不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

L'architettura, Vittima della retorica

2008-10-28 06:45:04 | アート・文化

パリのポンピドゥ・センター、ベルリンのポツダム広場再建、
ニューヨーク・タイムズ・ビル、
イタリア国内ではジェノヴァ港の再開発、
ローマのアウディトリウム音楽都市、
そして日本では関西国際空港、
銀座のメゾン・エルメスなどの設計で知られる
イタリアを代表し、世界の巨匠に数えられる建築家
Renzo Piano(レンツォ・ピアノ)。
巨大建築に求められる技術的課題をクリアにし、
且つ各建築物に求められる機能性と象徴性、
さらには建築物を取り巻く周囲の歴史的コンテクストや
環境インパクトにも配慮をした設計で
世界的に高く評価されている彼が
実は母国イタリアでは新プロジェクトの度に
批判され苦難の道を歩んでいます。

今回ローマ郊外EUR(エウル地区)の再開発の
プロジェクトが進んでおり
その都市計画をレンツォ・ピアノが手がけることになっていますが、
新ローマ市長は彼の設計プロジェクトに反対の声を挙げています。

イタリアでは前政治体制時に掲げられたプロジェクトが
政権が変わるたびに破棄になったり
再浮上したりというのはよくある話。
中央政権だけでなく、各地方自治政治でも状況は同じです。
こうした大建築プロジェクトが選挙活動時の公約として利用され
単なる美辞麗句でしかなかったりします。

EUR再開発プロジェクトは17万立方メートルの大きさに
オフィス、テナントショップそして400世帯の住居を含有する
巨大都市計画。
設計図上では、
美しく非常にエコロジカルな計画として評価もされています。
庭園をはじめとする広大な緑地帯の導入、歩行者専用道路の設置、
周囲の光を最大限に利用するためガラスをふんだんに使った建物など
環境インパクトも低い理想的な近代都市計画となっていますが
新ローマ市長Alemanno(アレマンノ市長)は
現存の周辺建築物との協調性がなく、
バランスが悪いという理由で反対中。
つまり1938年にムッソリーニの要望で建設された
ファシズム建築に少しも似ていないから
という理由で却下しているのです。

ローマのアウディトリウム音楽都市を建設したときにも
ローマ市民をはじめメディアも揃って
「間違ったプロジェクトである」とか、「地域になじまない」とか
「利用価値がない」とか「誰も足を運ばないだろう」などと
5年間に亘り批判しました。
イタリア国内で戦後最も批判をうけた
公共建築ともいわれていますが
実際完成してみると、
ヨーロッパで最も観客動員数の多いアウディトリウムとなり
周辺は若者世代が集まる活気のある地域となっています。

レンツォ・ピアノのプロジェクトは
常にこうした地域の活性化を念頭に置いたもので
今回のEUR再開発も
18時以降も活かされる街造りがベースになっています。
彼自身は市長の批判に対して、次のように述べています。
「市長が会いたいというのであれば会って話をすることも厭わない。
私は自分のプロジェクトを気に入っているし
本プロジェクトの改善のための助言はいくらでも受け付けるが、
私のプロジェクトと相容れない全く異なるものを
望んでいるのであれば他の人を探してもらうしかない。」

世界的に評価され、
5大陸すべてで建築プロジェクトを打ちたてる著名な建築家も
イタリアではその本来の評価がされず、
政治的レトリックの犠牲になっているのが実情。
彼だけでなく、Fuksas(フクサス)、Calatrava(カラトラヴァ)、
Foster(フォスター)、磯崎などをはじめ
コンテンポラリー建築を代表する建築家のプロジェクトも頓挫しがち。

すべてはイタリアという国が古き遺産にしがみつきすぎ
新しいものをなかなか許容できない体質になっているから。
環境問題も含め、少し新しい方向を向かないと
本当に世界から取り残されます。