていた。
松平定綱は何方に付くことも出来ずに困っていたのだ。

井伊直孝は江戸城郭の拡張修繕工事を急ぎたかったのだが、
あの忌々しい松平信綱が中止命令をだしたと言うのである。

井伊直孝
「ああ 忌々しい奴じゃ」
「儂に命令しおったぞ!あの奴は」
「何故、儂があの者の指図を受けねばならんのじゃ」
「ああ、何度、考えても腹が煮えくり返る」
「不愉快じゃ」

アプリコット
「・・・・・・」

井伊直孝
「ん」

アプリコット
「こんにちは
私、アプリコットです」

井伊直孝
「お主は、
確か、異国の姫君じゃたか?」

アプリコット
「私、チューリップ国の王女なのよ」

井伊直孝
「おーお
小さな王女じゃ」

「今、儂に近づかぬ方が良いぞ」
「儂は今、凶暴になっておるでな」

アプリコット
「知ってるわ」

井伊直孝
「ほーぉ」
「何を知っておる?」

アプリコット
「なぞなぞを解こうと為さっているわ」

井伊直孝
「如何なる?」

アプリコット
「それはね」
「スルヨウニ言われてすればしないことになり
スルヨウニ言われてしなければすることななるもの」なのよ

井伊直孝
「そうじゃ」
「まさしく、その通りじゃ」
「いやはや、その通りじゃのぉ」
「恐れ入った」

「して、儂は如何にすれば良いと思う」

アプリコット
「まーぁ・・・・
「私、こんなに子供なのよ」
「大きな偉いお方に
何をお話しすれば良いのかしら?」

井伊直孝
「何でも良いぞ」
「儂はもう怒ってはおらん」

アプリコット
「それなら大丈夫だと思うわ」
「貴方が思うようにするのが良い事よ」
「だって、私には何も出来ないのですもの」

井伊直孝
「当たって砕けろか?」

アプリコット
「無理しないでね」

井伊直孝
「お主は 只者ではないのぉ」
「不思議な幼子じゃ」
「ま、儂が気の済むようにやるしかないのぉ」
「やるしかないぞ」
「して、儂は如何なると思う」

アプリコット
「きっと、叱られるわよ」

井伊直孝
「そうじゃ」
「叱られるじゃろーのぉ」
「まぁ
どっち道、叱られるのなら
思い切って、やってやろー」







徳川家光は大老を無力化して、
自らの思いのまま政務を実行すべく
小姓6人組を結成し政権の中心に添えようと画策していた。

土井利勝の力は削がれ、酒井忠勝は縮こまっておとなしくなっており、
残るのは、大政参与の井伊直孝だけであった。
すなわち、残る井伊直孝は6人組の頭小姓上がりの松平信綱の罠に
かかることは必然なのであった。

