ブリジットバルドーは昭和の時代に活躍したキュートな女優さんです。
この作品の舞台となる昭和47年には全国的な人気者でしたが、表題はブリジットボルドーです(ワインの銘柄)。お間違えなき様。
東北の由緒有る旧家の土蔵に眠っていた伝説のワイン、貴重なお宝です。
これを取材したテレビ局の面々が、頗るお人好しの当主から分けて貰ったものです。
この当主の一人娘がテレビ局員で彼女に恋するデイレクターが主人公、彼はシャイ過ぎて気持ちを打ち明けられず悶々としております。
では、恋物語かと見えてそうじゃない、ユーモア小説に入るのでしょうね。
井上ひさしらしい軽みのあるお話で楽しく読めます。
ところが、私が一番興味を持ったのは物語の内容以上に、当時の世情を描いた文章のとてつもない面白さでした。
「その頃の世情もまた騒然たるもので、飛鳥高松塚古墳から壁画が出るし、マル秘文書で国会は揉めるし、食品からPCBが続々検出されて気は揉めるし、ラインの城を買い込むお大臣はいるし、大文豪がガス管を咥えるし、空前の交通ストあるし、億万長者が三千人も出るし、横井さんは現地兵を二人殺したと白状しすぐ取消すし(以下略)」
延々と続く作者による世相の生解説です。
この後が又非常に面白い話が続くのですが、よく考えれば面白いで済まされない事実でした。
繰り返しますが、当時は昭和47年、1972年であります。
井上ひさしはマスコミ界を熟知していたし、非常に世相に敏感な人です。
この部分は全て事実で、リアルタイムを経験した私には圧倒される迫力でした。
ちなみに自殺した大文豪とはノーベル賞作家川端康成氏です。
又、横井さんとは、28年ぶりに生還した元日本兵です。
実はこの年は連合赤軍による浅間山荘乗っ取り事件が起きた年でもあります。
TV画面は雪に閉ざされた浅間山荘。
そこに立て籠もる連合赤軍(過激な学生運動家)が罪もない山荘の奥さんを人質にしてます。敵は何人か分からない、下手に発砲すれば人質が盾にされるかも知れないのです。
一日中リアルな犯罪劇が生中継されて現職警官三人が視聴者の目前で殉死したりするショッキングな事件でした。
この事件の後、学生運動は急激に力を失っていきます。
この事件を記述から外したところなど、さすが井上ひさしです。
読者を重たい気分にさせない配慮が、各所に見られます。
小説家も一種のサービス業ではないか?と最近考える様になりました。
勿論全てとは言えませんが、「読む人をグイグイと引き込む面白い小説」はやっぱり読みたいですから。
雨の水玉を浮かべた三つ葉のクローバーです。
この花言葉が「希望」なんです。
どうか豪雨など災害が去って希望の持てる明日が来ますように!
注:
実は小説前半に同年の春頃迄の事件を同じ形で述べた箇所があり、浅間山荘事件にもチラリと触れてます(間違った説明で申し訳ありません。これはあくまでもチラリとした説明でした)。
それにしても、この小説に記載されてる1972年の出来事の中にはネットも知らない記事もある様ですよ。一見ものです。
例えば、「みのべさん(都知事であります)は新幹線に反対するし(本文前半)」、それでしかも「みのべさん(再婚)も加藤登紀子さんも結婚するし(本文後半)」だったそうですよ。
美濃部東京都知事は非常に頭の良い方でしたが、思い切った事をされたのですね。よくよく検索すると事実です。これも目から鱗の話です。