囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ、将棋といったボードゲームを題材にした短編集。
『盤上の夜』、『人間の王』、『清められた卓』、『象を飛ばした王子』、『千年の虚空』、『原爆の局』の6編が収められている。
盤上の夜
著者:宮内悠介
発行:東京創元社
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表題作『盤上の夜』の題材は囲碁。作品はある女流棋士についてのルポルタージュといった体裁で書かれている。
本因坊という輝かしい地位にありながら引退、今は行方不明となっている灰原由宇。
彼女を知る人へのインタビュー、彼女についての資料や記事、囲碁そのものと棋士たちの歴史などを積み重ねながら、記者である「わたし」はその実像と彼女の囲碁へと近づいていく。
四肢を切断され、碁石を持つことすらできない彼女が、盤面に向かい、碁を打つことで到達しようとしたのは、いかなる場所であったのか。
舞台を古代インドにした『象を飛ばした王子』以外は、いずれも同様の形式で、それぞれのゲームとそれに深く深く関わる人々が描かれる。
盤面に向かう彼らは何を見、戦う先に何を目指したか。
時に、それは氷壁であり、深海であり、究極の挑戦であり、一切の破壊であり、すべての再生である。
彼らのいる盤面は世界そのもの。
そこで何が起きようとしているのか。そんなことが実感としてわかるわけもない。
わかるわけもないからこそ、ドキドキしながら読んでしまう。
数多のプレイヤーの頂点、さらにその頂きに登りつめるような人たちにはそうなのかもしれない、あの盤上でもとてつもないことが起こることがいつかはあるのかもしれないという憧れやら期待、普通という尺度からみての切なさやら狂気、そういった気分が盛り上がってしまうのだ。
それと同時に、この記者「わたし」の心中を思う。
異能のプレイヤーたちに近づく彼だからこそ実感する隔たり、どこまで近づいても同じ世界を共有することはできないことに、絶望はしなかったろうか。
その疑問を掬いあげるのが書下ろしで最後におかれている『原爆の局』。
最初の『盤上の夜』の後日談にあたるが、この作品があることで、この短編集は、プレイヤーたちを見つめる記者を描いた連作短編集になったと思う。
でも、どれが好きかと言われたら『象を飛ばした王子』。
チェスや将棋の起源といわれるチャトランガをからめて、シッタルダの息子ラーフラの出家までを描いている。
光の王たる父をもった闇の王子の懊悩が、かわいそうでかわいい。
[読了:2012-06-15]
参加しています。地味に…。
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