井伊直孝
「江戸城郭拡張修繕工事は滞りなく進める」
「松平定綱殿は如何なされる?」

松平定綱
「大政参与の意に沿います」

井伊直孝
「これは、松平信綱の罠であることは
分かっておるな!」

松平定綱
「分かっておりますぞ」

井伊直孝
「松平信綱は命令は上様の意向であるぞ」
「上意にござるぞ」

松平定綱
「覚悟の上で御座います」

井伊直孝
「よし」
「我らは打ち首覚悟の決意で臨む」
「良いな!」

松平定綱
「覚悟は出来ております」











松平信綱
「伊丹康勝殿は土井利勝殿の後ろ盾が無くなり申したな」

松平正綱
「何と申した」

松平信綱
「伊丹康勝殿は徳川の御金蔵より100万両を持ち出し
勝手に運用しているとのこと、
厳重なる処罰を用意しておる」

松平正綱
「何を申すか?」
「土井利勝様の容認を得ておる」
「ましてや、上様は快諾されておるのじゃぞ」

松平信綱
「上様は、承知なさってはおりませんぞ」

松平正綱
「やめて下され」
「今、伊丹康勝殿に処分あれば
大変なことになりますぞ」

松平信綱
「いやいや,そうでは御座らん」
「早く謹慎させねば手遅れになって
100万両も返ってこんかも知れんぞ」

松平正綱
「いやいや、そうでは御座らん」
「伊丹康勝殿は今大切な仕事をしているのじゃ」
「頼むから暫く待ってやってくれんか?」

松平信綱
「いいや、駄目じゃのぉ」
「直ぐに謹慎じゃ」

松平正綱
「罪状など有りはせんぞ」

松平信綱
「あの者はな、諸大名に金を貸しておった」
「大金じゃぞ」
「諸大名はその金で米を買っておった」
「米は領地と同じじゃ」
「勘定奉行如きの分際で諸大名に領地を与えたのじゃぞ」
「本来なら、重罰じゃ」
「まぁ、これから罪を重くも軽くもできるが」
「取りあえず、謹慎じゃ」

松平正綱
「お主に、何ができる」

松平信綱
「おっと、儂は何でも出来るのぞ」
「上様の後ろ盾は絶大じゃ」
「やろうと思えば何でも出来る」

松平正綱
「そんなことは、上様がお許しになりませんぞ」

松平信綱
「お許しじゃ」

松平正綱
「頼む、許してくれ」「後生だ!」 

松平信綱
「お主の罪も逃れられんぞ」



寛永16年11月22日
松平信綱と井伊直孝の間で繰り広げられている
権力抗争は激化していた。

松平信綱
「江戸城郭多門の柱立て本日が吉日」
「城郭の拡張修繕工事は本日の地鎮をもって
施行されよと申したが、何故従わぬか!」

井伊直孝
「我らは良き日を選び地鎮を済ませて御座います」
「それを改め城郭修理中止は受け入れられません」
「その事ご考慮願い申し上げる」

松平信綱
「何故、たった一日が待てぬのじゃ」
「今日が吉日は上様の希望に御座いますぞ」

井伊直孝
「儂は上様に逆らうのでは御座らん」
「お主の指示には従わぬと申しておるのじゃ」

松平信綱
「むむう」
「よくぞ申した」
「この吉日の柱立ては上様の指示か、
この信綱の指示か 良く見定めて
覚悟をお決めくださいませ」

井伊直孝
「望むところでござる」

松平信綱
「上意により打ち首じゃ」
「良いな 井伊直孝殿」
「何か他に申すことは無いか!」

井伊直孝
「お主には御座らん」

松平信綱
「何とも」
「あきれた、あきれた」



二代 淀屋言當 
「三代目!」
「先ほどの話は聞いておったな?」

三代 淀屋箇斎
「三代目はおよし下さい」
「私よりも優れた者がおりますゆえ」
「ええ、先ほどのお役人様で御座いますね」
「耳を澄ませて隣で聞いておりました」

二代目
「おお、聞いておったな」
「では、あの方の役目、お名前、目的を言ってみよ」

三代目
「江戸付けの勘定奉行 伊丹康勝様でございます」
「目的は、100万両の投資に御座いましょう」

二代目
「よし、
では、あの方の振る舞いは如何であったか?」
「言ってみよ」

三代目
「100万両もの投資をするには
かなり、緊張感が無いようにお見受け致しました」

二代目
「よし、
もっと、具体的に申してみよ」

三代目
「先ず、言葉使いに御座います」
「調子よくじゃんじゃかじゃん」などと
申しておりました」
「更には、私どもに手の内を喋ってしまったことに御座います」
「商談は相手に手の内を知られてはなりませんので」
「やはり、うまい商談では無いと思いました」

