アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件  目付 大久保 忠鎮

2022-11-26 10:50:59 | 漫画
  
過去の記事を転載 細川綱利(肥後国熊本藩主)



(1649年)12月28日に父・光尚が死去したが、六丸こと綱利は6歳と幼かったため、通常であれば細川家は改易されかねないところであった。しかし光尚が、幕府に対して肥後領地返上の遺言をしたためており、徳川家の覚えがめでたかったことと、細川家臣の懸命の奔走もあって、綱利へ相続させるべきか否か幕府内で議論された。結局、慶安3年(1650年)4月18日に綱利への相続が認められたが・・
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

柳沢吉保
「肥後国熊本守は小姓の屋敷に下向で御座いますか?」

細川綱利(肥後国熊本藩主)
「いやいや」
「下向などと、左様に申されるな・・」
「上様の加護に授かりたいのじゃ・・」

柳沢吉保
「ほォ」
「左様か」
「では、其方は大老の屋敷に赴く方が良いぞ」

細川綱利
「何を申されますか・・」
「上様の信認は、貴方様に御座います
どうぞ、お見知りおきのほど
宜しくお願い申し上げます」

柳沢吉保
「んんゥ」
「其方は、何故、そう思う?」

細川綱利
「我が肥後国熊本は改易の危機を乗り越えて参りましたから
大勢の行方は承知しております」
「今後、貴方様は幕府の司令塔と為られます」

柳沢吉保
「んんゥ」
「其方の妻は大姫と申したな!」

細川綱利
「はい」
「左様に御座います」

柳沢吉保
「点を付けよ!」

細川綱利
「天で御座いますか?」

柳沢吉保
「いや、天では無い点じゃ」

細川綱利
「はい」
「では、点を付けて犬と致します」

柳沢吉保
「んんゥ」
「其方は、利口じゃな」

細川綱利
「はい」
「良き名前となりました」
「有難く、頂戴致します」

柳沢吉保
「しかし、水戸守が怒らぬか?」

細川綱利
「どうで御座いましょうか?」

柳沢吉保
「其方、水戸守が怒って
改名を拒否したら如何する」

細川綱利
「水戸守が拒否為されましても
有難き命名で御座いますから
犬姫と呼ぶことに致します」

柳沢吉保
「左様か」
「喧嘩するなよ」
「犬姫は光圀殿の妹じゃ」
「目出度いのォ」

細川綱利
「はい」
「有難き、幸せに御座います」

柳沢吉保
「其方は、賢明じゃな」
「上様は、其方のような賢明な家臣を望んでおられる」
「其方は賢く生き残る事が出来る筈じゃ」

細川綱利
「お褒め頂きまして、有り難う御座います」

柳沢吉保
「よしよし」
「其方の事は、
儂が責任を持って面倒を見るぞ」
「しかし、裏切れば如何なるか
分かっておろーな!」

細川綱利
「上様の御加護に預かりし、この身
忠義の道を踏み外す事は御座いません」

柳沢吉保
「よしよし」
「上様には、お主を推挙致そう」

細川綱利
「推挙など、恐れ多き事」
「此の度は、お見知りおきのほどを
お願いに参りました」

         
     赤穂事件 吉良を如何する?



細川綱利  (肥後国熊本藩主)
「全て、某にお任せ下さい」

柳沢 吉保 (大老格)
「おおおォ」
「其方がおったわ」
「老中が吉良殿の傷を検分に来るぞ」
「如何する?」

細川綱利
「はい」
「上様が吉良殿を見舞いに来られましたので
これを検分と致しましょう」
「誰にも上様の検分を覆す事は出来ません」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「しかしな」
「そうなれば、上様が沙汰を下す必要が出て来る・・」
「上様はこの件に関与しない事になっておるぞ」

細川綱利
「左様な事を気に為さる必要は御座いません」
「全て、某にお任せ下さい」

柳沢 吉保
「如何するつもりじゃ!」

細川綱利
「当然、老中の検分は拒否致します」
「それから、
今回の事件は極めて重要な儀式に
殿中での凶行で御座いましたから
迅速なる処分を必要として
速やかなる判断で儀式に支障をきたさぬ事を主なる理由として
また、
今までの慣例に従い
大老による沙汰が今すぐに下される事こそが
最も上様の意向に沿う判断と成るものと存上げます」
「斯様に、申し伝え
老中の検分を拒否致します」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「儂が沙汰を下すのじゃな」

細川綱利
「左様に御座います」

柳沢 吉保
「既に、浅野は改易が決まっておる」
「遠慮はいらんから
長矩を切腹させろ」
「よいか」
「浅野長矩に、切腹を申し渡す」

細川綱利
「御意に御座います」

柳沢 吉保
「・・・・」
「んんゥ」
「懸念はある・・」
「吉良殿はおとなしくしておるかなァ?」

細川綱利
「左様で御座いますなァ」

柳沢 吉保
「いっそ、本当の傷を負ってもらうか・・」

細川綱利
「左様で御座いますなァ」

柳沢 吉保
「死なぬ程度に切っておけ」

細川綱利
「御意に御座います」

柳沢 吉保
「・・・・・」
「まだ、懸念があるなァ」
「吉良殿は大袈裟に切られたことを主張しておった」
「切られた後で、気を失ったとの嘘も厄介じゃ」
「無傷で此処に逃げ込んで来たのじゃぞ」
「目撃しておる者もおる」
その者共の口封じも必要となるぞ」

細川綱利
「心配は無用で御座います」
「証言者の口封じは
某にお任せ下され」
「それから、吉良殿は大袈裟すぎましたので
傷は浅く軽傷と致しましょう」
「無傷を深き傷にするのは難しい事ですが
今から直ぐに軽傷とすれば
まだ、間に合う事で御座います」
「傷は浅く、直ぐに治った事に致しましょう」

柳沢 吉保
「そうじゃな」
「吉良殿は軽傷じゃ」
「傷は直ぐに治った事にするぞ」
「浅野長矩は殿中での凶行、
それも一年で最も大切な儀式である勅答の儀の直前
場所と時を弁えぬ蛮行
許しがたき事じゃ」
「上様に代わり
大老として長矩を切腹を申し渡す」

細川綱利
「御意に御座います」

柳沢 吉保
「よし、左様に老中に申し伝えよ!」

細川綱利
「直ぐに申し渡し
老中の検分を退けて参ります」

柳沢 吉保
「よし」
「やれ」



            栗崎 道有は意地悪



栗崎 道有 (江戸幕府の官医)
「御指南殿」
「御体を拝見致しましたが
傷は一切御座いません」

吉良 上野介
「ああァ」
「治ったのじゃな・・」

栗崎 道有
「傷を作らねば為りません」

吉良 上野介
「何で・・?」

栗崎 道有
「老中より
御指南殿の傷を確認したいとの要望が御座る」
「玄関番より、
傷が無ければ一大事になるとの申し入れ
直ちに、傷を作る必要が御座います」

吉良 上野介
「ええェ」
「儂を切るのか!」
「死ぬかもしれんぞ!」

栗崎 道有
「死なぬ程度に致します」

吉良 上野介
「ああァー」
「老中を追い返せ!」

栗崎 道有
「先ずは、傷を作る事が先決で御座います」

吉良 上野介
「如何やって切るのじゃ?」

栗崎 道有
「先ずは、殺意の剣を癒しの剣に変える必要が御座います」
「殺意の剣で傷を付ければ
それこそ命を失う危険が御座います」
「癒しの剣で傷を付ければ
某が外科治療で治して差し上げる事が出来ます」

吉良 上野介
「訳の分からん事を申すな」
「如何な刃物も切れれば同じじゃ!」
「戯けが!」

栗崎 道有
「いいえ、同じでは御座いません」
「蘭学の知識に御座る」
「殺意の剣で切られれば
例え傷口を縫い合わせても
その後、傷口が腫れ上がり、
熱を出し、激痛のもとで全身に毒が回り命を落とすのです」
「癒しの剣で切れば、直ぐに綺麗に傷は塞がり
後も残さずに完治致します」

吉良 上野介
「んんんゥ」
「嫌じゃ!」
「老中を追い返せ!」

栗崎 道有
「私が癒しの短剣を用意しております」
「この短剣は、私が実際に治療に使っておりまして
この剣で出来た傷は完治致します事折り紙付きで御座る」

吉良 上野介
「其方の治療ですっかりと治ったと申せ!」
「老中を追い返せ!」

栗崎 道有
「いいえ、駄目で御座います」
「如何なる名医でありましても
半日で傷を治すことは出来ません」
「ささァ」
「お切り為さいませ!」

吉良 上野介
「儂が自分で自分を切るのか?」

栗崎 道有
「左様に御座います」

吉良 上野介
「嫌じゃ!」

栗崎 道有
「では、私にお任せ下さいませ」
「立派な傷を作って差し上げますぞ」

吉良 上野介
「やめろ!」

栗崎 道有
「いいえ、駄目で御座います」
「如何しても拒否為さいませば
力ずくで対処致します」

吉良 上野介
「馬鹿!」
「やめろ!」

栗崎 道有
「ああァ」
「そうそう」
「浅野 内匠頭様が切腹を命じられましたぞ!」
「内匠頭様は、ご自分で腹を切るので御座る」

吉良 上野介
「そんな事、知らんわ!」
「馬鹿たれ!」

栗崎 道有
「しかし、喧嘩両成敗と成りませば
御指南さまも同罪で御座いましょう」
「傷が無ければ全ての自供が疑われ
もしも、他にも嘘を付いておられれば
全ての嘘が暴かれてしまいますぞ」
「老中は、
御指南の傷の検分を待ちわびております」
「待たせれば、待たせる程に
疑惑は膨らみ
不満も募るのです」
「もう、逃げ隠れは出来ません」
「内匠頭様は、ご自分で腹を切るので御座いますぞ」

吉良 上野介
「そんな事、知らんわ!」
「馬鹿たれ!」
「いけず!」
「意地悪!」
「あほ!」
「・・・・・」

栗崎 道有
「はいはい」
「では、切りますぞ!」





藤堂高久 (伊勢津藩の第3代藩主)
「お待たせ致しました」
「ううェ・・」

細川綱利  (肥後国熊本藩主)
「大老は赤穂殿に切腹を申し付けました」

土屋政直 (相模守老中)
「何と!」
「まだ検分が済んでおりませんぞ!」

畠山 基玄 (奥高家)
「上様よりのお裁きをお願い申し上げる」

池田 綱政 (備前岡山藩の第2代藩主)
「もう、大老がお決めになられた」
「上様も承知しておりますぞ!」

藤堂高久
「左様じゃ」
「うゲェ・・」

細川綱利
「いやいや、上様は今回の件に関与為さらぬ」
「上様にお手間を取らせては為りませんぞ」
「大老は、苦心の上に沙汰を下されたのじゃ」
「もう決まった事」
「左様に致せ」

土屋政直 
「しかし、まだ吉良殿の傷を拝見しておりませんので
検分は済んでおりませんぞ」
「吉良殿の傷を確認させてもらいたい」

畠山 基玄
「我らは、ここで長きの間待たされたが
奥で何をしておった!」
「説明して頂きたい!」

池田 綱政
「それはそれは、あい済まぬ事で御座った」
「実は、今回の赤穂殿切腹の命令が
異例の早さで下されたもので御座いますから
両人に報告するのを躊躇っておりました」
「お許し下さいませ」

藤堂高久
「早く返事をせねばと思もーておったが
遅れてしもーた」
「許して下され」
「うェ・・」

細川綱利
「この件は決着済みで御座いますから
どうぞお引き取り下され」
「大老は赤穂殿の沙汰を下されたので御座いますぞ」

土屋政直
「いやいや」
「順序が逆じゃ」
「老中で協議が済んでおらぬ」
「我らを蔑ろにしておるのではないのか?」
 
畠山 基玄
「今まで散々に待たされたのじゃぞ
吉良殿の見舞いくらいは許されようが!」
「吉良殿に会えぬ理由でもあるのかな!」
「場合によっては、強行突破致しますぞ!」

池田 綱政
「あいゃ」
「それは・・」
「もしや、強行突破など為さいますな」
「左様な事を為さいませば
老中といえども只では済みませんぞ!」

藤堂高久
「左様じゃ」
「それは為らん・・」
「大人しく退散して欲しい・・」
「頼む・・」
「ぐゥ・・」

細川綱利
「高家殿は、
強行突破して吉良殿の見舞いをしたいと申すか!」
「それほど我らを疑うと申すか!」
「我らを疑い
吉良殿の傷を検分する理由は何で御座る」
「理由をお聞かせ頂きたい!」

土屋政直 
「んんゥ」
「それは、和泉守(藤堂高久)に申し伝えた通りで御座る」
「其方は、散々待たせたのに
検分の理由も聞いておらんのか」

畠山 基玄
「左様」
「吉良殿は無傷で御座る」
「無傷の者が深き傷を負っているとの証言をしているのだから
嘘を付いておると疑われても仕方があるまい」
「疑いを晴らす必要が御座いますぞ」

池田 綱政
「いやいや」
「無傷などと
それは変じゃな」
「吉良殿は傷を負っておりますぞ」
「確かに、傷を負っております」

藤堂高久
「左様・・」
「うェ・・」

細川綱利
「其方達は誤解しておるようじゃな」
「誰が、申したか知らぬ事ではありますが
吉良殿の傷は浅い傷で御座いますぞ」
「深い傷との事は間違った情報じゃ」
「其方達は、根拠のない間違った情報を信じて
我らを疑い冒瀆しております」
「大老はお怒りで御座いますぞ」
「根も葉もない 根拠や証拠が全くない作り話で
我らを混乱させておる」

土屋政直 
「隠しておるから疑われるのじゃぞ」
「何故隠す」
「検分すれば済む事じゃぞ」
「散々待たせて挙句に
立ち去れと申しておる」
「冒瀆しておるのは其方達じゃ!」

畠山 基玄
「左様」
「何故に隠し為さる」
「吉良殿に会わせて下さいませ」

池田 綱政
「もしも、本当に吉良殿に傷があれば
如何致しますか!」
「老中の責任で御座いますぞ!」
「吉良殿に傷があれば、責任を取って頂きます」

藤堂高久
「大老はお怒りじゃ・・」
「うゲェ・・」

細川綱利
「大老は面子を失い、何を為さるか分かりませんぞ」
「大老は体面を気に為さる」
「上様は、大老を寵愛為さっておられる」
「しかし、こう申しては失礼ですが
其方は上様に好かれているとは・・」
「悪い事は申さぬ」
「おとなしく、お引き取り下さいませ」

土屋政直 
「んんゥ」
「どうやら、もう遅いようじゃな」
「検分には意味がなさそうじゃ・・」

畠山 基玄
「御老中!」
「諦めては為りませんぞ!」

土屋政直
「仕方が御座らん」
「我らは、退散する事にする」
「これから、赤穂殿に切腹を申し伝え
この事件の幕引きとする」

池田 綱政
「我らに賛同して頂きました事
感謝申し上げます」

藤堂高久
「おおおォ」
「分かってくれたか・・」
「うゥ・・」

細川綱利
「失礼をお詫び致す」
「以後、互いに協力し合い
全て穏便に事を済ますべきで御座います」
「穏便なる配慮に感謝申し上げます」

土屋政直
「・・・・失礼する」
 
畠山 基玄
「老中!」
「吉良殿は無傷ですぞ!」

土屋政直
「吉良殿は
無傷とは限らん・・」

畠山 基玄
「・・・・・」





阿部 正武 (老中)
「赤穂殿は切腹が命ぜられましたぞ」
「其方も一族も連座となる」

安部 信峯 (従五位下丹波守に叙任)
「んんゥ」
「某の沙汰は如何様に御座いますか?」

阿部 正武 
「謹慎しておれ」

安部 信峯
「老中が集まり協議する筈ではなかったので御座いませんか?」

阿部 正武
「大老が直々に沙汰を下された」
「一族連座も近く決定される」

安部 信峯
「御指南吉良殿は赤穂殿に嫌がらせをしておりました」
「畳替えの件が老中で協議されているかと・・」

阿部 正武
「畳替えを許さなかったのは儂じゃ」
「御指南の許可を得てから
畳替えを許したのじゃぞ」
「もしも、畳替えの件で犯行に及んだのであれば
それは、只の逆恨みじゃ」

