Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

すべてを引き受けた人の、その先

2009-03-20 | femmes...bijin tachi
昨日書棚を整理していたら、いただいて読み終わっていない本(というのも内容の大半を忘れていました)が出てきました。
『マダム・クロード 愛の法則』伊藤緋紗子氏訳(光文社)。

“人間の人生は本人がイメージした通りになる”、

この真実に照らし合わせると、自伝にみるマダム・クロードの波乱万丈な人生もほんとうにそれこそ「自業自得」という言葉がどんぴしゃですが、
自由を好み依存を嫌い、雇われることも当然なく、芯から自立して生きた彼女の言葉は、髄所で小気味よい真実を語っていました。
彼女には、世界に通用する一流の女性を育て上げる、という才能があり、
その確実な教育に従った潜在能力高い女性の幾人かは、過去の肩書を捨てて上流社会にお嫁入りしました。
安定して幸せな結婚生活を彼女たちが生涯続けた理由について、マダムはこういいます。

「娘たちは結婚を決心するまでにたくさん働いたので、ブルジョアのお嬢さんのように手近な欲求不満のはけ口を探したりはしませんでした。自分自身でたくさん稼いだので、結婚相手のお金に目がくらむこともなかった。
自らつかんだ愛や幸福がわかっているので、他のものに目がくらんで虻蜂取らずになるようなことはしませんでした。つまり“幸福”という“宝物”を本当に知っていたのです。」

内容はどうあれ、
自分ができることをとことん行なった結果、自分で自分の一生を幸せにしてあげられるまで精神力と経済力を磨いた人間は、他人の幸せに貢献することができ、それによって自分ももっと幸せになる、
という法則が彼女の仕事を通して証明されたのは確かです。

マダム・クロードという師匠からいいところだけを学んで自分の人生設計をきちんと成し遂げた「娘」に、わたしの興味はあります。


10代の頃に読んだ片岡義男さん(←この頃引用が多いですが)の短編の登場人物をやはり、関連してふと思い出します。
オートバイで全国を放浪する女性だったか、彼女は医師免許を持ち武道の師範代で、今は自由に放浪をしているのです。
主人公の男性と旅先で会った彼女は自分について語り、

「放浪する生活をしたいと思っていた。父親が医師免許と武道の体得を望んだの。自分のしたいことをするためそれに逆らうという方法もあるけれど、全部をこうして涼しい顔で引き受けて乗り越えていく、というやり方もあるのよ。そちらを私は選んだの。」

と告げるのです。子供のわたしに衝撃を与えた個所でした。
小説は短く、その彼女が素敵だった、という風のような印象がさらりと描かれているだけでしたが、
さらに思い巡らすと、結局その彼女は要求された職を身につけることによって、父親に文句を言わせなかったばかりか、安定した自活手段を手に入れ、今は誰憚ることなく子供時代からの夢を実現している。全方位OKの、きわめて優秀なおさめ方。
視線をどこまで遠くまっすぐに透明度をもって伸ばすことができたか、の勝利です。


先日も尊敬する大好きなお友達が、彼女は弁護士さんですが、
「近年、芸術の世界を知り始めたら、衝撃的だった。法学なんてしてないで、そういうことを勉強したらよかった」
とおっしゃっていましたが、その素晴らしい感性はおそらく天性のものであったのが、ある難解な専門知識の学習でさらに磨かれ能力全体を底上げし、たゆまぬ知力が本人の気付かないうちにますます審美眼を育て、・・・満を持して大輪の花がこぼれ咲くように、最高級の芸術との感動の出会いに繋がったものではないか と拙いながらにわたしは推測します。
ある道でプロになった彼女だからこそ、別の分野においても本物の力がより解るようになった・・・
のではないかと。
実際、彼女の豊かな感受性や表現力にはいつも、ただならない、水の源のような美しい力強さを感じます。

どの道からいっても、出会うべきものとは出会うようになっている。
なぜなら、それは自分のイメージが作り上げた道だからです。
困難に出会っても、それは道の景色の一つです。

わたし自身、ポカばかりの割に我ながら気味悪いくらい打たれ強く、よく、マゾだね!と親しい人たちにちゃかされますが、さすがに打たれること自体が好きなわけではなく、やっぱり自分のふがいなさが悔しいし、いい気分ではない。でも足りない部分への指導に心からの感謝を表することが、道をより良く拓いてくれた。
今までの自分を変えるのは、必ずしんどいこと。だから、つらさは当たり前です。
それでも、どんな時でも「引き受ける」素直さだけは自分に徹底しよう と決めているのは、その先にある場所にいつも、今と同じくらい、またはそれ以上の幸福がある、と理解するからです。

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