二代目
「では、結論を申せ」

三代目
「結論で御座いますか?」

二代目
「結論を申せ」

三代目
「大した者ではないと?」

二代目
「それは、何故に」

三代目
「先ほどの理由に御座います」
「商談相手としましては、素人に御座いました」

二代目
「愚か者!」
「あれは、幕府の官僚ぞ」
「わざと、愚かな振りをしているのが
分からぬか!」

三代目
「まさか?」

二代目
「よし
お前にも分かるように説明してやる」
「良く聞いておれ」
「よいな」

三代目
「はい」




二代 淀屋言當 
「三代目 良く聞いておれ!」
「伊丹康勝様は前交渉人での
これより、別の方が取り立てに来るぞ」

三代 淀屋箇斎
「では、今度くるお方は手ごわいの御座いますね」

二代目
「何度も同じことを言うが
 あの伊丹康勝様は決して優しくはないぞ」
 「今度来るお方とは役割分担しておるだけで
 厳しい事に変わりは無いと考えろ」

三代目
 「はい」

二代目
 「よし、ではこれより淀屋の生き残りを賭けての勝負の時」
 「先ず、三代目」
 「対処法を言ってみよ」

三代目
 「賄賂では如何でしょうか?」

二代目
 「愚か者!」
 「賄賂を使えば淀屋は潰れると考えておれ」
 「他には無いか?」

三代目
 「では、お代官様に相談を?」

二代目
 「バカ者!」
 「お代官様は、幕府の要人じゃ」
 「こちらの手の内が知られるだけだ」
 「他には?」

三代目
 「では、松平忠明様に直談判は?」

二代目
 「そのための人脈はあるのか?」

三代目
 「私には御座いません」

二代目
 「三代目は務まらんぞ」

三代目
 「いいえ、作ってまいります」
 「人脈を作ってまいります」
 「松平忠明様に御すがりいたすのですね」

二代目
 「甘ったれ者!」
 「すがるのではない!」
 「松平忠明様に淀屋を認めて頂くのだ!」

三代目
 「恐れ入りました」
 「淀屋を必要と思わせることに
 淀屋の命運が掛かっていると認識致しました」

二代目
 「よし、では具体的に申せ」

三代目
 「はい」
 「えーと」
 「松平忠明様が私如きものには合ってはくれないので」
 「二代目に御すがり致します」

二代目
 「おいおい。。。」
 「伊丹康勝様に対しての対処の具体策だよ」

三代目
 「そうで御座いますね?」




勘定奉行 伊丹康勝
「米の買い入れ状況は如何かな」
「米が高くなる前に完了せねばな」

三代目 淀屋箇斎
「御奉行様」
「お急ぎで御座いましたら
手形を落として頂いて、米券で交換した方が宜しいかと」

伊丹康勝
「倉庫にある米を買わねば意味がないのじゃ」
「米券は不要じゃ」

三代目 淀屋箇斎
「確認したいことが御座います」

伊丹康勝
「何じゃ」

三代目 淀屋箇斎
「米を直接買い入れておりますので、
管理費がかさんでおります」
「支払いをお預かりしている
100万両から引かせて頂きたいのですが?」 

伊丹康勝
「ならん」

三代目 淀屋箇斎
「それでは、人件費も払えません」
「費用は、倉庫の管理費や運搬、帳簿管理から御座いまして、
最近は、米の高騰から倉庫の警備に多くの費用が必要になっています」

伊丹康勝
「商人は他にもあるぞ」
「淀屋が商いできるのは奉行の許可書によることは
知っておるな」

三代目 淀屋箇斎
「はい、存じております」

伊丹康勝
「まぁ 良い」
「あのな、儂は先ほど淀屋の人夫を見てきたが
皆、熱心に働いておるなぁ」
「話をしたが幕府ご用達の仕事を喜んでおった」
「賄は要らないと申しておった」
「しかし、それではかわいそうじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「では、お支払い下さいますのでしょうか」

伊丹康勝
「だめじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「でわ、如何せよと申されるのでしょうか」