安部 信峯
「御指南吉良殿は赤穂殿に敢えて大切な指示をせず
重要な慣例を隠して失敗をさせておりました」

阿部 正武
「赤穂殿は吉良殿に指南料を出し惜しんでおった」
「吉良殿には指南の見返りとして
指南料を受け取る権利が御座る」
「指南料を出し惜しんだのは
赤穂殿の責任じゃ」
「皆が、赤穂殿のようになっては困るのだ」
「御指南は赤穂殿を虐めたのではなく
嗜めておったのじゃぞ」
「其方には、御指南の苦労が分からんのか!」

安部 信峯
「御指南は・・
御指南は、嘘の指示を出しておりました!」

阿部 正武
「知らんな!」

安部 信峯
「老中協議が為された筈で御座います」

阿部 正武
「儂は、知らん」

安部 信峯
「あまりにも理不尽で御座る・・」

阿部 正武
「んんゥ」
「それは誰に申しておるのじゃ」
「儂にか?
それとも上様か?」

安部 信峯
「左様な・・」
「如何すれば分かってもらえるので御座いますか?」

阿部 正武
「其方が分かるも、何んも、某には関係ない
其方が知らんのは、其方の責任じゃぞ
儂には関係ない」

安部 信峯
「恐れながら、
老中は何を協議為されていたので御座いますか?」

阿部 正武
「協議などしておらん」

安部 信峯
「えェ」
「協議もなく、いきなり
この件を幕引きにするので御座いますか!」

阿部 正武
「だから、何度も申しておるじゃろーが
大老が直々に沙汰を下されたのじゃぞ」
「我らは、大老に従えばよいのじゃ」
「其方は、浅野長矩の凶行に連座して
切腹すればよいではないか!」

安部 信峯
「某に何の罪が御座いますか?」

阿部 正武
「其方は浅野とは母方の従兄弟ではなかったのかな」
「連座とは罪を犯した本人だけでなく、
その家族や親戚などに刑罰を及ぼすことであるぞ」
「其方は、連座で裁かれる」

安部 信峯
「老中には善意のあるお方はいないので御座いますか」
「何故、多くの嘘を隠しておくのですか」
「本当に
今回の事件を
赤穂殿だけの責任にしておいても
宜しいので御座いますか」

阿部 正武
「今回の事件は、殿中における
最も大切な儀式を遮り妨害する奇行で御座る」
「場所を弁えず、役目も果たさず
上様の大切な儀式を妨害する犯行じゃぞ」
「全ては浅野長矩の責任じゃ」

安部 信峯
「んんゥ」
「老中は
御指南の虐めを知っておる筈」
「赤穂殿は御指南の虐めで
言葉が詰まり、腹痛をおこし、
頭が割れるように痛いと申しておりました」
「左様な酷い虐めで御座いました」

阿部 正武
「虐めは何処にでもある」
「虐められたからといって
暴れても良いのかな!」
「虐められたら、切り付けても良いのかな!」
「虐められたら、上様に逆らっても良いのかな!」

安部 信峯
「老中!」
「そうでは御座いません」
「話をはぐらかせては為りません」
「これは、喧嘩両成敗で御座いますぞ!」
「吉良殿の虐めを精査して頂きたい」
「お願い致します」

阿部 正武
「喧嘩じゃと!」
「戯けた事を申すな!」
「浅野は御指南を一方的に切り付けたのじゃぞ」
「御指南は被害者じゃぞ」
「戯けが!」

安部 信峯
「検分は全て吉良殿の自供によるもの
他にも証言者は要る筈で御座います」

阿部 正武
「はァア!」
「お主!御指南が嘘を付いているとでも申しておるのか!」

安部 信峯
「いいえ、左様な事では御座いません」
「某、多くの証言を精査して頂きたく存じます」

阿部 正武
「しない」


               赤穂事件 お別れ




藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「おおォ」
「お館様!」

安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「お館様!」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「其方達とは、これでお別れじゃ!」
「暫しの間、別れの挨拶が許された」
「儂は、赤穂の改易を防ぐ為に最善を尽くしたぞ!」

藤井 宗茂 
「梶川殿が果し合いを認めて下さいますぞ!」

安井 彦右衛門
「そうじゃ、梶川殿が御台所様に働き掛けて
吉良の悪事を暴いてくれる」
「別れなどと申さねども・・
まだ・・まだ諦めては為りません」

浅野 内匠頭
「梶川殿は老中を回って精一杯に証言してくれたのじゃ
もう十分ではないか」
「これ以上、梶川殿に迷惑をかけたくないぞ」

藤井 宗茂 
「梶川殿は諦めてはおりませんぞ」

安井 彦右衛門
「左様」
「諦めては為りません!」
「御台所様に縋りましょう!」

浅野 内匠頭
「御台所様は、某を頼りなき軟弱者と思っておるのだぞ」
「その軟弱者が頼れば如何為るものと思う!」
「儂であれば、その様な軟弱者を庇う事はない」
「儂が庇う事が無い事を
御台所様に期待出来る訳がないだろう」
「軟弱者と呼ばれぬように
ここは、確りと潔く桜と共に散る事じゃ」
「元禄桜は今が散り時じゃ」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「ああァァ」
「お館様・・」
「お館様は、
吉良を切るつもりは無いと申された筈で御座るが 
何故に吉良を切ったので御座いますか?」
「お館様の山鹿流、
手元が狂いましたか?」

安井 彦右衛門
「吉良は重体との事じゃ」
「手元が狂っただけでは説明が付きませんぞ!」

浅野 内匠頭
「重体など有り得ん」
「吉良は無傷じゃ!」

藤井 宗茂
「では、吉良は嘘を付いておると・・」
 
安井 彦右衛門
「ああァ」
「吉良は憎き奴じゃ」
「嘘つきのたこ侍じゃ!」

浅野 内匠頭
「左様」
「しかしな、吉良殿を憎んでは為らんぞ」
「吉良殿は犬じゃ」
「そして、某も犬に成る筈であった」
「犬には犬の使命がある」
「しかし、儂は犬にも成れなかった」
「全ては、儂の責任なのじゃ」
「儂が疱瘡を患い痘痕を晒した事で
上様の怒りを買ってしまったのじゃ」
「上様は、蚊に刺された小姓の血に激怒なされ
その小姓を島送りにした事がある」
「それほどの潔癖が求められておるのじゃぞ」
「儂の痘痕は死罪に相当する罪なのじゃ」

藤井 宗茂 
「しかし、痘痕など治っておりますぞ」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「治っておる」

浅野 内匠頭
「いや」
「儂が言いたいのは、左様な事ではない」
「儂が言いたいのは
儂の命を無駄にするなとの事じゃぞ」
「儂が死ぬのは、赤穂の為じゃ」
「そして、それは我ら赤穂一族の為
そして、我らを信じてくれた親戚の藩の為」
「更には、我らの為に尽くしてくれた
梶川殿の為」
「吉良殿を憎めば、赤穂の改易はま逃れん」
「儂は、吉良殿に打たれようと思っていたのじゃぞ」

藤井 宗茂
「んんんゥ」
「しかし、左様な事を赤穂の者共が受け入れるだろうか?」
 
浅野 内匠頭
「先ずは、其方達じゃ」
「赤穂を守れ!」
「吉良殿に関わるな!」
「御台所様に頼るでは無い!」

藤井 宗茂 
「お館様は、潔しすぎますぞ」
「もっと、我がままでもよろしい・・」
「儂は、辛い・・」
「儂は、悲しい・・」

安井 彦右衛門
「この怒りと悲しみを
何処にぶつければよいのか・・」
「お館様と共に
我らも御供致します・・」

藤井 宗茂 
「儂も、御供致します!」

安井 彦右衛門
「一緒に、あの世に参りましょう!」

浅野 内匠頭
「駄目じゃぞ!」
「吉良殿を憎むな!」
「儂は、其方達が死んでも喜ばんぞ!」
「吉良殿が死んでも喜ばんぞ!」
「儂は、赤穂を救うために死ぬのじゃぞ!」
「儂の死を無駄にするな!」
「よいな」

藤井 宗茂
「お館様・・」
 
安井 彦右衛門
「御 お館様・・」
「諦めては為りません・・」

浅野 内匠頭
「あっははは」
「其方達は、これから大変じゃぞ」
「赤穂を守れ!」
「心残りは、大石殿じゃ」
「斯様に、直ぐに沙汰が下れば
大石殿に挨拶が出来んな・・」
「大石殿にも、申し付けよ!」
「吉良殿を憎んでは為らん」
「確と申し付けたぞ!」
「確と!」

藤井 宗茂
「お館様・・」
 
安井 彦右衛門
「何というお方じゃ」
「儂には、到底敵わぬ御方じゃ・・」
「泣けて来る・・」
「悲しい・・」

藤井 宗茂 
「・・・・・」
「悲しい・・・」
「お別れで御座いますか・・・」

安井 彦右衛門
「辛い・・」

藤井 宗茂
「本当に、お別れで御座いますか・・」
 
浅野 内匠頭
「もうよい」
「死に装束を用意せよ」


安井 彦右衛門
「ううゥ・・・」
「・・・・」
「うぐ・・」
「承知致しました」

藤井 宗茂
「ううぐ・・」
「涙・・」
「用意致します」 


    
      赤穂事件 泣いてなどおらん 



堀部 武庸 (安兵衛)
「如何した」
「急ぎの事とは何じゃ!」

原 元辰 (惣右衛門)
「うううゥ・・」
「・・・」

堀部 武庸
「急いで呼び出しておいてから
何じゃ!」
「んんんぅ?」
「お主!泣いておるのか?」
 
原 元辰 
「・・・・・・」
「いや、泣いてなどおらん・・・」
「うううゥ・・・」

堀部 武庸 
「まァ よい」
「落ち着くまで、待とう」

原 元辰
「おやかたさまぁ・・」
「お館様が・・」
「うううゥ・・・」
 
堀部 武庸 
「お館様が如何した!」

原 元辰
「切腹を命じられた・・・」
 
堀部 武庸 
「・・・・・・」
「何と!」
「如何様な理由か!」

原 元辰
「あああァ」
「あのな、吉良との果し合いで
討ち損じたのじゃ!」
 
堀部 武庸 
「んんんゥ」
「では、吉良との喧嘩両成敗で御座るか!」

原 元辰 
「兎に角、急いで赤穂の資産を運び出せ!」

堀部 武庸 
「はァア!」
「現金な奴じゃのォ!」
「いきなり、資産か!」

原 元辰 
「ううううゥ・・」
・・涙・・

堀部 武庸 
「何じゃ! 今度は泣く・・」
「お主、確りとせよ」

原 元辰 
「おゥ・・」
「あのな、お館様は赤穂の為に命を捧げたのじゃ・・」
・・・涙・・・

堀部 武庸 
「んんんゥ」
「よし」
「吉良を討つぞ!」
「仇討ちじゃ!」

「ところで、吉良も切腹か?」

原 元辰 
「分からん・・」
「儂には詳しき事、何も分からん・・」
「ただ、お館様が切腹を命じられたとの
知らせを受けたのじゃ・・」

堀部 武庸 
「左様か・・」
「しかしな、お主の指示で
既に金目の物は全て赤穂に送り返しておるぞ」
「残りは、鉄砲洲の上屋敷にある」

原 元辰 
「その全てを送り返せ」
「資産を守るのじゃ!」

堀部 武庸 
「承知した」
「安心致せ」
「資産没収など許さんぞ!」

原 元辰
「赤穂の全資産は、幕府に納める」 

堀部 武庸
「えェ」
「隠すのでは無いのか!」
 
原 元辰
「隠すのじゃ!」
 
堀部 武庸
「お主、何を申しておる?」
 
原 元辰
「幕府に納める大切な資産を暴徒から守るのじゃ!」
 
堀部 武庸 
「んんんゥ」
「何じゃ!
やはり、隠せんのか!」
「何で!
幕府に取り上げられんといけんのんじゃ!」

原 元辰
「赤穂を救う為じゃぞ!」
「資産を投げ出して許しを乞うのじゃ!」
 
堀部 武庸 
「んんんゥ・・・無念」

「仕方ない・・」
「承知した」
「赤穂屋敷の警護は儂に任せろ!」

原 元辰
「儂はこれから赤穂に向かい
大石殿にご報告致す」
「総登城の評定じゃ」
「篭城討死か開城恭順の評定じゃ」 

堀部 武庸
「んんゥ」
「承知した」
「・・・・」
「其方、泣いておったが大丈夫か?」
 
原 元辰
「泣いてなどおらん!」
 
堀部 武庸
「・・・・・」
「此処は、儂に任せろ」
「お主は、急いで行け!」
 
原 元辰 
「んゥ」
「では、行って来るぞ!」


          赤穂事件 大石 内蔵助の息子




大石 内蔵助 (播磨赤穂藩の筆頭家老)
「什器類を送り返すとの知らせか・・」
「嫌な予感がする・・」

大石 主税 (父は大石内蔵助)
「父上!」
「浮かぬ顔は止めてくれ!」
「弱気心は意気地なしの心
主税は、何時でも晴れやかで御座います」

大石 内蔵助
「お前はまだ数え年で14歳、
元服前じゃが
怖いもの知らずじゃな」

大石 主税
「主税は武士で御座います」
「高い志を持った武士で御座います」
「怖いものなど御座いません」

大石 内蔵助
「母が恋しくないのか?」

大石 主税
「母に甘える事は御座いません」
「むしろ、母を守って差し上げます」

大石 内蔵助
「左様か・・」

大石 主税
「父上は元気がない!」
「悩みが御座いますか?」
「主税が聞いて進ぜよう」

大石 内蔵助
「生意気を申すな」
「んんゥ」
「そうじゃのォ
其方も、覚悟をしておけよ」
「江戸から悪い知らせが届くかもしれん」

大石 主税
「悪い知らせの文で御座るか」
「主税にも見せて下さい」

大石 内蔵助
「いやいや」
「文は、代わり映えない」
「ただ、少し前に江戸屋敷の金目の物が
送り返されて来たであろう」
「そして、今度は什器類じゃ」
「これは、明らかに変じゃ」

大石 主税
「父上は心配なさいますな」
「主税は良い知らせだと思います」
「これは、今回の御勤めのおすそ分けですよ」
「御馳走のおすそ分けですよ」

大石 内蔵助
「・・・・・」
「あのな・・」
「お館様が
饗応の役目を無事に終えたのであれば
赤穂江戸屋敷の祝いの膳は必要じゃぞ」
「送り返してくる意味が分からん」

大石 主税
「ですから、
我らにもおすそ分けで御座います」
「無事にお勤めが済んだ証拠でございます」
「父上の心配は、取り越し苦労ですよ」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「そうじゃな・・」
「心配しても意味はない
儂の取り越し苦労であろう」
「もしもの時・・
吉之進はまだ子供
くう・るり は女子じゃ」
「お前は、兄弟を守れるのか」

