蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

もうダメだと思った

2015-07-10 12:21:43 | 日記
 もう駄目だと思った。ベランダから侵入されてるなんて思ってもいなかった。
このマンションに引っ越した時、母は、出かける時はちゃんとベランダのガラス戸にも施錠するように言われていたのに・・・。後悔しても遅い。たしかに、隣のアパートの屋上から飛び移れるぐらいの距離ではあった。でも、そんなことをする奴がいるなんて、考えもしなかった。
 男は覆面も取っていた。私を殺すつもりなんだろう。死人に口なしって奴だ。
 帰宅したのが7時丁度。私がカギを開けて部屋に入り、ドアの鍵を閉めた途端に、トイレの中から男が出てきて、私に包丁を見せた。
 私は玄関から隣の六畳の部屋に逃げた。私が逆にベランダに逃げて、物干しざおをつっかい棒にして時間を稼ぎ、その間に110番通報をしようと思ったのだ。
 しかし、男の方が一瞬早かった。彼は、ベランダのガラス戸の前に立ちふさがって、言った。
 「あきらめなよ、ね」
 「ねえちゃん」と言おうとしたのだろうか。ガラスの割れるものすごい音がして、男は、前のめりに倒れた。テレビドラマの一シーンみたいに、ゆっくりと。
 ボールが転がっていた。後頭部を直撃したようだ。
 甲子園球場の近くに住んでいるとこういうことがあるんだ。
 テレビをつけると、鳥谷が場外ホームランを打った場面がリプレイされていた。
 それから私は110番をかけた。

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