伊丹康勝
「お主は、袖の下は知らんか?」

三代目 淀屋箇斎
「知っております」

伊丹康勝
「如何じゃ」

三代目 淀屋箇斎
「申し訳ございませんが、
袖の下は何も御座いません」

伊丹康勝
「そうか、良き心がけじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「良き心がけ?」

伊丹康勝
「儂の袖の下に何か入れば
淀屋は潰れたのぉ」
「容赦せんで済む」
「だから、良き心がけと申した」





二代目 淀屋言當 
「ご苦労じゃったな」
「伊丹康勝様は優しかったかのぉ」

三代 淀屋箇斎
「いえいえ、とんでも御座いません」
「恐ろしい方に御座いました」

二代目 淀屋言當
「そうじゃろう」
「しかし、これからが正念場」
「心して掛からねば」

三代目 淀屋箇斎
「しかし、何故 伊丹康勝様は賄賂を請求した後
あのような事を言ったので御座いましょうか?」

二代目 淀屋言當
「分からんな」
「しかし、伊丹康勝様の背後には何かありそうだ」
「淀屋の暖簾に傷を付けたかったとすれば
淀屋を潰す理由付けが欲しかったのであろう」

三代目 淀屋箇斎
「二代目から賄賂を叱られておらねば、
罠にはまっておりました」
「淀屋存亡の危機にございます」
「伊丹康勝様の対応は私には無理に御座います」

二代目 淀屋言當
「いや、三代目はお前に決めておる」
「失敗は仕方がないが不正は絶対にダメじゃ」
「甘い言葉に気お付けるのじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「それから、伊丹康勝様は米の買い付けで発生する
手数料を一切払わないので御座いますが?」
「対処が出来づに困っております」

二代目 淀屋言當
「先ず、手数料は慌てて払って貰わなくてもよい」
「ただし、自棄になって手抜きをしてはならぬぞ」
「帳簿管理を確りと行い、完璧な仕事をこなすのじゃ」
「手抜きがあれば、後で大変な事になると思え」
「人夫には淀屋から賄をしろよ」
「損して得取れじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「これから、如何様になるので御座いましょうね」

二代目 淀屋言當
「先ず、米の相場じゃ」
「伊丹康勝様は米の価格が100倍になると申しておる」
「これはあながち嘘偽りではなかろーな」
「淀屋は米の価格が100倍になってもビクともせんが」
「伊丹康勝様の罠にハマれば一大事じゃ」
「よし、三代目!
如何様な罠があるか?考えよ」

三代目 淀屋箇斎
「質問しても宜しいか?」

二代目 淀屋言當
「おいおい、答える前から質問か?」

三代目 淀屋箇斎
「二代目は米の相場が100倍になっても
淀屋は大丈夫と申されたのですが
三代目には大丈夫とは思えないので御座います」

二代目 淀屋言當
「そうじゃ」
「そこじゃ 淀屋が約束で相場が100倍でも大丈夫であるが
伊丹康勝様が約束事を決めるのであれば、
大丈夫では無いぞ」

三代目 淀屋箇斎
「しかし、手数料も払って貰えないのですよ」
「淀屋の約束など通用しますか?」

二代目 淀屋言當
「ここからは、はったりじゃ」
「よいか、絶対に弱みを見せてはならん」
「絶対に相手の言いなりになってはならん」
「自信を持って、大きな心で臨むことじゃ」

三代目 淀屋箇斎
「淀屋存亡の危機に御座いますな」

二代目 淀屋言當
「心してかかれ」



小姓六人組の一人 阿部忠秋は強い意志をもち、くじけることがなく、無口で飾り気のない。優しく思いやりのある人物で、良き仲の小姓六人組の一人 松平信綱とは互いに欠点を指摘合える横の繋がりをもつことにより、互いに弱点を補助協力することで、大きな力をつけていった。

阿部忠秋
「大政参与様、私共の無礼をお許し下さいませ」
「いかに後見役といえども、このままでは上様におかれましても
対処が難しく御座います」
「なにとぞ、お許し願い奉ります」