大石 主税
「主税は武士の子
決して負けない
武士の子でございます」

大石 内蔵助
「左様か・・」
「そう言えば
家臣の中で
お前は子供としてはひねておると言われておるが
お前は、己惚れてはおらんのか?」

大石 主税
「うぬぼれでございますか?」

大石 内蔵助
「大人に大層な口を利いてはおらんのかな」

大石 主税
「主税! 生意気とは言われております」

大石 内蔵助
「それが、ひねておるのじゃぞ」

大石 主税
「武士は生意気程で丁度良いのでござる」
「主税は生意気でござる」

大石 内蔵助
「威勢が良いのォ」

大石 主税
「はい」
「主税は元気一杯です」

          赤穂事件 遺書



浅野 長矩 (播磨赤穂藩の第3代藩主
「お別れじゃ」
「儂は、其方を一番信頼しておったぞ」

片岡 高房 (赤穂藩 側用人・児小姓頭350石)
「主殿・・」
「某も御供致しとう御座います」

浅野 長矩
「ならぬぞ!」
「殉死は為らん!」

片岡 高房
「必ず主殿の仇を取ります!」

浅野 長矩
「ああァ」「そうじゃ」
「其方に遺言を託そうと思うぞ」

片岡 高房
「はい」
「謹んでお受け取り致します」

浅野 長矩
「孤の段、兼ねて知らせ申すべく候得共、
今日やむ事を得ず候故、知らせ申さず候、
不審に存ず可く候・・・・」

片岡 高房
「その後の文は・・・」

浅野 長矩
「んんゥ」
「この後は、口頭で残す故、
書き写す必要はない」

片岡 高房
「承知致しました」

浅野 長矩
「今回の刃傷は
場所と時刻を弁えぬ無礼な行為であり
打ち首も覚悟していると」

片岡 高房
「・・・はい・・・」

浅野 長矩
「何故、殿中で儀式の前であったのか
不審な事であろうが理由が御座る」
「先ずは、御指南の吉良殿が
勅答の儀の時刻を操作して嘘を付いた為」
「更には、御指南の吉良殿が
某にだけに最後まで嘘を付き続けて
饗応馳走役としての務めを妨害した事」
「更には、御指南の吉良殿は
勅答の儀を早く終わらせ
上京して逃げる計画であった事」
「儂には、吉良殿との果し合いが
避けられぬ事情があった事」
「殿中で儀式の前は、吉良殿の一瞬の隙で御座った」
「この隙を逃せば
果し合いは為らず
果し合いが無ければ
赤穂は改易となる理由があった事」

片岡 高房
「果し合いが無ければ
赤穂は改易とは・・如何なる理由に御座いますか?」

浅野 長矩
「これは、遺書にも残しては為らぬ」

片岡 高房
「はい」
「絶対に内緒に致します」

浅野 長矩
「実はな」
「儂は、
吉良殿の指示で御台所様に精進の日の確認に参った」
「その後、儂は御台所様に気に入られ
何度もお招き頂いたのじゃ」

片岡 高房
「左様な事が御座いましたか」

浅野 長矩
「済まぬな」
「其方には内緒にしておった」

片岡 高房
「いいえ」
「主殿の判断にお任せ致します」

浅野 長矩
「それから、吉良殿の執拗な嫌がらせが始まり
儂は、言葉が上手く話せなくなった」
「腹痛を起こし、頭は割れるように痛むようになったのじゃ」
「斯様な様子を、御台所様に見られれば
儂を弱き者、軟弱者と思うても致し方御座らん事」
「儂は、御台所様に嫌われたのじゃ」
「更には、儂が大奥に何度も参り
御台所様に会っていた事を理由に
吉良殿に脅されていた」
「この時、既に、儂の処分は決まっておった」
「儂は、御台所様に密会した罪が決定しておったのじゃ!」

片岡 高房
「左様なご苦労を・・」
「某も共に苦しみとう御座いました」
「お一人で、苦しんでおられたのですか・・」
「・・・・」

浅野 長矩
「んんゥ」
「それから、梶川頼照殿は
儂の証言者じゃ
梶川殿が儂を羽交い絞めにしたのは
吉良殿に儂を討たせようとしたのじゃぞ」

片岡 高房
「えええェ」
「主殿が自ら討たれようと・・」

浅野 長矩
「左様」
「もう、儂の密会の罪は確定しておった」
「赤穂を救うには
儂の発狂しかない状況であった」
「儂が発狂するのは儂の責任じゃ」
「赤穂には責任は無い」

片岡 高房
「んんゥ」
「全ては、幕府の仕業・・」

浅野 長矩
「待て!」
「左様な事は禁句じゃぞ!」

片岡 高房
「しかし・・」
「あまりにも理不尽で御座る・・」

浅野 長矩
「理不尽でも致し方ないのじゃ!」
「よいな」
「この事は内緒じゃぞ!」

片岡 高房
「ううゥ・・」
「内緒に致します・・・」

浅野 長矩
「儂は、其方を一番信頼している」
「これより、田村建顕殿の屋敷に参る
供をしてくれ」

片岡 高房
「はい・・・・」
「承知致しました・・・・」
       
       赤穂事件 和解解消



田村 建顕 (陸奥国岩沼藩主)

「んんぅ」
・・トントン・・ (笏を叩く音)

「危うく巻き添えにされる所であったわ!」


浅野 長矩
・・・・・神妙にしている・・・・・


田村 建顕
「赤穂が我らと和解したいとな?」
「戯けた事じゃ!」
「申し付けておくがなァ
我らは赤穂の道連れにはならぬ」
「愚かな事をしたな」
 
浅野 長矩
 
・・・・・・目を瞑る・・・・・

田村 建顕
「其方が
此処へ連れて来られた意味は何であろうのォ」
「赤穂は塩の製法を教えると申して
宗家仙台に近づいたのじゃな」
「宗家は騙せても
儂を騙す事は出来ん」
「諦めろ!」

浅野 長矩

・・・・・おとなしく聞いている・・・・

田村 建顕
「図星であろう」
「反論もできぬな」

浅野 長矩
「塩の製法は仙台殿の要請によります処」

田村 建顕
「煩い!」
「黙れ!」

浅野 長矩
「・・・・・・・」

田村 建顕
「ああアア」
「止めじゃ!」
「やめ止め!」
「其方を介錯など止めた!」

浅野 長矩
「・・・・・・・」

田村 建顕
「我が家の宝刀が寂れる」
「陰気じゃ」
「介錯などせんぞ!」

浅野 長矩
「・・・・・・・」

田村 建顕
「ああァア」
「不愉快じゃ!」
「死装束は用意しておるのか!」
「いつまでも、左様なものを着ておるな」
「死装束に着替えて
隅の部屋で謹慎しておれ!」
「ああァア」」
「釘を打ち付けて監禁してやる!」

浅野 長矩
「どうぞ」

田村 建顕
「介錯はせんぞ!」

浅野 長矩
「どうぞ」

田村 建顕
「ふん」
「愚かな奴じゃ」

浅野 長矩
「・・・・・」

田村 建顕
「遺書を隠しておったな」

浅野 長矩
「隠してはおりません」
「小姓に渡しております」

田村 建顕
「律儀な小姓よな」
「遺書を守り
抵抗しておったぞ」
「しかし、内容の無い遺書じゃ」
「其方、遺書の意味も知らんのか!」
「遺書は反省を認めて書き残すのじゃぞ」
「書き直せ!」

浅野 長矩
「遺書は書き直す訳には参りません」

田村 建顕
「仙台宗家及び我ら分家に詫びるのが筋じゃぞ」

浅野 長矩
「何を詫びるので御座いますか!」

田村 建顕
「我らを道ずれにしようと企んだ罪を認めて詫びるのだ」

浅野 長矩
「同じ馳走役で御座います」
「饗応を協力して無事に執り行う事を約束することは
罪では御座いません」

田村 建顕
「チィ」
「じゃかァーしい」
「お前は、賊に等しい」
「もう何も申すな!」

浅野 長矩
「・・・・・・」

田村 建顕
「監禁しておくぞ!」

浅野 長矩
「どうぞ」


             赤穂事件 大目付庄田安利



 大目付庄田安利は今回の刃傷事件を調べていた。
しかし、吉良義央と浅野長矩の自供が、まったくかみ合わなかったのである。

庄田安利 (大目付)
「如何じゃった」

磯田武太夫 (小人)
「はい、面会を許した浅野長矩を密かに監視しておりましたが
浅野長矩の自供は間違っておりませんでした」

庄田安利
「んんゥ」
「面倒な事になったな・・」

磯田武太夫
「如何致しますか?」

庄田安利
「今、あ奴は田村邸に監禁されておる」
「しかし、田村は介錯人を出す事を拒否した・・」
「其方に介錯を頼むことに為る」

磯田武太夫
「承知致しました」

庄田安利
「申しておくが
浅野は罪人として扱うのじゃ」
「そして、我らが得た情報は
決して他の者に知られてはならん」
「極秘事項じゃぞ!」

磯田武太夫
「承知致しました」

庄田安利
「今一つ、困った事がある」
「切腹の検死役に多門伝八郎と大久保権右衛門が加わった」
「その者共は、浅野の自供を真に受けておるからな
浅野長矩を罪人として扱う事を拒否するかも知れん」

磯田武太夫
「如何致しますか」

庄田安利
「これから、我らで田村邸に赴き
その者共の真意を確かめる必要がある」

磯田武太夫
「それでは、大目付殿が
浅野長矩を罪人とせよと申せば宜しいかと・・」

庄田安利
「いや、吉良の自供は信用為らん」
「あの者は嘘の上塗りで嘘を重ね
自ら自滅せんとしている」
「我らの検分は完全拒否を貫いておるが
嘘がばれるのは時間の問題じゃ」
「嘘が発覚する前に
浅野を始末する必要があるぞ」

磯田武太夫
「如何致しますか・・」

庄田安利
「先ず、浅野の自供を完全に破棄しろ」
「この事件の真相を完全に封印するのじゃ」

磯田武太夫
「承知しました」

庄田安利
「それから、吉良の嘘がばれぬように
吉良の自供を書き留めておき
矛盾する事があればその都度修正する」
「決して吉良の嘘が広まらぬように配慮するのじゃ」

磯田武太夫
「承知しました」

庄田安利
「んんんゥ」
「難儀じゃぞ」
「この事件は難儀じゃ」
「もしも、真相が知られれば
我らは幕府に消されるぞ」

磯田武太夫
「承知しております」

庄田安利
「んんゥ」
「これより、田村邸に参り
浅野の切腹を見届ける!」
「よいな!」

磯田武太夫
「しかし、すでに日が暮れかかっております」
「もう無理かと・・」

庄田安利
「明かりを灯したらよかろう・・」

磯田武太夫
「しかし、某は介錯に自信が御座いません」

庄田安利
「何故じゃ?」

磯田武太夫
「実は、某、鳥目で御座る」
「夕方には見えにくくなりまする」

庄田安利
「適当に切れ!」

磯田武太夫
「誰が他の者にお願い申し上げます」

庄田安利
「ああァア!」
「介錯人は卑しき者がするのじゃ」
「其方以外には務まらん!」

磯田武太夫
「左様な・・」
「本当に見えないので御座います」
「お許し下さい」

庄田安利
「為らん!」
「お前は卑しき小人故
介錯人となった」
「卑しい者の務めじゃ」
「やれ!」

磯田武太夫
「承知しました」

庄田安利
「心配するな」
「明かりを用意する」
「これから直ぐに赴くぞ」
「ついて参れ!」

磯田武太夫
「では、多門伝八郎殿と大久保権右衛門殿にも連絡致します」

庄田安利
「不要じゃ」

磯田武太夫
「後で問題に為りませんか?」

庄田安利
「今は、浅野を始末して
口封じする事が先決じゃ」
「吉良の嘘がばれれば取り返しが付かん」
「大目付の責任となり
儂も切腹となる」
「しかしな、
その前に、お主を生贄にするぞ」
「お前は、儂の身代わりじゃ!」

磯田武太夫
「承知しております」
「大目付殿に従う所存に御座います」

庄田安利
「儂を裏切るなよ」

磯田武太夫
「裏切るなど
決して、決して、致しません」
「大目付殿に従います」

庄田安利
「よし」
「浅野の切腹を見届けに参る!」

磯田武太夫
「御意」

       赤穂事件 目付多門伝八郎



多門 重共 (取調べ役)
「御指南殿」
「具合は如何かな?」

吉良 義央
「傷が痛いぞ」
「儂は、殺されそうになったのじゃ」
「あ奴は、恐ろしい奴じゃ」

多門 重共
「少しばかり
取り調べをする必要が御座る」
「応じて頂けますかな?」

吉良 義央
「嫌じゃ!」

多門 重共
「しかし、お元気なご様子」
「拒否致せば
浅野殿の自供が罷り通る事になりますぞ」

吉良 義央
「儂は被害者じゃぞ!」

多門 重共
「んんゥ」
「浅野殿は
御指南を切ってはおらぬと申しておる」
「何故、老中直々の検分を拒否なされた」

吉良 義央
「あああァ・・」
「あのな、儂は気絶しておったのじゃ」
「覚えておらん・・」

多門 重共
「しかし、御指南は重体との知らせで御座った」
「しかし、お元気そうじゃ」

吉良 義央
「元気で悪いか!」
「儂は、奴に殺されそうになったのじゃぞ!」

多門 重共
「傷口を拝見致しました」

吉良 義央
「立派な傷じゃぞ!」

多門 重共
「その傷で御座いますが
何故縫ったので御座いましょうか?」

吉良 義央
「儂が知るか!」
「栗崎道有が縫ったんじゃ!」
「道有に聞け!」

多門 重共
「いやいや」
「儂は、刀の切り傷を何度も見ている」
「しかし、変じゃな」
「殺意の剣で切られた傷口が
まるで嘘のように綺麗に縫い合わされておる
信じられん!」

吉良 義央
「馬鹿が!」
「これは、癒しの剣で切ったんじゃ!」

多門 重共
「ほぉー」
「では、その傷は治療傷で御座いますな」
「肩こりの治療でも為さいましたか?」

吉良 義央
「儂が知るか!」
「栗崎道有が縫ったんじゃ!」
「道有に聞け!」

多門 重共
「左様ですか?」
「道有が癒しの剣と申されたか?」

吉良 義央
「んんゥゥゥゥゥゥゥ」
「儂は、もう年寄りじゃからな
なんも覚えておらん・・」
「分からん」

多門 重共
「御台所様が勅答の儀の準備が遅れていると
お怒りで御座いましたが
何故、遅らせたので御座いますか?」

吉良 義央
「んんゥゥゥゥゥゥゥ」
「それはな
勅使の柳原資廉・高野保春、霊元上皇の院使・清閑寺熈定の都合じゃ」
儂は知らぬ」
「その者に聞け」

多門 重共
「浅野殿は
御指南から
勅答の儀の偽りの刻を告げられたと申しておりますぞ」

吉良 義央
「知らん」

多門 重共
「御指南殿の嫌がらせが原因で
浅野殿は言葉が詰まるようになったと申しておりますぞ」

吉良 義央
「ああ」
「あ奴は、生れ付きじゃ」
「儂の所為にするな」

多門 重共
「御指南殿の嫌がらせが原因で
浅野殿は腹痛や頭痛に悩まされたと申しておりますぞ」

吉良 義央
「だから申しておろうが
儂の所為にするな」

多門 重共
「その切り傷で御座いますが
血は出ましたかな」

吉良 義央
「馬鹿が!」
「死にかけたのじゃぞ」
「沢山出たぞ!」

多門 重共
「それは変じゃ
「松の廊下は綺麗であった」
「其方の烏帽子にも
御着物にも血が付いておりませんぞ」

吉良 義央
「えェ」
「えェへ」
「わ。わし
「儂は年寄りじゃから
何も覚えておらん」
「儂は、知らんなよ」

 
          赤穂事件  目付 大久保 忠鎮 


        
大久保 忠鎮
「吉良殿の傷を確認して参りました」

土屋 政直
「如何であった?」

大久保 忠鎮
「はい、綺麗な傷が御座いました」

土屋 政直
「左様か・・」

大久保 忠鎮
「ただ、烏帽子と御着物等の遺留品は焼き捨てられておりました」

土屋 政直
「んんゥ」
「証拠隠滅じゃな」

大久保 忠鎮
「御台所様の証言を求めましょうか?」

土屋 政直
「そうじゃのォ・・・」
「少し待て」
「赤穂殿の切腹を遅らせる事が先決じゃ」

大久保 忠鎮
「如何致しますか?」

土屋 政直
「んんゥ」
「大目付の庄田は柳沢の使いじゃ」
「庄田を何とかせんとな」

大久保 忠鎮
「大目付を切りますか!」

土屋 政直
「いや、無理じゃ」
「目付間の争いになるぞ!」

大久保 忠鎮
「・・・・・・・」

土屋 政直
「んんゥ」
「多門と其方に数十人の小人を付ける故
理由を付けて切腹を食い止めろ」

大久保 忠鎮
「大目付が拒否したら
如何致しましょうか?」

土屋 政直
「んんゥ」
「如何したものか・・・・」

大久保 忠鎮
「・・・・・・・・」

土屋 政直
「先ず、其方は赤穂殿の切腹を見届けると申して
庄田を遠ざけ
その隙に、赤穂殿を救い出せ」

大久保 忠鎮
「無理で御座います」

土屋 政直
「んんゥ」
「・・・・・・」

大久保 忠鎮
「・・・・・・・」

土屋 政直
[しかしな・・」
「赤穂殿はこの事件の主導者・・いや
犠牲者じゃ」
「赤穂殿を殺されてしまえば
柳沢に対抗する手立ては無くなる」

大久保 忠鎮
「御老中が切腹を食い止めて頂く訳には・・」

土屋 政直
「儂が出て行けば
柳沢の罠に嵌る」
「大老は、儂如き簡単に握りつぶせる」

大久保 忠鎮
「やはり、無理で御座います」

土屋 政直
「いや」
「大切な当事者じゃ」
「諦めてはならんぞ」

大久保 忠鎮
「では」
「拙者が介錯人と成りましょう」
「赤穂殿を殺さぬように介錯致します」

土屋 政直
「出来るか」

大久保 忠鎮
「この暗闇で誤魔化せば・・」

土屋 政直
「無理をするなよ」
「多数の小人で取り囲み
闇夜のどさくさに紛れて
直ぐに藁に包み
赤穂の者に引き渡せれば・・
・・
それならば如何じゃ。。赤穂殿を助ける事が出来るか?」

