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シュガークイン日録3

吉川宏志のブログです。おもに短歌について書いています。

それでも僕はペットショップボーイズが好きだということ

2013年05月05日 | インポート

村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に、ペットショップボーイズがやや揶揄的に取り上げられているところがある。(p.62)
しかし、私は昔からペットショップボーイズが好きで、そう言うといつも周りから軟弱者!という目で見られるのであった。(つい最近も、少し年上の女性から、同様の反応があった)
昨年のロンドンオリンピックの開会式を、たまたまホテルに泊まっているときに見ていたのだが、「ウェスト・エンド・ガールズ」が選手団入場のときに流れていて、すごく嬉しかった。やはりイギリスの人たちに愛されているんだな、と思う。軟弱でもいいではないか。

「とどかぬ想い(what have I done to deserve this?)」は、大学のころ、よく聴いていた。
売れなくなって堕落していたダスティ・スプリングフィールドという女性歌手を探し出して、デュエットしたというエピソードも感動的。この曲は大ヒットして、ダスティをどん底から救い出すことになった。ダスティはたしかその数年後に亡くなってしまうのだが、最後にもう一度花を咲かせられて、幸福だったとおもう。
http://www.youtube.com/watch?v=Wn9E5i7l-Eg

「ビーイング・ボアリング」も、懐かしく、切なくなる曲で、当時は何を言っているのか、よくわからなかったのだけれど、エイズで亡くなった友人のことを歌っているのだそうである。

In the nineteen-nineties
I never dreamt that I would get to be
the creature
That I always meant to be
But I thought in spite of dreams
You'd be sitting somewhere
Here with me

90年代になり、
僕がいつもなりたがっていた者に
僕がなれるとは、夢にも思わなかった
でも、どんな夢にも関わらず、
きみは僕のすぐそばの、どこかに居てくれるだろうと
思っていた



これは自伝的な歌詞であり、有名なアーティストになりたいと思っていたが、まさか自分がなれるとは思っていなかった、ということなのだろう。そのとき、きみがそばに居てくれるだろうと思っていたのに、それはかなわなかった、というわけで、そこに、友人の死が暗示されているのであった。
それが私は理解できでいなかったのだった。
http://www.youtube.com/watch?v=DnvFOaBoieE

ミュージック・ビデオも秀逸で、わけがわからないのに、妙に哀感がある。
ちなみに、ボーカルのニール・テナントは同性愛者であることをカミング・アウトしている。
「哀しみの天使(it’s a sin)」という曲もあり、これもヒットした当時は、何を「it’s a sin」罪悪だと言っているのかさっぱりわからなかった(僕は罪を犯した、と繰り返し歌われ、何をしたのかは一切言わないのである)。今思えば、おそらく同性愛に関係があるのではないか(私の想像だけれど)。誤解がないように書き添えると、同性愛が罪というのではなく、それに対して罪の意識を与える社会のあり方とか、学校や宗教などを、ひそかに批判している曲なのではないかと思う。

「レント」という曲の歌詞もおもしろい。

I love you
You pay my rent

あなたを愛している
あなたは私の家賃を払ってくれる


これは、妻の立場から夫を歌った曲で、静かで美しいメロディなのだが、痛烈なことを言っている。
「愛している」という言葉に、理由を付けるとたちまち嘘っぽくなる、という法則があって、

顔が美しいから、愛している
大企業に勤めているから、愛している
優しいから、愛している

というふうに、どんな理由をつけても、愛がなんとなく薄汚れて見えてくる。「優しいから、愛している」はまだマシなんだけれど、何となく、優柔不断な相手の姿が目に浮かぶ。
そうであるから、「理由もなく愛している」というのが、唯一の正解なのであって、
女性から「私のどこが好き?」と聞かれても、正直に答えてはいけないのである。

横道にそれたが、ペットショップボーイズは、そうした言葉の不思議さをうまく逆用して、シニカルな曲を生み出している。

「Twentieth century」(20世紀)という曲も、哀感のある
メロディとともに歌詞が印象深い。

Everyone came to destroy what was rotten
But they killed off what was good as well
Sometimes the solution is worse than the probrem

みんな、腐敗したものを壊そうとしてやってきた
でも、良かったものも滅ぼしてしまったんだ
しばしば、問題自体よりも、解決法のほうが、もっと悪いことがある

これなんかまさに、現代の日本にもあてはまるわけで、こんな思索をさらりと歌えるのが、ペットショップボーイズのすごいところだろう。
軟弱そうなんだけど、じつは硬派なんだと思う。

最近出た「ELYSIUM」というアルバムも、とても聴きやすくて、心がなごむ。

ELYSIUM ELYSIUM
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2012-09-17

優しく柔らかなタッチで、伝えたいことを、そっと聴き手の心に沁み込ませてゆく。自分の感情を決して強引に伝えようとはしない。丁寧に表現されたものでなければ、思いはほんとうには他者に届かないことを知っている。そういうタイプのアーティストがしばしばいて、私はそういうスタイルに惹かれることが多い。

















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