井伊直孝
「儂は、怒ってはおらんぞ」
「老中は上様の言葉を伝えただけじゃ」
「儂は、上様からの罰を受けるつもりじゃ」

阿部忠秋
「もし、お望みで御座いますれば」
「あの松平信綱を叱りつけて
謝りにまいりとう御座います」

井伊直孝
「儂はな、あの大御所徳川家康公でもなさらぬことを
松平信綱に許すことは出来んのじゃ」

阿部忠秋
「なんと!」
「そのような大それたこと
あの信綱が申しておるのでしょうか?」

井伊直孝
「家康公が絶対権力を直ぐに手放し
隠居していたは如何でか!」
「独断的な政権にならぬようにじゃ」
「小姓六人衆の一人忠明殿、良く聞け」
「お主らに、上様をたしなめる事が出来るか!」
「たしなめるどころか、意見することも出来ぬのではないのか!」
「今、上様は真の将軍になると仰り」
「我ら大老陣の力をそぎ落としている」
「上様をたしなめることがお主らに出来るのであれば
儂はお主らに謝る」
「しかし、独断的政権に歯止め無きときは
儂の命と引き換えに上様を御止め致す」
「儂が怒っておるように見えるか?」

阿部忠秋
「少しお待ちください」
「お話は良く分かりました」
「では、先ず我ら小姓六人衆が公式に
家光公後見役大政参与井伊直孝様に謝罪致します」
「ただ、上様におかれましては、
私共の謝罪が及ぶものでは御座いません」

井伊直孝
「よし、では上様に正式に謝罪いたそう」

阿部忠秋
「あっ
それでは、拙うございます」
「上様に直接叱られては大変大きな罪を背負うことに
なります」
「なにとぞ、我らの無礼として
取り計らい願います」

井伊直孝
「如何したいのじゃ」

阿部忠秋
「井伊直孝様は先走り、勇み足であったと」
「江戸城郭多門の柱立てを前に
勇み足で工事に取り掛かったことにしては貰えないでしょうか?」

井伊直孝
「お主のすきにすればよい」
「儂は逃げも隠れもせんぞ」

阿部忠秋
「それは、・・・」

井伊直孝
「お主は出来た男よのぉ」

阿部忠秋
「それでは、お許しいただき
上様には勇み足として対処すること
承知致しました」


第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 家光編(解説) 2

2020-01-25 08:45:21 | 歴史解説
将軍家光の破天荒な振る舞いは織田信長に共通するものがある。
信長も小姓を連れて野山を駆け回り遊び呆けているように振る舞っていたが、
実際は戦闘訓練であったと思われる。

家光の時代は戦国の混乱は無かったが、
牢人がはびこり、海外からも圧力を受けており、
油断していれば、何が起こるか分からない時代でもあったから、
万全の態勢で臨んでいたのでしょう。

将軍家光は小姓を先鋭の戦闘員に育て上げようとしていた。
逸話には、カモ狩りに弓矢が無く、石つぶてで仕留めよとの命令を下すシーンがある。
しかし、辺りは綺麗に清掃されており、小石一つ見つからない。
さあ、小姓ども如何する?とばかりの難問を突き付けるのである。
将軍の命令は絶対である。しかし、辺りには小石一つ見つからない。
例えば「将軍!石つぶては見つかりません」などど言えば、
この小姓は命令違反で処罰される筈です。
実際の戦闘では見つからないからでは済まされないからです。

この時、松平信綱は咄嗟に店先の蛤を掴んでカモに投げつけ
他の小姓も従った。
カモは捕獲出来たが、売り物の蛤は全て投げ捨てられて放置されたのです。
このようにして、松平信綱は家光の問いに応えるべく実績を上げていったと考えられます。

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 家光編(解説)

2020-01-24 16:15:37 | 歴史解説
歴史は、これ程の権力を持っていた大老達を全て失脚させ、
速やかに新体制に移行している。
この移行期に多少なりとも松平信綱が画策していたのであろうが、
実際は将軍家光の意向であると考える。

徳川第一の傍目と称えられ、将軍自ら我が右腕と言い名実共に
その力を発揮していた酒井忠勝があっさりとその権力を
小姓上がりの松平信綱に奪われるのは釈然としない。

家光は小姓をつれてキジ狩りを楽しみ、
独自の施行で演芸や、狩りで得た獲物で酒宴に興じていた。
そのなかに、色々な逸話が残されている。
家光が酒に酔って小姓に高いところから飛び降りるように言うシーンである。
将軍に飛び降りろと言われれば飛び降りるのが小姓の定めであり、
例え死んでも命令には従うのが務めであったから。
酒に酔った余興での悪ふざけであっても
飛び降りるのが当たり前の世界なのである。

その逸話は、ある者の機転で救われたことになっているが、
実際は救いようのない過酷な試練が小姓には待ち受けていたと考えられる。
ではなぜこのような悪ふざけを続けていたのか?

