Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『羊の歌』

2012-08-01 | rayonnage...hondana
あいかわらず京都の夏は殺人的なので、のこのこと目的なく外に出て無駄死に・・・などしないように心がけています。
言い換えれば、屋内で心を落ち着けての読書に最適であります。

先日は、京都のこんな暑さを慮ってくださったすたほさんより、有難いプレゼントを頂きました。
人間の心の複雑さを描いた『犯罪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著)。
本屋大賞第一位、というのも興味深いし、著者がナチ党全国青少年最高指導者の孫にして刑事事件弁護士、というのも関心をそそります。
こちらについては、色んなことを考えさせられる衝撃的な一冊だったので、もう少し自分の中で寝かせてから、書けるならば、書きたいと思います。


自分で選んでふだん読む本も、圧倒的に身の丈以上のものが多いです。
今京都府立図書館から借りてきているのは、

・白洲正子著作集 第1巻
・能 ~中世からの響き~(松岡心平著)
・能 岩波写真文庫
・加藤周一自選集 第6巻

上の三冊は、現在、「能を知りたい欲」が芽生えているためですが、とりわけ白洲正子氏の文章には能のおもしろさが存分に詰まっていて、思いがけない視点にはっとさせられ、わくわくします。

そして四冊めの『加藤周一自選集』、これはもう、日本語の美しさ、優れた知性の素晴らしさを味わうための贅沢品です。
小林秀雄氏以上の日本語、といわれる珠玉の文章を書かれる加藤先生は、有名ですが、その行間が深すぎるため、とっつきにくい人も多いかと思います。。
なので、加藤周一著作を知るには、自伝『羊の歌』から読み始めると、入りやすいと思います。
わたしも、そう薦められて、『羊の歌』、『続 羊の歌』をたいへん興味深く読了しました。
夫は、(本人はこういうことに控えめな性格なので決して自ら吹聴しませんが、)加藤先生の一番年若い友人で、京都の道をあちこち歩きながら、または食事をしながら、様々古今東西の文化を語り合った想い出を持っています。 わたしは、ご病床の加藤先生のお宅へ京都の豆富をお送りしたのみで、結局お目にかかることかないませんでしたが、著作をいまだ読み切れておらず、また読んだところで知的に至らない部分も多いので、下手にお会いすることなくてよかったのかもしれないと、今になってそっと思ったりします・・・

ともあれ、『羊の歌』ですが、
多感な時期に戦中戦後を体験し、医師として活動しながらも、朝吹登水子氏の手引きで欧州文化を堪能したフランス留学以降、目の覚めるような論点と切り口で日本文学の体系をまとめあげ、芸術を論じ、日本の誇る知性として知られるようになった加藤先生・・・
の半生が、公私ともども淡々と、しかしドラマティックに綴られています。
出会い、そして、親交を深めた人びとの名前を目にするだけで、こちらは口をあんぐり、
一体、わずか半世紀前なのに、こんなに文化水準の高い人たちのグループがこの日本にあったのかと、驚いてしまいます。
なぜそんなに優秀な人間ばかりができあがったかというと学校教育のシステムが今とは違っていたため、
と、夫から説明を受けておりますが、官僚体質の人間ばかりを輩出しがちな現在の東大と違い、当時の、独創性と文化レベルの極めて高い東大とその学生たちの様子は、なんと人びとの憧れであり誇りであったろうと想像してしまいます。
その中でも極めて高い知性を誇る加藤先生は、フランス生活においてはサルトルとボーヴォワール他、世界的文化人たちとの親交をも深めます。
フランス語だけをいくら学んだところで、サルトルと会話できるようにはならないのは、いうまでもなく。
圧倒的な知的世界がその時代のパリで展開していたのだなあと、こちらは呑気な想像をするばかりです。

『羊の歌』をはじめとし、加藤先生の著作を読んでいく中で気がつくのは、いかに日本人の自分自身が、日本について無知であるかということ。
「本を読んでいる」と言っていても、中身を持つ日本語はそう多くなく。。むしろ砂利ばかりの中で、「珠玉」に出会えるセンスをまず持たねばならない、ことを、加藤周一著作を数ページ読んだだけで、痛切に思い知らされます。
感覚的には、皮肉でユーモアのピリリと利いた視点や描写が、わたしはとても好きです。真面目一辺倒というのではない、それでいて安っぽく笑いを取ろうとしてるのでもないのが素敵。
人間の知力をフルに伸びやかに発露させると、人生はこんなに広がり、豊かなのだなあと、日本語が読めることに感謝したくなります。

2 コメント

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待ってました! (すたほ)
2012-08-05 16:31:28
こんにちは。
mlさんの書の紹介待ってました!
夏休み、オリンピックも終わってしまうと
時間もできるので
涼しい部屋でのんびり読書に浸りたい!!ですね。
裾が広がりそうな
miさんの書の紹介にまたしても
早く早く読みたい、とうずうず。
しかし、ストックしてる本が山ほどあるんですけどね・・。

あ、別記事でしたが炭酸パック。
私も以前、使ってましたが
その後、放置してた・・笑
肌荒れも随分改善されましたので
タイミングを見てまた使いなおしてみようかなと
思います♪
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Unknown (すたほさま(mi))
2012-08-06 16:11:12
わお、こちらにもコメントいただき光栄です!
面白い本を、本当にどうもありがとうございました♪
また素敵な本、ぜひともご紹介お願いします!!

それにしてもほんと、オリンピックがあるうちは、ついついテレビっ子ですよね(笑
そうしてるうちに図書館の本の返却期限が~~


炭酸パック、私は久々にまともに(?)コスメ使えて、すごく嬉しかったのです^^*
すたほさんの肌荒れって、もとがすごく綺麗なお肌だけに、私なんかよりずっとずっと気になっちゃうと思います・・・。
久々の炭酸パック、うまいこと合います様に。ますますお美しくなられますように♪
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