読書の森

久しぶり

「あら、勇気君。お久しぶり」
深い藍色の空の下、勇気と心は再会した。
「心、会いたかったよ。だけどもうすぐお別れだね」

「何故さ、それに勇気、60歳になってるのに何でそんな若いのよ」
勇気は二人が知り合った青春時代そのままの姿をしている。
何度か巡り合い、また離れて、会えなくなって10年。

最初は切なくて仕方なかったが、心は勇気を思う度に短歌を作るようになった。

恋が成就するより、実らぬ恋の方が、思いが籠った歌が作れる。
歌の仲間が出来て、心は寂しくなくなった。
歌の中にいつも勇気がいるから。

それなのに、この星明りだけの森の中で、夢のように若い勇気と会うなんて。
不思議な事に勇気の姿だけ、スポットライトを浴びたように明るく浮かぶ。


嬉しそうな心を勇気は哀し気に見た。
あれからずっと病と闘い、連絡出来なかった。
今晩ここで会えるのは、この世の人間でなくなったからだ。
この世の見納めに心が見たいという魂がここに来た。

心は光る眼で勇気を見詰めた。
走馬灯のように思い出が通り過ぎた。

勇気の瞳に星が見えた。その星がぽうっと消えた時勇気の姿も消えた。

月の無い夜、心はずっと立ち尽くす。
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