講談社からは初めての文庫化。
専業になると違いますね、仕事の幅と量が。
波に座る男たち
著者:梶尾 真治
発行:講談社
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さて、今回の作品。
始まりは、密猟者があっというまに殺られてしまった浜辺。
そこには元軍人達からなる過激な自然保護団体のメンバーの姿がありました。
言ってわからないような奴は痛い目をあわせる。てぬるいことでは自然は守れないという信念に凝り固まったボスが登場します。
次は借金の取立てに悩む板前さん。
連れてこられたやくざの事務所で、借金のかたに賄いをすることになります。
昔気質の親分さんは麻薬には手を出さないという任侠路線の人、板さんが料理に使った鯨肉にいたく感激して、鯨を捕りに行くぞ!と言い出します。
今の事務所を引き払いたい急ぎの事情も手伝って、さっそく差し押さえた船を捕鯨船に仕立てていきます。
日本の食文化を取り戻すと息巻く大場組の面々に、絶対許さん!の武闘派保護団体。
決着はどうつくのか。
伝説のヒットマンも登場するこのどたばたな感じや、鯨について調べようとして図書館にいって借りてくるのが「白鯨」だったり「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」だったりするとかのバカバカしさがいかにも。
SFではありませんが、いつもながらの安心感です。
本当にいやな人が出てこない登場人物の性格付けに、物語の展開、伏線の拾い方。
すみずみまでカジシンという感じで、裏に返せば新鮮味がないと言っているのと同じかもしれませんけれど、それでいいのです。
ふと思い出して、カジシンっぽいのが読みたいと思うときにしか読まないので。
ここで、意表をつく作風の転換!などといわれるほうががっかりしてしまうかも。
この作品には岡本喜八監督への献辞があって、いやでも映画になったら…と想像させます。
作者のキャスティングを聞いてみたい気がする作品でした。
タイトルの『波に座る男たち』は、作中では「波座師」、もともとは「刃刺」とか「羽指」、「羽差」らしいですが、鯨に銛を打ち込む人の呼称からのものだそうです。
でも、結局大場組は物語の中で1頭も鯨を仕留めないのですよ。
もしかしたら、追いかけるだけだったりするのかも。
そんなふうに思えるところがいいのですけれど。
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