ワークショップと学び3 まなびほぐしのデザイン
ワークショップのデザインの仕方、ファシリテーションのあり方などが書かれています。
「F2LOの構成(位置づく)」「対象の変形可能性と接触可能性の探索(見立てる)」「対話の共有(味わう)」が各段階で成立し、ワークショップにおいて「まなびほぐし」が生まれている状態が、「まなびほぐし=アンラーン」を目指すワークショップが「達成することを目指した状態」である。 が、この本の本筋です。
以下、抜粋■
○ワークショップというのは、一言で言えば「”異”との出会い」
【イントロダクション】
○佐伯先生のいう「まなびほぐし」。「身体技法(まなび方)」あるいは「型」を「問い直し」「解体して」「組み替える」を整理すると
(1)新しい議題・対象の発見または提示
(2)新しい課題・対象と従来の「型」の不一致の発見
(3)多様な可能性の探索を通した従来の「型」の組み替え
(4)新しい「型」を通した「ソリューション」の発見と共有
○この本のワークショップの目的は「まなびほぐし」のプロセス、つまり(1)(2)(3)(4)のステップを参加者に体験してもらうこと
○ワークショップとは、思考の柔軟性に向けたエクササイズ
○ワークショップがワークショップとして成立するためには、少なくとも2名の学習者と1名のファシリテータ、一つの対象が必要となる → F2LOモデル
○ワークショップ展開過程
段階1:F2LO関係の構成
**ファシリテータは対象を学習者に示し、それに対して行う作業を説明し、彼らをその作業へと動機付ける
段階2:対象の変形可能性と接触可能性の探索
**変形可能性 本質を保持しつつ、それを操作する者の多様な行為を算出することのできる対象の特性
**接触可能性 学習者の行為を相互触発的に結び付ける対象の機能
**「エクササイズ」を対象の設定、学習者間のコミュニケーションの調整などによって巧みに実現し、学習者たちの「型」の解体と組み替えを生じさせることがワークショップにおけるファシリテータの中核的な課題
**お互いに相手の行為を承認しつつ、さらなる個性化を試みるという「相互承認と個性化」と通した関係へのコミットメント
段階3:対象の共有
○ワークショップとは、「まなびほぐし」を鈍化させたかたちで参加者に経験させることを目的とし、F2LOという構成要素の関係構造をベースに、「F2LOの構成(位置づく)」「対象の変形可能性と接触可能性の探索(見立てる)」「対話の共有(味わう)」というかたちで展開する
○ファシリテータの位置取りにおける「離脱」のベクトル。可能な限り介入せず、必要に応じて一時的に接近して、また離脱するというサイクルを繰り返すこととなる
【ワークショップを立ち上げる】
=====ワークショップをつくる=====
◎この本でのワークショップの定義
「コミュニティ形成(仲間づくり)のための他者理解や合意形成のエクササイズ」
○ワークショップの現場の課題
「ワークショップを語る物差しがないということ」
:ワークショップに起こったことを語る人(実践者)と、それを聞く人のとの間に共通の基準がないということ
:ワークショップで起こった事実とワークショップで起こった価値を混同してしまう場合があること。この事実と価値を丁寧に分けて述べつつ、その関係をつなぎ合わせていくことが、ワークショップの因果関係をあきらかにしていくことなのであり、因果関係に基づいた「ワークショップの価値=善さ」を語ることになる
「目的・missionと活動の対象の間にグランドデザインがない」
○ワークショップの参加者に起こっていることを軸に、ファシリテータ、参加者、活動の三者で展開される協働をコミュニケーション構造から見ていくことを重視する。そして、三者がどのような関係を示しているかに注目して、以下の3つの流れで説明する。
「位置づく」
**「まなびほぐし」のステップでいえば、(1)新しい課題・対象の発見または提示の場面である
**参加者がワークショップでのふるまいや態度などを人や活動との関係性を測りながら、どのようにしていくかを決め、その場になじんでいく自分自身を意識している場面
**「位置づく」ことが「人」や「活動」によって増幅されながら、参加者が受動的な立場で、そのワークショップの環境に慣れ親しんでいく
「見立てる」
**「まなびほぐし」のステップでいえば、(2)新しい課題・対象と従来の「型」の不一致の発見(3)多様な可能性の探索を通した従来の「型」の組み替え の場面
**F2LOから見た展開過程でいえば、対象の「変形可能性」と「接触可能性」の探索にあたる
**活動の対象を自分で意味づけていくことである。この意味づけには正解がなく、自分が活動の対象をどのように捉えるかで成立する
**「見立てのアプローチ」
1.活動のコンセプトや世界観から触発されたアプローチ
