社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

石田望『物価指数-その実態に無関心でよいのか-』白日社,1974年

2016-10-16 12:04:31 | 9.物価指数論
石田望『物価指数-その実態に無関心でよいのか-』白日社,1974年

 1970年代半ばに書かれた物価指数の本。再読すると,データはもちろん古いが,内容はわかりやすく,ポイントをおさえている。なぜ,再読したかというと,最初に物価指数論の学説史が要約的に述べられていたからである。

 物価指数はいまでは基本的な統計で,知らない人はいない。しかし,誰が最初にそのような指数を計算しようと思ったのだろうか。何が契機になって,この種の指数が必要と考えられたのだろうか。そんなことを突然,知りたくなって,それらのことが書かれている本を書棚から探したら,この本があった。最初に物価指数を作った人は,ライス・ヴォーアン(1638-72)というイギリス人で,1352年を基準にした1650年の物価指数を計算したらしい。ラフリンの"The princeples of money"という100年前に書かれた本で指摘されているとか。そして,当初は,貨幣価値の測定に関心があったようだ。

 本書では,その後に指数論史をジェヴォンス,ラスパイレス,パーシェと追跡し,この過程で物価指数を生計費指数と絡める問題意識が醸成され,さらに効用論による意味づけがされていったことを叙述している。以上が第一部である。

 第二部では総理府統計局(当時)の物価指数の作成方法が紹介されている。しばしば,消費者物価指数と人々の実感とのズレが指摘されるが,著者はその理由を,家賃,およぶ帰属家賃として捉えられる持家の経費のウェイトの軽さ,非消費支出(税,社会保険料など)が無視されていること,作為的な銘柄変更などにもとめている。

 第三部では,物価指数論批判が展開されている。自身の所説を述べる前に,スティグラー・レポート,インド・フランスの労組の物価指数論批判を紹介している。理論的問題としては固定バスケット指数(同じ消費財を同じ量だけ購入した場合の家系支出額の比)と同一効用指数(基準時点と比較時点で同じ満足度を与える家計支出総額の比)をどう理解するかという問題が投げかけられている。他に調査方法の問題,統計の正確さを保証するための提言がある。古い本だが,価値のある文献であると見なおした。

 「まえがき」で著者は物価指数論が重要な問題なのに経済学者があまり関心をもたないことを嘆いている。当時はそうだったのだろうか。

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