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シュガークイン日録3

吉川宏志のブログです。おもに短歌について書いています。

大口玲子歌集『ザベリオ』

2020年04月16日 | 日記

大口玲子さんの歌集『ザベリオ』が第12回小野市詩歌文学賞を受賞したとのこと。おめでとうございます。

「うた新聞」の10月号(だったはず)に書いた短い書評を転載します。

とてもいい歌集なので、興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。

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子は不意に死を怖れつつ指さして冬の星座を教へくれたり


 子どもは、本当は大人よりもずっと強く、死の不安を抱えて生きているのだと思う。永遠の星空を見つつ、生のはかなさをふと思い出す息子。簡潔な中に、深い感情の襞がある。
 大口玲子も、子どもと同じ怖れを持って生きている人だ。それも漠然としたものではなく、戦争や核兵器の恐怖を、身体の奥底から想像してしまう。そして、子どもの抱くおびえに、身体が激しく共鳴する。


子は読書感想画を描き戦争孤児の涙をみどり色に塗りたり

 

 不安を打ち消すには、行動するしかない。大口の社会詠には、行動へと掻き立てられる切迫感と、気の焦りが生み出すユーモアが同居している。そこに独特の分厚い存在感がある。


押し黙り橘通りを歩きゆくデモに見惚れて転ぶ人あり
まづわれは一礼したりおそれながら傍聴人にはお尻を向けて

 

 二首目は安保法制を違憲とする訴訟の原告となったときの歌。深刻な場面だが、ぎこちない動きや恥じらいが伝わってきて、そこに生身(なまみ)の〈私〉が鮮やかに立ち現れるのである。
 神の問題も、大口の歌を論ずる上で外すことができないが、紙面がわずかなので簡単にしか書けない。


宮崎でもつとも広き法廷に空席ぽつり イエスが座る

 自分の行為を遠くから見つめるものとして神は存在する。闇の時代にも神のまなざしはあり、その中で命を繋いでいこうとする願いが、次の歌に込められていて、胸を打たれた。


たいまつの火を掲げ先を歩みゆく子を見失はぬやうに歩めり

(青磁社・2860円)


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