大久保 忠鎮
「大目付の油断があれば
可能かと・・」

土屋 政直
「よし、
直ちに多門と其方
そして、多数の小人を使わす」
「赤穂殿を救い出せ!」

大久保 忠鎮
「御意」


赤穂事件 嫌な事

2022-11-14 11:40:55 | 漫画


            赤穂事件 大きな声



梶川 頼照
「本日の勅使様の刻限が早まったので御座いますか?」

吉良上野介
「おおォォ」
「ちと、声が大きい」
「儂は、知らんぞ・・」

梶川 頼照
「院使様とは別の時刻になるので御座いますか?」

吉良上野介
「声が大きいと申しておろうが!」

梶川 頼照
「いえいえ」
「段取りが遅れてしまいますから
多少なりとも声が大きくなりまして御座る」
「御台所様が懸念されておられます」
「如何いう事か、説明をお願い致します」

吉良上野介
「だから、儂は知らん!」
「きっと、勅使様・院使様の都合で早まったのじゃろう」
「大騒ぎするな」

梶川 頼照
「では、勅答の儀は早まるので御座いますか!」

吉良上野介
「んんゥ」
「あのな、早まるがな
あ奴には教えては為らんぞ」

梶川 頼照
「あ奴とは、誰で御座る!」

吉良上野介
「おおおォォォォー」
「何で でかい声を出すのじゃ」
「小声で話せ」

梶川 頼照
「指南殿・・」
「御台所様がお怒りで御座る」
「儂は、御台所様に追放されたくないので御座る」
「あ奴とは、誰で御座る」

吉良上野介
「訳有じゃ」
「忖度せよ」

梶川 頼照
「某、御指南の心の内は分かりません!」
「まさか!」

吉良上野介
「なァ・?」
「何じゃ?」

梶川 頼照
「まさか!
嘘の時刻を知らしたので御座いますか?」

吉良上野介
「いやいや」
「そうではない」
「だから、申しておる通りじゃぞ」
「勅使・院使様の都合が早まったのぢゃ」
「儂の知らぬ事じゃぞ」

梶川 頼照
「あ奴とは誰で御座る!」

吉良上野介
「声が大きいぞ
戯けが!」


梶川 頼照
「まさか?」

吉良上野介
「おおォォ」
「忖度したか」

梶川 頼照
「赤穂殿でござるな!」

吉良上野介
「忖度せよと申しておるのが分からんのか」
「もうよいから失せろ」

梶川 頼照
「儂は、御台所様に追放されたくないので御座る」

          
         赤穂事件 松の廊下刃傷事件



浅野 内匠頭
『この間の遺恨 覚ゆたるか!』

太刀の音
バシャ―

吉良上野介
「ぐぇ」

浅野 内匠頭
-------------- なをも切りかかる -----------------

梶川 頼照
・・・・内匠頭殿ではないか・・・・

吉良上野介
・・・・うぐグググゥ・・・・・・

梶川 頼照
-------------------- 内匠頭の刀を取り上げる ----------------

浅野 内匠頭
「梶川殿!」
「吉良との果し合いで御座る」

梶川 頼照
「んんゥ」
「吉良殿」
「その短刀で果し合いに応じなされ」

吉良上野介
「嫌じゃ、嫌じゃ・・」
「儂は知らん・・」

浅野 内匠頭
「さあ、果し合いじゃぞ!」

梶川 頼照
「吉良殿」
「赤穂殿はこの通り、某が抑え付けておりますぞ」
「ほれ、その短刀でブスリとやりなされ!」

吉良上野介
「ひェー」
「儂は逃げる・・」

浅野 内匠頭
「おい」
「タコ侍」
「口を尖らして逃げるのか」
「情けない奴じゃ」

梶川 頼照
「どうやら、騒ぎを聞きつけて
皆が集まってきた」
「如何したものか・・」

浅野 内匠頭
「よし・・」
「儂を締め上げてくれ」

梶川 頼照
「んんゥ」
----------------------- 内匠頭を床に押し付けて動けなくした ------------------------

浅野 内匠頭
『上野介への恨みによる事。
上野介との果し合いでござる!
殿中で恐れ多き事では御座いますが
上野介は嘘を重ねて逃げおおせようとしていた。
仕方なく刃傷に及んだので御座る。討ち果たさせてほしい』

梶川 頼照
「吉良殿は逃げてしまわれた・・」

浅野 内匠頭
「追いかけさせて欲しい」

梶川 頼照
「もう、皆が集まってしまった」

浅野 内匠頭
「んんゥーー」
『上野介への恨みによる事。
上野介との果し合いでござる!
殿勅答の儀の前で恐れ多き事では御座いますが
上野介は嘘を重ねて逃げおおせせた。
拙者、仕方なく刃傷に及んだので御座る。』

梶川 頼照
「赤穂殿・・」
「赤穂部屋に参ろう」

浅野 内匠頭
『上野介への恨みによる事。
上野介との果し合いでござる!
殿勅答の儀の前で恐れ多き事では御座いますが
上野介は嘘を重ねて逃げおおせせた。
拙者、仕方なく刃傷に及んだので御座る。』


梶川 頼照
「赤穂殿
赤穂部屋には戻れそうもない
大広間に連れてゆく事になりましたぞ」

浅野 内匠頭
『上野介への恨みによる事。
上野介との果し合いでござる!
殿勅答の儀の前で恐れ多き事では御座いますが
上野介は嘘を重ねて逃げおおせせた。
拙者、仕方なく刃傷に及んだので御座る。』


梶川 頼照
「赤穂殿
もう皆々は、承知しました」
「もう、皆々は諸事情を承知致しました」
 
浅野 内匠頭
「んんゥ」
「頼照殿 後は、頼みましたぞ」
「某は、もう終わりじゃ」
「・・・・しかし・・
これで、赤穂を守れるのだろうか・・」





梶川 頼照 (浅野内匠頭が殿中刃傷に及んだ際に現場に居合わせていた旗本)
「報告に参りましたぞ」
「果し合いは為りました」

安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「おおぉ」
「与惣兵衛殿」
「果し合いが成功したのか!」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「お館様はご無事か!」
「吉良は如何じゃ!」

梶川 頼照
「赤穂殿は無事で御座る」
「しかし、吉良には逃げられました」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「殿中で勅答の儀の直前とは・・」
「して、お館様の沙汰は・・」

梶川 頼照
「今、大広間で老中が調べを行っております」
「儂は、両者の喧嘩として証言しておりますから
きっと、喧嘩両成敗になるかと思いますぞ」

藤井 宗茂
「おおォ」
「では、果し合いは成功じゃな」

安井 彦右衛門
「安堵できるのか?」
「吉良は反撃したのか?」

梶川 頼照
「吉良を挑発したのですが
あの者は反撃せずに逃げてしまった」

藤井 宗茂
「では、喧嘩は成り立ちませんぞ!」

安井 彦右衛門
「そうじゃ」
「それでは、お館様が一方的に切り掛かっただけじゃ」

梶川 頼照
「いいえ
大丈夫で御座る」
「勅答の儀の直前で御座いましたから
御台所様が時刻を気にされておりましたのじゃ
吉良は嘘の時刻を通知しておりましたから
儂が直接に問い詰めた。
そして、吉良は嘘を付いたことを認めたのじゃぞ」
「更には、吉良は赤穂殿には
嘘を付き通す事にしていたのじゃ
赤穂殿には勅答の儀が遅くなるという
嘘情報を信じさせておった!」
「これは、儀式の中で最も大切な勅答の儀を冒瀆する行為」
「御台所様が知ることになれば
吉良は重罪となりましょうぞ!」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「これであれば、殿中で勅答の儀の直前であっても
許される果し合いとなるぞ!」

安井 彦右衛門
「おおぉ」
「与惣兵衛殿が証言してくれるのじゃな!」
「有難い、有難い」

梶川 頼照
「吉良の嫌がらせは、皆々が承知しております」
「腰の重い老中も
今回の騒動は見逃せぬと申され
吉良に事情を聞くべく動いております」
「勅答の儀の時刻を態と遅らせた罪はもとより
それを饗応馳走役の赤穂殿には最後まで教えないとする
悪質な嫌がらせで御座る」
「吉良には、言い逃れは出来ませんぞ」

藤井 宗茂
「おおおォォォ」
「これであれば、お館様は救われる」

安井 彦右衛門
「証言して下さるのじゃな!」

梶川 頼照
「儂一人だけの証言では弱い」
「たから、老中揃い踏みの審議が必用なんじゃ」
「吉良が、嘘を付いた事を
皆々の前で認める事が必用なんじゃ」

藤井 宗茂
「左様か・・」
「吉良は逃げるな・・」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「やはり、駄目か・・」

梶川 頼照
「吉良を審議に応じさせる事で御座る」

藤井 宗茂
「しかし、挑発には乗ってこぬのに
如何すればよいのじゃ」

安井 彦右衛門
「左様じゃな」

梶川 頼照
「・・・・・・」

藤井 宗茂
「あっ!」
「御台所様が吉良の嘘を知っておる筈じゃぞ」

安井 彦右衛門
「おおおォォォォー」
「御台所様は知っておる筈じゃ!」
「与惣兵衛殿!」

梶川 頼照
「それは良い考えじゃと思うが
はたして、御台所様が証言などして下さるものか?」

藤井 宗茂
「其方は大奥御台所付き留守居番ではないか」
「御台所様の証言があれば
我が殿は救われる!」

安井 彦右衛門
「与惣兵衛殿!」
「御頼み申し上げる!
お館様を救って下され!」

梶川 頼照
「全力で支援致しますぞ!」

藤井 宗茂
「感謝申し上げます」

安井 彦右衛門
「頼りにしておりますぞ!」

梶川 頼照
「では、
此処へ長居は出来ません故
失礼仕る」

藤井 宗茂
「んんゥ」


            赤穂事件 親子の危機  



過去の記事を転載している

この後、大老堀田正俊が暗殺される。

秋元喬知(若年寄)は今は老中となっている。




戸田忠昌(老中)
「いよいよ、正念場じゃぞ」
「我らの真価が問われておる」

秋元喬知(若年寄)の実父は戸田忠昌 
養父秋元富朝は、甲斐谷村藩の第2代藩主。館林藩秋元家3代。
秋元富朝の娘(戸田忠昌正室) 養子は喬知

秋元喬知
「はい」
「承知しております」

「我らは、館林様の恩恵でこの様に優遇を受けております」
「上様(綱吉)の恩に報いる事が出来ます事は
無上の喜びとなります」
「我らは、上様のこの上ない忠臣となる事が出来ます」

戸田忠昌
「んんゥ」
「良く申した」
「大老は山鹿素行を取り入れ
木下順庵を排除しようと企てている」
「大老の専横は、水戸守の後ろ盾にある」
「そして、光圀は、我らの秘密に気付いた」

秋元喬知
「では、先様(家綱)の偽の遺言を渡した事が
ばれたので・・」

戸田忠昌
「何故だか分からぬが
光圀は偽の遺言を咎める事を躊躇しておる」
「しかし、大老が巨大な権力を持っているのは
上様にうしろめたさが有るからに相違ない」
「このまま大老が権力を握っておれば
上様は怯え続ける事になる」
「上様の精神を安定させ
静養の為に必要なのは
木下順庵の朱子学に基ずく人心の仁にある」
「順庵は仁をもって
生類憐みの令を推奨なされた」
「今、上様を救う方法は
生類憐みの令を発令し、庶民に仁の心を広める事以外はないぞ」

秋元喬知
「大老が決断すれば
偽の遺言が公表され
我らは打ち首、改易は免れません」
「大老が黙っているからと言って
安心は出来ません」

戸田忠昌
「んんゥ」
「上様の御触れを拒否しきれなくなれば
最後の手段として公表される筈」
「もう、時が無いぞ」

秋元喬知
「はい」
「では」
「側用人からの大老を始末せよとの御命令・・」
「如何に・・・?」

戸田忠昌
「我らが直接手を下す事は無策」
「相打ちが良いと思うぞ」

秋元喬知
「では」
「稲葉を仕立てますか」

戸田忠昌
「大老と稲葉を相打ちさせる事が良策」

秋元喬知
「今、老中と大老は反目しておりますから
老中で後片付けをしては・・・」

戸田忠昌
「よし」
「儂は、大久保忠朝に協力を求める」
「お前は、稲葉の覚悟の偽遺言を用意しておけ」
「稲葉は覚悟の討ち死にをしたとな・・」

秋元喬知
「では、阿部正武を加え
作戦を・・」

戸田忠昌
「大老が始末されれば
我らは安泰、上様は安堵なされる」
「側用人からの催促もある」
「これが我らの仕業だと分からぬ様に
綿密に作戦を練らねばならんぞ」

秋元喬知
「お任せ下さい」

戸田忠昌
「それから、大村加トの名刀を用意しておけ」






             赤穂事件 老中 秋元 喬知



梶川 頼照
「老中」
「今回の刃傷騒ぎの沙汰は如何致しますか?」

秋元 喬知 (老中)
「赤穂殿は、重大な犯罪を犯した事に間違いは無い」
「殿中で刃物を振り回し
それも、大事な儀式の直前であった」
「誰しも、赤穂殿を擁護することは出来ん!」