2.活動に参加している人の特性から触発されたアプローチ
3.見立てられる対象のものの特性(色や形、感覚性、身体性)から触発されたアプローチ
4.見立てられる対象のものの特性(動きやしくみ、機能性、規則性)から触発されたアプローチ
5.活動の進行している内容や主導している人への反同調としての独自の「見立てる」アプローチ
「味わう」
**「まなびほぐし」のステップでいえば、(4)新しい「型」を通した「ソリューション」の発見と共有であり、F2LOから見た展開過程でいえば、対象の共有
○学校で展開されているワークショップは、時間的な構成や内容的な構成が高くなりがちである。あまり高くしすぎると「まなびほぐし」が起きないことになるので、十分意識していく必要がある
◎F2LOモデル
F(Facilitator):ファシリテータ
L(Learner):学習者
O(Object):活動の対象
○O:活動の対象の特色
1.試行誘引性(作品の制作時間を見通すことが可能、作品づくりの難易度を見通すことが可能な場合は高い)
2.連想増幅性(類似なもののイメージをわかせる可能性など)
3.作品共有性(役割を分担したり、交換したりしながらできること)
○ワークショップを実践者がデザインするときには、目的・missionとハウツウ(活動の対象)の間に、ワークショップのグランドデザインが必要
○グランドデザインの構造
協働性:仕組みのデザイン
**協働性には、共有的、相補的という基本的な価値づけは不可欠だが、関係性の変化をデザインしていくことを基本としなくてはいけない
**円環的な活動は、ただ同じことが繰り返されていくのではなく、繰り返すことで成員間の関係性の深まりが意識するようにデザインすることが重要である。
即興性:仕組みのデザイン
**参加者の指向や反応はもちろん、トラブルやハプニングなど「異」を取り込んでいく即興性が必要で、実践者はそれを受け入れていく柔軟性が大事
**ファシリテータが、無意識に全体をきれいにまとめようとすることには注意が必要
**過度な即興性は参加者の充実感を損ない、ワークショップを壊してしまうこともある
**ファシリテータは、参加者が偶発的に起こす当たり前の革新を支援したり、増幅したりすることだけで関係性の変化を生み出すことができる
身体性:仕組みのデザイン
**自分の意図通りに動かない身体を通して、自分や他者との関係性を見直していき、そこから気づきを引き出したり、自分を改めて見直したり、対象化したりすることができる
**自分という他者に出会うことで、私たちは自分自身との相互作用の必要性が理解できる
**協働性を促進していくばかりだと、知らないうちに同調性が強くなる状況が生まれる。そのため協働に埋め込まれた自己の発見や「気づき」ができる身体性の存在が重要になってくる
自己原因性:意味のグランドデザイン
**自己原因性感覚:自分の周りの世界の出来事を「自分のこととして」捉えることができる感覚
**他者原因性感覚:他者が自分の変化の原因であるという感覚
**双原因性感覚:他者と出会い、相互作用を通して、「『相手が私を変える』『私も相手を変える』」という二つの原因性の感覚が一体となる実感」を得ること
**双原因性感覚こそが、協働性を支えていく感覚であり、ワークショップなどの協同的な活動で培うことができる感覚
○自分が持っている「活動の対象」が、グランドデザインのどこと結びついているのかを意識することで、自分が持っている「活動の対象」がワークショップとしてどのような特質があるのかをイメージできる。
○「なぜ、ワークショップなのか?」この問いに自分自身で答えていくためには、グランドデザインを考えていく必要がある
◎ワークショップをデザインするときは、ワークショップの依頼者の目的や要望とワークショップという方法のフィット感を確認する必要がある。また、自分たちの企画でワークショップを実施するときも自分たちの活動のmissionとのフィット感を確認すべきである
○「マッチング」と「フィット感」は、ワークショップの実践中にこそ得られるものなので、実践者は、自分のマッチングしたデザインが、参加者にどのようにフィットしているのかを、観察し、実践しながら「フィット感」に対応した微調整(マッチング)に努める
○省察的実践は以下の2つの省察に基づく
「マッチング」が「行為の中の省察」の場面
「行為の中の省察」の場面を問い直すことで実践知につながる発見を生み出していく
◎ワークショップの現場でつねに全体を捉えて部分を見る、部分を見たことから全体を考えるという全体と部分の往還が何より重要であることを伝えたい