これは、将軍家光が自分に忠義を果たす酒井忠勝以上
の忠義を持った小姓を育成することが目的であったのでは
あるまいか?

酒井忠勝は忠義のため自らの命をなげうったとして、
忠義者の烙印を手にしたのであるが、
きっと、そのような些細なことで
殺しはすまいとする、計算も垣間見れる。
しかし、将軍家光に使える小姓は
宴席の余興で飛び降りよと言われても
躊躇なく飛び降りることができるほど
将軍の命令には絶対服従なのだ。

家光にとって、もはや酒井忠勝は
たいした忠義者でもなかったのであろう。

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 三

2020-01-24 16:11:57 | 漫画


酒井忠勝は何時ものように将軍家光の様子を見守っていた。
酒井忠勝は家光には自分の存在が分からないように
万全の態勢で臨んでいたのである。
何時ものように同じように見守っていたのである。
しかし、家光には分かっていた。
以前から酒井忠勝がそこに密かに潜んでいることが分かっていたのだ。
酒井忠勝はこの見守りを数十年続けていたので、
万全の態勢にも限界があったのだ。

酒井忠勝はあまりの驚きと恥ずかしさからタコのように真っ赤に膨らんで、
急速に萎み青くなっていた。

松平信綱
「酒井様、上様のお考えは確認出来ましたでしょうか?」

酒井忠勝
「ああ そうじゃのぉ」

井伊直孝
「なんじゃあ お主も曖昧な返事じゃのぉ」
「如何なされたのじゃ」
「なんだか 顔色も青うござるぞ」
「しっかりせんか!」

酒井忠勝
「少々 気分が悪くなってしもうた」
「悪いが、後にしてくれんか」
「悪いのぉ・・・・」

酒井忠勝は逃げるように立ち去った。

松平信綱
「やはり、上様の御怒りは相当なもののようじゃ」
「あの忠義の大老酒井様があのようなご様子」
「上様は手に負えぬお怒りに御座いますぞ」

井伊直孝
「んーーー」
「しかし、酒井殿のあのようなご様子
今まで見たこともないわい」
「いったい、何があったんじゃ」
「しばらく、静かにしておいた方が良さそうじゃ」

