シュガークイン日録3

吉川宏志のブログです。おもに短歌について書いています。

第12回 クロストーク短歌のご案内

2019年05月12日 | 日記

12回 クロストーク短歌のご案内

― 「話題作でふりかえる平成短歌」―

 

今回は染野太朗さんをお迎えして、平成の短歌をふりかえります。

毎年、短歌ではよく議論される「話題作」が生まれます。この30年、どんな歌が話題になってきたのでしょうか。

懐かしい歌、もう忘れられている歌、今でも衝撃力のある歌……。

なぜ、そのとき大きな話題になったのかを考えながら、現代短歌はどのように変化してきたかを語り合いたいと思います。

皆様のご参加をお待ちしております。

 

  日 時  61日(土) 午後2時~4時45分 (受付 1時40分~)

 場 所  高津ガーデン 3階ローズの間(tel 06-6768-3911

      〒543-0021 大阪府大阪市天王寺区東高津町7-11

      【地下鉄】谷町線・千日前線「谷町九丁目」駅下車7分

      【近鉄】「上本町」駅下車3分

 会 費  2,000円 (学生1,500円)

 申込方法 メールでお申し込みください。 

      crosstalknokaigmail.com (●を@に変えてください)

      件名「クロストーク短歌の申込」

      本文に①お名前 ②連絡できる電話番号 を記入ください。 

      折り返し、仮受付のメールで振込口座をお知らせします。

      ご入金を確認後本受付となります。

      一度お預かりした会費は、会の中止の場合を除いて返金はできません。

      代理受講は可能ですので、その場合は代理の方のお名前をお知らせください。

      *定員(45)に達しましたら締め切りますのでご了承ください。

 

染野太朗さんのプロフィール

1995年に歌誌「まひる野」入会。「早稲田大学短歌会」に参加する。2012年、第1歌集『あの日の海』で第18回日本歌人クラブ新人賞を受賞。20154月より1年間、NHKテレビ「NHK短歌」選者を担当。2018年、第2歌集『人魚』で第48回福岡市文学賞を受賞。笹井宏之賞の選考委員を務める。

歌集 『あの日の海』(まひる野叢書282篇)本阿弥書店

『人魚』(まひる野叢書340篇)角川文化振興財団


俵万智『牧水の恋』書評

2019年05月03日 | 日記

昨年の「短歌往来」12月号に書いた、俵万智さんの『牧水の恋』の書評です。

分量が短くて、あまり言い尽くせていない感もあるのですが、ご参考になれば幸いです。

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俵万智『牧水の恋』書評

恋する牧水との深い交感

 

 私たちは多くの場合、短歌を歌集という本の形で読む。しかし歌集には、作者の編集の手が加わり、過去が再構成されている。それ以前の雑誌の初出で読むと、別の文脈が見えてくることがある。

 『牧水の恋』は、初出の雑誌で読むことで、歌集『別離』では見えなかった牧水の心の動きを、つややかに描き出すことに成功している。たとえば、

 

  月の夜や君つつましうねてさめず戸の面の木立風真白なり

 

という一首は、歌集で読むと、男女関係ができてからの歌のように読める。しかし初出の時期から考えると、まだ性愛はなく、添い寝していただけらしいのだ。伊藤一彦の説が先行して存在するのだが、俵は一首ずつ丁寧に解釈して、説得力を高めている。

「つまりこの一首は悶々として眠れないという状況あってこその歌なのである」。

 

  をみなとはよく睡るものよ雨しげき虫の鳴く音にゆめひとつ見ず

 

も同じ場面で、女は身体を拒むために寝たふりをしていると俵は想像する。

 「それ、作戦ですから! 巧妙な防衛策ですから!と教えてあげたい。」

 若い牧水に対して、女性の立場からアドバイスするような書き方。この視点がとてもおもしろい。牧水への親しみを持ちつつ、あるときは優しくたしなめる。牧水の現実の恋は悲惨で暗鬱なのだが、俵の軽やかな文体が、それを柔らかく包みこみ、救済していくようである。そして、牧水には見えていなかった女性の心理も、露わになっていく。

 

  おもはるるなさけに馴れて(おご)りたるひとのこころを遠くながむる

 

 この歌について俵はこう書く。

「驕りとは、惚れた者の弱みを見越して、ごまかせるだろう、嘘をつきとおせるだろう、なんとかなるだろう、という女の側の甘い考えである。」

 抽象性の高い一首だが、俵による女の側の視線が添うことにより、リアルな恋の姿が浮かび上がってくるのである。

 そして『牧水の恋』の真骨頂は、平賀春郊が書いた牧水の追悼文の中にある「花見船を眺めながら君が山本鼎氏の借著でI海岸に出かけて行つた後姿などは未だに歴然と私の眼に残つてゐる。」という謎めいた一節の解釈であろう。

 ネタバレになるが簡単に書くと、牧水の恋人が子どもが産んだのだが、幼くして亡くなったらしいのである。なぜ牧水は「仮著」だったのか。俵は、喪服で葬儀に向かったのではないか、と推理する。じつに鋭く、ハッとさせられる。

もちろん、証拠はない。しかし、作者と深く交感することで、彼の人生を、読者も同じように体験してしまう瞬間は必ずあるものだ。桜の咲く中、喪服で船出する牧水を、俵は確かに見たのである。作者と読者の幸福な一体感が、ここに鮮やかにあらわれている。俵の直感力によって、牧水の恋を、私たちもまざまざと体感することができる。

(文藝春秋刊 一七〇〇円・税別)