=====ワークショップの企画と運営=====
○「誰に、どうなって欲しいのか」もしくは「誰に、どんな時間を過ごして欲しいのか」これがワークショップの企画をたてる出発点
○「目的」は参加者にとっての到達目標ではなく、ワークショップを企画する人の「思い」や「願い」に近い
○企画書に記載する項目(例)
a.タイトル
b.趣旨目的
c.具体的な内容
d.参加対象者
e.ファシリテータ、ワークショップリーダー
f.スケジュール
g.会場
h.特筆すべきこと
i.募集方法、申込み方法、申し込み先、参加費
j.主催団体または主催者や後援、協賛団体
k.問い合わせ先
l.関係者、団体プロフィール
○ワークショップの主な関係者全員が、そのワークショップの目的と成功イメージをお互いに確認し、共有しておくことが重要。ワークショップに関わる人たちが別な専門家である場合、特に丁寧に行うべき
○参加者募集(例)
a.開催日時と会場
b.参加対象と定員
c.内容
d.参加費
e.募集期間
f.申込み問い合わせ先
g.主催
○事前連絡(例)
a.開催日時
b.場所
c.当日の服装や靴、持ち物
d.着替えが必要な場合、更衣室の有無
e.食事の時間帯を挟む場合、お弁当が必要か、会場の中や近くで食事をしたり、買いに行くことができるかなど
f.子どもの場合、保護者の見学、送迎に関することなど
g.子どもの場合、保護者が記録撮影を希望した場合に許可できるかどうか
h.主催者側による記録撮影の許諾確認
i.当日の連絡先と担当者名
○現場の環境を整えるだけではなく、参加者の状態を常に観察し、必要に応じたケアを行うことも重要である
◎観察のポイントは、主に参加者とファシリテータやワークショップリーダーとの間にコミュニケーションや参加者通しのコミュニケーションが、ワークショップの目的に合うように上手く行われているか、参加者一人一人が余計な緊張を感じることなく、楽しく参加できているかどうか、である
○目の前で起きていることに対して、早急に主観的な判断や結論付けをしないことが重要。すぐに良い悪いと判断するのではなく、なぜそう見えるのか、本当にそうなのか、理由や原因がなんなのかを、まず確認する必要がある
○「なにが見えているのか」、つぎに「どう見えるのか」、そして「なぜそう見えるのか」、を冷静に分析すること。その上でワークショップの内容や目的と照らし合わせ、「どうなればいいのか」、そのために、「どうすればいいのか」を判断すればよい。目的によっては、このままでもいい、なにもしないほうがいい、という場合もある
=====ファシリテーションのデザイン=====
○マックス・ブラウンの言葉「デザインとは橋の形を考えることではなく、向こう岸への渡り方を考えること」
○プログラムを工夫し、やったことのないものに対する恐怖心を興味へと変える工夫をしておけば乗り越えられることは多い
◎自分がその活動を行うことや、誰かが参加してくれた人が見せてくれたり、作ってくれたりすることに喜びを感じるような活動をすること
○演出家のパトリシアさんの言葉「私から出たエネルギーが目の前の彼らに伝わり、エネルギーは私の中に戻ってくる。だからエネルギーは枯れることはありません。
○火事は起こす前に消す
○姿勢、距離、表情、そういった見えていることを、見えているままにとらえていく。見えている状態を変化させるために次の手を打っていく
○目標ははっきりと。あの人をこちらに近づけようとか、あの人を笑わせようとか、そんな単純で具体的な目標だ。
○短い時間で自分の伝えたいことを体感してもらうためには、自分の使う言葉や言葉の順番などの条件を見直すことが近道。
○やれることから始めて、やったことのないことまでステップアップ出来るといい。
◎面白いこと。何よりもそれが一番の武器。笑っちゃうことばかりでなく、もっと知りたい、もっともっとやりたいと思わせることができたら、それが面白いということ
○他の人を褒める。目の前の誰かが、あなたのために何かを行っただけでも賞賛に値すると思う。発想も必要。
:何をしていたか→それがどう見えたか→もっとこうなったものが見たい
:私が全てを見ていたとつたえること
○笑顔でいること。参加している人を笑顔にすること
○フラットな関係を築く
:出来るだけ反対意見が出やすい状態にしておくこと。出来るだけくだらない意見を取り上げること
○失敗することを楽しめるようにする
:失敗しないように、うまく乗り越えられるようにする心持ちでいながら、失敗を許し、失敗を楽しみ、失敗の中からたくさんの学びを得られるように促していくことが必要
