蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

昔々あるところに 壱

2015-07-12 13:32:57 | 日記
 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ竹取に、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
 おじいさんが竹林の中に入ると、下から四つ目の節のところがぼんやりと光っている竹がありました。その節のところをのこぎりで切って取り出して、一番上の部分を、中身を傷つけないように切ってみると、中には小さくてかわいい女の子が眠っていました。おじいさんは、起こしては可愛そうだと、そっと竹筒を抱っこして家路につきました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃が流れてきました。何とか岸辺に引き寄せる事は出来たのですが、引き上げることは出来ませんでしたので、携帯を取り出して、助けを呼びました。先週、町に行ったときに駅でチラシを配っていた若者たちの事を思い出したのです。「多田便利軒」「なんでも仕事引き受けます。只今開店特別セール中」とマジックインキで描いたような手書きの文字が印象に残っていたので、畳んでウェストポーチの中に入れていたのです。電話はすぐにつながり、事情を話すと、二人で軽トラに乗ってきてくれることになりました。
 若者二人は、なんとか軽トラに桃を乗せてくれ、家まで運んでくれました。おばあさんは助手席に乗り、「ぎょうてん」という名前の若者が荷台で桃を抱えていてくれました。最近の若者は、見かけによらず親切だとおばあさんは、なにかあったらまたこの二人に頼もうと決めました。

 おばあさんが家に帰るとおじいさんが先に帰っておりました。おじいさんは、竹の節の中に眠っている女の子をおばあさんに見せました。二人の若者も覗き込んでいました。若者たちは、まるで子どもに帰ったような表情で女の子を見つめていました。
 軽トラから桃を下ろして来て、割ってみることにしました。家にある一番大きな包丁を出して来て、桃のてっぺんにあてると、不思議なことに桃は自分でパカッと割れ、中から、男の子が飛び出してきました。ナイキのスニーカーを履いて、ラフスキンの半パン、ポールスミスのTシャツ姿で、シャツには、「桃太郎」というロゴが入っていました。

 男の子が出てきた桃を食べるかどうか一同は迷いましたが、「ぎょうてん」という若者の、「いいんじゃね」という一言で、みんなで小分けにして腹いっぱいいただきました。
 若者たちに、代金の事を言いますと、多田という若者が、「多田という名前ですから、タダでいいです。桃も頂きましたし」といって、どう考えても手書きだろうと思える名刺を渡しました。おじいさんとおばあさんは、若者の気持ちを傷つけてはいけないと思ってとりあえず笑い、そして、「これは、裏の畑でとれたもんだ」と茄子とかぼちゃを渡しました。

 若者たちが立ち去った後で、おじいさんとおばあさんとは、今日新しく家族になった男の子と女の子を育てていくことにしました。桃太郎は、自分も働くと言ってくれたのですが、おじいさんは、まず学校に行くことが大切だと諭し、次の日に、一時間に一本しかないバスに乗って町役場で転入届をだしました。
 戸籍係の人は、山ほどキラキラネームを見ているので、「桃太郎」、「かぐや姫」という名前もすんなり受け付けてくれました。
 小学校では、30分ほど校長先生と話をし、二年生に編入するという事になり、教科書や文房具も買いそろえました。

 次の日、竹林に行くと、またまた節が光る竹がありました。同じように切ってみると、今度はウズラの卵くらいの金のかたまりが入っていました。
 夜更けに、「正直者のおじいさんとおばあさんの家はここか」とささやく声が聞こえ、どさっと何かをおいていく音がしました。慌てて外へ出てみると、笠を被ったお地蔵様がゆっくりゆっくり立ち去っていく後ろ姿が見えました。家の前には袋が置いてあり、中には新札で二億円ほど入っていました。
 こんなことが何度も起こりました。

 二人は相談して、信用できる難民支援の団体、犬や猫の保護団体、子どもの虐待に真剣に取り組んでいる団体、政治をまともなものにしようとしている政党などに寄付を行い、残ったお金で家の建て替えを行い、家具を新しくしました。子ども部屋も二つ作り、おばあさんはシステムキッチンを、おじいさんは作り付けの書棚を作ってもらうように建築家の人に頼みました。長年の夢がかないました。
 この時も、多田便利軒の若者たちは二人を手伝って、よく働いてくれました。
 竹の節の中で眠っていた女の子も、ぐんぐんと大きくなり、桃太郎の一年下の学年に入れてもらえることになりました。星座の事や神話の事にとても詳しかった女の子は、たくさんの友達ができました。(つづく)

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