ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

鹿島 茂【子供より古書が大事と思いたい 増補新版】

2012-12-27 | and others
 
目にとまったら、つい読んでみたくなる書名。
これは増補版とあるように、以前文庫化された同名の本の後に、出版されたものです。
もともとの本は講談社エッセイ賞受賞作。

【子供より古書が大事と思いたい 増補新版】clickでAmazonへ。
 子供より古書が大事と思いたい 増補新版

 著者:鹿島 茂
 発行:青土社
 Amazonで詳細をみる


著者はフランス文学者の鹿島先生。
情念戦争』の記憶が強烈で、これは間違いないと読む前から思ってしまいました。
タイトルにもなっているような古書蒐集にまつわる悲喜こもごものエピソードは、著者の語り口と相まって、期待を裏切らないおもしろさです。
家族旅行にも古書店めぐりに変えてしまう著者のご子息は、匂いで良い本がありそうな書店がわかるようになってしまったとか。
曰く「ブキミな匂い」。
そこから話はその匂いの素に移っていきます。

著者が集めているのはフランスの挿絵本で、いくつかが図入りで紹介されています。
その魅力に、うわ、欲しいかも…と、思わされてしまうこれらの本については、装丁の種類や、挿画の印刷方法などの説明も詳しく、ただおもしろいエッセイというだけではない魅力もあります。
このバランスの良さは著者自身の魅力なのかも。
本の中ではコレクターとしての心得や、オークションへの参加方法などの他、パリの古書店情報もあります。(このあたりが増補分でしょうか。)
パリの古書店主なんて、なんだかかっこいいいわぁと思ってしまいますが、本もそれぞれなら、お店もご主人もそれぞれ。
私は行くことはないと思いますが、これを見て、行ってごらんになる方もいらっしゃるのかも。
思うよりも、実際的な本でした。
お金があれば、買えちゃいそう。
あっ、その前にフランス語の勉強か…。

私は何によらずコレクター気質は持ち合わせていません(と思います)が、著者が古書を集め始めるきっかけ、稀こう本を大学の図書館に買ってもらったはいいけれど、蔵書印を押されたその本を見て、貴重な生き物が剥製にされて博物館に入れられてしまったような気分になったというくだりは、なんだかわかるような気がします。
確かに本は残るけれども、コレクターの愛情を浴びない稀こう本は、もう稀こう本ではないのかもしれません。
図書館に入ったからこそたくさんの人の手に取られることも確かですが、閉書架に入ってしまったら、人目に触れることもなくなります。でも、本は残って、いつかは読まれるかもしれません。
本の一生もさまざま。
「一生」と自然と出てしまうあたり、私も、本をどこかで擬人化してしまっているのでしょうね。
手放した本がどこかでまた愛されているといいなと思います。
本にしたら、死蔵されるよりも読まれてこそと思っているでしょうから。




[読了:2012-12-24]







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 吉田健一【金沢・酒宴】 | トップ | 児玉 清【寝ても覚めても本の... »

コメントを投稿

and others」カテゴリの最新記事