梶川 頼照
「吉良殿は嘘を付いて
勅答の儀を妨害致しました」

秋元 喬知
「左様な事は聞いておらぬぞ」

梶川 頼照
「吉良殿は、赤穂殿に準備をさせぬ様する為
嘘を付いて、馳走役の役目を妨害致しました」

秋元 喬知
「証拠があるのか!」

梶川 頼照
「某が、直接に吉良殿がら聞いております」

秋元 喬知
「儂は、左様な事は聞いてはおらんぞ」

梶川 頼照
「儂が証人となりますぞ!」

秋元 喬知
「其方は、何様のつもりじゃ」
「吉良殿に逆らうのか!」

梶川 頼照
「では、如何致しましょうか?」

秋元 喬知
「決まっておる」
「赤穂殿の罪は重い」

梶川 頼照
「御台所様が証言すれば
お認めに為られますか?」

秋元 喬知
「いや、御台所様は政に口を出しては為らんのじゃぞ」
「だから、駄目じゃ」

梶川 頼照
「証言で御座る」
「真実を証言するので御座る」

秋元 喬知
「其方の証言が、事実であると証明出来るのか!」

梶川 頼照
「おおォ」
「儂は、吉良殿から直接に聞いておりますぞ」
「直接、聞いたのじゃぞ!」
「だから、事実じゃ!」

秋元 喬知
「忘れろ」

梶川 頼照
「えェ・・」

秋元 喬知
「だから、忘れろと申しておる」

梶川 頼照
「嫌じゃ!」
「儂は、事実を申しておるのじゃ!」

秋元 喬知
「だから、申しておるぢゃろーが」
「其方のような、弱小旗本の証言などに意味は無い」
「全て忘れろ!」

梶川 頼照
「・・・・・」
「如何すれば分かってもらえるのかなァ?」

秋元 喬知
「しつこい奴じゃ」

梶川 頼照
「駄目じゃぞ」
「儂は、諦めんぞ!」

秋元 喬知
「んんんゥ」
「では、儂が吉良殿に聞いてみよう」
「それならば納得出来るか!」

梶川 頼照
「また、吉良殿が嘘を付くぞ」

秋元 喬知
「儂に嘘など通用せんわ!」

梶川 頼照
「では、老中殿が吉良の嘘を見破れば
喧嘩両成敗で御座いますな」

秋元 喬知
「いや」
「老中が集まり協議する」

梶川 頼照
「では、老中が集まり協議すれば
両者の果し合いは成立致しますな」

秋元 喬知
「いや」
「大老の裁断がある」

梶川 頼照
「では、大老が拒否したら・・」

秋元 喬知
「もう、諦めろ!」

     赤穂事件 土屋政直 (老中) 転載


以前の記事を転載しています。
土屋政直が老中に引き立てられ江戸に下向した時に、猛犬に立て続けに襲われている。


          赤穂事件 馬のもの言い事件 狙われる者


土屋政直 (老中)
「儂以外にも狙われたものがおるのか・・」

浅野 長矩 (浅野内匠頭)
「はい」
「増山兵部殿が犬に襲われ
其の犬を切り殺しました」
「家来が身代わりとなり、その犬を切り殺した罪で切腹」
「更には、土井信濃守が
犬をたたいて撃退しました」
「あろうことか、その事を密告する者が現れ
やもなく、土井信濃守中間を身代わりとして
中間は犬をたたいた罪で扶持を奪われました」

土屋政直
「その者たちを襲った者が
儂を襲ったのか?」

浅野 長矩
「恐らく・・左様に御座いましょう」

土屋政直
「目星は?」

浅野 長矩
「指南役で御座います」

土屋政直
「指南役?」
「誰か?」

浅野 長矩
「まだ、確証は御座いません」
「ただ、指南役は名ばかり
今は、犬の調教を熱心にしておるようで
上様の信認を得ております」

土屋政直
「面倒な奴じゃな・・」
「ところで、其方は魚を食べておるのか?」

浅野 長矩
「いいえ」
「魚は口にしておりません」
「魚も、鳥も、貝も、売り物は
皆、変な匂いがしております」

土屋政直
「気を付けた方が良いぞ」
「腹痛で死人も出ておる」

浅野 長矩
「それから、市中町民に不穏な動きが御座います」

土屋政直
「おおォ」
「それは、無理もない」
「しかし」
「収めねばならんな・・」

浅野 長矩
「多々越甚大夫(旗本・秋田采女季品の家臣)が、徳川家綱の命日である6月8日に、吹矢で燕を撃ち、5歳児の病気養生に食わせたため死罪。これに参加した同僚の山本兵衛は八丈島へ流罪」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この様な事が御座いました」
「市中町民は憤りを隠せません」

土屋政直
「町民の不満が溜まり
爆発するかもしれんな」

浅野 長矩
「左様」
「火事も頻発しております」

土屋政直
「ああァ」
「それと」
「噺に
気掛かりが御座る」
「少し、調べて見なければならん」

       赤穂事件 土屋政直 (老中)



梶川 頼照
「老中での協議は如何になっておりますか?」

土屋政直 (相模守老中)
「んんゥ」
「上様に報告申し上げるべきと考えておる」

梶川 頼照
「但馬守は大老に申し渡すと・・」

土屋政直
「柳沢殿は審議なさらぬ
よって、上様に決めて頂く事が最善じゃと考えておるぞ」

梶川 頼照
「相模守は、考えが違うのじゃな」
「儂は、両者の喧嘩じゃと思っておりますぞ」
「吉良は赤穂殿を虐めておりました」

土屋政直
「あっはは」
「実はな、儂も吉良殿の虐めに合っておる」
「儂が、江戸に呼び出されたおり
二度も猛犬に襲われた」
「御蔭で、家来が身代わりの追放処分じゃ」
「吉良殿は虐めが趣味なのかのォ」

梶川 頼照
「いやいや」
「笑い事では御座らん」
「吉良の虐めは酷う御座る」
「儂は、吉良が嘘を付いて
赤穂殿を陥れた事を承知しておりますぞ」

土屋政直
「おおォ」
「済まなんだ」
「からかった訳ではないのだ。許せよ」
「実際、儂も難儀しておるのだ」
「あのな、今回の件は、まだ、序章に過ぎん」
「赤穂殿は、もう、覚悟を決めておる」
「後は、切腹になるか打ち首になるかじゃぞ」

梶川 頼照
「じゃけんども、儂は吉良の嘘を証言しますぞ!」
「吉良は、自ら嘘を付いたと申したのじゃ!」
「吉良は赤穂殿と果し合いをしたのじゃ!」

土屋政直
「其方、何故に赤穂殿を庇うのじゃな」
「赤穂殿を庇う理由でも有るのか」

梶川 頼照
「・・・・・」
「庇っておる訳では御座らん」
「事実を証言しておるだけで御座る」

土屋政直
「其方、御台所様が助けてくれると思っておるのか」

梶川 頼照
「・・・・・」
「但馬守に聞いたので・・」

土屋政直
「儂は、吉良殿は嫌いじゃ」
「しかしな、吉良は柳沢と同じ穴の狢じゃぞ」
「其方も、老中が束になってかかっても
柳沢に勝てぬ事を知っておろう」

梶川 頼照
「では、貴殿は
御台所様の証言は得られぬと申されるのか」

土屋政直
「得られたとしても、難儀じゃぞ」
「御台所様が白書院に入り政をする事はない」
「政は、老中が協議して行う」
「しかしな、実際は違うのじゃ」
「上様の意向を知る者が全てを仕切っておるぞ」
「上様は、今回の饗応を吉良だけに指示為さっておられる」
「我らは、吉良の指示に従う他は無いのじゃ」
「御台所様が証言するとなれば
上様と御台所様の争いになる」
「御台所様が、それ程の犠牲を払って証言などする訳がない」
「それをじゃ
我らが無理やりに証言を求めれば御台所様が如何するか」
「我らは、破滅じゃぞ」
「それが御台所様の立場じゃぞ」

梶川 頼照
「儂には、良く分からんが
難しいのか・・」

土屋政直
「んんゥ」
「まぁ」
「其方が証言したいのであれば
儂は邪魔だてするつもりはない」

梶川 頼照
「じゃけんども、老中皆でが吉良の嘘を暴けば
吉良の罪じゃぞ」
「いくら吉良でも
嘘を付いておったら罪じゃ」
「吉良は嘘を白状したのじゃぞ」
「老中が協議して
吉良をとっちめてやりましょう」

土屋政直
「儂のように
吉良に嫌がらせを受けておる者ばかりではないのじゃぞ」
「吉良は、巧みに仲間を増やしておる」
「儂は、あの者の敵として認識されておるようじゃが
吉良にすり寄って来る者は多いのじゃ」
「儂と、其方で吉良を敵に回しても勝てん」

梶川 頼照
「たかが指南役ではありませんか」
「老中が敵わぬ相手とは思いませんぞ!」

土屋政直
「たかが指南役、されど指南役じゃな」
「残念じゃが、儂の敵う相手ではない」

梶川 頼照
「では、今から仲間を増やしましょうぞ!」
「斯様な腐敗を放置しては為りません」

土屋政直
「おおォ」
「威勢がよいのォ」
「しかし、気を付けなさい」
「腐敗の根源を突いてはなりませんぞ」
「身の破滅じゃぞ」

梶川 頼照
「あああァァァ」
「如何すればよいのじゃ!」

土屋政直
「其方は、一途じゃのォ」




       赤穂事件  小笠原 長重


 
 小笠原 長重は、元禄4年(1691年)京都所司代に就任して、従四位下侍従の官位を受ける。将軍徳川綱吉の信認が厚く刀や羽織、黄金を賜っている。更には、朝廷からの信頼もあり東山天皇に拝謁。将軍からも天皇からも慕われ、異例の高い官位を得ている。更に、元禄10年(1697年)東山天皇からの従四位上昇進への打診は、流石に慎み辞退している。

 梶川頼照は真実一路 最後の望みに、小笠原長重を頼る事にした。小笠原長重であれば将軍とも天皇とも上手く折り合いを付けてもらえる筈だと考えたのだ。

小笠原 長重 (老中 従四位下佐渡守)
「今回の其方の働き 天晴で御座った」
「上様にご報告申し上げ、褒美を取らせよう」

梶川頼照
「おおォ・・」
「有難き幸せに御座います」

小笠原 長重
「儂も剣術は新陰流小野派一刀流を極め腕には自信があるが
剣を振り回し暴れている者を羽交い絞めにする自信は無いぞ」
「其方は、武術の達人じゃな」

梶川頼照
「いいえ」
「短刀は直ぐに打ち払いましたので
羽交い絞めは容易に御座いました」

小笠原 長重
「んんゥん?」
「変じゃな?」
「検分では、赤穂殿が短剣を振り回して
暴れておった事になっておるぞ」

梶川頼照
「いいえ」
「赤穂殿は暴れてはおりません」
「太刀は一太刀、烏帽子を切り裂いたのみで御座る」

小笠原 長重
「んんぅ」
「しかし、吉良殿は重体との事」
「当初、吉良殿には意識がなく、
高家の品川豊前守殿と畠山下総守殿が
御医師の間へ運んだと聞いておるぞ」

梶川頼照
「いいえ」
「太刀は一太刀で、烏帽子を引き裂いたのみで御座いました」

小笠原 長重
「んんゥ」
「検分では、這いつくばって逃げる吉良殿を追いかけて
数か所 切り付けたとある」
「現に、吉良殿は重体ですぞ」

梶川頼照
「吉良殿のお体を調べて見れば
分かる事」
「吉良殿は擦り傷程度の負傷で御座いましょう」
「吉良殿の嘘に御座います」

小笠原 長重
「左様か・・」
「しかしなァ」
「御医師の間に上様が駆け付け
御指南を見舞っておるのじゃぞ」
「傷が無ければ、変に思う筈じゃ」

将軍は
「手傷はどうか。おいおい全快すれば、心おきなく出勤せよ。老体のことであるから、ずいぶん保養するように 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』」との仰せじゃ

梶川頼照
「上様は穢れを恐れておられます」
「ですから、血を見る事は御座いません」
「御指南も、上様に嫌われるのを承知で血を見せたりは致しません」

小笠原 長重
「んんゥ」
「しかしなァ」
「上様が見舞い
保養するようにと仰せじゃ」
「今更、傷は無いとは為らんぞ」

梶川頼照
「吉良は嘘を付いております」

小笠原 長重
「しかし・・」
「もう遅い」
「上様が見舞ってしまわれた」
「上様が見舞い、御指南に保養を勧めた事で
御指南の傷は深い事になっておる」
「例え御指南が大袈裟にしておったとしても
もう手遅れじゃ」
「嘘を無理やり暴く事は無理となった」

梶川頼照
「本当に切り傷があるか確かめたら宜しいかと存じます」

小笠原 長重
「吉良殿にも立場があるぞ」
「もしも、無理やりに切り傷を確かめようとすれば
本当に切り傷を作るやも知れん」
「傷を疑って、本当に傷があれば
疑った者は、
上様に刃向かった事になってしまうのじゃぞ」

梶川頼照
「左様か・・」
「無理なのか・・」

小笠原 長重
「無理じゃな」
「其方には、悪い話では無い筈じゃ」
「赤穂殿は大暴れをして
御指南を散々に切り付けた
刃物を振り回して暴れまわっている悪党を
其方は羽交い絞めにしたのじゃぞ」
「それ故、其方には褒美があるのじゃ」
「快く、褒美を賜れば宜しい」

梶川頼照
「悪党は吉良じゃ」

小笠原 長重
「いいや」
「悪党は、浅野内匠頭じゃ」

梶川頼照
「儂は、褒美など欲しくないぞ」

小笠原 長重
「んんゥ」
「其方も、赤穂と同罪と成りたいのか!」

梶川頼照
「ええェ?」
「何で? 何でで御座る?」

小笠原 長重
「上様は、浅野内匠頭を嫌っておられる」
「其方も嫌われたいのかな」

梶川頼照
「何で? 赤穂殿は嫌われねばならんのじゃ!」

小笠原 長重
「上様は潔癖であらせられる」
「穢れた者は不要なのじゃ」

梶川頼照
「儂には分からん・・」

小笠原 長重
「悪い事は申さん」
「赤穂は見捨てろ」

梶川頼照
「吉良は嘘つきじゃぞ」
「赤穂殿は潔き武士じゃ」
「貴公殿も武芸を嗜んでおられよう
赤穂殿は山鹿流の達人じゃ」
「烏帽子を引き裂き
傷を負わせなかった」
「神業じゃぞ」

小笠原 長重
「んんゥ」
「其方の一途な思いは良く分かった・・」
「しかし、儂の力の及ぶ所では御座らん」
「忍び、耐える事も肝要じゃぞ」

梶川頼照
「儂には、耐えられん・・」


       転載 赤穂事件 高家指南役 畠山 基玄

過去の記事を転載

畠山 基玄 (高家指南役)
「何故、畳替えを拒否為さる」

阿部 正武
「白書院は老中と柳沢殿の綱渡しの場」
「畳替えは暖かき時期にすることが決まりに御座る」
「上様も同意為されておる」

畠山 基玄
「いやいや」
「今回は特別ぢゃぞ」
「年始から畳替えが必用なのぢゃ!」

阿部 正武
「如何に特別なのぢゃ!」
「慣例では、い草の収穫期に畳を交換する事になっておるぞ」

畠山 基玄
「んんゥ」
「しかしなァ」
「仙台殿は黒書院の畳替えを始めておるぞ」

阿部 正武
「おおォ」
「それは良い」
「今回の饗応は
黒書院で済ませるべきぢゃ!」
「幕府の財政は逼迫しておる」
「無駄な出費は省きたいのじゃ」

畠山 基玄
「勅使饗応役の赤穂殿と仙台殿が負担するのが慣例であるから
幕府の負担は少ない筈じゃ」

阿部 正武
「諸藩で飢饉が起こり
幕府の援助も限界に達したおる」
「それから、儂、個人も困っておるのじゃ」
「江戸市中の捨て子が減ったと喜んでおるが
全て、儂が面倒を見ておるのじゃぞ」
「難儀じゃ」
「其方も、捨て子の面倒を見てくれ!」