松平信綱
「井伊殿! 土井利勝殿と酒井忠勝殿は失脚に御座いましょうな」

井伊直孝
「バカを申すな」
「二大老が謹慎など有る筈なかろーぞ」
「儂一人で何が出来る・・・」
「ふざけたことじゃ」






二代 淀屋言當  
「これは、伊丹康勝様
はるばる再びの大阪の地まで恐縮至極、恐れ多き事でございます」

伊丹康勝
「実は困っておる」
「実はのぉ」
「江戸から100万両持って来て
米を買おうと思うたが、誰も売ってくれんのじゃ」
「いや、実に困った」

二代 淀屋言當 
「そうでございましょうな」 

伊丹康勝
「大弱りじゃ」
「お主、買ってくれんか?」

二代 淀屋言當 
「お安いことに御座います」

伊丹康勝
「では買った」

二代 淀屋言當 
「しかし、何で100万両もの貨幣をお持ちに御座いますか?」 

伊丹康勝
「そうじゃのぉ」
「手形を貰い受けての方が易しいのぉ」

二代 淀屋言當 
「これよりの買い付けは
このような面倒は為さらなくとも大丈夫に御座います」
「それとも」
「何か考えが有りますので御座いましょうか?」

伊丹康勝
「そうじゃ」
「我らに考えがお有りで御座いますのじゃ 
じゃんじゃかじゃん」

二代 淀屋言當  
「はー」
「伊丹康勝様におかれましては」
「ご機嫌に御座いますなぁ・・」

伊丹康勝
「儂らは、この100万両で安く米を買い占めて
100倍の値段で全て売ろうと思っておる」

二代 淀屋言當 
「ほー」
「100倍で御座いますか?」

伊丹康勝
「そうじゃ100倍じゃ」

二代 淀屋言當 
「それは ちと・・・」 

伊丹康勝
「何じゃ」
「ちと、何じゃ」

二代 淀屋言當
「ええ、お怒りなさらぬようにお願い致しますが」
「ちと、無理に御座います」

伊丹康勝
「まあ、そうじゃろーのぉ」
「しかし、無理では御座らん」
「実はのぉ
お主から借りた一億両を諸大名に貸し付けておる」
「諸大名は財務状況が逼迫しておるから米の買い付けを急ぐ筈じゃ」
「米の需要が膨らんで価格が高騰すること確実なのじゃ」
「どうじゃ お主に理解できるか?」

二代 淀屋言當
「いいえ、商人には守らねばならぬ約束が御座います」
「ですから、無理と申しておりますので御座います」

伊丹康勝
「約束事?」

二代 淀屋言當
「そうで御座います」
「約束事に御座います」

伊丹康勝
「100億両で米を買って
値上がりしたら売る」
「何が悪いのじゃ」

二代 淀屋言當
「それは、必要な量と価格に御座います」
「不必要ないたずらに膨大な買い付けをして、
値上がりを待ち、不必要であった膨大な米を
不必要と認識しておきながら
利益を得るためだけの目的で売買することに御座います」

伊丹康勝
「何じゃ」
「良くわからん?」
「何 倫理感の問題か?」

二代 淀屋言當
「いえ、そうでは御座いません」
「これは商いを正直にするための約束に御座います」

伊丹康勝
「んんんん・・・」
「あまり、硬い事を申すな」
「頼むから引き受けてくれんか?」

二代 淀屋言當
「淀屋には約束が御座います」
「約束を守らずば、信用を失い商売は出来なくなります」
「ご勘弁願います」

伊丹康勝
「いゃー困った」
「困ったのぉ」
「助けてくれんか?」

二代 淀屋言當
「そのように申されても淀屋も困るので御座います」

伊丹康勝
「よし、ではこうしょう」
「儲けの一部を淀屋が持てば良い」
「幾ら欲しい」

二代 淀屋言當
「いりません」

伊丹康勝
「んんんん・・・・」


「しょうが無いのぉ」
「では、約束を守って売買するが」
「如何じゃ」

二代 淀屋言當
「淀屋の約束にのって
米の買い付けは可能に御座います」



土井利勝は松平信綱を見くびっていたことを後悔していた。
小姓上がりの信綱があのような大きな力をもつことが
信じられなかったのだ。

徳川家光は信綱の名前を忘れたようなそぶりをしていたが、
あれも、明らかに変なことだ。
全ては信綱が仕組んだ罠だと気が付くのが遅すぎたのだ。

きっと、今回の事件で酒井忠勝に致命的な衝撃を
与えたであろうことは明らかであり、
土井利勝の失脚も自然な形で進行するのである。

松平正綱
「如何なさいましたか」
「顔色が優れませんな」

土井利勝
「どうやら、失脚したらしい・・・・」

松平正綱
「何と!」
「如何なされたのですか?」

土井利勝
「上様は松平信綱に重きを置き
大老陣は一新じゃ」

松平正綱
「はぁ」
「何故、儂にそのような話をなされる!」

土井利勝
「儂は、お主も、信綱も見くびっておった」
「お主は、儂の味方になって欲しかったが
裏切られたのぉ」

松平正綱
「ん・・・・」
「裏切りなど
変な推測に御座いますぞ」

土井利勝
「いや、恨んではおらん」
「儂の負けじゃ」
「しかし、お主も無事ではおれんぞ」

松平正綱
「まさか!」

土井利勝
「そうじゃ」
「上様は淀屋は潰してはならぬとのお言葉じゃ」