かつて志野流香道を体験した日について書いたことがあります。
その時以来、いつか源氏香を体感できたらなあと、淡く思い続けつつ、まだ、知識不足による赤恥への恐れが勝っております。
そんな中。またまた松栄堂 畑 正高社長から「源氏香」についてお話を伺う機会があるという!情報を得て、宇治の、「源氏物語ミュージアム」へ行って参りました。
香の話以上に、平安時代を読み直そう、という試みが斬新で、教科書通りに覚えた年号はSF小説を見るかの如く他人事だったわたしにも、初めて、平安時代に生きる人々の臨場感が迫ってきた。
源氏物語ミュージアム開館20周年記念特別企画展講演会(2019年2月16日、日曜日)
「源氏物語と香」
まず、平安時代とは?
「みやこにおける、貴族社会の400年間」。
それは、4つの流れに分類されます。平安時代を、一括りにしないことです。
1、唐様(からよう)具現化の時代(100年間くらい)[聖徳太子〜平安時代は中国を真似ぶ時代だった]
2、和様の開花と展開
3、院政という保守化
4、武家の台頭(貴族間の調整をするのに武士の力が必要になってきた)
とりわけ重要なのは、1、と2、の間に起こった変化。
唐 とは中国のこと、唐様とは中国様式のことで、いうなれば日本はそれまで、中国の地方都市にしか過ぎませんでした。
現在の、時代祭という、京都の3大祭のひとつは、歴史的重要人物のコスプレ行列でありますが、
そこに登場する小野小町の姿は、中国様式の衣装と髪型です。(彼女は、平安初期の歌人)
この頃文字は漢字が使われています。
そして、和様の開花が訪れます。
「唐様から和様に『チェンジ』したのではない、
唐様を完全に咀嚼して理解したやまとの文化人が、唐様を自分たちなりの姿にしたのが、和様。」
というのが畑様の見解です。ドヨメキが。
ひらがなが、この頃使われ出します。
905年、古今和歌集が、初の勅撰和歌集として登場します。
「和歌(やまとうた)」はそれまで存在していたものの、「勅撰」されるような高貴なものとは扱われていなかった。初めて、これがまとめられた。
やまとびとの誇りが芽生えた大切な時代、それが平安時代なのです。
さて香と日本との出逢いについて。
あるとき香木が海から流れ着いた…火にくべると良い香りがしたので献上された…と日本書紀にあるそうです。
現在調べると、それはおそらくインド産の香木であるとのことです。
日本は、海から流れ着いたものを得て学び、自分たちの生活に融合させてきた。
そして、紫式部による源氏物語が1008年登場。
そこでは、光源氏の暮らしを通して、香がいかに貴族の生活に根付いていたかが示されます。
ちなみに、貴族は当時人口800人〜1000人程度、それ以外の一般人は8〜10万人程度とされています。
そのなかで美貌、教養、身分とどれを取っても燦然と輝く源氏の君、、どれだけまばゆいかという話ですね。
源氏物語に登場する「香」のエピソードに、畑様は下記の3章を挙げられていました。
《帚木》
具体的な「香」ならずとも、漂うみやこびとの「美意識が香る」章でもあります。みやことは上京区のことonlyというお話も。。
《若紫》
「そらだきもの、心にくく薫りいで、名香の香など、匂い満ちたるに、君の御追風、いと殊なれば、うちの人々も、心づかひすべかめり。」
そらだきもの=空間を満たす香り
名香=阿闍梨の焚く香
という二つの香が充ちる空間で、さらに、
君=光源氏
御追風=風が吹いて源氏の衣にたきしめられた香が舞い上がり、混じる
いと殊なれば=圧倒的であり、
うちの人々も、心づかひすべかめり=周りの人々もうっとりする
…という、文面から薫りがあふれだすかのような章。
《梅枝》
明石の君と、紫の上が、それぞれのチームを結成して香のレシピを競い合うシーン。
西暦1000年頃、男性は香のレシピを知ることを許されませんでした。
しかしそっと耳をそばだてる源氏の君、、
それぞれの子供のために喧嘩する、二人の女親、、、
香が、センスを表す重要なツールであることを示す章です。
ここで脱線で。。。
松栄堂の社長として、畑様いわく、同じ香りをずっとつけることは下手くそだそうです。
鼻が慣れて嗅覚が疲労し、つけすぎになってしまい、香害につながると。
あー。過去の私に教えてあげたいです。
そもそも、におう とは、語源が「丹穂生」、
毒性がつよくて扱いにくい「丹」が魔除けとして使われたことから。
さてここからは遊びのお話です。
◾️薫物(たきもの)とあわせもの
香合わせにはいろいろあります。
10世紀頃は、配合香の品評会であり、家にある香を合わせました。「薫物(たきもの)合わせ」といいます。
15世紀になると、伝来香木の品評会になります。
同じく15世紀には、香木の名による連歌あそびが始まり、これを「焚き合わせ」という。
現代の遊びはこれを継承しています。
「貝合わせ」(パズル的)と、「貝覆い」(神経衰弱的)は似て非なる。
「唐様」(平安貴族の憧れた世界)と、「唐物」(室町の人々が憧れた焼き物)は似て非なる。
◾️組香
これが、源氏香に代表される遊びです。出された5つの香の組み合わせを発表し合うルール。その組み合わせは、この表の名前がついています。
勝ち負けではなく、メンバーが引き当てた各章について、述べ合う。
ちなみに、尾崎紅葉に心酔した泉鏡花は、ずっと手持ちの品にこのなかの「紅葉」のマークを印字し続けたそうです。
屋号に、このマークを好みのままに利用しているお店も京都を中心によく見るそうです。
わたしも今後探してみよう。