サービス残業が多くなり、心も身体もトゲトゲが一杯くっついている。
文哉は帰宅していた。
冷凍庫に常時用意しておくお菜が切れている。
「腹減った。何でもいいよ」
訳知り顔の能天気な顔を、クシャクシャにしてやりたくなった。
「何よ!なんでもかんでも私に押し付けて。私ね、あなたの家政婦でもお母さん
でもないの。自分の事が自分で出来ない人とはお別れします。
じゃあね。後で荷物取りに行くわ」
通帳類をバックに入れて、絵里はバタンとドアを閉めた。
文哉の顔を見なかった。
そう言えば最近忙しくて、じっくり見た事も見られた事もない。
こんな夫婦お仕舞だ。
自動販売機の缶ジュースをぐいぐい飲んだ。
公園のブランコをこいだ。
風がひどく心地よい。
「どうされたんですか」
ぶらんこに乗って、うるっと涙が浮かんだ時、声をかけられた。
中年の小柄な男、くたびれた背広といやらしい濁った目。
思わずブランコから飛び降りたら、転びかけた。
すかさず男が抱き付こうとした。
「すいません、僕の妻です。僕が起こしますから」
文哉の声だ。
ぬっと現れた大男に驚いて、男は一目さんに逃げた。
「絵里、悪かったね。今日は美味しいもの奢るから行かないでくれ」
頭を下げる姿に絵里は弱い。
いざというときに大柄な文哉は実に頼りになる。
結婚を決めた時もそうだが、タイミングが絶妙な男である。
「私がそんなに大事?」
「俺のめし作ってくれるからな。しかも金稼いでくれるしね」
およそロマンティックじゃないなと思いながら絵里は文哉の肩にもたれた。
夜空に大きな光る月が浮かんでいた。
満月である。
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