畠山 基玄
「それは、お家の伝統で御座いましょう」
「捨て子の面倒を見るのは伝統になっておる」
「某には、無理で御座る」

阿部 正武
「しかし、仙台でも飢饉が起こっておるというに
饗応役で多額の出費をすれば
状況は悪化するであろうに・・」
「仙台殿は如何するつもりじゃ・・」

畠山 基玄
「仙台殿は赤穂殿に対抗意識を強く持っておりますから
金に糸目は付けませんぞ」
「そのために、領民を苦しませておる・・」
「しかしな」
「儂は、口出しが過ぎて上様からお叱りを受けた身じゃ」
「吉良殿が全てを決めておる」
「儂には何も権限がないのじゃ」
「難儀じゃぞ・・」

阿部 正武
「吉良殿は上京して留守じゃ」
「代行は赤穂殿が引き受けておるという」
「しかし」
「高家指南役が代行するのが筋だと思うが・・」

畠山 基玄
「あっはは」
「儂は、上様から嫌われておる」
「お目通りも叶わぬ」
「上様の御意志が分からねば
指南など出来はせんぞ・・」

阿部 正武
「しかし」
「指南役が指南が出来ぬのに
赤穂殿に代行させるのは如何なものか・・」

畠山 基玄
「だから、其方の協力が必要なのじゃ」
「今回は、白書院の畳替えの許しを与える必要が御座る」
「急がねば、畳替えが間に合わぬぞ」
「い草の収穫期は夏なのに
冬に畳替えをするのじゃぞ」
「急がねば間に合わぬぞ!」

阿部 正武
「んんゥ」
「やはり、吉良殿が帰ってから決めたい」
「幕府は財政難じゃ」

畠山 基玄
「仙台殿は畳替えを許され
赤穂殿は足止めにされておる」
「仙台殿と赤穂殿は絶縁関係にあるのじゃぞ」
「赤穂殿を困らせたいのか!」

阿部 正武
「あっはは」
「全て、吉良殿の指図じゃ」
「吉良殿は、老中に号令して
赤穂を虐めるように仕向けておるのだ」

畠山 基玄
「ちょと、お待ち下され」
「吉良殿が赤穂を虐めろと・・」
「今回の饗応が失敗すれば
吉良殿の責任問題じゃぞ」
「自分で自らの首を絞めておる」
「解せぬ!」

阿部 正武
「其方には、分からぬのか・・」
「だから、其方は上様から嫌われたのじゃぞ」
「だから、吉良殿は上様から寵愛を受けておるのじゃ」
「今、吉良殿に逆らえる者は誰もおらん」
「大老格の柳沢殿も吉良殿に逆らう事は出来ん」
「全ての決まり事は吉良殿に託されておる」

畠山 基玄
「何故、赤穂殿を虐める必要が御座る?」

阿部 正武
「儂は、虐めたくはない」
「ただ、吉良殿の指示に従っておるだけじゃ・・」
「指示に逆らえば
たとえ老中でも失脚する羽目になる」
「実際、最近の大老は三代続けて失脚しておる」

畠山 基玄
「それは、吉良殿の責任ではないと・・」

阿部 正武
「其方は、知らんのか」
「だから、其方は上様から敬遠されたのじゃぞ・・」



畠山 基玄 (奥高家)
「吉良殿の傷を検分して下され」

土屋政直 (相模守老中)
「吉良殿の傷は深いとの事
急がぬともよい」

畠山 基玄
「吉良殿は無傷で御座いますぞ!」

土屋政直
「吉良殿は何度も切り付けられ
気を失ったところを
高家肝煎の吉良義央の補佐である
高家の品川豊前守殿と畠山下総守殿が抱きかかえ
御医師の間へ運んだのだと聞いておるぞ」
「無傷で気を失うのか?」

畠山 基玄
「畠山下総守は上杉の者」
「吉良殿に付き添っておりましたが
吉良殿は意識は確りと
足取りも確か
血も滴ってはいなかったと
某は聞いて御座います」

土屋政直
「んんゥ」
「松の廊下に血が滴れば
畳替えは必至」
「畳替えもなく、饗応は行われた」
「変じゃな・・」

畠山 基玄
「吉良殿は、柳沢殿より
赤穂の資産没収を命じられ
その対価報酬として、
自らは大老を任ぜられる約束が御座った」

土屋政直
「掟破りじゃな」

畠山 基玄
「我ら高家は旗本にも為れぬ立場」
「それを行き成り大老になるなど
今までの慣例を完全に無視する暴挙で御座います」

土屋政直
「んんゥ」
「捨て置く訳にはいかんな」

畠山 基玄
「老中を束ねるのは首座殿に御座いますぞ!」

土屋政直
「いやいや」
「儂はな、吉良殿に嫌われておる」
「首座と呼ばれる事も久しく無い」
「蚊帳の外じゃ」
「しかし、吉良殿の左様な暴挙を放置する訳には参らぬ」
「吉良殿の大老への昇進は食い止める必要が有るな」

畠山 基玄
「いいえ」
「今回の事件は
全て吉良殿の企みで起きた事」
「全ての責任は吉良殿に御座います」

土屋政直
「んんゥ」
「どこまで踏み込むべきか・・」
「なァ」
「上様は、何処まで承知なさっておられる?」

畠山 基玄
「大老への昇進は
柳沢殿との約束で御座いましょう」
「上様は承知していない事かと・・」

土屋政直
「では、全力で吉良殿の昇進を阻む事じゃな」
「吉良殿が大老になれば
もっと大変な事件が起こる」
「幕府存亡の危機となる」

畠山 基玄
「今直ぐに、吉良殿の傷を検分して
嘘を暴く必要が御座います」

土屋政直
「んんゥ」
「流石に無傷であれば
吉良殿も申し開き出来ぬな」
「赤穂殿も切腹をま逃れる」
「急ぎ、検分を求めよう」

畠山 基玄
「感謝申し上げます」

土屋政直
「いやいや」
「これが儂の務めじゃぞ」
「あからさまで露骨な嘘じゃ」
「斯様な嘘は簡単に暴ける」
「これで、吉良殿は終わりじゃ」

畠山 基玄
「吉良殿の嫌がらせは周知の事」
「皆々は、吉良殿を恐れて何も申さず
大人しく従っております」
「同じ指南役として恥ずかしい」
「吉良殿には反省を求めたい」

土屋政直
「よし」
「老中を束ね、吉良殿を制裁するぞ!」

畠山 基玄
「はい」
「某も、証人として
お力添え致します」


  赤穂事件  転載 藤堂高久



過去の記事を転載

柳沢吉保(小納戸役)
「伊勢津守」
「下向は、およし下され!」
「某は小姓ごとき屋敷に下向するのは
みっとも御座いませんぞ!」

藤堂高久(伊勢津藩の第3代藩主)
「ああァ左様」
「見苦しいとは思うが、勘弁じゃ・・」
「勘弁しておくれ・・」

柳沢吉保
「何度も申す事」
「某は、小姓なのじゃぞ」
「何で藩主から命乞いを受けようか!」

藤堂高久
「ああぁ左様」
「頼む」
「儂は、何でもするぞ」
「許してくれ・・」

柳沢吉保
「何でもするのか?」

藤堂高久
「ああァ左様」
「申し付けてくれれば
何でもする」
「許して欲しい」

柳沢吉保
「ほォー」
「承知した」
「では、上様に相談してから
其方の処分を考えよう」

藤堂高久
「おおォ」
「上様に相談してくれるのか!」
「頼むぞ!」
「何でもするぞ」
「助けてくれ!」

柳沢吉保
「よし」
「では、手始めに、上様への手土産を用意せねば為らん」
「酒井忠清を擁護していた者共を列挙せよ!」

藤堂高久
「擁護するとは如何なる事で御座いますか?」

柳沢吉保
「上様は忠清を庇った者を
処罰せよとの、御命令じゃ!」
「庇った者を列挙せよ!」

藤堂高久
「あああゥ」
「某の正室の亀姫は、酒井忠清の娘で御座るので
忠清殿は義理の父」
「父親の葬儀をするのは子の役割で御座います」
「某の罪は何で御座いますか?」

柳沢吉保
「上様が申しておる!
忠清を庇った者共を始末するようにとの
御命令じゃ!」

藤堂高久
「始末するとは?」

柳沢吉保
「上様は、大権現様の曾孫である松平光長様でさえ
処罰為された」
「始末とは、そういう事じゃ!」

藤堂高久
「某は如何なる?」

柳沢吉保
「始末されますぞ!」

藤堂高久
「あああゥ」
「頼む!」
「許してくれ!」
「頼む・・」

柳沢吉保
「さァ」
「忠清を庇った者どもを
列挙せよ!」

藤堂高久
「ああああァ」
「あのォ」
「儂は、如何すればよいのじゃ?」

柳沢吉保
「これは、上様への手土産じゃ」
「手土産無しに何を頼む?」

藤堂高久
「んんゥ」
「忠清殿は義理の父で御座います」
「儂は、如何すればよいのじゃ?」

柳沢吉保
「では」
「他の手土産が必用じゃな」

藤堂高久
「あああゥ」
「何で御座いましょうか?」


          赤穂事件  藤堂高久の使命




藤堂高久 (官位 従四位下)
「これより先は、立ち入り御免頂きたい」
「う・」

畠山 基玄 (奥高家)
「吉良殿の傷の検分で御座る」
「大老の許可を頂きたい」

土屋政直 (相模守老中)
「吉良殿は無傷との証言が御座る」
「傷を確認しなければ疑われますぞ!」

藤堂高久
「分かりました」
「では、大老に確認して参ります・・」

「うう・・」

畠山 基玄
「如何しましたかな?」
「顔色が優れませんな」

土屋政直
「和泉守、無理を為さるな」
「其方こそ、静養なされよ」

藤堂高久
「儂はもう長くはない・・」
「男子には恵まれなくてな・・
藤堂の家督は末弟の高睦が継ぐことにした・・」
「うェ・」

畠山 基玄
「・・・」

土屋政直
「左様じゃのォ」
「其方は、きっと、吉良よりも弱っておるぞ」

藤堂高久
「いやいや」
「大老には恩返しが足りぬ」
「死ねまで頑張るつもりじゃぞ」
「んんぅぅ・・」

畠山 基玄
「・・・・」

土屋政直
「柳沢家の玄関番とあだ名される程に尽くしておられる」
「もう、十分じゃぞ」

藤堂高久
「ああァ・ァ・・」
「こびへつらい情けない奴と言われておる・・」
「しかし、儂は、大老に大恩義が御座る」
「大老がいなければ
儂は、今頃、如何為っていたか・・・」
「うェ・」

畠山 基玄
「んんゥ」
「体調が優れぬところ申し訳ないが、
とり急ぎ大老の許可を頂きたい」

土屋政直
「済まんな」

藤堂高久
「うェ・暫し・・
暫し、お待ち願います・・うェ」

畠山 基玄
「おおォ・・」
「・・」

土屋政直
「蹌踉めいて・・よろめいておられる・・」

藤堂高久
「では、行って参る・・」

・・・・・フラフラ 揺ら揺ら

畠山 基玄
「一体、如何なってるのじゃ・・」

土屋政直
「んんゥ」
「きっと、藤堂殿に代わる者がおらんのじゃな・・」
「気の毒に・・」

畠山 基玄
「元気な吉良殿は静養し、
衰弱している藤堂殿は這いつくばって働いておる・・」

土屋政直
「全くぢゃ」
「そこまでして、大老に尽くすのか・・」

畠山 基玄
「吉良の傷を検分した後の事
如何致しますか?」

土屋政直
「老中を集めて協議する」
「吉良殿は多くの嫌がらせをしておる
これらの嫌がらせも含めて
吉良殿の全ての嘘を暴き
上様に報告する」

畠山 基玄
「吉良殿も焦っておる事じゃろうな」

土屋政直
「あっははは・・」
「傷が無ければ、面子は潰れるな
世間に顔向けは出来んな・・」
「面白い・・」

畠山 基玄
「気を失う程に切り付けられたのだと嘘を付き
その後、大袈裟に騒いでいた」
「全てが演技だと分かれば
情けなくて生きては行けんぞ」

土屋政直
「これで、吉良殿はお終いぢゃな・・」

畠山 基玄
「左様・・」




過去の記事を転載 池田 綱政の処世術




池田 綱政 (備前岡山藩)
「父池田光政より水戸守を頼れとの遺言で御座いました」

徳川光圀
「んんゥ」
「光政殿は亡くなられたか・・」

池田 綱政
「はい」
「静かに・・」
「遺言では、赤穂の二の舞は踏むなとありました」
「赤穂は隣で御座るが
情報が無く、困っております」

徳川光圀
「んんゥ」
「大石良雄が亡くなったそうじゃ」

勅使饗応役のお役目が終わった直後の5月に阿久里と正式に結婚。またこの結婚と前後する5月18日には家老・大石良重(大石良雄の大叔父、また浅野家の親族)が江戸で死去している。大石良重は若くして筆頭家老になった大石良雄の後見人をつとめ、また幼少の藩主浅野長矩を補佐し、2人に代わって赤穂藩政を実質的に執ってきた老臣である。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

池田 綱政
「何かありましたか?」

徳川光圀
「毎日のように、指南役の吉良上野介が 
菓子折りを持って機嫌取りをしておったそうじゃ」

池田 綱政
「菓子に・・」

徳川光圀
「詮索無用」
「何も心配は無い」

池田 綱政
「赤穂は、本来池田の領地で御座いましたが
今では、浅野内匠頭が領地に代わり」
「更には、浅野長照は備後国三次藩の第2代藩主。」
「岡山藩は完全に取り囲まれ
幕府からは、酒井忠清との共謀を疑われております」

徳川光圀
「知っておる」

池田 綱政
「お力をお借りしたい」

徳川光圀
「光政殿は如何様に申しておった」

池田 綱政
「はい」
「馬鹿に為れと・・」

徳川光圀
「赤穂の二の舞に為らぬ様に
馬鹿に為れと申したか・・」

池田 綱政
「左様で御座います」

徳川光圀
「其方、柳沢吉保の屋敷に挨拶に参ったか?」

池田 綱政
「いいえ」
「真っ先に、水戸守を頼りにして参りました」

徳川光圀
「馬鹿に為れとは、その事じゃぞ」
「其方は、柳沢吉保に媚びるのじゃ!」

池田 綱政
「えええェ」
「そんな、・・」
「下向せよと申されるので・・」

徳川光圀
「左様」
「武士としての意地は捨てる事じゃ」
「媚び諂い、馬鹿に為るのじゃ!」

池田 綱政
「・・・・・」

徳川光圀
「嫌か・・」
「未だ赤穂が潰されぬのは忠清擁護では無いからだぞ」
「しかし、赤穂は、武士道を貫いておる」
「何れ、何かしらの困難に巻き込まれる」

池田 綱政
「殺生じゃ、武士道は貫きたい・・」

徳川光圀
「耐えるのじゃ!」


            赤穂事件 嫌な事



池田 綱政 (備前岡山藩の第2代藩主。岡山藩池田家宗家4代)
「老中が
吉良殿の傷を確認したいと申しておるのか」

藤堂 高久 (伊勢津藩の第3代藩主)
「左様で御座る」
「うッ」

池田 綱政
「其の事、大老は拒否しておるぞ」
「何で、追い返さなかったので御座る」

藤堂 高久
「証人が多数いるとの事
吉良殿の傷を検分する許可が欲しいと申されて・・ううゥ」

「大老に許可を出して欲しいと・・うェ」

池田 綱政
「んんゥ」
「急がねば為らんな」

藤堂 高久
「何を急がれる・・?」
「ううゥ・・」

池田 綱政
「赤穂殿の罪を確定させて
切腹させる必要が御座る」
「早く、この事件を幕引きにする必要が御座る」
「大老はご立腹じゃぞ」

藤堂 高久
「しかし・・」
「吉良殿の申しておる事ばかりで検分しておりますぞ」
「本当に吉良殿の傷は深いのか・・」
「本当の事は誰にも分からん・・」
「ゔぅ・・」