○参加している人がリラックスして意欲的に参加し始めたら、出来れば私たちはその場を離れていく
○『葉隠』
やってみせ、言って聞かせて、やらせてみ、ほめてやらねば人は動かじ。
=====ワークショップのコンテンツデザイン=====
○ワークショップを作るには、「コミュニケーションを考える」共通点がある
○ここでいうコンテンツデザインとは、「ワークショップの活動の中に、多様なコミュニケーションの仕掛けを埋め込んでいくこと」であるとする
○活動の中に埋め込まれたデザイン
1.関係性を固定しない
2.新しい関係性を作っていく
3.全員一緒であえて進めない
4.思考の外化から試行錯誤へ
5.多様な関係性を生み出す工夫
6.見渡せる環境から生まれる協働
7.制限から深める
8.固定概念を崩すひと工夫
9.不完全さが生み出す参加者主体の自主性
10.プロセスの可視化
=====知のおもてなし時空間=====
○ミュージアムとして持ち帰ってもらいたい体験はもちろん「知」の喜び。「おもしろい」「どきどきする」「もっと知りたい」「わくわくする」「美しい」「かっこいい」といった「知」のポジティブなイメージ。愉快な「???」と「!!!」を持ち帰ること
○非日常的な行為が、ゲストたちの頭や体をほぐし、ミュージアム体験を充実したものとする
○「もてなす」という粋な姿勢が、より有機的に、より生き生きとした、ポジティブな「知」のプロデュースのヒントになれば幸い
=====ワークショップの分析ツールのデザイン=====
◎時間の流れに従って出来事が生まれ変化していく過程を観察することが不可欠。特にその中で創造的活動が起こっているであろう「活性化した場」に着目することが重要。それが生起するまでの、ある混沌とした状況からの経緯や文脈を捉えることがポイント。参加者の「表情や会話」「振舞い」の変化に着目し、参加者が集中して取り組み、表現を通して新しい自分に出会うまでの過程を捉える
○出来事が変化する「結節点」を捉える
○実践者の目で捉えていくことが重要。「全体で考えることと同じように、部分の中にどのように見ていくことができるのか」という目線で関わることが大事
○リフレクションの話し合いで、ファシリテータが「結節点」の段階で何を考えていたのかを時系列で追いながらディスカッションして出しあう。またこのリフレクションをメタレベルから捉えて構造分析することも効果的
○「活性化した場をどのように自然に作り出せるか」が全体を通した目標。
○ファシリテータ間の連携のためには、言葉やアイコンタクトによる「コミュニケーション」が要となる
○観察ツール CAVScene
研究論文 http://ci.nii.ac.jp/naid/110008662347
○観察ツール ATROF
ワークショップの構造をF2LOモデルのダイアグラムの構造として表示する
○振り返りのポイント
:意味のある出来事の区切りを捉える
:(ファシリテータの初心者)WSの手本となるような「活動が上手くいっている状況
を詳細に捉えていくことが効果的
:(ファシリテータの経験者)何らかの「問題が発生し上手くいっていない状況」や「ワークショップとして崩れかかっている状況」を詳細にみることが効果的
◎観察者にとって重要なことは、それぞれのワークショップのもつ活動の個別性や多様性、また偶発性・開放性という特性に対して、ラーナーがどのような学びや意味を生み出していったか、自発的な場をつくることができたかを注意深く見つめることが重要である。
=====ワークショップの評価=====
○コミュニケーションプロセスの評価
「目的」:評価結果の用途
**客観評価とはワークショップが「達成することを目指した状態」が実際に達成されたかどうか、あるいはその程度達成されたのかということについて、何らかの指標を用いて表現することを指す
**改善とは、ワークショップデザイン、実施した者が、その成果を確認し、問題点、改善点を抽出することを指す
**振り返りとは、ワークショップの参加者が自身の参加体験を想起し、その意味
を反省的に吟味することを指す
「主体」:評価を行い、その結果を主に利用する者
「対象」:評価の対象となる現象
**対象となるのは、「参加者の活動・体験」、「デザイン」、「ファシリテーション」
「表示方法」:評価結果を示す表現のスタイル
○「達成することを目指した状態」とは、人がワークショップに参加することによって生み出すプロセスの何らかの特徴をさす。ワークショップにおいて「まなびほぐし」が生まれている状態。
![にほんブログ村 本ブログへ](http://book.blogmura.com/img/originalimg/0000266889.jpg)