佐野洋は昭和の時代に活躍した推理小説家である。
殺人事件もこの人の手にかかると、ギトギトせずにさりげなく描かれる。
推理のプロセスが頭脳的で陰惨でない。
ただ、なにせ今から半世程前に描かれているので、背景が古い。
さて、『尾行』の舞台は銀座の小さな探偵事務所。
駆け出しの探偵は、人品卑しからぬ紳士からある女性の尾行を依頼される。
が、どういう目的か、女性と依頼者の関係は何か、もろもろの事情は全く明かされない。
ただ、名前と顔写真だけが分かる。
規定の料金以上貰った探偵としては四の五の言えない。
職務に忠実にその女の跡をつける。
女は気付く様子もなく、何事も無く調査は終了した。
ところが、探偵がグラマラスなその女を映画館で張ったその日に、女のパトロンが殺害されるのだ。
動機のある女は容疑者として逮捕された。
探偵は女のアリバイを掴んでいる。
しかし、事実を明かす事は職業上知り得た秘密を明かす事になる。
根が人の良い探偵は悶々とするのだった、、、。
この話には「そうだったのか」と頷く裏がある。
どちみち探偵は参考人としてアリバイを証明する事になるだろう。
女が無実になる可能性は大である。
その時を見越した依頼だとしたらどうだろう?
ただし、この手は今の世の中に通用しないと思う。
暗い映画館のトイレで入れ替わるのだが、スマホのGPS機能が働き、防犯カメラが至る所にある現代では使えないからだ。
現代の尾行とはバーチャルの世界の如く無人でも可能である。
追跡機能やネット連絡、至る所にある顔認証、人を特定すれば誰でも尾行できる社会なのだ。
これじゃ絶対犯罪など犯せないと思えるが、ところが悪い人は考えられない罪を犯す。
はっきり言って何の罪もない人の方が監視の目に晒されている様な感じがする。
佐野洋の住んでいた、人々のリアルな会話の多い隙だらけの世の中の方が、犯罪が多かったとは思えないが?
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