池田 綱政
「傷など如何でも良い」
「我らは、大老に従い
大老の為に働くのじゃぞ」
「それが、我らの務めじゃ」
「傷は、外科の第一人者である栗崎 道有が検分しておるぞ」
「その者が、吉良殿の傷を縫い合わせた」
「因って、検分は完全に終了しておる」
「治療は終わり、傷も無い」
「老中は、根拠のない噂話を真に受け
如何わしい検分を
専門の知識もない者で実施しようとしておるのだ」
「老中は大老に従う必要が御座いますぞ」

藤堂 高久
「やはり、傷は無いのか・・」
「ヴゥ・・」

池田 綱政
「縫い合わせたから、完治したのじゃ」
「完治した傷を検分する必要は無い」

藤堂 高久
「半日で完治は無理で御座る・・」
「ぶェ・・」

池田 綱政
「縫い合わせれば
血は止まる」
「吉良殿には静養が必要じゃぞ」
「検分など出来ん」

藤堂 高久
「左様か・・」
「では、老中には其方が行って
左様に申されよ・・」
「ぐェ・・」

池田 綱政
「儂には左様な権限は無い」
「他の者を使わせて下され!」
「いや、其方が参れ!」

藤堂 高久
「しかし、大老の許しを得ると約束しておりますので
一度、大老に話を通さねば
そうせねば、
某は、何の為に玄関番をしているのか分からぬ事に・・」
「げェ・・」

池田 綱政
「大老は赤穂殿に切腹を命じたと申せばよい」

藤堂 高久
「は・半日も経たぬのに
切腹を・・」
「上様の沙汰は御座いますのか・・」
「うゥ・・」

池田 綱政
「大老は赤穂(浅野)を改易にしたいのじゃ」
「当然、上様も承知しておられる」

藤堂 高久
「では、上様の御沙汰は下っておると申されるのか・・」

池田 綱政
「左様」
「浅野は改易となる」
「それは、既に決定事項じゃぞ」

藤堂 高久
「儂は、斯様な役目は出来ん・・」
「やはり、其方が行って
老中に話を付けてくれんか・・」
「儂には無理じゃ・・」
「ううゥ・・」
「老中は儂が弱っておるのを気遣ってくれておったぞ」
「其方は、儂を見捨てるのか」
「儂は、弱っておるのじゃぞ」

池田 綱政
「いやいや」
「見捨てるなどと申されるな・・」
「其方には静養が必用じゃぞ」
「今回の事件を解決させて
直ぐにでも隠居致せ」

藤堂 高久
「儂には、嫡子がおらんのじゃ」
「隠居など出来ん」
「其方にも、分かる筈じゃ」

池田 綱政
「だからと言って、老中に約束したのは其方じゃぞ」
「其方が約束したのを
儂が引き継ぐ道理は無い」
「其方が行って、事情を話してくれんか」
「老中をいつまでも待たせておっては
失礼にあたる」
「早く、行きなされ」

藤堂 高久
「しかしなァ」
「儂は、嫌じゃぞ・・」
「悪いが、其方が行ってくれんか」
「儂には無理じゃぞ」
「なァ」
「ううゥ・・」

赤穂事件 一人物思う

2022-11-04 11:08:13 | 漫画
             赤穂事件 決意



安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「お館様!」
「吉良が赤穂の資産を奪いに来ますぞ!」
「我らは、如何致しましょうか?」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「江戸屋敷の資産は、全て赤穂に送り返しております」
「吉良の挑発に屈してはなりませんぞ!」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「分かっておる」
「吉良の挑発に乗る事はない」
「安堵致せ」

安井 彦右衛門 
「お館様!」
「絶対に無理を為さらぬ様にお願い致しますぞ!」
「吉良の挑発に乗れば
赤穂は改易となってしまいます」
「今回の饗応が終われば
吉良の嫌がらせも終わるのです」

浅野 内匠頭
「左様」
「勅使御馳走人の役目を果たせば
吉良の顔も見る事は無い」
「争えば、赤穂は潰される」
「全ては、この饗応の期間だけの辛抱じゃ」
「承知しておるぞ」

藤井 宗茂 
「お館様!」
「本当に、御台所様は
我らを助けると申されたのか?」

安井 彦右衛門 
「これは、重要な事で御座る」
「御台所様の力添えがなければ
我らは、破滅に御座います」
「本当に、助けてくれるのでございますね!」

浅野 内匠頭
「御台所様から某が直接に聞いた事」
「間違いは御座らん」
「上様は、御台所様を大切にしておりますから
我らを助けてくれる筈じゃぞ」

藤井 宗茂 
「しかし、誰が密会の罠を仕掛けたので御座いますか」
「吉良如きに出来る事では御座らんぞ」

安井 彦右衛門 
「左様、誰の計略か知らねば対処出来ませんぞ」
「桂昌院様で間違いはないのですね」

浅野 内匠頭
「それは、前にも申した通りじゃぞ」
「桂昌院様で間違いは無い」

藤井 宗茂 
「上様は、大奥に居られるとの事ですが
桂昌院様は三の丸でお伝様と供に暮らしておられるそうじゃ」
「やはり、上様は御台所様を大事にしておると思うぞ」

安井 彦右衛門 
「御台所様が味方に付いてくれれば
我らが滅びることは無い」
「お館様!」
「そうじゃろ」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「いや」
「実はな、何か様子がおかしいのじゃ」
「御台所様がすっかり冷たくなってしまわれた」
「某は、御台所様にも嫌われたのかも知れん」

藤井 宗茂 
「いやいや」
「密会の罠を仕掛けられたのじゃから
冷たくするのも致し方無いぞ」
「それは、我らを守る為の偽装に違いない」

安井 彦右衛門 
「左様」
「我らは、御台所様に御すがり致す事じゃ」
「それ以外には、我らが生き延びる道は無い」
「御台所様以外に
上様を戒める事は出来んぞ」
「なァ」
「そうじゃろ」

浅野 内匠頭
「なにやら、其方達は大きな誤解をしておるようじゃ」
「実はな、もう赤穂が助かる道筋は無いのだぞ」
「儂は、もう決心をしたのじゃ」

藤井 宗茂 
「えッ」
「先ほど、安堵致せと申されたのでは」

安井 彦右衛門 
「左様、左様」
「お館様は
今回の饗応が無事に終わるまでの辛抱だと申された」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「今回の饗応を無事に終えた後で
吉良殿と切り合う」
「喧嘩両成敗じゃ」
「それで、もう吉良殿と会う事も無くなる」
「其方たちとも、永遠の別れとなる」
「安堵致せと申したが
其方達に変な希望を持たせるのも
忍びないと思い返した」
「本心はな、安堵など出来ぬ状況じゃ」

藤井 宗茂 
「左様な!」
「切り合うので御座いますか?」
「決心が早よう御座います」
「望みを捨てては為りません」 

          
          赤穂事件 強い不信



浅野 内匠頭
「指南殿に確認したき事が御座います」
「指南殿は、某の礼服は鳥帽子大紋ではなく
「長裃でよいと申された」
「真で御座いますか?」

吉良 上野介
「なんじゃ」
「儂が親切に教えてやったのが
気に入らんのか」
「戯けが!」

浅野 内匠頭
「しかし、民部大輔(畠山基玄)殿が
鳥帽子大紋が慣わしと申されております」

吉良 上野介
「ぎゃははは」
「戯けが!」
「お主のような田舎大名は長裃で十分ぢゃ」
「気に入らなければ畠山基玄に従えばよい」
「ただし、以前、畠山基玄は将軍への拝謁を禁止されておった」
「今は、拝謁を許されておる事になっておるが
上様がその者に話をする事は無い」
「上様の指示は全て儂が承っておる事ぢゃぞ」
「儂のする事は上様の指示ぢゃ!」
「戯け!」

浅野 内匠頭
「・・・・」

吉良 上野介
「何じゃ!」
「鮒侍」
「泡を食っておるのか!」
「あぷあぷしておるぞ」
「ぐィひひひ」
「其方の阿呆面は見てられん」

浅野 内匠頭
「嘘を教えるくらいであれば
何も為さらぬ方がましで御座る」

吉良 上野介
「何だとォ!」
「儂が何時嘘を付いた!」

浅野 内匠頭
「御指南は長裃でよいと申された!」

吉良 上野介
「よいよい」
「其方は、長裃でよいぞ」

浅野 内匠頭
「それが嘘で御座る!」

吉良 上野介
「煩い奴じゃ!」
「兎に角、赤穂は上様に嫌われておるのぢゃ」
「赤穂は、この饗応が終われば用無しぢゃぞ」
「改易ぢゃ」
「儂にはな、赤穂の全財産を没収する事が許されておる」
「早く、差し出すことぢゃな」

浅野 内匠頭
「まだ改易が決まった訳では御座いません」
「改易が決定して、上様の沙汰を受けた後に
清算される事で御座います」

吉良 上野介
「清算などではないぞ」
「資産は全て没収じゃ」
「其方は、市内を晒し者となり獄門」
「赤穂の家老共は切腹」
「赤穂の家来は全て島流しぢゃ!」
「でェへへへ」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「密会は仕組まれた事」
「そして、其方は力ずくで強引に合う事を強要したのですぞ」
「皆々は、それを承知しておりますぞ!」

吉良 上野介
「左様」
「どんな理由があり
どれ程の目撃者がいようとも」
「左様な事は如何でも良い事ぢゃ」
「其方は、御台所様に媚びる為に
密会しておったのが事実なのぢゃ」
「其方は、上様に嫌われておる」
「上様にとっては、疱瘡で痘痕を作った其方が気持ち悪い存在なのぢゃ」
「上様は、潔癖であらせられる」
「痘痕は、獄門の罪じゃ!」

浅野 内匠頭
「痘痕はとっくに治っております」

吉良 上野介
「この饗応の前に、
上様は、顔に痘痕を作った夢を見て
気持ちが悪いと申された」
「そこで儂は、
今回予定されていた余興の
御犬のお披露目を中止する事を
上様に勧めたのじゃ」
「犬としての価値が無くなった其方には存在意味は無い」
「上様は、潔癖な者を必要と為されておられる」
「お前は、穢れておる」
「もう、お前は生きる価値のない
泡を吹いた死にかけの鮒ぢゃ」
「頭を切り落として
晒し首となる運命ぢゃぞ」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「お前に左様な事を言われる覚えは無いぞ!」

吉良 上野介
「おおォ」
「鮒が怒った」
「死にかけの鮒が怒っておる」
「まさに馬鹿面ぢゃ」
「い゛っひひひィィ」
「ひひひひィ・・・・」

浅野 内匠頭
「何がおかしい」

吉良 上野介
「兎に角、早く全資産を渡せ」
「場合によっては
お前にも活路があるやもしれんぞ」
「だからな」
「早く、差し出せ」
「なァ」

浅野 内匠頭
「・・・・・」

吉良 上野介
「なァ」
「儂を信用しろ」
「悪いようにはせん」

浅野 内匠頭
「指南は信用出来ん!」

吉良 上野介
「何ぢゃと!」
「無礼者が!」

           赤穂事件 逃げる計画



斎藤 宮内(吉良家の筆頭家老)
「赤穂の資産没収を強行しますか?」

吉良 上野介
「いや、待て」
「赤穂は溺れた鮒のごとく
あぶあぷしておるから
追い詰めれば、自ら資産放棄する筈ぢゃ」
「もっと、陰湿に攻め立ててやる」

斎藤 宮内
「んんゥ」
「追い詰めるのは結構でござるが
少し不穏な空気を感じております」

吉良 上野介
「何んぢゃ」

斎藤 宮内 
「実は、浅野長矩は我らとの遺恨を理由にした
果し合いを計画しておるようですぞ」

吉良 上野介
「ゔげェ」
「それは拙いぞ!」
「ゔぐェェェ」
「やはり、拙い」
「如何すれば良いのか?」

斎藤 宮内
「逃げれば宜しい」

吉良 上野介
「馬鹿を申すな!」
「儂は、赤穂の資産を奪い取って
上様に献上せねば為らんのぢゃぞ」
「この大事な時に
逃げれるとでも思っておるのか!」

斎藤 宮内
「流石に、長矩とて
殿中で果し合いは出来ぬ筈」
「隙を見て
逃げた方が宜しいかと・・」

吉良 上野介
「んんゥ」
「果し合いは拙いのおォ」
「・・・・」
「では、奉答の儀式を直前に早める事にしよう」
「そうすれば長矩が油断しているうちに
逃げる事が出来る」

斎藤 宮内
「皆々には嘘の日程を教えておいて
直前になってから
奉答の儀式が早まったと通知するので御座いますか・・」
「いやいや」
「流石に、長矩とて、これには騙されますぞ」

吉良 上野介
「んんゥ」
「この計画であれば
長矩は殿中で切りかかる以外に方法は無い」
「果し合いは不可能ぢゃ」

斎藤 宮内
「左様ですな
いかに馬鹿な長矩といえども
殿中で刃物を振り回す訳には参りません
良い御考えで御座る」

吉良 上野介
「いやいや」
「危うく、果し合いに巻き込まれる所であったわ」
「くわばら、くわばら」

斎藤 宮内
「ところで、逃げる理由が必用で御座いますぞ」

吉良 上野介
「んんゥ」
「実はな、
天皇・上皇様に桂昌院の官位を授けて頂く必要があるのだ」
「儂は、奉答の儀式が済み次第
速やかに上京する手筈ぢゃ」
「この様にすれば
長矩が儂に切りかかる事は出来ぬ」

斎藤 宮内
「なるほど」
「そうなれば
長矩の最後の手段、果し合いは不可能ですな」

吉良 上野介
「んんゥ」
「儂が、急いで上京するのは
桂昌院の官位を授けて頂く必要からぢゃ」
「上様の意向ぢゃ」

斎藤 宮内
「ところで、
高家肝煎の上野国を授かる件は如何為された」
「肝煎が大領を得れば
我らにも恩恵は御座いますかな」

吉良 上野介
「当然じゃ」
「其方の扶持米は倍増するぞ」
「家来も増える」
「儂は吉良家から大老を出そうと思っておる」
「柳沢と肩を並べる日が近い」

斎藤 宮内
「期待しております」
「是非、大老に昇進して下さいませ」

吉良 上野介
「まァ」
「今のままでも、十分に恩恵を受けておるがな・・」
「上様に気に入られておれば
吉良家は安泰じゃぞ」

斎藤 宮内
「赤穂は、嫌われておりますから
取り潰しで御座る」

吉良 上野介
「左様」

          赤穂事件 嵐の前



3月12日(4月19日)には勅使・院使が登城し、白書院において聖旨・院旨を将軍・徳川綱吉に下賜する儀式が執り行われた。さらに翌日の3月13日(4月20日)、将軍主催の能の催しに勅使・院使が招かれた。この日までは長矩は無事役目をこなしてきた。
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安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「どうやら、無事に務めが終わりそうじゃぞ」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「一時は、如何為る事か心配しておったが
もう、勅答の儀を残すのみ」
「これで、やっと肩の荷が下りる」

安井 彦右衛門
「密会の事を騒いでおる者もおりません」
「全ては、被害妄想であった」
「安堵しても良さそうじゃな」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「密会を咎めるのであれば
我らにも申し伝えが御座ろう」
「未だ、何も無いのだから
この問題が取り上げられる事は無い筈じゃ」

安井 彦右衛門
「そもそも、御台所様が密会などすれば
公卿女御衆の罪にも為りましょう」
「公卿女御衆が
わざわざ、騒ぎ立てる必要は御座いませんな」

藤井 宗茂
「御台所様が冷たくなったと心配しておったが」
「これは、むしろ良い事じゃぞ」
「密会容疑は晴れたと考えれば良いじゃろォ」

安井 彦右衛門
「これ以上、御台所様の贔屓になっておれば
それこそ、おかしな事になってしまう」
「大奥とは関わらぬ事じゃ」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「大奥は危険じゃぞ」
「特に大事な饗応の期間に
大奥に近づく必然など皆無じゃ」

