Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

読書会 ラディゲ『肉体の悪魔』

2019-02-01 | rayonnage...hondana
インパクトのある邦題で有名な本作ですが、原題「diable au corps」の意味するところは、
“ある人の身体に潜む、悪魔的な精神…”という感じでしょうか。
日本でこんな漢字がバーンと目に舞い込んでくると、低俗な雑誌の電車中吊り広告?のようですが、そういう、直接な性的小説ではなく😁
しかし、第一次世界大戦時下の、少年と人妻の恋、というストーリーなので、ご期待に違わず、俗っぽいといえば俗っぽいです。

ただ、同じ設定でも、日本でならきっと恋愛感情よりも肉体関係とその描写についてが関心を集めやすいですが(低俗な広告過多のせいで!)、
フランスでは、恋愛についていつも偏りなく「関係全体」 を重視している、ムラのなさを感じました。
しかしながらわたしには、多くのフランス恋愛小説のシチュエーションと心情、共になかなか共感しにくく、そのため本作もとっかかりにくく、長いこと放置したままでしたが、それは自分自身に「フランス式恋愛」のDNAがなかったせいだとようやくわかりました。日本式でも恋愛向きじゃないし。
だったらフランス人になりきって恋愛を疑似体験してみようじゃないかと、それも、高校生の悪魔のような少年になりきってみようじゃないかと、そう思えてからようやくページを進めることができました…

ひと言でその感想をいうなら、「疑いすぎ、ストレス与えすぎ!」。
とにかく言わねば伝わらない文化なので、常に感じたことを相手に言うのですが、コンディション良い時ばっかりじゃないのが人間なので、しかも若い2人の不倫物語なので周囲のしがらみが多く。
結果として攻撃し合い、傷つきあい、そしてそれを克服せんとまた熱く仲直り、という繰り返しが拙い2人の恋愛関係です。
(ムリだ)

ではこの「肉体の悪魔」という作品の何がそんなに魅力なのか?

それは、この作品独特のスピード感、
また、戦争中という特殊な状況は、人間の精神をいろんなふうに攻撃してしまう、その非日常のリアルさを見ることが、少年という存在を通して、できるから。

中条省平さんの翻訳で読みつつ、フランス語でも読みました。フランス語で読むのは、すごく良かったと思いました。やっぱり炬燵とか蜜柑とかスギ花粉情報とか大好きな日本酒の瓶とか節分とか優しい家族とかを横目に見つつ日本語を「第一次世界大戦下のフランスの田舎町にいる気分」で読むのは無理があって、「自分は今フランスにいる」気持ちに浸らないと、どうしても不倫=失楽園みたいなべとっとしたムードから逃げ出せず、全部が昼ドラ観てるみたいになるけれど、
フランス語で読むことによって、フランスの頭の古い人たちの、あの赤の他人に対する距離感、ときとして理不尽なくらいの意地悪、などに丸ごと今浸っている、、と思えれば、しめたものです。
主人公の少年の父が、息子の不倫を黙認する傾向にあるのも新しいカルチャーショックで、「へえー」でした。
この小説は、自分の尺度で測らず、一切「なりきって読む」ことをしないと、同じ車に乗ってスピードを楽しむことができないと思います。

フランス語版はKindleで¥0:
「Diable au corps」

光文社から出ている中条さんの翻訳も、すごく良いです。
以前いちど、恵文社でのトークイベントに参加し、中条さんご本人に、
「翻訳する時の文体は、作家ごとに違ってくると思いますが、どう意識して表現なさっているのですか」と聞いたことがあります。
やはり、たくさん名文家「◯◯さん風」の引き出しを持っていらして、使い分ける。たまには漫画のネームを参考にされることもあるとのことでした。
だからこれもかなり意識して"ラディゲ感"を踏まえ表現されているのです。
文体のみならず、日本に存在しない概念を日本語で抽出するという役割も、翻訳にはあります。
私=JE で全部が済む訳ではない。JE=私・俺・僕・自分・オイラ・あたくし と、逆にだってこんなにパターンがあり、全部そのニュアンスが違ってくる訳ですから。
中条さんの、日本語として読みやすくしつつ原文にも忠実に、を懸命に実現されている姿勢がとても好きです。

解説は、とくに面白いです。



さてこの本の読書会が2月16日(土)19:00〜20:30にあります。
今回は、小グループのファシリテーターの1人を務めます。

京都フランス文学読書会 第5回 ラディゲ『肉体の悪魔』

会場:丸善京都本店併設カフェ
進行:駒井稔(光文社古典新訳文庫編集長)
課題図書:レイモン・ラディゲ「肉体の悪魔」
訳/中条省平(光文社古典新訳文庫)※その他翻訳、出版社でも大丈夫です
定員:40名
参加費:無料


よかったら申し込んでください😘当日お会いしましょう。
こちらから


【イベント終了しました】
主宰の駒井氏は「なぜ15歳の若者に19歳の女の子がかくもこう従うのか?」と、
モテの秘訣みたいのを知りたく気にしていましたが、
そのときは言わなかったけれど、わたしが思うのは、「激しく愛されている」と勘違いした女の子が勢いに酔ってしまっただけでは、、主人公の魅力とかでは、特にないんでは、、
俗っぽい感想で申し訳ない。
そんな風に、ざっくばらんな会でした。

📘📕その他イベント📗📙
※3月2日のプルースト読書会もファシリテーター参加予定です。

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