Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『ゲンズブールと女たち』

2011-11-27 | cinema... eiga
行って良かった。とても面白い映画でした。
ゲンズブールの歌にそれほど興味を持ったことはなかったのですが、映画の中の歌はどれも洒落ていて、ルール破りで、楽しかった。
歌詞の言葉遊びは難しくって、字幕なしでは厳しい、というのが正直なところですが、日本語でも、言葉の魔術にすっかり魅了されました。

そして、女優陣がほんとに豪華です!
鑑賞に出かけたのはそれがいちばんの目当てだったのだけど、
まずはジュリエット・グレコ役のアナ・ムグラリス。シャネルやボーヴォワールもこなしているだけに、もはや本物のジュリエット・グレコ以上に、貫録が・・・!
そしてフランスの「マリアンヌ」同士でもあり、こんなにブリジット・バルドー役に似つかわしい人はいない!、レティシア・カスタ。しかもそっくり。ビックリ。
バンブー役のミレーヌ・ジャンパノワは、初めて画面で動いているのを見たけど、Diorコスメのキャラクターしていたあの人なのね。美しすぎる。

キャストは全体になんだか、主演の俳優からして、フランスにおける「モノマネ合戦」番組みたいな安めの趣があったけれど、
(似てる!と目を瞠らせるのが主旨、みたいな)
そこが面白かった。
シャルロット・ゲンズブールの子供時代も、いったいどこから見つけてきたの!ってくらいそっくりだし。一緒に行った友達も「あれって合成か何か?」と思ったそうです。


監督のジョアン・スファール氏は、1971年生まれのバンドデシネ(マンガ)作家。
作中の絵やキャラクターは彼によるものなのでしょうか、表情豊かでエキゾチックで、画面を華やかに楽しく彩っていて、見惚れてしまった。
前半は、監督の遊び心がふんだんにちりばめられていて、イマジネーションの泉であったろうゲンズブールの子供時代からの世界が楽しく表現されてました。
後半はちょっと重たい。
タバコと酒に溺れ、映画観ているだけでこちらまで肺がんになりそうな朦朦たる白煙のなかによろめく、ゲンズブールの崩壊の物語。 愛犬ナナちゃんが亡くなるシーンはもらい泣きしてしまった。
しかし、豪華な見どころはその後半にも。
渾身の「ラ・マルセイエーズ」合唱が、後半のハイライトです。
自らの手で自由をもぎ取って、強く掴んで、絶対に離さない。そんな、革命以降のフランス国民の心が、国歌「ラ・マルセイエーズ」にはいまだ血肉としてみなぎっています。
(ロスチャイルド家の成り立ちの本を読むと腑に落ちるのですが、ユダヤ人であることとフランス国民であることは相反しない)
レゲエ・スタイルに姿を変えようと、そのメロディと歌詞が活きている限り、フランス人の不屈の心は変わらない、
そんな魂を伝えるシーンに、監督のフランス国民としての熱い心を感じました。


ストーリーは、ユダヤ人として子供時代に迫害を受けつつも無事成長したゲンズブールが、画家を志しながらも、アルバイトのピアノ弾きが本業になり、いつの間にか美女を渡り歩いて楽曲を提供するようになる・・・という人生の描写。

わたしは、ご本人が出演する映画としては『シャルロット・フォーエバー』だけ観たことがあり、
ウーン、退廃の匂いそのもの・・・という雰囲気の男性だなあ。
という印象だったけれど、『ゲンズブールと女たち』においても、その印象通りの人生でした。
あえてそんな特徴ばかり強調しているのだろう、とは思うけれど。

お洒落で、軽薄で、自分勝手で、淫猥で、堂々巡りの議論と言葉遊びと誘惑が好きで、テキトウ。
しかし仕事としてはそれらをきっちり昇華してまとめあげてくる、という不思議な出来上がり・完成度の高さは、いかにもフランス。
その底には、自由の本質を追求し、実は生真面目な(日本人とは違う意味での)、フランス人の姿があります。
フランスのエスプリそのものを観に行ったなあ・・・と思いました。


『ゲンズブールと女たち』公式サイト

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