安井 彦右衛門
「お館様は果し合いをすると思われるか?」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「お館様は、かなり緊張為されておられる」
「言葉がつまり、上手く話せなくなっておる」
「御台所様が遠ざけたのは
お館様が心身に不調をきたして
持病の痞(つかえ)が出た為かもしれん」
「勅使一行が到着してから心身に不調をきたしており
腹が痛いとか、頭が割れそうだと申して元気が無い」
「果し合いなど無理じゃろォ」

安井 彦右衛門
「左様か」
「勅答の儀が終われば、無事に済む」
「早く、安堵したいものじゃな」

藤井 宗茂
「お館様も、限界のようじゃ」
「吉良の虐めは酷いものじゃぞ」
「我らが身代わりにもなれん」
「あと少し
お館様に頑張ってもらわねば」

安井 彦右衛門
「儂は、早く赤穂に帰りたいぞ」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「内蔵助殿が羨ましい」

安井 彦右衛門
「吉良の嫌がらせは
赤穂の全資産没収に至る」
「吉良は
本当に、没収するつもりなのか」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「それがなァ」
「お館様だけに対する嫌がらせじゃぞ」
「我らの部屋に押し入り
強要する事は無い」
「江戸屋敷にも押し入る気配は無い」
「全てを、お館様だけが受け止めておられる」
「それ故、健康を害しておられるのだ!」

安井 彦右衛門
「吉良は、焦っておると思ったが違うのか?」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「いや」
「強行しないでも、お館様を追い詰めれば
屈服するものと考えておるようじゃな」
「それ故に、虐めは度を越して激しくなっておるのだ」

安井 彦右衛門
「我らには味方はおらんのか!」

藤井 宗茂
「残念ながら、敵ばかりじゃな」
「味方になりたくても
今の状況からして難しいじゃろう」
「味方は、しらんぷりを決め込んでおる」
「わざわざ災いに近づく事はしない」
「だから、吉良の虐めは酷くなるのだ」
「吉良には大老の柳沢が付いておる」
「柳沢は老中が束になっても敵わぬ相手じゃ」
「吉良は、好き放題できる立場なんじゃ」

安井 彦右衛門
「早く、赤穂に帰りたい」

藤井 宗茂
「虐めが度を越しておるのに
咎める者がおらん」
「皆々は事情を知っておるのに知らん顔をしておる」
「お館様は、一人で苦しんでおられる」
「早く、この苦しい状態から
開放してやりたいものじゃ」
「心苦しい」

安井 彦右衛門
「われらだけでも
お館様の心の支えとならねば」
「御支え致しましょうぞ!」

藤井 宗茂
「左様じゃ」
「今回は、
大石殿にお願いするべきであったな」

安井 彦右衛門
「あと少しの辛抱に御座る」

藤井 宗茂
「んんゥ」

           
           赤穂事件 泥仕合



鷹司 信子
「其方を戻し、公家から
大典侍(寿光院)や新典侍(清心院)を側室に入れる事が出来た」
「しかし、世継は生まれず
卑しき身分の伝にのみ、子が出来た」

右衛門佐局
「はい」

鷹司 信子
「卑しき者が、高貴なる公家女中を陥れようと企んでおる」

右衛門佐局
「・・・・」

鷹司 信子
「綱吉は天皇・上皇様を下向させ
おかしげな余興に興じさせようとしておったのだじょよ」

右衛門佐局
「御犬遊びでございますか?」

鷹司 信子
「卑しき者は、犬を使って
公卿の権威を陥れようと企んでおる」
「赤穂も又
犬であった」
「悍ましい事じょ」

右衛門佐局
「赤穂の君が
御犬遊びの道具に使われてごじゃったのですかぇ」

鷹司 信子
「赤穂は良き男前と思うたが
情けない軟弱者であった」
「わらわは、赤穂に裏切られた思いじょ」

右衛門佐局
「野蛮な武将は公卿女中には
そぐいませんじょ」
「好男子は軟弱なものでごじゃいます」

鷹司 信子
「また、玉が騒いでおるそうじょな」

右衛門佐局
「はい」
「なんでも、
官位を買う資金が無いとの事でごじゃいます」

鷹司 信子
「馬鹿め」
「生れ付き卑しき者が
高貴な公卿になろうと思うておる」
「卑しき者が
金で身分が買えるとでも思うておるのかのォ」
「所詮、名ばかりの官位じょ」
「金の無駄遣いじょ」

右衛門佐局
「はい」
「ただ、資金不足で官位が買えない事で
桂昌院様がお怒りにごじゃります」

鷹司 信子
「ふん」
「思い通りに為らねば怒る」
「綱吉も玉も同じじょ
共に卑しき者じょ」

右衛門佐局
「ただ、再び桂昌院様が
赤穂の君と御台所様の密会を許さぬと申して
声高に騒いでおられるので
対処しねば、大奥が乱れてしまいます」

鷹司 信子
「密会は玉が仕掛けた罠ではないか」
「所詮、卑しき者が考えそうな
馬鹿げた計画じゃ」
「奥女中は皆
玉の馬鹿げた計画など御見通しじょ」
「奥女中は全てわらわの味方じょ」

右衛門佐局
「ただ、
小石君が赤穂の君を
大奥に招き入れた事は隠し通せぬと・・」

鷹司 信子
「何 えェ」
「罠に嵌った わらわが悪いとでも言いたいのかェ」

右衛門佐局
「いえ」
「お玉様に口実を与えれば
今後、色々と言い掛かりを ま逃れぬと思いまして」

鷹司 信子
「だからァ」
「それは、玉の陰謀じょ」
「奥女中は皆、玉の悪さを承知しておるんじょ」

右衛門佐局
「今後、お玉様が官位を賜る事となれば
この密会が問題となり
御台所様は罪を問われると・・」

鷹司 信子
「今は、卑しき身分の玉が
官位を買って、強くなるというのかえェ」

右衛門佐局
「名ばかりの官位とはいえ
女子一の高き官位を賜る事になりますから
それなりに、権威が高まるかと」

鷹司 信子
「今のうちに、対処しなければ
手遅れになるかもしれんのかえぇ」

右衛門佐局
「お玉様は卑しき身分を引け目に
折檻を受けておりました」
「しかし、高き身分を手に入れれば
引け目はなくなりましょう」
「宗家様の生母として
絶大な権威と権力を持ってしまえば
手に負えなくなってしまうのではごじゃりませんか?」

鷹司 信子
「そうよのォ」
「わらわを、折檻すると思うのかえぇ」

右衛門佐局
「はい」
「この計画は、お玉様が
御台所様を折檻する事を目的にしておりますえ」
「御台所様が折檻を受ければ
公家の権威は奈落に落ちてしまいますえぇ」

鷹司 信子
「玉めが」
「いまいましい」
「名ばかりの官位を買えぬうちに
対処しないといけんよ」

右衛門佐局
「やはり、
今回の密会は御台所様が招き入れたと認めてはなりませんじょ」

鷹司 信子
「あっはは」
「馬鹿な」
「斯様な、おばばに 危険を冒して
あの赤穂の君が会いにくるものか」
「赤穂の君が
わらわに会うために
忍んで大奥に忍び込んだと
この饗応で大忙しのおりに
わらわに会うために大奥に忍び込んだのだと
誰が信じる?」

右衛門佐局
「信じずとも、密会は認めては為りませんじょ」
「お玉様は納得致さぬと・・」

鷹司 信子
「玉めが」
「卑しい玉めが」
「綱吉と玉は
犬畜生と同じじょ」
「卑しい者じょ」

右衛門佐局
「ああァ」
「お玉様、御台所様」
「共に、お怒りじょ」
「泥仕合じょ」

鷹司 信子
「其方は、わらわの味方じゃな」

右衛門佐局
「味方でごじゃいますから
密会を危うんでおるのでごじゃいます」



梶川 頼照
「儂はな、こう見えても槍名人と呼ばれておる」
「あのな、槍は叩く武器じゃがな
儂は、がっしりと握って突くのが得意技なんじゃ」
「力を込めて突くには
腕力がものを言う」
「腕力では誰にも負けんのよ」

浅野 内匠頭
「左様で・・」
「拙者は、無骨なる家臣に囲まれておりますから
その者どもの武勇伝は数限りなく・・」

梶川 頼照
「山鹿流で御座るな」
「いやいや、赤穂殿は謙遜なさるな」
「良き家臣に恵まれておりますぞ」

浅野 内匠頭
「謙遜など致しません」
「真に、無骨な者どもで御座る」

梶川 頼照
「儂の孫が六歳、いや七歳かな・・になる」
「儂は梶川家の養子じゃけどな
孫も出来たし、我が家は安泰なのよ・・」

浅野 内匠頭
「それは、良き事で御座る」
「儂には、世継の子が出来ぬ故に
弟を養子とした」
「儂が居らぬとも弟が赤穂を継ぐ」
「儂は、不要じゃ」

梶川 頼照
「左様か」
「あのな、悪い話がある」

浅野 内匠頭
「分かっております」

梶川 頼照
「左様か」
「じゃがな、一応 聞いて欲しい」
「あのな」
「実に、悪い話じゃ」
「いやいや、話難いが
聞いて欲しい」
「悪い話じゃぞ」

浅野 内匠頭
「何で御座いましょう」
「遠慮なく申して下さい」

梶川 頼照
「あのなァ」
「御台所様がなァ」
「其方に愛想を尽かしたのよ」

浅野 内匠頭
「左様で・・」

梶川 頼照
「それでなァ」
「悪いじゃけどなァ」
「其方が、密会を強要したことにして欲しい」

浅野 内匠頭
「おお・・・」
「儂は、見捨てられたのか・・」

梶川 頼照
「じゃけど、其方の弟様が赤穂を継げば
改易はま逃れるかも知れんのよ」
「其方には悪い話じゃけんどな」
「罪を認めて
謝罪して欲しいんよ」
「如何じゃ?」

浅野 内匠頭
「・・・・・・・」
「お終いか・・・」

梶川 頼照
「いやいやいや」
「なのな、失望してはならんよ」
「あのな、悪い話じゃけどな
これは、御台所様からの伝言じゃけんな」
「悪い話じゃけど
話しておかんといけんのんよ」
「・・・」

浅野 内匠頭
「承知した」

梶川 頼照
「おおおおォォォーー」
「流石、赤穂の武士じゃ」
「潔い」
「いやいやいや」
「流石」

浅野 内匠頭
「では、決行する事とするか・・」

梶川 頼照
「えェ」
「決行って何なんですかな?」

浅野 内匠頭
「其方は、立会人となって欲しい」
「儂には、頼れる味方が居らん」
「せめて、其方に立会人になって欲しい」
「証言者になってくれんか?」

梶川 頼照
「何なんよ・・」
「へェ変な気を起こすなな」
「あのな、あの変な事を考えておるのか?」
「何?何じゃろか?」

浅野 内匠頭
「儂は、言葉が詰まって喋れなくなっておったが
其方が詰まっておるのを聞いておったら
治ってしまつたぞ」
「真、ありがたい」

梶川 頼照
「おおォ」
「それは、よかった」
「言葉が詰まっておったのか」
「で・ 決行って何なんよ・・」

浅野 内匠頭
「御台所様に申し渡して下され」
「某は、決行致しますと」

梶川 頼照
「そう申せば宜しいのか?」

浅野 内匠頭
「御台所様は
某が言葉が詰まり消沈しているのを見て
拙者のことを、頼りなき者
軟弱者と思われた」
「ですから、これからは
赤穂の武将としての意地を貫こうと決心したので御座る」

梶川 頼照
「左様か」
「いやいやいや」
「潔い」
「実に天晴じゃ」
「天晴、天晴!」
「其方が認めてくれたから
儂は、江戸から追放されずに済む」
「いやいやいや」
「助かった」

浅野 内匠頭
「いれで、其方ともお別れじゃな」

梶川 頼照
「おおおォ」
「おおお別れじゃなァ・・」
「いやいやいや」
「潔い」
「実に、潔い」
「天晴・天晴」

浅野 内匠頭
「儂は決意を決めたから
すっかり元気になった」
「後は、何時、決行するかじゃ」

梶川 頼照
「えええェ」
「何なん?」
「決行って何なん?」

浅野 内匠頭
「殿中では避けたい」

梶川 頼照
「何なん?」

浅野 内匠頭
「決行じゃ!」 

            赤穂事件 一人物思う      



元禄14年3月14日(1701年4月21日)。この日は将軍が先に下された聖旨・院旨に対して奉答するという儀式(勅答の儀)が行われる、幕府の1年間の行事の中でも最も格式高いと位置づけられていた日であった。
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浅野 内匠頭は、この日から辞世の句を考えていた。
死を見据えてこの世に書き残す生涯最後の句となる。

風さそう 花よりもなお われはまた 春の名残りを いかにとやせん

赤穂部屋からくるりと回り込み、
白書院に通じる松の廊下から見渡す中庭には、満開の桜が散ってゆく。

本丸御殿の大広間から将軍との対面所である白書院に至る全長約50m、幅4mほどの畳敷の廊下。廊下に沿った襖に松と千鳥の絵が描かれていたことから松之大廊下と称された。
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風が爽やかな春、名残の桜が散ってゆく、
我も又、別れの思い切れない気持ちを
如何したら伝えられようか

浅野 内匠頭は、辞世の句を考えながら
残された、家臣を思い
自らに下される沙汰に思いを巡らせていた。


やはり、吉良殿との遺恨で果し合いをする以外に
赤穂を助ける事は出来ない。
そして、打ち首に為らぬ為には
吉良殿に切りかかり
自身は、梶川殿に羽交い絞めになり
吉良に打たれよう・・
いやいや、やはり、沙汰を受けて切腹がよいのか・・
殿中は避けたい
勅答の儀が終わり次第、
吉良の隙を見逃さぬ事じゃ・・・

ああ 
 桜が散ってゆく・・




上野介は将軍綱吉の寵愛を受け、強い自信のもとで充実した指南役としての務めを実行していた。老中は将軍とは直接に拝謁出来ず、全ての政は大老格の柳沢吉保が仕切っており、吉保も又、将軍の寵愛を受けて側用人の身でありながら大老格の地位に上り詰めていた。

 大老格の柳沢吉保には驕りは無かったが、上野介は驕っていた。一回り程の歳の差がある吉保を、上野介が恐れる必要は皆無であり、むしろ吉保は上野介の道具として都合のよい存在であり、上野介は自らも大老格に上り詰める資格があるのだと考えていた。

 そして、絶好の機会が現れた。今回の饗応で赤穂の過失を理由に資産を没収して、幕府に献上すれば、その資金を使って桂昌院の官位を買う事ができるのだ。上野介は吉保にも手柄の代償を約束させていたのだから、もう 大老への昇進は確実だと思っていたのである。上野介は己の野心を満たすために吉保を利用しようと思い、吉保は危うい事柄からわが身を守る為に、身の保全を優先したのである。

 ただ、驕っている上野介ではあるが、用心は怠らなかった。万全ではあっても、心配もあったのだ。「窮鼠猫を噛むと言うではないか」上野介は内匠頭の果し合いを恐れていた。上野介は逃げる準備をして、内匠頭の反撃に備えようと思っていたのだ。

 先ずは、勅答の儀が行われる時刻を遅らせておくことにした。当然ではあるが上野介に時刻を遅らせる権限などないのだから嘘を付いて全ての工程をのんびりと行ったのだ。それから、勅使・院使の都合で勅答の儀が早まったと告げる。当然、赤穂の内匠頭にだけは教えないのであるから、自動的に内匠頭の過失となり、果し合いなどは不可能になるのだ。そして、その混乱に乗じて上京して朝廷に挨拶に出向けば、無事に逃げ去る事が出来ると考えたのである。

 万全を期して上野介は驕り油断していた。しかし、内匠頭は強い覚悟を決めていた。内匠頭には失うものはなく、果し合いは必至であったのだ。