蒼井氏は、以前に双葉社のミステリー新人大賞を獲得した作家ですが、実はこの方一切自分の個人情報を公に出してない、時代を先取りした方であります。
フィクションである限りかなり自由に思いが吐露出来る小説家業は、今や兼業で無いと生活出来ない厳しい時代でございます。
この時代に相応しく、コミックのように読みやすい、4分程度(通勤の合間でも気軽に)楽しめる短さの、しかも面白いミステリー❣️
それを蒼井氏は狙ったのですね。

記憶を辿って、短編の一つを紹介します。
主人公は人生経験豊かなタクシー運転手。
ある晩、中年の男性客を乗せる。その胡散臭げな中年客が車の中でスマホで誰かと会話しているのを、運転手ははっきり覚えていた。
同じ晩の同時刻に殺人事件が起きた。
そして有力容疑者が、その乗客だったのである。
運転手は警察から事情聴取をされた。
何故ならその客が容疑者なら、同時刻に別の場所にいたという(タクシーの中)鉄壁のアリバイがあるからだ。
容疑者?は電話中、自分の名前を名乗ってそれは容疑者本人の名前である。
ただし、ここで考えられるのは、別の人間が容疑者になりすました事だ。容疑者が所持しているスマホを使用して車内で電話する。
これでアリバイ作りをしたと考えられる訳。
故に、夜の車内の薄明かりの中でも男の人相を見た運転手の証言は重要な役割を持つ。
その後、容疑者は拘束され、事件の白黒は法廷でつけられる事となった。
さて真相は?

ここまでの筋書きは、ありきたりのミステリーなんですが、その後が作者のスゴーク鋭い才能が光ってくるのですね。
実は容疑者の妻とこの運転手は以前夫婦だった!
金持ち(容疑者)の妻になった彼女から電話がかかってきた。
それは、
「お金を出すから乗せたのは夫でない」と言ってくれという依頼ではなかった!!
そして
運転手はこの女との過去のいざこざを全然気にしていなかった!!
そして、、、二人はそれぞれ別の事を考え、(運転手は金に困ってたし、女は単に自分の保身を願ってた)仲が復活した訳でもない。
それで、この二人は法廷において全て真実のみ語っています。
ところが証言を判断した裁判官はごく世間知に長けた常識的な方で(よくありがちな事として)偽証に近いと考えた。
その結果、「疑わしきは罰せず」と犯人に無罪判決を出す。
これが確定してしまえば、一事不再理の原則により犯人は釈放される事になります。
さてこれで良いのでしょうか?
と言った粗筋でこの着想が「スンバラシイ作家」と私は思ったのです。
ところが、その後読んだアガサクリスティの有名な作品、『検察側の証言』に同じような(同じではないです)トリックが描かれてるのを発見。
ここでも「スッゴイなあ」と感心しました。
人間心理の裏側に着目したミステリー作家、人間ミステリーの奥行きの深さは素晴らしいですね♪
ここら辺をAIさん単独(勿論プログラミングで異なりますが)で見抜けるでしょうか?